ぼうこうがん
膀胱がん
膀胱の粘膜にできる悪性腫瘍
8人の医師がチェック 202回の改訂 最終更新: 2024.04.03

膀胱がんの症状:初期症状(血尿など)・末期症状

 

膀胱は尿を溜める臓器です。膀胱がんになると主に排尿に関係した症状が現れます。ここでは膀胱がんで現れる症状を初期症状、進行したときの症状、末期の症状について分けて説明します。

1. 膀胱がんの症状

膀胱がんは症状をきっかけにして発見されることが多い病気です。膀胱は尿を溜めておく臓器ですが、がんが膀胱にできると排尿に関係した症状が現れます。また、膀胱がんが進行すると、様々な症状が見られるようになります。

  • 初期から現れる症状
    • 血尿
    • 排尿時の痛み
    • 頻尿:尿の回数が多いこと
  • 転移や進行してから現れる症状
    • 尿が極端に少なくなる
    • 下肢の浮腫むくみ
    • 骨の痛み

以下では「初期から現れる症状」と「転移や進行して現れる症状」の2つに分けてそれぞれを説明していきます。

2. 初期から現れる症状:血尿・排尿時の痛み・頻尿

膀胱がんは初期から排尿に関わる症状が現れ、血尿が特に多く見れます。

血尿

血尿には2つの種類があります。

  • 肉眼的血尿;見た目が赤い血尿
  • 顕微鏡的血尿:見た目は正常でも検査で血尿が出ていると指摘される血尿(

この2つでは一括りに血尿といっても実は大きな違いがあります。

■肉眼的血尿

痛みなど他の症状をともなわない肉眼的血尿は膀胱がんの症状として最も多く、無症候性肉眼的血尿と呼ばれます。過去の報告では、無症候性肉眼的血尿を訴えた人のうち13-28%が膀胱がんであったとされています。特に、膀胱がんの血尿として特徴として知られているのが、排尿の終わり頃が赤くなる終末時血尿です。 一方で、膀胱がん以外にも無症候性肉眼的血尿の原因があります。尿管がん腎盂がん

無症候性肉眼的血尿には病気が隠れている可能性が高いです。症状がある人にはCT検査(造影CT)や膀胱鏡、尿細胞診などが行われ、原因が調べられます。特に膀胱がんと同様にがん(尿管がん腎盂がん)の可能性を調べておく必要があります。

■顕微鏡的血尿

学校や職場などの健康診断などで尿検査が行われます。この時に赤い尿が出ていないにも関わらず、血尿の指摘を受けることがあります。この見た目が正常な血尿を顕微鏡的血尿と言います。顕微鏡で見ないとわからない程度の血尿ということです。
顕微鏡的血尿は病気でなくとも見られることがあるので、詳しい検査が必要な人は限られています。

【顕微鏡的血尿で詳しい検査が必要な人】

  • 喫煙している
  • 職業上で発化学薬品に触れたことがある
  • 過去に肉眼的血尿があった
  • 40歳以上の男性
  • 泌尿器科に過去に受診したことがある
  • 膀胱炎などの尿路感染症にかかったことがある
  • 排尿するときに刺激症状がある
  • フェナセチン(鎮痛剤)をかなりの頻度で使っていた
  • 骨盤内に放射線による治療を受けたことがある
  • シクロフォスファミド(免疫抑制剤、抗がん剤)による治療歴

顕微鏡的血尿を指摘され、上の条件にあてはまる人は必ず泌尿器科を受診してください。超音波検査や膀胱鏡検査、尿細胞診などが必要に応じて行われます。検査の詳しい内容は「膀胱がんの検査」で説明しているので参考にしてください。

排尿時痛

がんによる刺激が膀胱に及ぶと、排尿時に痛みをともなうことがあります。排尿時痛は膀胱がんの中でも上皮内がんというタイプに多く見られやすいことが知られています。上皮内がんは膀胱の表面に発生するので、、排尿するときに剥がれやすく、剥がれた時に痛みが生じると考えられています。
しかしながら、排尿時痛は膀胱がん特有の症状ではなく、次のような原因でも見られます。

上記のものは膀胱がんより頻度が高いものがほとんどで、見方を変えると排尿時痛は膀胱がんがん以外を原因とする場合のほうが多いとも言えます。
膀胱がんかどうかにかかわらず、排尿時痛があるときは尿の通り道に何らかの問題が発生している可能性が高いので、早めに泌尿器科を受診してください。

頻尿

頻尿は排尿回数が多くなることです。尿が溜まりにくくなったり、膀胱に刺激が起きたりすることが原因で頻尿が起こります。膀胱がんが大きくなると尿がたまるスペースが小さくなりますし、がんができると強い刺激が膀胱に加わるので頻尿を自覚することがあります。
とはいえ、頻尿の原因が膀胱がんであることは多くはありません。男性の頻尿の原因として最も多いのは前立腺肥大症ですし、女性では膀胱炎です。他にも過活動膀胱なども頻尿の原因としては膀胱がんより多いです。
排尿時痛と同様に頻尿の原因はがんではない病気(良性疾患)のことが多く、頻尿でいきなりがんを強く心配する必要はありません。一方で、頻尿が続くと生活に支障をきたしてしまうので治療は必要です。頻尿でお困りな人は泌尿器科で相談してください。

3. 転移や進行してから現れる症状

膀胱がんが転移や進行するとさまざまな症状が現れます。初期から見られる症状とは異なる「転移や進行してから現れる症状」について説明していきます。

尿量が極端に少なくなる

膀胱がんは膀胱の表面(内側)の粘膜から発生します。がんが進行すると深く根を伸ばしていき、さまざまなものを巻き込みながら増殖していきます。
膀胱と腎臓をつなぐ尿管を巻き込んだ場合には尿量が極端に少なくなります。 尿管は左右に1本ずつあり、腎臓と膀胱をつなぎ、腎臓で作られた尿を膀胱に運ぶ役割をしています。がんによって尿管口が巻き込まれると尿管から膀胱への尿の流れが悪くなり尿量が極端に少なくなり、水腎症という状態になります。

水腎症の状態が長く続くと、腎臓の機能が低下して(腎不全)、生命を維持できないほどに低下することがあるので、治療が必要になります。水腎症の治療については「こちらのページ」を参考にしてください。

下肢の浮腫:足がむくむ

膀胱がんが大きくなって血管やリンパ管を圧迫すると下肢の浮腫(ふしゅ、むくみ)が発生します。また、1つ手前でに説明した水腎症腎不全にいたった場合にも、下肢に水がたまりむくみを来すことがあります。
下肢のむくみは原因によって治療が異なります。がんが大きくなって血管やリンパ管の流れに影響している場合には、がんを小さくする目的で抗がん剤治療が行われます。一方で、水腎症によって腎不全が起きている場合には、水腎症を治療すると改善が期待できます。

骨の痛み

膀胱がんは骨に転移をしやすいことが知られていますが、骨の痛みから膀胱がんが見つかることは多くありません。とはいえ、少ないながらも原因として重要なので、膀胱がんの診断を受けた人に骨の痛みがある場合には転移の有無が詳しく調べられます。

■骨転移を調べる方法

がんが骨に転移している可能性がある場合には、骨シンチグラフィーという方法で調べられます。骨シンチグラフィーは放射線を利用して全身を画像化する検査です。全身の骨を一度に調べられる点が優れています。
骨シンチグラフィーで骨転移の有無がはっきりとしない場合にはCT検査やMRI検査が行わ総合的に判断されます。
骨転移の症状は痛みの他にしびれなどの麻痺症状も現れます。麻痺症状は痛みより深刻な症状です。このため、治療を急ぐ必要がある場合にはより短時間で検査ができるCT検査やMRI検査が行われます。

■骨転移の治療

骨転移によって起こる「痛み」や「麻痺」といった症状はともに生活の質を下げる原因になるので、すみやかな治療が必要です。治療の方法は次のものが組み合わされます。

  • 放射線治療
  • 薬物治療
    • 骨を丈夫にする薬
      • ゾレドロン酸
      • デノスマブ
    • 鎮痛剤:痛み止め
      • NSAIDs
      • 医療用麻薬(オピオイド)

転移した部位がこれ以上大きくならないようにするために、転移した部分に放射線を照射して小さくします。また、同時に痛みに対してはNSAIDsや医療用麻薬といった鎮痛剤を用いて症状の緩和を行います。「痛み」や「麻痺」といった症状が落ちつたところで、骨を補強し、骨折などを予防する点滴(ゾレドロン酸、デノスマブ)や抗がん剤などを使用して治療します。

4. 症状がない膀胱がんはあるのか

膀胱がんは痛みを伴わない血尿(無症候性肉眼的血尿)、排尿時の痛み(排尿時痛)などの症状をきっかけにして見つかることが多いです。

一方で、超音波検査やCT検査やMRI検査が広く普及してきたことにより、検診での超音波検査や他の目的で撮影されたCT検査やMRI検査によって膀胱がんが指摘される場合も増えてきています。

5. 膀胱がんの末期症状は?

「がんの末期」には明確な定義はありません。
ですので、ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは抗がん剤などの治療が効果を失っている状態で、日常生活をベッド上で過ごすような状況を指すことにします。膀胱がんの末期は、がんによって身体がむしばまれQOL(生活の質)が低下して緩和的な治療が主体になってきている段階です。(緩和医療に関しては「緩和医療って末期がんに対して行う治療じゃないの?」で詳細に解説しています。)

膀胱がんの末期では肺、肝臓、骨などに転移していることも多く、身体中に広がったがんがさまざまな悪影響を及ぼし、悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態が引き起こされます。

  • 常に倦怠感につきまとわれる
  • 食欲がなくなり、食べたとしても体重が減っていく
  • 身体のむくみがひどくなる
  • 意識がうとうとする

悪液質が起こると、身体の栄養ががんに奪われ、点滴で栄養を補給しても身体がうまく利用できない状態になります。身体の問題が気持ちにも影響して、思うようにならない身体に対して不安が強くなり苦痛が増します。末期の症状は抗がん剤などでなくすことが出来ないので、緩和医療で症状を和らげることが大切です。また不安を少しでも取り除くために、できるだけ患者さんが過ごしやすい雰囲気を作ることも大事です。

【参考】
標準泌尿器科 第9版