じんがん(じんさいぼうがん)
腎がん(腎細胞がん)
腎臓の実質にできるがん。手術や分子標的薬により治療する。
10人の医師がチェック 260回の改訂 最終更新: 2024.05.08

腎がんの原因について:遺伝や危険因子(リスクファクター)などの説明

腎がんの一部は遺伝によって発生します。他方、生活習慣や持病の中にも腎がん発症のリスクを高めるものがあります。

目次

1. 腎がんと遺伝性疾患の関係について

遺伝性の病気であるフォンヒッペル・リンドウ病とバート・ホッグ・デュベ病の人は腎がんになりやすいことが知られています。

フォンヒッペル・リンドウ病(von Hippel-Lindau病)

フォンヒッペル・リンドウ病(以下VHL病)は、全身に腫瘍が多発する病気です。次のような主要(良性腫瘍または悪性腫瘍)が現れます。

  • 腎がん
  • 脳や脊髄血管腫
  • 網膜の血管腫
  • 副腎褐色細胞腫
  • 膵臓腫瘍

原因となる遺伝子異常がある人のうち、4割程度の人に淡明細胞型腎がんが発生するとされます。VHL病の人は、腎がんを発症するリスクが高いので、早期発見のために定期的に超音波検査などを行うことが推奨されています。

VHL病は日本国内では600-1000人の患者さんがいると推定されています。 この病気はVHLというがん抑制遺伝子の異常が原因で、常染色体優性遺伝という遺伝形式を取ります。VHL病の原因の遺伝子異常がある人から産まれた子どもには、親子の性別に関係なく、50%の確率で遺伝子異常が受け継がれます。 VHL病は遺伝する病気ですので、患者さん本人だけでなく家族・親戚にも関係があります。家族の誰かがVHL病と診断された場合、血縁関係からほかの家族にも遺伝子異常がある確率を計算できます。家族のリスクを把握して定期的な受診などの適切な対応が必要になります。

バート・ホッグ・デュベ病(Birt-Hogg-Dubé病)

バート・ホッグ・デュべ病(以下BHD病)は、腎腫瘍や肺嚢胞病変(肺の一部が膨らむ)、顔面から頭にかけて皮疹ができることを特徴とする病気です。BHD病は嫌色素性腎がんというタイプの腎がんが発生します。 VHL病と同じく、BHD病は常染色体優性遺伝という遺伝形式をとります。家族の誰かがBHD病と診断された場合、主治医に相談して遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

遺伝する病気はどうすればいいのか

遺伝する病気について理解し、その後の対応を判断するために、遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。遺伝カウンセリングを利用するには主治医に相談してください。 遺伝する病気は患者さん本人だけでなく家族・親戚にも関係があるので、遺伝カウンセリングは家族も一緒に受けることが望ましいです。親・子・兄弟は特に大切です。

2. 腎がんの危険因子:肥満・喫煙・透析・高血圧症

生活習慣や持病の中には腎がんが発生するリスクを高めるものがいくつか知られています。

  • 腎がんの発生リスクを高める生活習慣
  • 腎がんの発生リスクを高める持病

それぞれについて説明します・

肥満

肥満の人には腎がんが発生しやすいことが知られています。 ここでいう肥満BMIという指標をもとにして判定されたものです。BMIは次の計算式で求めることができます。

  • BMI=体重[kg]÷身長[m]÷身長[m]

BMIの正常値は18.5以上22未満であって、25を超えると肥満と診断されます。BMIが高い人には腎がんが発生する危険性が高いことが知られています。BMIが25を超えている人は食事療法や運動療法を行って減量に取り組んでみてください。減量がなかなかうまく進まない人はお医者さんや管理栄養士に相談して、食事や運動習慣の見直しをしてください。

参考:Br J Cancer. 2001;85:984-990

喫煙

喫煙は腎がん発生の危険性を高めると考えられています。 喫煙者は、非喫煙者に比べて腎がんを発症する危険性が1.38倍(男性で1.54倍、女性で1.22倍)であったとする報告があります。また、同じ研究では、喫煙量と危険性は相関することも報告されています。具体的には、1日の喫煙量が20本を超えるヘビースモーカーでは、腎がんが男性で2.03倍、女性で1.58倍多かったとしています。

喫煙は首や喉のがん(咽頭がん喉頭がん)や肺がん心筋梗塞など腎がん以外にも多くの病気の発生する可能性を高めることが知られています。腎がんのみならず健康のためにも禁煙に取り組んでください。とはいえ、禁煙は難しいものです。禁煙が難しい場合は禁煙外来などを利用して取り組んでみてください。「このページ」でお近くの禁煙外来を行っている医療機関を探すことができます。

参考:

Int J Cancer. 2005;114:101-108

透析治療が必要な慢性腎不全

透析患者さんは腎がんを発生しやすいことが知られています。 透析の期間が長いほど腎がんが発生する危険性が高くなります。また、腎臓に嚢胞(水が入った袋)袋が多発する後天性萎縮性多発嚢胞腎の人は危険性がさらに高まるとされています。早期に発見されると手術で治る可能性が高いので、透析患者さんは定期的に超音波検査やCT検査を行うようにしてください。

高血圧症

高血圧症は腎がん発生の危険因子と知られています。高血圧症とは以下のような血圧が持続する人のことです。

  • 病院や健診などで測定した血圧(診察室血圧)の場合
    • 収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上を満たす
  • 自宅で測定した血圧(家庭血圧)の場合
    • 収縮期血圧135mmHg以上または拡張期血圧85mmHg以上を満たす

血管新生因子が増加することや腎臓の近位尿細管という場所で脂質酸化の亢進することなどが腎臓がんの発生に関わっていると推測されていますが、詳しい原因まだはよくわかっていません。 高血圧症は症状はないことがほとんどですが、長い時間をかけて血管を傷めてしまい心筋梗塞脳梗塞などの原因になります。食事療法や運動療法、薬物療法などを組み合わせて高血圧症は治療ができるのでしっかりと治療に取り組んでください。