ぼうこうがん
膀胱がん
膀胱の粘膜にできる悪性腫瘍
8人の医師がチェック 202回の改訂 最終更新: 2024.04.03

膀胱がんの治療について:治療の選び方や再発時の治療など

 

膀胱がん治療の基本は手術です。手術には内視鏡手術と開腹手術があり、がんの進行度に応じて使い分けられます。手術以外には抗がん剤治療があります。ここでは膀胱がん治療の概略について説明します。

1. 膀胱がんの治療について

膀胱がん治療の基本は手術でがんを取り除くことです。手術には内視鏡を使って腫瘍だけを取り除く方法(内視鏡手術)と膀胱を全て摘出する方法(膀胱全摘除術)があります。

また再発を抑える目的や進行を抑える目的で薬物治療が行われます。薬物療法には、薬を膀胱に直接投与する方法(膀胱内注入療法)と、点滴で投与する方法(全身化学療法)があります。

【膀胱がんの治療】

  • 手術
    • 内視鏡手術(経尿道的膀胱腫瘍切除術:TURBT)
    • 膀胱全摘除術
  • 薬物治療
    • 膀胱内注入療法
      • 抗がん剤
      • BCG療法
    • 全身化学療法(抗がん剤治療)

上記のように膀胱がんの治療法は多様ですが、進行度に応じて適した治療法が選ばれます。膀胱がんは次の4つに大別されます。

  • 表在性膀胱がん
  • 上皮内がん
  • 浸潤性膀胱がん
  • 転移性膀胱がん

それぞれでの治療について個別に説明します。
なおそれぞれの治療法についての詳しい説明は「膀胱がんの手術:内視鏡手術(TURBT)、膀胱全摘除術などについて」や「膀胱がんの薬物治療(BCG注入療法や抗がん剤治療など)や放射線治療について」を参考にしてください。

表在性膀胱がんの治療について

筋層(筋肉で構成された層)に浸潤していない表在性膀胱がんはTURBTだけで治療できます。しかしながら、再発しやすい特徴があります。このため、再発予防が必要なことがあり、抗がん剤やBCGを膀胱の中に注入する治療が行われます。
また、内視鏡手術だけでは腫瘍が取り切れていない懸念がある人には、再び内視鏡手術が行われ、がんの取り残しの有無が調べられます。2回目に行われる内視鏡手術を2ndTURBTと言います。筋層がんの取り残しがある人や、再発を繰り返す人には膀胱全摘除術が検討されます。

上皮内がん(CIS)の治療について

上皮内がんは表在性膀胱がんの一部に含まれますが、性質が異なるので、治療法も異なります。表在性膀胱がんとは違って内視鏡手術だけでは治ることが難しいです。治療はBCG膀胱内注入療法が主体になります。BCG療法の効果は高く80%程度の人が治ります。一方、上皮内がんは浸潤性膀胱がんに進行しやすい特徴があるので、治らない人には膀胱全摘除術が検討されます。

浸潤性膀胱がんの治療について

浸潤性膀胱がんは筋層(筋肉で構成された層)にがんが入り込んでいます。筋層に浸潤したがんを内視鏡手術では完全に取り除けないので、膀胱全摘除術が必要になります。手術の効果を高めるために、手術の前後で抗がん剤治療を行うことがあります。

遠隔転移をともなう膀胱がんの治療について

遠隔転移とは所属リンパ節転移が起こりやすいリンパ節)以外に転移がある状態のことを指します。遠隔転移が見つかった場合は、内視鏡手術は行いますが、膀胱全摘除術は行わないのが一般的な考え方です。遠隔転移がみつかった場合は、全身にがんが広がっていると考えられます。このため、手術に代えて広い範囲に効果が現れる抗がん剤治療が行われます。

2. 膀胱がんが再発したときの治療について

膀胱がんは再発することがあります。再発率や再発時の治療は、がんの状態によって異なるので、次の3つに分けて個別に説明します。

  • 表在性膀胱がん:根が浅いがん
  • 上皮内がん:がん自体は浅いが後に浸潤がんへ進行しやすいがん
  • 浸潤性膀胱がん:根が深いがん

以下はそれぞれの再発率、再発時の治療や再発予防に関して解説します。

表在性膀胱がん(上皮内がん以外)の再発時の治療

表在性膀胱がんは再発率が高く、再発に特徴があります。

  • 以前に腫瘍ができていた場所とは異なる場所にも再発することがある
  • しばらく時間を経過した後に再発することがある

この特徴は時間的空間的多発と呼ばれます。
表在性膀胱がんは再発を繰り返しても浸潤がんになる人は少数です。再発しても多くは内視鏡での治療を繰り返すことで治療が可能です。手術後にBCGや抗がん剤を膀胱内に注入することで再発予防が可能です。

■再発時の治療

表在性膀胱がんが再発した人には、まず経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT:Transurethral resection of bladder tumor)が行われます。TURBTで治療が可能です。切除した腫瘍を調べた結果をもとに、再発予防や追加治療が必要かどうかが判断されます。
再発予防には、抗がん剤やBCGを膀胱内に注入する治療が行われます。腫瘍の広がりが大きい場合には膀胱全摘除術が検討されます。

上皮内がん(CIS)の再発について

CISとは上皮に発生するがんです。表在性膀胱がんの1つに分類されますが、性質が異なります。このため、内視鏡手術ではなく、BCGという薬を膀胱の中に注入する治療(BCG膀胱内注入療法)で治療が行われます。CISに対するBCG注入療法の効果は高く、80%の人でがんが検出されなくなります。
上皮内がんが再発した場合は、BCG注入療法が再び行われ、効果が期待できます。一方、上皮内がんは進行すると、浸潤性膀胱がんになる可能性があるので、BCG注入療法の効果が不十分な人には進行する前に膀胱全摘除術が検討されます。以下2つのケースに分けて説明します。

■BCG膀胱内注入療法による効果が不十分な場合

上皮内がんに対して高い治療効果があるBCG膀胱内注入療法ですが、中には効果を示さない場合もあります。効果が不十分な場合はBCG療法が追加されます。

追加されたBCG療法によって効果が不十分であった人のうち約50%が完全奏功した(がんが完全に消えること)とする報告があります。最初のBCG療法開始後6ヶ月が経っても上皮内がんが消失しない場合は追加のBCG療法が不十分だと判断され、膀胱全摘除術が検討されます。

■BCG膀胱内注入療法によって完治した後の再発

BCG膀胱内注入療法によって一度完治(完全奏功)した後の再発に対する確立した治療はありません。治療の選択肢としては、膀胱全摘、もしくはBCG膀胱内注入療法による再治療です。
明確な基準はありませんが、最初のBCG療法から再発までの期間が長い場合(1年以上)は再度BCG療法で治療してもよいとする意見があります。一方で、BCG療法による効果が見込めない上皮内がんは浸潤がんへ移行する確率が高いので、膀胱全摘除術が安全策とも考えられます。特に再発したがんの深達度がT1で病理所見が高悪性度(high grade)の場合は浸潤がんへの移行が強く懸念されるので、膀胱全摘除術をした方がよいとも考えられています。膀胱全摘除術に踏み切るのは大きな決断です。それぞれの治療によるメリットとデメリットを医師と相談して、自分の考えにあった治療法を選んでください。

浸潤性膀胱がんの再発について

浸潤性膀胱がんの手術(膀胱全摘)後に再発した場合、がん細胞が全身に広がっていると考えられます。全身が治療対象になるので、体の広い範囲をカバーできる抗がん剤治療が一般的です。

■再発率
膀胱全摘後の再発率は、膀胱に近い場所での再発(局所再発)が5%から15%、離れた場所での再発(遠隔再発)が20%から50%です。遠隔再発が多い傾向にあります。局所再発、遠隔転移ともに2年以内に起こることが多く、術後1年以内の再発が約50%を占めます。一方で、少ないながらも治療から10年を経過して再発する場合もあるので、長期に渡る定期検査が必要です。

■再発時の治療
膀胱全摘後の再発に対しては抗がん剤による治療が行われます。抗がん剤治療については、「膀胱がんのBCG治療/抗がん剤治療/放射線治療とは?」で解説しているので参考にしてください。

■再発後の経過
転移が出現した後に抗がん剤治療を開始した場合、50%の人が生存する期間は14ヶ月前後とされています。

参考:
J Clin Oncol. 2005;23:4602-08

上部尿路再発について

膀胱は尿路という尿の通り道を形成しています。尿は腎臓で作られ、腎盂(じんう)-尿管-膀胱という順に流れていきます。腎盂と尿管は膀胱と同じような組織で形成されており、膀胱と尿道を下部尿と呼ばれるのに対して、尿管と腎盂は上部尿路と呼ばれます。上部部尿路には膀胱がんと同じ種類のがんが発生しやすく、治療後の膀胱がんが上部尿路に再発する場合があります。表在性膀胱がんと浸潤性膀胱がんがそれぞれ上部尿路再発する確率が報告されています。

  • 表在性膀胱がん:0.8%
  • 浸潤性膀胱がん:2-7%

表在性膀胱がんの場合で上部尿路に再発することはまれですが、浸潤性膀胱がんの再発率は無視には大きな数字と考えられています。このため、浸潤性膀胱がんを治療した人には定期的に、上部尿路再発の有無が調べられます。また他の再発とは異なり、がんの広がり小さければ、手術で取り除くことが可能です。

参考:
J Urol. 2007;177:2088-2094
J Urol. 2009;181:1035-1039

3. 膀胱がん治療で知っておくとよいこと

ここまで膀胱がん治療の概要について説明してきました。一方で、細かな疑問などがまだ説明しきれていないかもしれません。ここからは膀胱がん治療についてよく受ける質問をもとにして膀胱がん治療で知っておくとよいことをいくつか説明していきます。

膀胱がんに診療ガイドラインはあるのか

診療ガイドラインが作成される目的は、治療にあたり妥当な選択肢を示すことや、治療成績と安全性の向上などです。膀胱がんの診療ガイドラインには、日本泌尿器科学会、EAU(欧州泌尿器科学会)、NCCN(全米総合がん情報ネットワーク)、AUA(米国泌尿器科学会)など各学会が作成したものがあります。ガイドラインがいくつも存在するのは理由があります。ひとつの理由は、国ごとに病院に行くときの環境などが違うことを考慮しているためです。もうひとつの理由として、医学的に唯一の正解を決めにくいような場合に対して、学会ごとに意見が違うためでもあります。日本泌尿器科学会が作成したガイドラインが2019年に発刊されています。

ガイドラインは医師が治療を行う際の助けになりますが、ガイドラインに沿った治療が全て正しいわけではありません。患者さんの状態が一人ひとりで異なることを考えに入れて、治療は行われなければなりません。また、ガイドラインにはまだ反映されていない新しい知見が役に立つ場合もあります。

膀胱がん治療は何科で受けられるのか

膀胱がん治療には手術や薬物治療、放射線治療などがありますが、いずれも泌尿器科で治療に携わります。膀胱がんの治療が必要な人は泌尿器科を受診してください。

膀胱がん治療を受ける医療機関の選び方について

膀胱がんの治療は泌尿器科で行われるので、治療を検討している医療機関に泌尿器科が存在しているかどうかをまず確認してください。
ただし、泌尿器科医は医師の中でも多いとは言えません。泌尿器科が1人で勤務していたり非常勤の医師のみで診療しているのは珍しくはありません。人手が不足ている医療機関では手術や薬物治療が行なえないことがあるので、事前に問い合わせたり、ウェブサイトを利用したりして、治療実績を確認することをお勧めします。

膀胱がんの名医はいるのか

まずどんな病気でも「名医」の明確な定義はありません。 医師のタイプはさまざまです。手術技術が高い医師、抗がん剤治療の知識が豊富な医師、人間性が優れた医師などの一人ひとりに特徴があります。一方で、患者さんが医師に望むものは一人ひとりで異なります。例えば、手術の上手い医師に治療してもらいたいと考える人もいれば、話しやすい医師に治療してもらいたいと考える人もいます。「医師の特徴」と「患者さんが求める医師像」が重なったとき、患者さんは出会った医師を名医と感じ取れるのではないでしょうか。自分にとっての名医に出会いやすくするために、患者さんはまず自分が医師に何を求めるかを明確にしてみてください。

参考:

膀胱がん診療ガイドライン