機能性ディスペプシアとは
機能性ディスペプシアとは、「みぞおちの痛み」や「食後の胃もたれ」などの症状が続いているのに、一般的な検査をしても異常が見当たらない状態です。主な治療法は生活習慣の改善と薬物療法です。
目次
1. 機能性ディスペプシア(FD)とはどのような病気か
「ディスペプシア」はギリシア語に由来する言葉で、直訳すると「消化不良」という意味になります。医学用語としては「胃もたれ」や「みぞおちの痛み」といった症状を表す言葉として使われています。
ディスペプシア症状は胃がん、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、膵炎などさまざまな病気であらわれますが、精密検査をしてもこれらの病気が疑われる異常が見つからないことがあります。これは、検査ではとらえきれない胃腸機能の乱れがある状態であると推測されることから「機能性ディスペプシア(英語表記:functional dyspepsia, FD)」と呼ばれています。
機能性ディスペプシアは症状によって大きく2つのタイプに分類されています。
【食後愁訴症候群】
- 食後に胃がもたれる (週に3回以上)
- 少量の食事でお腹がはる (週に3回以上)
【心窩部痛症候群】
- みぞおちが痛む (週に1回以上)
- みぞおちが焼けるように感じる (週に1回以上)
ただし、複数の症状があって両方の症候群に該当する人もいます。
2. 機能性ディスペプシア(FD)の人はどのくらいいるか
健康診断を受けた人の11-17%が機能性ディスペプシアであったと報告されています。また、みぞおちの痛みを感じて受診した人の45-53%が、機能性ディスペプシアであったという報告もあります。機能性ディスペプシアという病名は聞き慣れない人が多いと思いますが、実は身近な病気です。
3. 機能性ディスペプシアの原因について
機能性ディスペプシアの原因ははっきりわかっていませんが、なりやすくなる要因として下記のものが考えられています。
【機能性ディスペプシアの要因となりうるもの】
- 胃の動きの悪さ
- 胃酸に対する胃の知覚過敏
- 遺伝
- 感染性腸炎
- 心理的なストレス
- 生活習慣(飲酒、喫煙、香辛料の過剰摂取、寝不足、不規則な食生活、脂肪の多い食事など)
これらの原因のうち生活習慣は一人ひとりの取り組み次第でなくせるものです。もし、上記の習慣に心当たりがある人は、一つひとつ見直して症状が良くなるかどうか試してみてください。
4. 機能性ディスペプシアの主な検査について
機能性ディスペプシアでは「胃腸の動き」や「
機能性ディスペプシアが疑わしい人は
血液検査
血液検査とは、採取した血液中の成分から、
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
ピロリ菌の検査
画像検査
代表的な画像検査には下記の3つです。
腹部超音波検査 腹部CT検査 腹部MRI 検査
これらの画像検査は、胃腸の異常をみつけるのは不得意ですが、肝臓、胆のう、
その他の検査:便潜血検査、食道24時間pHモニタリングなど
機能性ディスペプシアの人のなかには、上記で説明した代表的な検査に加えて、便潜血検査、食道24時間pHモニタリングなどがまれに行われます。詳しく知りたい人は、機能性ディスペプシアの検査のページも参照してください。
5. 機能性ディスペプシアの内服薬について
機能性ディスペプシアの人には、上記の生活習慣の見直し(「3.機能性ディスペプシアの原因」参照)に加えて、
胃酸分泌抑制剤
胃酸分泌抑制剤は「みぞおちの痛み」や「みぞおちが焼ける感じ」といった症状の人に効果的です。
【主な胃酸分泌抑制剤】
- プロトンポンプ阻害薬(PPI):タケプロン®、オメプラゾン®、オメプラール®、パリエット®、ネキシウム®、タケキャブ®など
- H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー):ガスター®、ザンタック®、アシノン®、タガメット®、アルタット®、プロテカジン®など
胃酸を抑える効果はPPIのほうが高く、即効性はH2受容体拮抗薬に軍配が上がります。
消化管運動機能改善薬
消化管運動機能改善薬は「食後に胃がもたれる」、「少量の食事でお腹がふくれる」といった症状の人に効果的です。
【代表的な消化管運動機能改善薬】
アコファイドは、2013年に発売された比較的新しい機能性ディスペプシアの薬です。ガスモチン®️とガナトン®️は、古くから、胸焼け、食欲不振の患者さんに使われていて、機能性ディスペプシアの症状を改善する可能性があります。
漢方薬
漢方薬はさまざまな生薬を組み合わせて作られる配合薬であり、機能性ディスペプシアの人にも効果が期待できます。
【機能性ディスペプシアに使う漢方薬】
六君子湯は、食欲不振、胃もたれ、膨満感に対して効果的であり、機能性ディスペプシアの漢方薬で代表的なものです。半夏瀉心湯は、みぞおちのつかえ、胃もたれ、吐き気、胸やけなどの症状に使われます。人参湯は、体力虚弱で痩せている人の冷え症、胃もたれ、食欲不振、下痢などの症状に使う薬です。
抗不安薬や抗うつ薬
精神の不調と胃腸の不具合は互いに影響を及ぼし合うことがよくあります。このため、機能性ディスペプシアの人は、
【機能性ディスペプシアに使われる抗不安薬、抗うつ薬】
セロトニン 作動性抗不安薬:セディール®- 三環系抗うつ薬:トリプタノール®、トフラニール®、イミドール®
- ノル
アドレナリン 作性・特異的 セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA):リフレックス®︎、レメロン®
いずれの薬も眠気が生じうるので、車の運転や高所作業などの危険作業には従事できません。
6. 機能性ディスペプシアのガイドラインはあるのか
機能性ディスペプシアの主な
- 日本消化器病学会:
機能性 消化管疾患診療ガイドライン (2014)ー 機能性ディスペプシア - アメリカとカナダの消化器病学会:ディスペプシアの診療ガイドライン(2017)
- RomeIV 機能性ディスペプシアなどの国際基準(2016)
お医者さんはこれらのガイドラインを参考にして診療しています。
参考文献
・日本消化器病学会, 「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014-機能性ディスペプシア」
・Paul M et al. ACG and CAG Clinical Guideline:Management of Dyspepsia. Am J Gastroenterol2017;112:988-1013.