きのうせいでぃすぺぷしあ
機能性ディスペプシア
胃もたれや胃のキリキリした痛みのような症状があるのにもかかわらず、内視鏡検査などの詳細な検査を行っても異常が見られない病気
6人の医師がチェック 98回の改訂 最終更新: 2020.05.15

機能性ディスペプシアの治療について

機能性ディスペプシアの治療の柱は生活習慣の見直しと内服薬による薬物治療です。どの薬が効果的なのかは個人差があるので、内服薬を一つひとつ試すことがあります。

1. 生活習慣の見直し

下記の生活習慣を心掛けることによって、機能性ディスペプシアの症状が軽減する可能性があります。

  • 脂っこいものを食べすぎない
  • 一度にたくさん食べない
  • 食べてすぐに横にならない
  • ストレスをためない
  • カフェイン、香辛料、炭酸飲料を控える
  • 禁酒・禁煙をする
  • 十分な睡眠時間を確保する 

まずはこれらの生活習慣を見直してみてください。一つひとつ見直すことで自分の症状に影響している要因がどれなのか、推測できることがあります。

2. 機能性ディスペプシアで推奨度の高い2種類の薬

機能性ディスペプシアに使われる内服薬のうち、強く推奨されているのが胃酸分泌抑制剤と消化管運動機能改善薬です。これらの薬は、症状によって使い分けられています。

胃酸分泌抑制剤

機能性ディスペプシアには、「H2受容体拮抗薬」や「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」といった胃酸分泌抑制剤が効果的です。「みぞおちの痛み」や「焼けるように感じる」といった症状(心窩部痛症候群)の人に特に有効です。

H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)  

胃酸の分泌を調節しているH2受容体をブロックする薬です。後述のPPIに比べて、即効性に優れています。

【代表的なH2受容体拮抗薬】

1日1-4回内服します。これらの薬剤は医療機関で処方されるだけではなく、ドラッグストアなどで市販されているものもあります。適切に使用すれば安全性の高いとされている薬です。主な副作用には、便秘白血球減少、肝機能検査異常などがあります。

また、ラフチジン以外の上記の薬剤成分は主に腎臓で排泄されるため、腎機能が低下している場合などは、より注意が必要となります。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)

胃酸の分泌を調整しているプロトンポンプを阻害する薬です。H2受容体拮抗薬よりも胃酸を抑える作用が強いといわれています。ただし、H2ブロッカーとPPIのどちらのほうが機能性ディスペプシアに対して効果が高いのかはわかっていません。

なお、ボノプラザンはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)といって従来のPPIとは異なる作用の仕組みをもつ薬で、ほかのPPIに比べて速やかな胃酸抑制が期待できます。

【プロトンポンプ阻害剤一覧】

基本的には1日1回内服します。重篤な副作用が出ることはまれですが、主な副作用に下痢、じんま疹、肝機能検査異常などがあります。

消化管運動機能改善薬:食後に症状が強く出る人に特に有効

「食後の胃もたれ」や「食べるとすぐにお腹がいっぱいになる」といった症状(食後愁訴症候群:しょくごしゅうそしょうこうぐん)の人によく処方されます。

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬:アコチアミド(商品名:アコファイド®

アコチアミドは、機能性ディスペプシアの保険適用がある唯一の薬です(2020.5.15現在)。アセチルコリンエステラーゼという物質をさまたげることで、消化管運動を調節するアセチルコリンの効果を増強させます。主に胃の出口付近の運動をよくするといわれています。

通常1日3回食前に100mgずつ内服します。代表的な副作用は下痢、便秘、肝機能検査異常です。

ただし、胃カメラ上部消化管内視鏡検査)などの検査で他の病気が隠れていないかどうか調べた人でないと健康保険が適用されません。

◎その他の消化管運動機能改善薬

アコチアミド以外にも、消化管運動機能を改善する薬はいくつかあります。これらには、機能性ディスペプシアの保険適用病名は定められていないものの、古くから胃もたれや悪心などのある人に使われていて、機能性ディスペプシアの人の症状を軽減させる可能性があります。

モサプリドは、消化管の5-HT4受容体を刺激することによってアセチルコリンを増やして、胃腸の動きをよくします。1日3回内服する薬です。下痢や肝機能検査異常といった副作用の報告があります。粉薬があるので、嚥下機能が低下した人でも使いやすい薬です。

イトプリド、メトクロプラミド、ドンペリドンは、主にドパミンD2受容体を阻害することでアセチルコリンを増やし、消化管の運動を改善する薬です。吐き気どめとして使用されることもあります。1日2-3回食前に内服します。代表的な副作用は錐体外路症状(体の動きが悪くなったり、意図せず動いたりすること)や下痢です。

トリメブチンは、消化管平滑筋と腸管のオピオイド受容体に作用して胃腸の運動を整えます。機能性ディスペプシアに合併しがちな過敏性腸症候群でも使用されることがある薬です。1日3回内服します。主な副作用には、便秘、下痢、蕁麻疹があります。

3. 機能性ディスペプシアの2次治療とは:漢方薬、抗うつ薬、抗不安薬

機能性ディスペプシアの主な治療薬としては、アコチアミド(主な商品名:アコファイド®)などの消化管運動機能改善薬や胃酸分泌抑制薬が使われていますが、これらの他に漢方薬、抗うつ薬、抗不安薬が治療の選択肢となることもあります。

漢方薬

機能性ディスペプシアの人では、知覚の過敏、微細な炎症、精神的な要因など複数の因子が入り混じって引き起こされていることがあります。漢方医学では基本的に、単一の症状や部位だけではなく全身の状態から診断し薬(漢方薬)を選択するため、機能性ディスペプシアに適している治療法(治療薬)のひとつと言えます。

ここでは機能性ディスペプシアやこれに関連する症状の改善が期待できる漢方薬をいくつか挙げてみていきます。

◎六君子湯(リックンシトウ)

一般的には胃腸機能が低下していて、食欲不振や倦怠感、膨満感などがある症状に対して適するとされる漢方薬です。どちらかというと体力や胃腸がやや虚弱気味で、手足の冷えや貧血などがあるような胃炎、胃もたれ、食欲不振などに対して使われます。

六君子湯の特徴は、消化管の運動機能やそれに伴う食欲の低下の改善が期待できるところです。最近では、食欲を高めるホルモンであるグレリンの働きを増強する作用により食欲不振を改善することがわかってきています。

六君子湯には胃の機能改善や抗ストレス作用もあるとされ、食欲低下や胃もたれ、膨満感などを伴う機能性ディスペプシアに対しても使われています。また、六君子湯により胃腸全体の調子が改善することで、減っていた体重が戻ったり、熟睡でき疲れにくくなるなどの胃腸以外への効果も期待できるとされています。

六君子湯は、機能性ディスペプシア以外の消化器疾患にも有用です。たとえば、PPIだけでは胸やけなどの症状が改善しないような胃食道逆流症などの治療に使われることもあります。

◎半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)

体力が中等度以上で、みぞおちにつかえがあり、口内炎や下痢、胃もたれ、吐き気、胸やけなどの症状に適するとされる漢方薬です。先ほどの六君子湯はどちらかというと体力や胃腸が虚弱気味で、胃もたれや食欲不振といった症状に対して適するとされますが、こちらの半夏瀉心湯は比較的胃腸が丈夫で、ストレスや過食によって胃炎などを引き起こしているような症状に対して適するとされています(病態によっては、胃腸がやや虚弱の場合に対しても使われることはあります)。

胸やけや胃もたれなどを伴う機能性ディスペプシアに使われているほか、胃食道逆流症などの治療の選択肢にもなっています。

半夏瀉心湯は六君子湯同様、近年その作用の仕組みが解明されてきている漢方薬です。例えば口内炎では粘膜組織が障害される原因の一つになっている口腔内の細菌に対して抗菌作用をあらわすとされています。その他、体内の炎症を抑える作用や、細胞に障害を与える活性酸素の抑制、細胞修復機能の促進と、いくつかの作用によって口内炎を治療することができるとされています。

半夏瀉心湯は軟便傾向の状態にも適するとされ、下痢に対しては速効性と持続性の両面の作用が期待できることから、がん化学療法によって生じる下痢などの症状に対してもよく使われています。

◎人参湯(ニンジントウ)

体力虚弱で痩せていて、冷え症、胃もたれ、食欲不振、下痢などの胃腸機能が低下した状態の改善に使われる漢方薬です。

構成生薬のひとつで方剤名の由来にもなっているニンジン(オタネニンジン、別名:薬用人参、朝鮮人参など)は、先ほどの六君子湯にも含まれ、胃腸の衰弱による新陳代謝の低下を改善し、胸部のつかえ、食欲不振、疲労などに対して効果が期待できます。

人参湯は機能性ディスペプシアに対しても有用とされ、消化管運動の機能低下などを改善する効果が期待でき、特に冷え症でなかなか太れないなどの訴えがある場合に適するとされています。

◎その他の漢方薬

このほか、六君子湯よりも虚弱で神経性の食欲不振などに適するとされる四君子湯(シクンシトウ)、体力低下気味で痩せていて胃痛や胸やけなど訴える場合に適し六君子湯などと併用されることもある安中散(アンチュウサン)、虚弱体質における胃下垂傾向や疲労感などの全身症状の改善が期待できる補中益気湯(ホチュウエッキトウ)、抑うつ傾向や咽喉頭の異常感などを伴うような症状に対して改善が期待できる半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)、などの漢方薬が機能性ディスペプシアの治療における選択肢となることが考えられます。

■漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。たとえば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬でおこる可能性がある間質性肺炎や肝障害などがあります。しかし、これらの副作用がおこる可能性は非常にまれであり、万が一あらわれても多くの場合、漢方薬を中止することで解消されます。

漢方薬は通常、個々の体質や症状などを十分考慮した上で使われ、それでも体質に合わない場合には変更・中止するなどの適切な対応がとられます。ただし漢方薬による治療中に、何らかの気になる症状があらわれた場合でも、自己判断で薬を中止することはかえって治療の妨げになることもあります。もちろん非常に重篤な症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を服用することによってもしも気になる症状があらわれた場合は、自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。

抗不安薬や抗うつ薬

セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の働きを整える抗うつ薬や抗不安薬のなかには、機能性ディスペプシアに効果的なものがあります。効果のある一因は、セロトニンが感情をコントロールするのに加えて、胃腸の働きも整えるからです。

◎セロトニン作動性抗不安薬(タンドスピロン:セディール®

セロトニンの作用を調整することで効果を発揮します。神経症や心身症の人の不安、抑うつ、睡眠障害などに使われる薬で、機能性ディスペプシアにも効果があります。1日3回内服します。眠気やふらつきなどの合併症に注意が必要ですが、比較的合併症の少ない薬です。効果を実感するまで1-2週間くらいかかるといわれていますので、合併症の自覚がなければ指示された期間続けてみてください。なお、車などの運転はできません。

◎三環系抗うつ薬(アミトリプチン:トリプタノール®、イミプラミン:トフラニール®イミドール®など)

三環系抗うつ薬はセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質を調整します。うつ病に加えて、機能性ディスペプシアにも使われます。病状によって1日1-3回内服します。

ただし、合併症は決して少なくありません。たとえば、口のかわき、便秘、眼圧上昇、血圧変動や動悸などの循環器症状、不随意運動などです。前立腺肥大症緑内障などの持病がある場合は使用ができない場合もあります。また、眠気があらわれることもあり、車の運転などの危険を伴う作業は控える必要があります。

◎ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)(ミルタザピン:リフレックス®︎レメロン®など)

NaSSAはノルアドレナリンやセロトニンといった神経伝達物質を調整します。痩せていて、うつ症状のある機能性ディスペプシアの人に、有効な可能性があります。通常1日1回就寝前に内服します。三環系抗うつ薬に比べて副作用を抑えられる抗うつ薬です。代表的な副作用には、倦怠感、皮膚症状、めまい、頭痛があります。また、肝機能検査や低ナトリウムといった検査異常が生じることもまれにあります。眠気が生じうるので、車の運転や高所作業などの危険作業には従事できません。

4. ピロリ菌の駆除

ピロリ菌(Helicobacter Pylori)の感染によって「胃もたれ」や「みぞおちの痛み」などの症状を感じる人がいます。以前は、このような人は機能性ディスペプシアに含まれていましたが、近年は含まないことが多いです。いずれにしてもピロリ菌を内服薬で除菌すると、症状がよくなる可能性があります。

ピロリ菌を除菌するには、下記の薬を1日に2回、1週間内服します。(抗菌薬に対してアレルギー歴がある人には、除菌で使用する抗菌薬が変更されます)

【ピロリ菌除菌の主な内服薬】

ただし、上記の薬ですべての人が除菌できるわけではなく、除菌に成功するのは7-9割程度といわれています。除菌ができない一因はクラリスロマイシンの耐性菌の存在です。クラリスロマイシンの耐性菌は30%を超えていて今後さらに増える可能性があるといわれています。除菌薬を1週間使用してもピロリ菌を排除できなければ、抗菌薬を一部変更して再度除菌を試みます。詳しくはこちらのページ(ヘリコバクター・ピロリ感染症の治療とは)でも説明しています。

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