機能性ディスペプシアの治療について
機能性ディスペプシアの治療の柱は生活習慣の見直しと
1. 生活習慣の見直し
下記の生活習慣を心掛けることによって、機能性ディスペプシアの症状が軽減する可能性があります。
- 脂っこいものを食べすぎない
- 一度にたくさん食べない
- 食べてすぐに横にならない
- ストレスをためない
- カフェイン、香辛料、炭酸飲料を控える
- 禁酒・禁煙をする
- 十分な睡眠時間を確保する
まずはこれらの生活習慣を見直してみてください。一つひとつ見直すことで自分の症状に影響している要因がどれなのか、推測できることがあります。
2. 機能性ディスペプシアで推奨度の高い2種類の薬
機能性ディスペプシアに使われる内服薬のうち、強く推奨されているのが胃酸分泌抑制剤と
胃酸分泌抑制剤
機能性ディスペプシアには、「H2受容体拮抗薬」や「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」といった胃酸分泌抑制剤が効果的です。「みぞおちの痛み」や「焼けるように感じる」といった症状(心窩部痛症候群)の人に特に有効です。
胃酸の分泌を調節しているH2受容体をブロックする薬です。後述のPPIに比べて、即効性に優れています。
【代表的なH2受容体拮抗薬】
- ファモチジン (主な商品名:ガスター®)
- ラニチジン (主な商品名:ザンタック®)
- ニザチジン (主な商品名:アシノン®)
- シメチジン (主な商品名:タガメット® )
- ロキサチジン (主な商品名:アルタット® )
- ラフチジン (主な商品名:プロテカジン®)
1日1-4回内服します。これらの薬剤は医療機関で処方されるだけではなく、ドラッグストアなどで市販されているものもあります。適切に使用すれば安全性の高いとされている薬です。主な副作用には、便秘、
また、ラフチジン以外の上記の薬剤成分は主に腎臓で排泄されるため、
胃酸の分泌を調整しているプロトンポンプを阻害する薬です。H2受容体拮抗薬よりも胃酸を抑える作用が強いといわれています。ただし、H2ブロッカーとPPIのどちらのほうが機能性ディスペプシアに対して効果が高いのかはわかっていません。
なお、ボノプラザンはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)といって従来のPPIとは異なる作用の仕組みをもつ薬で、ほかのPPIに比べて速やかな胃酸抑制が期待できます。
【プロトンポンプ阻害剤一覧】
- ランソプラゾール(主な商品名:タケプロン®)
- オメプラゾール(主な商品名:オメプラゾン®、オメプラール®)
- ラベプラゾール(主な商品名:パリエット®)
- エソメプラゾール(主な商品名:ネキシウム®)
- ボノプラザン(主な商品名:タケキャブ®)
基本的には1日1回内服します。重篤な副作用が出ることはまれですが、主な副作用に下痢、じんま疹、肝機能検査異常などがあります。
消化管運動機能改善薬:食後に症状が強く出る人に特に有効
「食後の胃もたれ」や「食べるとすぐにお腹がいっぱいになる」といった症状(食後愁訴症候群:しょくごしゅうそしょうこうぐん)の人によく処方されます。
◎
アコチアミドは、機能性ディスペプシアの
通常1日3回食前に100mgずつ内服します。代表的な副作用は下痢、便秘、肝機能検査異常です。
ただし、
◎その他の消化管運動機能改善薬
アコチアミド以外にも、消化管運動機能を改善する薬はいくつかあります。これらには、機能性ディスペプシアの保険適用病名は定められていないものの、古くから胃もたれや悪心などのある人に使われていて、機能性ディスペプシアの人の症状を軽減させる可能性があります。
- モサプリド(主な商品名:ガスモチン®)
- イトプリド(主な商品名:ガナトン®)
- メトクロプラミド(主な商品名:プリンペラン®)
- ドンペリドン(主な商品名:ナウゼリン®)
- トリメブチン(主な商品名:セレキノン®︎)
モサプリドは、消化管の5-HT4受容体を刺激することによってアセチルコリンを増やして、胃腸の動きをよくします。1日3回内服する薬です。下痢や肝機能検査異常といった副作用の報告があります。粉薬があるので、嚥下機能が低下した人でも使いやすい薬です。
イトプリド、メトクロプラミド、ドンペリドンは、主にドパミンD2受容体を阻害することでアセチルコリンを増やし、消化管の運動を改善する薬です。吐き気どめとして使用されることもあります。1日2-3回食前に内服します。代表的な副作用は錐体外路症状(体の動きが悪くなったり、意図せず動いたりすること)や下痢です。
トリメブチンは、消化管
3. 機能性ディスペプシアの2次治療とは:漢方薬、抗うつ薬、抗不安薬
機能性ディスペプシアの主な治療薬としては、アコチアミド(主な商品名:アコファイド®)などの消化管運動機能改善薬や胃酸分泌抑制薬が使われていますが、これらの他に漢方薬、抗うつ薬、
漢方薬
機能性ディスペプシアの人では、知覚の過敏、微細な
ここでは機能性ディスペプシアやこれに関連する症状の改善が期待できる漢方薬をいくつか挙げてみていきます。
◎六君子湯(リックンシトウ)
一般的には胃腸機能が低下していて、食欲不振や
六君子湯の特徴は、消化管の運動機能やそれに伴う食欲の低下の改善が期待できるところです。最近では、食欲を高める
六君子湯には胃の機能改善や抗ストレス作用もあるとされ、食欲低下や胃もたれ、膨満感などを伴う機能性ディスペプシアに対しても使われています。また、六君子湯により胃腸全体の調子が改善することで、減っていた体重が戻ったり、熟睡でき疲れにくくなるなどの胃腸以外への効果も期待できるとされています。
六君子湯は、機能性ディスペプシア以外の消化器疾患にも有用です。たとえば、PPIだけでは胸やけなどの症状が改善しないような胃食道逆流症などの治療に使われることもあります。
◎半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)
体力が中等度以上で、みぞおちにつかえがあり、口内炎や下痢、胃もたれ、吐き気、胸やけなどの症状に適するとされる漢方薬です。先ほどの六君子湯はどちらかというと体力や胃腸が虚弱気味で、胃もたれや食欲不振といった症状に対して適するとされますが、こちらの半夏瀉心湯は比較的胃腸が丈夫で、ストレスや過食によって胃炎などを引き起こしているような症状に対して適するとされています(
胸やけや胃もたれなどを伴う機能性ディスペプシアに使われているほか、胃食道逆流症などの治療の選択肢にもなっています。
半夏瀉心湯は六君子湯同様、近年その作用の仕組みが解明されてきている漢方薬です。例えば口内炎では粘膜組織が障害される原因の一つになっている口腔内の
半夏瀉心湯は軟便傾向の状態にも適するとされ、下痢に対しては速効性と持続性の両面の作用が期待できることから、
◎人参湯(ニンジントウ)
体力虚弱で痩せていて、冷え症、胃もたれ、食欲不振、下痢などの胃腸機能が低下した状態の改善に使われる漢方薬です。
構成生薬のひとつで方剤名の由来にもなっているニンジン(オタネニンジン、別名:薬用人参、朝鮮人参など)は、先ほどの六君子湯にも含まれ、胃腸の衰弱による新陳
人参湯は機能性ディスペプシアに対しても有用とされ、消化管運動の機能低下などを改善する効果が期待でき、特に冷え症でなかなか太れないなどの訴えがある場合に適するとされています。
◎その他の漢方薬
このほか、六君子湯よりも虚弱で神経性の食欲不振などに適するとされる四君子湯(シクンシトウ)、体力低下気味で痩せていて胃痛や胸やけなど訴える場合に適し六君子湯などと併用されることもある安中散(アンチュウサン)、虚弱体質における胃下垂傾向や疲労感などの全身症状の改善が期待できる補中益気湯(ホチュウエッキトウ)、
■漢方薬にも副作用はある?
一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。たとえば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽
漢方薬は通常、個々の体質や症状などを十分考慮した上で使われ、それでも体質に合わない場合には変更・中止するなどの適切な対応がとられます。ただし漢方薬による治療中に、何らかの気になる症状があらわれた場合でも、自己判断で薬を中止することはかえって治療の妨げになることもあります。もちろん非常に重篤な症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を服用することによってもしも気になる症状があらわれた場合は、自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。
抗不安薬や抗うつ薬
◎セロトニン作動性抗不安薬(タンドスピロン:セディール®)
セロトニンの作用を調整することで効果を発揮します。神経症や心身症の人の不安、抑うつ、睡眠障害などに使われる薬で、機能性ディスペプシアにも効果があります。1日3回内服します。眠気やふらつきなどの
◎三環系抗うつ薬(アミトリプチン:トリプタノール®、イミプラミン:トフラニール®・イミドール®など)
三環系抗うつ薬はセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質を調整します。うつ病に加えて、機能性ディスペプシアにも使われます。病状によって1日1-3回内服します。
ただし、合併症は決して少なくありません。たとえば、口のかわき、便秘、眼圧上昇、血圧変動や
◎ノルアドレナリン作動性・
NaSSAはノルアドレナリンやセロトニンといった神経伝達物質を調整します。痩せていて、うつ症状のある機能性ディスペプシアの人に、有効な可能性があります。通常1日1回就寝前に内服します。三環系抗うつ薬に比べて副作用を抑えられる抗うつ薬です。代表的な副作用には、倦怠感、皮膚症状、めまい、頭痛があります。また、肝機能検査や低ナトリウムといった検査異常が生じることもまれにあります。眠気が生じうるので、車の運転や高所作業などの危険作業には従事できません。
4. ピロリ菌の駆除
ピロリ菌を除菌するには、下記の薬を1日に2回、1週間内服します。(
【ピロリ菌除菌の主な内服薬】
- プロトンポンプ阻害薬
- アモキシシリン(抗菌薬)
- クラリスロマイシン(抗菌薬)
ただし、上記の薬ですべての人が除菌できるわけではなく、除菌に成功するのは7-9割程度といわれています。除菌ができない一因はクラリスロマイシンの
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