ようついねんざ(ぎっくりごし)
腰椎捻挫(ぎっくり腰)
急に重いものをもちあげたり、体を強くひねったりすることで、背骨のまわりの組織に障害が生じ、急激な痛みが出た状態
12人の医師がチェック 129回の改訂 最終更新: 2023.08.28

この腰痛はぎっくり腰(腰椎捻挫)?腰椎椎間板ヘルニアとの違い

腰に強い痛みを感じることは多くの人が経験したことがあると思います。ぎっくり腰は正確には原因不明ですが、多くは2週間以内に改善します。身近なようで知らないことも多いぎっくり腰のあらましを解説します。

1. 腰が急に痛くなって動けない! ひょっとしてぎっくり腰?

重いものを持ったり腰を回したりしたときに腰に強い痛みが走り動けなくなったりすることがあります。いわゆるぎっくり腰を発症した可能性が高いです。

ぎっくり腰は欧米では「魔女の一撃」と呼ばれるほど不意に強烈な痛みが腰を襲う病気です。

ぎっくり腰にはいくつかの定義があります。どれが正しいという区別はありません。たとえばぎっくり腰は急性腰痛症と言って急に起こる腰痛症の全てを指すこともあります。

ここでの「ぎっくり腰」は、検査などで明らかな原因が指摘できない急に起こる腰痛を指すことにします。

ぎっくり腰は腰椎(背骨の腰の部分)の関節の捻挫(ねんざ)や、捻挫した場所の筋肉の痙攣(けいれん)が原因と考えられています。捻挫は関節の形が変わらないので画像検査では指摘できません。捻挫が起こると周辺の組織が炎症を起こして強い痛みが生じます。

2. ぎっくり腰の症状・予兆:突然の激痛など

ぎっくり腰はよく耳にする言葉ですが症状の特徴などは意外と知られていないと思います。ここではぎっくり腰の症状の特徴について解説します。

予兆はあるのか?

いくつかの病気では予兆や初期症状がありその段階で気づくことで病気を回避したり重症化を防ぐことができたりします。ぎっくり腰にも予兆はあるのでしょうか?

ぎっくり腰は突然発症するため、正確には予兆といえるものはありません。

とはいえなんとかぎっくり腰を回避したいものです。ぎっくり腰を回避するにはどうすればいのでしょうか。ぎっくり腰は腰に強い負荷がかかることで発症します。したがって腰への負担は避けるのがよいでしょう。もともと腰に痛みを抱えている人は要注意かもしれません。たびたび腰痛を感じるようであるならそれはある意味ぎっくり腰の予兆と呼んでもよいものかもしれません。少しでも腰に負担のかからないような工夫を試みてください。腰の負担を軽減する方法として「腰椎捻挫(ぎっくり腰)の治療中の注意点と予防法:日常生活の工夫」も参考にしていただければと思います。

ぎっくり腰の症状は?

ぎっくり腰の腰痛はどのような特徴があるのでしょうか。

一口に腰痛といっても様々な種類があります。痛む部位がはっきりしているものや痛む部位がぼんやりとしてはっきりとしないものなど様々です。

ぎっくり腰は突然激しい痛みが腰を襲います。典型的な場合は足の痺れ(しびれ)などを伴うことは少ないです。足の痺れなどの症状がある場合は腰痛の原因が腰痛椎間板ヘルニアなどぎっくり腰以外の病気である可能性も考えなければなりません。

痛みが起こるメカニズム

ぎっくり腰で腰痛が起こる原因については完全には明らかにはなっていません。痛みの原因は椎間板(背骨と背骨の間のクッション)に強い炎症が起こることや筋肉の痙攣などが推測されています。

腰痛が続くのはどのくらいの期間か?

ぎっくり腰の痛みは数日でおさまり時間の経過とともに改善していきます。4週間以上痛みが続く人は少ないです。慢性化することもありますが多くはありません。

3. ぎっくり腰の原因と予防:姿勢・職業・肥満など

ぎっくり腰は腰に強い力が加わることが原因で発症します。

典型的な発症状況は前屈みになって重いものを持ち上げた瞬間に腰に強い痛みが生じて動けなくなります。

ぎっくり腰は腰の部分の背骨に捻挫が起こることや筋肉の痙攣が起こることなどで痛みが生じると考えられています。

ぎっくり腰が起こる原因をぎっくり腰を起こしやすい人の特徴ぎっくり腰が起こりやすいタイミングの2つに分けて解説します。

ぎっくり腰が起こりやすい人の特徴

ぎっくり腰を起こしやすい人にはいくつかの背景が考えられます。

  • 腰に負担のかかる姿勢(猫背)
  • 運動不足
  • 肥満

この特徴に当てはまる人は普段から腰に負担がかっておりぎっくり腰になる危険性が高いと考えられます。

【姿勢を正す】

腰への負担を考えたとき姿勢はチェックするべき項目の一つです。腰に負担のかかる姿勢を長い時間続けることは好ましいことではありません。

良い姿勢を保つにはどうすればいいでしょうか。姿勢は長年染み付いた習慣なので矯正するのは簡単ではありません。

立った状態では背筋に力を入れるようにして胸をはることを意識するとよいでしょう。

座っているときの姿勢を正すことは立った姿勢を正すこと以上に難しいですが以下の点に注意してください。

  • 椅子と机の高さは合っているかを確認する
  • なるべく高めの椅子に座る
  • 低い椅子は浅く腰掛ける

椅子と机の高さが合っているかを確認してみてください。できれば肘を90°に曲げた状態で作業できるような姿勢が理想的だといえます。机と椅子の距離をできるだけ近くにするなどの調節が有効です。

椅子の高さも大事なことです。なるべく高めの椅子を使い低い椅子しか選べない場合は浅めに腰掛けることが姿勢を正すには有効です。

最初は少し違和感があるかもしれませんが姿勢は慣れの側面もあるので工夫をしてみてください。

【運動する】

運動不足になると使われない筋肉は硬くなります。腰の筋肉が硬くなることはぎっくり腰の発症に影響していると考えられています。運動で腰の筋肉をつかったり鍛えたりしておくことはぎっくり腰の予防によい影響を与えることが期待できます。

ただし激しすぎる運動は腰への負担が強くなります。無理のない程度に運動してください。

肥満を解消する】

体重が増えすぎると支えのために腰に負担がかかります。腰への負担が大きくなるとぎっくり腰が起こる危険性が高まると考えられています。特に前傾姿勢をとったときには腰にかかる負担は体重とともに増加するので注意が必要です。

BMI(体重[kg]÷身長[m]÷身長[m])が25以上のことを肥満と言います。肥満は他の病気にかかる危険性を上昇させることでも知られています。肥満を解消することはぎっくり腰の予防以外にも健康面に多くの利益をもたらすことができます。肥満状態で体重を落としたいと考えている人はぜひ減量を続けてください。

ぎっくり腰が起こりやすい状況

ぎっくり腰は不意な動作で発症することがあります。特別な動作ではなく咳やくしゃみなど日常生活にありふれたものですらきっかけになることがあります。

【咳やくしゃみ】

咳やくしゃみをしないようにするのは難しいです。咳やくしゃみをするときにはぎっくり腰になりやすい前傾姿勢を回避しておくことは予防に役立つかもしれません。

【重いものを持ち上げる】

重い物を持ち上げると腰に負担がかかります。自分の力を超えて重いものを持とうとすると腰に大きな力が加わりぎっくり腰を発症することがあります。

重いものを持ち上げるときのぎっくり腰を予防するには無理をしないことが大事です。

人の手を借りたり分割して運んだりすることで一度に大きな負担をかけないようにすることができます。

【寝起き】

寝起きはぎっくり腰になりやすいことが知られています。朝起きた瞬間にぎっくり腰を発症して動けなくなるのはよく耳にする話です。

寝ぼけて不意に無理な姿勢をとってしまったり睡眠中に腰に負担がかかったしまっていたりすることなどぎっくり腰が起こる原因は様々だと思います。

朝起きるたびに腰に痛みを感じているのであれば使っているマットレスが体に合っていないのかもしれません。腰への疲労の蓄積はぎっくり腰を起こす危険性を上昇させます。マットレスを調節するなどの工夫をしてみてください。

4. ぎっくり腰の検査:レントゲン検査、CT・MRI検査など

ぎっくり腰は、腰痛の原因としてほかの病気が考えられない場合に診断されます。問診や身体診察だけでぎっくり腰以外の原因を否定できることもあります。しかし他の病気と区別が難しい時もあります。その際には画像検査が用いられます。

問診

問診は腰痛の原因について探るためにとても大切です。痛みについて具体的に説明することが大事です。具体的な説明といってもなかなか難しいものですが、以下のような点をできるだけ詳しく伝えることで特徴がはっきりしてきます。

  • 痛みの場所
  • 痛みの発生したときの状況
  • 痛みの変化
  • 他の症状の有無

ぎっくり腰の症状は強い腰痛が急に起こります。腰以外の場所には症状がないことが多いです。痛む場所が変わったり他の症状(痺れなど)がある場合にはぎっくり腰以外の病気の疑いが強くなります。

次に検査や治療をするにあたり確認が必要なものについて説明します。

  • 今までにかかったことのある病気
    • 手術を受けたことがあるか
    • 入院したことがあるか
    • 通院中か
  • 服用している薬

腰痛は多くの種類の病気が原因になるので過去にかかった病気や治療中の病気が重要な手がかりになることがあります。服用している薬を把握することも検査や治療をするうえでとても重要です。

身体診察

ぎっくり腰の身体診察で重要なのは神経への影響が懸念される徴候の有無を調べることです。腰痛の原因になり神経にも影響を及ぼす病気としては腰椎椎間板ヘルニアなどがあります。身体診察は神経への影響の有無を調べる助けになります。

以下のような症状や徴候は神経への影響が懸念されます。

  • 腰痛よりも片側の下肢の痛みが強い
  • 腰痛に加えて足やかかとにも痛みがある
  • 同じ部位に痺れと感覚麻痺がある
  • 排尿や排便ができない(膀胱直腸障害:ぼうこうちょちょうしょうがい)
  • 下肢伸展挙上テストの陽性

下肢伸展挙上テストの詳しい方法については「腰椎捻挫(ぎっくり腰)の検査:レントゲン検査、CT・MRI検査など」で解説しているので参考にしてみてください。

レントゲン検査、CT・MRI検査など

急に起きた腰痛の原因を身体診察で調べても、他の病気を否定できないことがあります。そのような状況では画像検査などを用いて他に原因がないかを調べることがあります。ぎっくり腰以外で腰痛の原因になる病気は以下のものがあります。

【腰痛の原因になる病気】

腰痛の原因は骨や筋肉にあると考えている人が多いと思いますが実は内臓の病気も腰の痛みの原因になりえます。

ぎっくり腰の場合は時間の経過とともに症状は良くなりますが他の病気は治療が必要なことが多く、中には緊急で治療しなければならないこともあります。

身体診察だけでぎっくり腰以外の病気をすべて否定できる場合には画像検査は必要ありません。しかし他の病気の可能性が否定できないときには画像検査などを用いて調べます。

【腰痛の診断のために使う検査】

  • レントゲン検査
  • 超音波検査
  • CT検査
  • MRI検査

問診や身体診察などから腰痛の原因として考えられる病気を割り出して検査を使って診断します。それぞれの検査の特徴は「腰椎捻挫(ぎっくり腰)の検査:レントゲン検査、CT・MRI検査など」で解説しているので参考にしてください。

5. ぎっくり腰の治療:鎮痛薬・神経ブロック・リハビリテーションなど

ぎっくり腰の多くは自然に痛みが軽くなっていきます。適切な痛み止めの治療を使い時間とともに症状が改善することを期待します。それぞれの治療の注意点などを中心に解説します。

安静は必要か?

ぎっくり腰の治療は安静にすることが何よりの治療だと考えられていましたが、現在は痛みに応じてできる範囲で活動する方が回復には有利に働くと考えられています。

ぎっくり腰が起きた直後は痛みで動くことができないことも珍しくありません。ある程度痛みが引くまでは結果として安静になってしまうことが多いと思います。痛みが和らいで身体を動かせるようになったらできる範囲で身の回りのことなどを行っていく方がよいです。

活動できるのに安静を続ける必要はありません。必要のない安静、特にベッド上安静は回復を遅らせるという意見もあります。

ただし無理な運動で強い負担をかけるのは悪化のもとにもなりかねません。症状と相談しながら活動範囲を広げていくのが大事です。

参考文献
Qaseem A, et al. Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians. Ann Intern Med. 2017;166:514-530.

腰は冷やすべきか?温めるべきか?

安静時には患部を温めるか冷やすかで頭を悩ませることがあると思います。患部を温めると筋肉の緊張をとる効果が期待できます。実際に温めたほうが痛みの改善などが少し早かったとする報告があります。

冷やすことは悪いことかというとそうとはいいきれません。冷やすことで回復が遅れるという強い証拠はありません。

患部を温めるほうがいいか冷やすほうがいいかは個人の主観もあるので強くどちらかを勧めることはしませんが、どちらを選んだとしても強い期待はかけないほうがよいですし、選択が間違っていたとも考えないほうがよいと思います。

参考文献
French SD, et al. Superficial heat or cold for low back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2006;CD004750.

コルセット

コルセットは背骨の動きを固定することにより腰の安静を保ちます。コルセット自体にぎっくり腰をよくする働きがあるわけではありません。

コルセットの出番はある程度腰の痛みがとれて身の回りのことができるようになってからが多いと思います。ぎっくり腰は痛みが落ち着いたあとにはできる範囲で体を動かすことが回復を早めるという意見があります。腰の安静を保ちつつ日常生活にもどる助けになるコルセットは役にたつと考えられています。

牽引療法(けんいんりょうほう)

牽引療法は骨折や脱臼に用いられる治療法です。痛めた箇所を人力または器具を用いて引っ張ります。牽引療法の目的は疼痛や筋緊張を緩和することなどです。

手などの骨折でよく用いられている牽引療法ですがぎっくり腰に対する有効性として定まった見解はありません。腰痛の中には牽引療法が悪影響を及ぼす場合もあります。

ぎっくり腰になったからといって自己判断で腰を伸ばしたりする行為は危険なことがあるのでしないようにしてください。痛みが強い場合には速やかに医療機関を受診して適切な鎮痛剤の処方や処置を受けてください。

参考文献
Wegner I, et al. Traction for low-back pain with or without sciatica. Cochrane Database Syst Rev. 2013.19;8:CD003010.

神経ブロック治療

神経ブロック治療は神経のまわりまたは神経に麻酔薬を注射することで痛みが伝わるのを防ぎます。神経ブロックでは感覚神経の異常な興奮を抑え、血管を広げて筋肉の緊張を解きほぐすことにより痛みを緩和します。

神経ブロックには痛みがある場所に直接麻酔をするトリガーポイントブロックや硬膜外腔という場所に麻酔薬を注入する硬膜外ブロックなどの種類があり適したものを選びます。

鎮痛薬:NSAIDs(エヌセイズ)、アセトアミノフェンなど

ぎっくり腰の痛みはとてもつよく立つことさえもままならないことがあります。痛みを我慢したからといって痛みが早くよくなることはありません。痛いときにはそれに応じた対応が必要です。

ぎっくり腰の痛みを緩和する薬はいくつかあります。よく用いられるのがNSAIDs、アセトアミノフェンなどです。NSAIDsはロキソニン®などの名前で聞いたことがあるかもしれません。

NSAIDsは市販薬としても入手することができるので医療機関を受診するまでの間の鎮痛剤として使用することができます。

鎮痛剤の詳細な情報は「腰椎捻挫(ぎっくり腰)の治療:コルセット・鎮痛剤・リハビリテーションなど」で解説しているので合わせて参考にしてください。

ぎっくり腰の代替療法

代替療法は標準的な医療の代わりとして用いられる治療法をさします。ぎっくり腰の標準的な治療は鎮痛剤の使用などです。ぎっくり腰の代替療法は以下のものがあります。

  • マッサージ
  • マインドフルネス療法
  • 整体
  • ツボ
  • 指圧
  • 鍼灸(しんきゅう)

代替療法をぎっくり腰の治療に取り入れたい人は医師と相談して施術を受けるに適切な時期を見定めることがよいでしょう。

代替療法の詳細は「腰椎捻挫(ぎっくり腰)の治療:コルセット・鎮痛剤・リハビリテーションなど」で解説しています。

6. ぎっくり腰の再発予防:姿勢・運動・ストレッチ・コルセットなど

ぎっくり腰の痛みは2度と経験をしたくないものです。ぎっくり腰の再発予防について考えてみたいと思います。

姿勢

ぎっくり腰を予防する意味で腰への負担はできるだけ避けたいものです。姿勢は腰への負担を考える上でとても大事です。姿勢は直すのは難しいことですが常に意識をするだけでだんだんと良くなります。

腰への負担が特にかかるのは立っているときより座っているときです。現代はデスクワークに従事する人が増えており坐位での姿勢が腰への負担を減らすためにより重要になります。

椅子と机のバランスやクッションを用いてよい姿勢を保てるような工夫をしてみてください。

さらに長時間同じ姿勢を続けるのはなくときおり立ったりしてストレッチを取り入れるなどもぎっくり腰の予防には効果があると思われます。

運動不足の解消・筋力トレーニング

運動不足はぎっくり腰などの腰痛を引き起こす原因になることがあります。運動不足になると筋肉が硬くなります。腰の周りの筋肉が硬くなることはぎっくり腰の原因の一つと考えられています。定期的に適度な運動を行うことは筋肉を刺激したり血の流れを良くして筋肉をほぐす働きがありぎっくり腰の予防によい効果が期待できます。

背骨を支える筋力が低下することもぎっくり腰が起こる原因の一つと考えられています。特に大事な筋肉は体幹と呼ばれる場所の筋肉です。体幹の筋肉には腹筋や背筋があります。体幹の筋肉を鍛えるトレーニングもぎっくり腰の予防法としてよい効果が期待できます。

コルセット

コルセットは背骨を固定するのを助ける働きがあります。急に腰を捻ったりすることなどはぎっくり腰の原因になります。コルセットを使用するとある程度背骨の動きが制限されるのでぎっくり腰の予防に有効な可能性があります。

寒い時期の注意点

ぎっくり腰を起こす状況として「寒い日に身体を動かそうとしたら腰がグキッと」というのはよく聞く話です。気温が低い時期には筋肉が硬くなりやすくぎっくり腰がおこりやすい環境にあるといえます。

一度ぎっくり腰を経験した人は寒い時期には部屋を温めてからゆっくりと身体を動かすことを意識してもらえると予防につながるかもしれません。

7. ぎっくり腰と腰椎椎間板ヘルニアの違い:原因・症状・検査・治療など

ぎっくり腰と腰椎椎間板ヘルニアは症状が似ていることもあり両者を見分けることが大事なときがあります。ぎっくり腰と腰椎椎間板ヘルニアの特徴を比較して解説します。

【ぎっくり腰と腰椎椎間板ヘルニアの違いのまとめ】

  ぎっくり腰 腰椎椎間板ヘルニア
原因 詳しくは不明(椎間関節に起こる捻挫) 椎間板ヘルニアによる神経への刺激
症状 突然の強い腰痛

慢性的な腰痛と下肢痛

突然強い症状が現れることがある

検査

診察(問診・身体所見

必要に応じて画像検査

診察(問診・身体所見)

画像検査・造影検査

治療 鎮痛剤

鎮痛剤

必要に応じて手術

原因

ぎっくり腰がおこる詳しい原因は不明です。ぎっくり腰は腰椎(腰の部分の背骨)に捻挫がおこることが原因と推測されています。

背骨はいくつもの骨が重なりあってできています。骨と骨の間には関節が存在しています。腰椎椎間関板ヘルニアは椎間板(ついかんばん)という背骨と背骨のクッションを果たしているものが本来の場所から脱出することで症状が現れる病気です。椎間板ヘルニア神経を刺激することで痛みやしびれなどの症状が現れます。

症状

ぎっくり腰は重いものを持ったり急な姿勢の変化をきっかけとして立てないほどの激しい腰痛に襲われます。ぎっくり腰の症状は腰痛が中心で他の場所が痛んだり痺(しび)れたりすることはあまりないと言われています。

足にも痛みがあったり痛み以外の痺れなどの症状がある場合は腰痛椎間板ヘルニアの可能性を考えなければなりません。腰椎椎間板ヘルニアの典型的な症状は腰痛と片側の下肢痛です。運動や労働で悪くなり、腰への負担を減らすことで症状が改善します。

腰椎椎間板ヘルニアの症状は慢性的で徐々に悪くなることもあれば急に症状が現れることもあります。典型的な経過は腰痛や下肢痛を何回か経験した後に急に激しい症状(腰痛・下肢痛)が現れます。

腰痛椎間板ヘルニアが深刻な状態になると両足の感覚がなくなったり動かしづらくなったりします。感覚や運動が麻痺した状態の腰椎椎間板ヘルニアは緊急で手術が必要です。発症して時間がたつと障害の後遺症が強く残る可能性があるので早期に治療することが何より大事です。

検査

診察だけでぎっくり腰だと診断できない時には、ほかに考えられる腰痛の原因を否定するために検査をします。つまり検査で腰椎椎間板ヘルニアなどの病気が隠れていないことを確認します。このように他の病気の可能性がないことをもって診断とする方法を除外診断といいます。

腰椎椎間板ヘルニアは診察で腰痛以外にも足に痛みがあったり痺れなどの症状がある場合に疑われます。MRI検査などの画像検査で診断します。画像検査は手術が必要かなどの参考にする目的もあります。

治療

ぎっくり腰は症状がよくなるまで腰に強い負担をかけない範囲でできるだけ動かし、痛みに対して適切な鎮痛剤などを使います。手術は必要ありません。時間の経過とともに症状は改善します。

腰椎椎間板ヘルニアはぎっくり腰と同様に腰に負担をかけないようにし鎮痛剤による治療を行います。ぎっくり腰との違いはときとして手術が必要になることがあります。両下肢の運動や感覚に麻痺があったりする場合は手術をしないと後遺症が残る可能性があります。

8. ぎっくり腰の治療は何科がいい?

ぎっくり腰は腰椎におきる捻挫です。

捻挫は関節などに異常な力が加わり関節をつくる靭帯(じんたい)が傷ついて炎症が起きることです。関節や靭帯におこる病気を担当する診療科は整形外科です。ぎっくり腰が疑わしい場合には整形外科を受診するのが望ましいです。

夜間や休日、近くに整形外科がない場合もありうると思います。そんな場合には救急外来や対応が可能な医療機関で応急的にみてもらうことができます。

受診する前に医療機関に連絡を入れたりするなどして対応が可能かを確認した上で受診してみてください。事前確認をしないで受診をすると対応が難しいと言われて十分な診察や治療を受けることができないこともあります。専門外の医療機関を受診するときには事前の確認が特に大事です。

9. ぎっくり腰が完治するにはどれくらいの時間がかかる?

ぎっくり腰が完治するにはどのくらいの時間が必要なのでしょうか。また再発したり慢性的な痛みになることはあるのでしょうか。

完治までにかかる期間

ぎっくり腰の最初に現れる強い痛みがおさまるには2-3日かかります。発症から2-3日経過すると身の回りのことができる程度には回復します。90%の人は2週間以内に症状が改善するという報告があります。

症状は時間が経過するとともに改善していきます。症状に合わせてできることを増やしていくのがよいと思います。

参考文献
Coste J, et al. Clinical course and prognostic factors in acute low back pain: an inception cohort study in primary care practice. BMJ. 1994;308:577-80.

ぎっくり腰の再発

ぎっくり腰は再発することが知られています。

ぎっくり腰の再発率は半年以内に54%、1年以内では73%という報告があります。再発率は高いですが、再発後の経過はその前と同様に良好な経過をたどります。

ぎっくり腰は痛みが強く2度と経験したくはないものです。再発予防が重要です。ぎっくり腰の予防法は「腰椎捻挫(ぎっくり腰)の治療中の注意点と予防法:日常生活の工夫」で解説しているので参考にしてみてください。

参考文献
Mehling WE, The prognosis of acute low back pain in primary care in the United States: a 2-year prospective cohort study. Spine (Phila Pa 1976). 2012 ;37:678-84.
Pengel LH, Acute low back pain: systematic review of its prognosis. BMJ. 2003;327:323.

ぎっくり腰の痛みが慢性化する割合

ぎっくり腰は発症直後に激しい痛みが現れ、その後痛みは時間経過とともに和らいでいきます。多くの人が痛みがない状態に戻りますが中には痛みが慢性化する人もいます。

慢性的な痛みになる人はどのくらいの割合なのでしょうか。慢性的な痛みに移行する人は5-20%と報告されています。

参考文献
・・Mehling WE, The prognosis of acute low back pain in primary care in the United States: a 2-year prospective cohort study. Spine (Phila Pa 1976). 2012 ;37:678-84.
Koes BW, Diagnosis and treatment of low back pain. BMJ. 2006;332:1430-4.