のうこうそく
脳梗塞
脳の血管が詰まる結果、酸素や栄養が行き届かなくなり、脳細胞が壊死する。運動・感覚の麻痺などを起こし、後遺症による寝たきりや死亡にもつながる
21人の医師がチェック 442回の改訂 最終更新: 2023.10.28

脳梗塞の症状について①:手・足の動かしづらさ、顔のゆがみ、言葉が出ない、ふらつきなど

脳梗塞の症状は手足の麻痺失語(言葉が出ない、理解できない)、注意障害、認知障害など、さまざまです。ダメージを受けた脳の部位や、その程度によってあらわれる症状が異なります。このページでは、脳梗塞の多様な症状について詳しく説明します。

1. 脳梗塞の症状は多様である

脳は部位によって異なる役割を担っています。運動を司る部位(運動野、うんどうや)、感覚を司る部位(感覚野、かんかくや)、言葉を理解する部位、言葉を発する部位、数を計算する部位、学習に関わる部位などです。

そのため、脳梗塞によってどのような症状があらわれるかは、ダメージを受けた部位によります。また、脳は神経の束の集まりなので、ある部位がダメージを受けると、その部位とつながっている他の部位へも影響することもあります。

2. 運動麻痺:手や足、顔を動かしづらくなる

脳梗塞の症状として多いのが運動麻痺です。主に手・足・顔に症状があらわれます。

【運動麻痺の症状】

  • 手や足の症状
    • 突然、片方の手・腕・足に力が入りにくくなる
    • 片足を引きずるようになる
    • 片足を上手く持ち上げることができず、段差によく引っかかるようになる
    • 箸を使いづらくなる
    • 文字を書きづらくなる
    • 突然、手に持っているものを落とすようになる
    • 身体がふらつく
    • まっすぐ歩いているつもりなのに、片側へ寄ってしまう
  • 顔の症状
    • 食べているときに、食べ物が口の端からこぼれる
    • よだれがこぼれる
    • 顔の半分が歪んで、左右で違う顔つきになる
    • 「イー」と口を左右に広げたとき、片側の口が動かない

強い麻痺が起きると後遺症が残りやすく、杖や車いすが必要になったり、寝たきりになることがあります。反対に、検査しなければ見つからない程度の軽い麻痺だけで済む人もいます。

運動麻痺の表現の仕方:単麻痺・片麻痺・対麻痺・四肢麻痺

運動麻痺はさらに4つのパターンに分けることができます。

  • ①単麻痺:両側の手足のうち、どれか1か所だけに麻痺がある状態
  • 片麻痺:身体の左右どちらか片側の手足に麻痺がある状態
  • ③対麻痺:両足に麻痺が現れた状態。(脳梗塞ではまれで、脳とつながっている脊髄が障害されたときによくあらわれる)
  • 四肢麻痺:両手両足に麻痺がある状態

運動麻痺はダメージを受けた脳の部位と神経がつながっている部分に現れます。例えば、左の手足を動かす神経は右側の大脳皮質につながっています。このため、右の脳に脳梗塞が起きると、身体の左側に片麻痺が起こります。反対に左側の脳に脳梗塞が起こると、右側の片麻痺が起こります。

なお、左足を動かす神経と左手を動かす神経は頭の中の近い場所につながっているので同時にダメージを受けやすいです。これが片麻痺が多い理由になります。

錐体路と随意運動・不随意運動について

お医者さんが脳梗塞の説明をする際に、「錐体路(すいたいろ)」という言葉を使うかもしれません。少し難しいのですが、話の理解をより深めるために、この「錐体路」という言葉について説明しておきます。

身体を動かす時、その指令を筋肉に出すのは大脳皮質の運動野と呼ばれる部分です。運動野と手足の筋肉は神経でつながっていて、脳の信号が神経を通じて筋肉まで伝わり、身体を動かします。このように​自分の意思による運動を随意運動と言います。​随意運動の命令を届ける神経の経路が錐体路(すいたいろ)です。大脳皮質から始まって脳の錐体という部分を通り、脊髄(せきずい)に伸びています。大脳皮質と脊髄をつないでいるので、錐体路を別名で「皮質脊髄路」とも言います。錐体路が障害されると、身体を思うように動かせなくなります。

身体の運動には、心臓の拍動や腸が食べ物を送り出す動きのように、自分の意思とは無関係の運動もあります。このような意思によらない運動は不随意運動と呼ばれます。

錐体路がダメージを受けた際の症状について

錐体路が障害されると、次のような特徴があらわれやすいです。

【錐体路が障害されたときの特徴】

  • 膝蓋腱反射(しつがいけんはんしゃ)、アキレス腱反射などの腱反射が強くなる
  • 筋肉が硬く緊張して動かせない(痙性麻痺)
  • バビンスキー反射陽性

それぞれについて説明します。

■膝蓋腱反射とアキレス腱反射
膝蓋腱反射は、膝のすぐ下を打腱器(診察用のハンマー)で叩くと膝から下が跳ね上がることです。健康診断の一つとして受けたことがある人がいるかもしれません。アキレス腱反射は打腱器でアキレス腱を軽く叩くと足首が足の裏の側に伸びる反応です。

実はこの2つに限らず、身体のあちこちで、腱を叩くと関節が叩かれた側に曲がるという現象を観察できます。これを腱反射と言います。

腱反射は、意思とは無関係に起きる運動です。叩かれたことを感知する感覚神経から脊髄まで信号が伝わると、そこから脳に伝わることなく直ちに運動神経に指示が行き筋肉が動きます。このとき健康な人では、意思とは別に脳からの信号が筋肉に入っていて、腱反射にある程度抑制がかかるようになっています。しかし、錐体路が障害されると、脳からの抑制が利かなくなり、腱反射が強くなります。この現象をお医者さんは「腱反射が亢進(こうしん)する」と表現します。

■痙性麻痺(けいせいまひ)
痙性麻痺は、筋肉が固く緊張して動かせない状態のことです。筋肉に脳からの信号が届かなくなり、筋肉を緊張させる信号があるのに緊張をゆるめる信号がない状態になることが原因です。

■バビンスキー反射
バビンスキー反射は腱反射と同様のしくみで起こる足の裏の反射です。

カギなどの硬いもので、足の裏の小指側をかかとから指の付け根に向けてこすり、指の手前で少し親指側にこする方向を変えます。

健康な人では反応がないか、足の指が足の裏に向かって曲がります。一方で、錐体路が障害された人は足の指が足の甲の側に向かって伸び、これをバビンスキー反射陽性と呼びます。

麻痺によりできやすくなる褥瘡(じょくそう)とは

麻痺により身体を思い通りに動かせなくなると、身体の特定の部分に体重がかかり続け、床ずれ褥瘡)ができやすくなります。さらに、感覚が鈍くなっていることから皮膚の痛みを感じにくく、褥瘡に気がつきにくい要因となります。

褥瘡ができたところは感染が起きやすくなります。また、重症化すると骨が見えるほど深くなって治りにくくなってしまうので、注意しなければなりません。予防には、こまめに体位を変えたり、クッションを使うのが効果的です。

3. 失語:言語の障害

脳梗塞の症状のひとつに失語(失語症)があります。失語とは、「言葉」を上手く使えなくなってしまうことです。

失語はいくつかの種類に分けられます。どのような失語があらわれるかはダメージを受けた脳の場所によって決まります。

失語について:優位半球がカギを握る

脳の中で言葉を担当しているのは大脳です。

大脳は大きく「右半球」と「左半球」に分けられ、言葉の機能は左右のどちらか一方が主に担当します。左右のどちらが言語機能を担っているかは人によって違い、その人の言葉を担当しているほうを優位半球と言います。

右利きの人では左半球が優位半球である人が多いです。そのため右利きの人の多くは左の脳梗塞が原因で失語が起きます。一方で、左利きの人では、右利きの人よりも優位半球が右半球である割合が高いです。

より詳しいことを述べるなら、言語は優位半球の中にある言語中枢(げんごちゅうすう)と呼ばれる部分が担当しています。言語中枢の中でも特に重要とされるのが、ブローカ野(Broca野、ブローカや)とウェルニッケ野(Wernicke野、ウェルニッケや)です。

ブローカ野(Broca野)
ブローカ野は運動性言語中枢とも呼ばれます。大脳の前頭葉にあります。ブローカ野が障害されると、他人の言葉を聞いて理解することはできるけれども、自分が言葉を話すことはできないという症状があらわれます。このような症状を運動性失語と言います。

ウェルニッケ野(Wernicke野)
ウェルニッケ野は知覚性言語中枢と呼ばれます。大脳の側頭葉にあります。ウェルニッケ野が障害されると、なめらかに言葉を発することはできるけれども、他人の言葉を理解できないという症状が現れます。これを感覚性失語と言います。

感覚性失語では、言葉を理解できないため、一見なめらかに話しているようでも言うことの内容は支離滅裂になります。

4. 構音障害:しゃべりづらさ

脳梗塞を発症するとしゃべりづらさを自覚することがあります。

そして、うまく話せない状態には2つの種類があります。

ひとつは、前述した失語です。脳の「言葉」を担当する部位の脳梗塞によって起きます。もうひとつは、言葉を発するために必要な筋肉をうまく動かせない「構音障害と呼ばれる状態です。

構音障害について

言葉の理解は問題なくできますが、口や舌、喉の麻痺で言葉を発しづらくなります。脳の中でも脊髄に近い延髄(えんずい)や橋(きょう)という部分の障害で起こります。症状は障害される神経によって異なります。

【構音障害の原因になる神経】

  • 顔面神経
  • 舌下神経
  • 迷走神経

それぞれの神経別に詳しく説明します。

顔面神経麻痺による構音障害
顔面神経は顔の筋肉(表情筋)を動かす神経です。(顔面の筋肉動作の他にも涙の分泌や味覚にも関係します)。顔面神経から伝わる信号によって次のような動きができます。

【顔面神経が関係している顔の動き】

  • 眉を上げ、額にしわを寄せる
  • 目を強く閉じる
  • 口を尖らせる
  • 口角を上げる

表情筋を動かす信号は、脳の(きょう)という部分にある顔面神経核から伝わってきます。顔面神経核から顔面神経が耳の前あたりまで伸びてきて、そこからあちこちの表情筋に向かって枝分かれしています。

脳梗塞で橋が障害されると顔面神経に信号が伝わりにくくなり、発語に影響がでます。例えば唇をうまく動かせないことで「パ」行が発音しにくくなったりします。

また、顔面神経麻痺の症状はたいてい左右どちらか片側にだけあらわれるという特徴があります。

■舌下神経麻痺による構音障害
舌下神経(ぜっかしんけい)は、舌を動かす神経です。延髄にある舌下神経核から伸びてきた神経細胞でできています。

延髄の脳梗塞などで舌下神経が障害されると、舌をうまく動かせなくなります。すると、「ラ」行などが発音しにくくなることがあります。舌下神経麻痺の症状もたいてい左右どちらか片側にだけあらわれます。このため、舌を突き出そうとすると片方に寄ってしまうなどの特徴が見られます。

■迷走神経麻痺による嗄声(させい)
迷走神経から枝分かれする上喉頭神経や反回神経が、声を出す機能に関わっています。これらは脳の延髄にある疑核(ぎかく)から伸びています。

迷走神経が障害されると、嗄声(させい)という症状が現れます。嗄声とは平たく言うと声がれのことです。

また、迷走神経の近くを通っている舌咽神経(ぜついんしんけい)も声を出す機能に関わっています。舌咽神経は、のどちんこの上にある軟口蓋(なんこうがい)という部分の動きに関わっています。舌咽神経と迷走神経は近くにあるので、同時に障害されることが多いです。

5. 嚥下障害:飲み込みが悪い、むせる

普段さりげなくしている「食べる」という動作は、意外に複雑なメカニズムで成立しています。口に入れた食べ物は、ひとりでに食道まで流れ込むわけではありません。まず、舌や頬の筋肉をうまく使いながら食べ物を噛み砕きます。同時に砕かれた食べ物が口の中でバラバラにならないようにまとめあげ、飲み込み、食道に送りこんでいるのです。

飲み込む動作を特に「嚥下(えんげ)」と言い、摂食において大事な役割を果たしています。嚥下の過程で重要な役割を担っているのが口や喉のまわりの筋肉です。これらの筋肉が麻痺すると、飲み込みが悪くなる・むせやすくなるといった嚥下障害が起こります。

嚥下障害による悪い影響は主に2つあります。

1つ目は口からご飯を食べられなくなくなることによる栄養不足です。栄養状態が悪化するとリハビリテーションに影響が出ますし、前述した褥瘡が発生する危険性も高まります。

2つ目は上手く飲み込めないことで、食べ物や唾液が気管、肺に入ってしまう誤嚥(ごえん)を起こすことです。通常は気管に入っても反射的に咳が出る(むせる)ことで、異物を出すことができます。しかし、嚥下障害が重症になると「むせ」の反射が出ません。

誤嚥すると、誤嚥性肺炎の危険性が高まります。誤嚥性肺炎とは、肺に入ってしまった食べ物や唾液が原因で細菌が繁殖し、肺に炎症を起こした状態です。高齢者の死因の代表的な病気のひとつです。そのため誤嚥の予防はとても重要なのです。

6. ふらつき、めまい

脳幹や小脳に脳梗塞が起きると、ふらつきやめまいがあらわれやすくなります。吐き気を伴うこともあります。

めまいが起きる代表的な病気に、「良性発作性頭位めまい症」や「メニエール病」などの耳の病気があります。耳の病気によるめまいは主にグルグル回転するようなめまい(回転性めまい)です。また、メニエール病では耳鳴りや難聴を伴うのが典型的な症状です。

一方、脳梗塞によるめまい・ふらつきの特徴は、耳鳴り・難聴がなく、ふわふわするようなめまい(浮動性めまい)であると言われています。

7. 視力・視野障害:ものが見えない・見えづらい、視野の一部が欠ける

視神経が障害されると、ものが見えなくなったり、見えづらくなったりしますまた、目を動かす神経や筋肉が障害されると、物が二重に見える症状(複視があらわれます。

視神経障害による視力障害

視神経は目に写っている映像の信号を脳に送る神経です。

眼から入った光は透明な水晶体を通過して、眼球の奥にある網膜という膜に届きます。網膜に光が届くと、その映像を視神経が感知して、電気信号として脳に送ります。視神経に栄養を与える血管に脳梗塞の影響が及ぶと、視力に障害が出ます。

動眼神経・滑車神経・外転神経麻痺による眼球運動障害と複視

眼球を左右上下に動かすときには、次の3種の神経が協調して働いています。

【眼球運動に関係した神経】

  • 動眼神経
  • 滑車神経
  • 外転神経

上記の神経のうちいずれか1つでも障害されると、思うように目を動かせなくなります。また、これらの神経の障害はたいてい左右の片側に起こります。すると、片目はちゃんと動くのにもう片目が動かせず、左右の視線が見たいものに合わなくなります。そのため、物が二重に見えます。この現象を複視と言います。

動眼神経・滑車神経・外転神経は脳幹という部分とつながっています。脳幹部の脳梗塞ではこれらの神経が障害されることが多く、目を動かせない、物が二重に見えるといった症状があらわれます。

8. 意識障害:意識がぼんやりする、意識がなくなる

脳梗塞で意識の状態が悪くなることは多くはありません。複数の脳血管や、脳に向かう太い血管が詰まった場合には意識状態が悪くなることがありますが、頻度は高くないと考えて良いです。意識障害が起こると次のような症状があらわれます。

【意識障害の症状の例】

  • 質問に対しておかしな答えが返ってくる
  • 今日の日付や、今いる場所を答えることができない
  • ぼんやりしている、眠ったような状態が続いている
  • 倒れたまま目を開けない
  • 呼びかけたり身体を揺すっても、全然反応がない

呼びかけに答えない・目を開けない・身動きしない程度が強いほど重症です。意識レベルが急激に低下するときは、脳梗塞の状態が悪化している可能性があります。

意識レベルの調べ方について:GCSとJCS

意識レベルの基準として、グラスゴーコーマスケール(Glasgow Coma Scale)が世界的に使われています。グラスゴーコーマスケールは略してGCSとも言います。

GCSは、刺激で目を開けるかどうか(E)、刺激に言葉で答えるかどうか(V)、刺激で身動きするかどうか(M)という3項目で表します。

グラスゴーコーマスケール(Glasgow Coma Scale:GCS)】

  • 刺激で目を開けるかどうか(E)
    • もともと開けている:4点
    • 言葉をかけると目を開ける:3点
    • 痛みを与えると目を開ける:2点
    • 痛みを与えても目を開けない:1点
  • 刺激に言葉で答えるかどうか(V)
    • 今いる場所や日時を理解したうえ返事ができる:5点
    • 会話が混乱する:4点
    • 不適当な言葉が出る:3点
    • 言葉として理解できないことを言う:2点
    • 言葉で答えない:1点
  • 刺激で身動きするかどうか(M)
    • 言われた指示に従って動く:6点
    • 痛みを与えられた場所に手足を持ってくる:5点
    • 痛みから逃れるように手足を動かす:4点
    • 痛みの場所と関係ない方向に手足を動かす:3点
    • 痛みを与えると手足を伸ばす:2点
    • 痛みを与えても動かない:1点

それぞれの項目を何度か試して、一番良い反応があったときの点数を採用します。

合計点の最低は3点です。これは、痛みを与えても目を開けず、身動きもせず、言葉を発することもない状態です。反対に、意識障害がない状態は最高点の15点です。点数を足し合わせずに、個別の項目ごとE3V2M2のように表す言い方もあります。E3V2M2は「言葉をかけると目を開ける」かつ「言葉として理解できないことを言う」かつ「痛みを与えると手足を伸ばす」という状態です。

ほかの評価方法として、日本ではジャパンコーマスケール(Japan Coma Scale:JCS)もよく使われています。JCSは意識レベルを大きく3段階に分け、それぞれをさらに3段階に分けた9段階で評価することから、「三三九度方式」とも呼ばれています。

【ジャパンコーマスケール(Japan Coma Scale:JCS)】

  • Ⅰ:刺激しなくても目を開けている
    • Ⅰ-1:なんとなく意識がはっきりしない
    • Ⅰ-2:今いる場所や日時がわからない
    • Ⅰ-3:自分の名前や生年月日が言えない
  • Ⅱ:刺激すると目を開ける
    • Ⅱ-10:普通に話しかけると目を開ける
    • Ⅱ-20:大きな声をかけたり体を揺さぶると目を開ける
    • Ⅱ-30:痛みを与えながら呼びかけると目を開ける
  • Ⅲ:刺激しても目を開けない
    • Ⅲ-100:痛みを与えると払いのけるような動作をする
    • Ⅲ-200:痛みを与えると顔をしかめたり手足を少し動かしたりする
    • Ⅲ-300:痛みに反応しない

JCSでは上記のとおり、意識レベルの大きな分類でⅠのときは1桁、Ⅱは2桁、Ⅲは3桁の数字で小さな分類を表します。「意識レベル3桁」とお医者さんが表現した場合は「刺激に対して目を開けない状態」で深刻な状況を示唆します。

9. 症候性てんかん:手足がけいれんする

脳梗塞でてんかんが起きることがあります。てんかん発作が起こると、手足や全身がけいれんしたり、意識状態が悪くなったりします。脳梗塞の発症後、数時間以内に起きることもあれば、数週間後、数カ月後以降に初めててんかん発作が起こることもあります。

発作自体は自然に治まることが多いですが、長引いたり発作を繰り返すときは点滴の抗てんかん薬を使って発作を抑えます。また、てんかん発作の再発を防ぐために、抗てんかん薬を飲み続けることもあります。

10. 高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)

高次脳機能障害とは、記憶や学習、認知、注意、判断、言語といった高度な機能が障害されることです。手足の麻痺や構音障害とは違って、本人も周囲も症状に気づきにくく、理解しにくいのが特徴です。

例えば、注意が散漫になって一つのことに集中できなかったり、複数の作業を並行して実行するのが難しくなったりして、今までできていた仕事・家事・趣味ができなくなったりします。

詳しくは「脳梗塞の後遺症」でも説明しているので、ぜひご覧ください。

11. 脳血管性認知症:脳卒中が関連して物忘れが進む

脳梗塞が原因で物忘れ(認知症)を発症することもあります。特に再発を繰り返している人は認知症の症状が進んでいくことが知られています。

12. 脳血管性パーキンソニズム:脳卒中が関連して手足の震えが出たり、動かしづらくなる

脳梗塞では麻痺症状とは別に、手足の動きがゆっくりになったり、手足が震えたりする症状が見られることがあります。このような症状を「脳血管性パーキンソニズム」と呼びます。この呼び名は、パーキンソン病という、手足が震えたり、姿勢をうまく保てなくなったりという症状があらわれる脳の病気に症状が類似していることに由来します。

麻痺がなかったとしても、動きが緩徐な場合や手足が動かしづらい場合、脳血管性パーキンソニズムが疑われます。

13. 脳梗塞後のうつ

脳梗塞を発症すると、うつになりやすくなることが知られています。脳梗塞を含む脳卒中では、うつを発症する割合は、約20-40%という報告や、80%以上とする報告まであります。脳梗塞では早期からのリハビリテーションが回復を促しますが、うつ症状で意欲がわかないと、リハビリテーションが進まず機能回復の遅れにつながってしまいます。

14. 脳梗塞の前兆(前触れ)症状:一過性脳虚血発作(TIA)について

脳梗塞の前兆症状として「一過性脳虚血発作」が知られています。一過性脳虚血発作では、脳の血流が一時的に悪化して、その部位が関連する機能が一時的に低下します。

一過性脳虚血発作を発症した人の15-20%が3か月以内に脳梗塞を起こし、さらに脳梗塞になった人の約半数は一過性脳虚血発作から2日以内に脳梗塞を起こしています。

一過性脳虚血発作では、症状が数分-数時間、長くても1日以内に治るのが特徴的です。治らずにずっと続く場合は一過性脳虚血発作ではなく、脳梗塞になっている可能性が高いです。いずれにしても、以下のような症状があれば、速やかに医療機関に受診してください。

代表的な症状は、片方の手・足・顔面の麻痺、構音障害(ろれつが回らないこと)、失語症、片眼の視力低下です。

一過性脳虚血発作の症状】

  • 手や腕の麻痺で見られる症状
    • 片方の手や腕に力が入りにくい
    • 箸がうまく使えない
    • 文字がうまく書けない
    • 手に持ったものを落とす
  • 足の麻痺で見られる症状
    • 片足に力が入らなくて、立てない
    • 片足を引きずる
    • 片足を上手く持ち上げることができず、段差によく引っかかる
    • 身体がふらつく
    • まっすぐ歩いているつもりなのに、片側へ寄ってしまう
  • 顔の麻痺や構音障害で見られる症状
    • 顔の半分が歪んで、左右差があらわれる
    • ろれつが回らない
    • 「イー」と口を左右に広げたとき、片方の口が動かない
    • 言葉が理解できない
    • 言葉は理解できるが、喋ろうとすると言葉が出てこない
  • 目の症状
    • 突然片目が真っ暗になって見えなくなる
    • 突然片目の視野の一部が欠ける

このような症状が単独または組み合わせで見られた場合、一過性脳虚血発作を起こしている可能性があります。例えば、手の動かしづらさと喋りづらさの組み合わせは「手口症候群」としてお医者さんにはよく知られています。

一方、以下のような症状も現れることはありますが、これらの症状のみの場合は一過性脳虚血発作の可能性は低いと考えられます。

一過性脳虚血発作の可能性が低いと考えられる症状】

  • 片方の手足に触られている感覚がなくなったり、しびれたりする(感覚障害)
  • 目の前がぐるぐると回るめまい(回転性めまい)
  • ふらふら、くらくらとするめまい(浮動性めまい)
  • ものが二重に見える(複視)

ですが、可能性が0というわけではありません。また、他の重い病気の症状であることも否定できないので、医療機関の受診をお勧めします。

一過性脳虚血発作TIA)の症状以外(検査・治療など)について詳しく知りたい人は「こちらのページ」を参考にしてください。