きのうせいでぃすぺぷしあ
機能性ディスペプシア
胃もたれや胃のキリキリした痛みのような症状があるのにもかかわらず、内視鏡検査などの詳細な検査を行っても異常が見られない病気
6人の医師がチェック 98回の改訂 最終更新: 2020.05.15

機能性ディスペプシアの検査について

機能性ディスペプシアとは、検査をしても胃や食道の異常が見当たらないのに「みぞおちの痛み」や「食後の胃もたれ」などが続いている状態です。機能性ディスペプシアと同じような症状が現れる病気は他にもたくさんあるので、身体診察や内視鏡検査などを通して、原因となる病気が隠れていないかを調べます。

1. 問診:お医者さんに何を聞かれるのか

「みぞおちが痛む」「食後に胃がもたれる」などの症状からはさまざまな病気が考えられます。そのため、お医者さんは患者さんにいくつかの質問をしながら、可能性のある病気を絞り込んでいきます。

【お医者さんによく聞かれること】

  • 胃の不調以外に症状はあるか
  • 服用中の薬はあるか
  • どのような食事をしているか
  • 飲酒の習慣はあるか
  • 喫煙習慣はあるか

胃の不調以外の症状について

機能性ディスペプシアと似た症状を生じる病気のなかには危険なものもあります。症状だけで診断できるわけではありませんが、下記に当てはまるものがあれば怖い病気と見分ける鍵になりますので忘れずに伝えるようにしてください。

  • 体重が減ってきた
  • 何度か嘔吐した
  • 飲み込みにくい
  • 黒または赤っぽい色の便が出た
  • 発熱がある

体重減少、繰り返す嘔吐、飲み込みにくさは、胃がん食道がんなどでも現れることがある症状です。また、「黒い便」や「赤い便」は消化管で出血が起きているサインです。特に黒い便が出た時は、重症になりがちな胃や十二指腸からの出血が考えられるので注意が必要です。イカスミなどの黒いものを食べた覚えもないのに便全体が真っ黒になっている人は、夜間や休日でもすぐに受診してください。

なお、機能性ディスペプシアでは発熱はしませんが、発熱があればはさまざまな病気の可能性が考えられるため、血液検査、画像検査、内視鏡検査などの精密検査をして原因を絞り込みます。

そのほか、気になることがあれば遠慮なく伝えるようにしてください。身体の不調はお医者さんが診てもわからないことが多いので、患者さんからの情報がとても大切になります。

服用中の薬について

内服薬の中には「食後の胃もたれ」や「みぞおちの痛み」を起こすものがあります。

【食後の胃もたれやみぞおちの痛みの原因となりうる主な薬剤】

ただし、持病の治療に欠かせない薬剤も含まれているので、必ずしも中止するとは限りません。中止の判断については、お医者さんと相談をしてください。

生活習慣に関して

機能性ディスペプシアの要因として、さまざまな生活習慣が挙げられます。見直すとよい生活習慣があるかどうか問診でお医者さんに聞かれることがあります。

【食後の胃もたれやみぞおちの痛みを引き起こす生活習慣】

  • 脂っぽいものをよく食べる
  • 一度にたくさん食べる
  • 食べてすぐに横になる
  • 精神的なストレスがある
  • カフェインや香辛料をたくさん摂る
  • 飲酒がある
  • 喫煙する

これらの生活習慣を見直すと、機能性ディスペプシアの症状軽減が期待できます。

2. 身体診察

身体診察はお医者さんが直接身体の様子を詳しく調べることです。身体診察には次のようなものがあります。

  • バイタルサインの確認
  • 視診
  • 聴診
  • 打診
  • 触診

バイタルサイン:体温、血圧、脈拍数、呼吸数、意識レベル

バイタルサインは脈拍数、呼吸数、体温、血圧、意識状態などのことで、日本語に直訳すると「生命徴候」です。

機能性ディスペプシアの人のバイタルサインが異常になることはありません。しかし、バイタルサインが異常であれば、緊急で対応が必要な状態であると考えられます。治療を急ぐかどうか判断するのに、バイタルサインが活用されています。

視診

視診とは見た目で身体の異常を見つける診察方法です。機能性ディスペプシアでは視診で異常が見つかることはありません。

聴診、打診

聴診とは聴診器を使って身体の音を聞くことです。打診では身体を軽く叩いてその音から、内臓の異常を調べます。機能性ディスペプシアの人では異常は見つかりません。

触診:リンパ節腫脹、腹部触診

触診は身体を触って診察する方法です。胃の不調がある人には横になってもらって、痛みのあるところを重点的に調べます。機能性ディスペプシアでは触診で異常は見当たりませんが、もしお腹が固く触れたり、軽く押したときに響くような痛みがあれば、腹膜炎という治療を急いだほうがよい病気が疑われます。

3. 血液検査

機能性ディスペプシアが疑われる人には、下記の血液検査がよく行われます。

  • 炎症反応 (白血球数やCRP
  • 貧血の検査 (赤血球数やヘモグロビン
  • 肝臓や胆管の検査 (AST、ALT、AFP、γGT、T-Bil)
  • 膵臓の検査 (AMY)
  • 消化管出血の検査 (BUN)

機能性ディスペプシアによって血液検査は異常値になることはありません。しかし、消化管出血、膵炎、腹膜炎胆嚢炎、胆管炎などの病気では血液検査の異常値となることが多いです。これらの病気をみわけるために、血液検査が重要です。

4. 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

食道や胃十二指腸の病気を見つけるのに非常に優れた検査です。内視鏡が付いた細長い管を口または鼻から挿入して撮影します。エコー検査やCT検査では確認できない消化管内部の色調や凹凸を映し出すことができます。機能性ディスペプシアかどうか調べるのに、上部消化管内視鏡検査はよく行われます。

5. ピロリ菌の検査

ピロリ菌Helicobacter pylori)が感染している場合には、除菌によって胃の不調が改善することがあります。ピロリ菌に感染しているかどうか調べる方法はいくつかあります。

【ピロリ菌の検査方法】

  • 血液検査
  • 尿検査
  • 便検査
  • 吐いた息をバックに詰めて調べる検査
  • 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)(胃粘膜の一部を採取して調べる)

ただし、ピロリ菌の検査が保険適用されるのは、胃カメラ検査でピロリ菌の感染が疑われた人に限られているのが現状です。なお、ピロリ菌が再感染する可能性は低いため、除菌したことがある人はピロリ菌検査の必要はありません。

6. 画像検査

機能性ディスペプシアで画像検査が異常になることはありませんが、他の病気ではないことを確認するために必要な検査です。ここでは、機能性ディスペプシアが疑われた人に行うことの多い画像検査について説明します。

腹部超音波検査(エコー検査)

超音波を発生するプローブとよばれる機械をお腹に押し当てて検査をします。臓器まで到達し跳ね返ってきた超音波の量を測定することで、臓器の形を画像として見ることができます。超音波検査では放射線を使わないので被曝の心配はありません。

腹部超音波検査では、肝臓、胆のう、腎臓の全体と、胆管や膵臓の一部が見えます。これらの臓器の病気では、機能性ディスペプシアと似た症状が起こることがあるので、エコー検査で異常の有無を調べます。

腹部CT・MRI検査

腹部CT検査MRI検査は、血液検査や超音波検査だけでは診断が難しいときに行われることが多いです。腹部CT検査では放射線を、MRI検査では磁力を利用して身体の断面を映し出します。

CT検査やMRI検査では、造影剤を注射することでがんと他の病気を見分けやすくなります。ただし、気管支喘息、ヨードアレルギー体質、褐色細胞腫腎機能障害の人では、合併症が出やすくなるため造影剤を使えないことがあります。

7. 便潜血検査

便潜血検査とは、便に血が混ざっているかどうかを調べることによって、大腸がんなどの病気を見つけ出す検査です。機能性ディスペプシアの診断に必須の検査ではありませんが、下痢や便秘を繰り返す症状を伴う人では、まれに大腸がんが見つかるので、検査が追加されることがあります。

8. 食道24時間pHモニタリング

鼻からチューブ状の装置を入れて食道のpHを測り、胃内容物の逆流があるかどうか調べる検査です。上部消化管内視鏡検査を行っても胃食道逆流症か機能性ディスペプシアか見分けがつかないときに有用です。しかし、どちらであっても胃酸分泌抑制剤などの内服薬で改善することが多いため、負担のかかる検査である食道24時間pHモニタリングまで行うことはほとんどありません。

参考文献

・日本消化器病学会, 「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014-機能性ディスペプシア」