にゅうがん
乳がん
乳腺に発生する悪性腫瘍。女性に多いが、男性に発症することもある
14人の医師がチェック 199回の改訂 最終更新: 2023.12.20

乳がんの検査①:乳がん検診に行くべき人と正しい検査の受け方

乳がん検診は、乳がんを早期に発見して早期に治療することで、乳がんによる死亡者数を減らす目的で行われています。検診で行われるのは視触診とマンモグラフィです。場合によっては超音波検査を行います。  

乳がんは40歳を超えたころから発症する人が増えてきます。乳がんの検診は40歳以上の女性が2年に1回受けることが勧められています。

乳がん検診は通常、マンモグラフィや視触診(見て触る診察)などで行います。他の検診の方法としては、超音波を利用したものがあります。超音波検査による検診の有効性については明らかではありません。一般的に検診として推奨されているのはマンモグラフィです。

マンモグラフィを使った検診で乳がんによる死亡を減らせることが確かめられています。

マンモグラフィによる乳がん検診は、40歳以上の女性に対して自覚症状がなくとも2年に1回のペースで行うことが勧められています。

しこり(乳房に硬い塊がある)などの症状を感じたときは、検診とは関係なく乳腺外科などで診察を受けてください。

通常、40歳未満の女性が無条件にマンモグラフィの検査を受けることは勧められません(詳しくは後述)。ただし、遺伝性の乳がん家系の人に対しては、40歳未満でも検診を受けることが勧められています。肉親に乳がんになった人がいて遺伝が心配な場合は乳腺外科などに相談してみてください。

20歳代で乳がん検診を受けることは現在のところ推奨されていません。

乳がんは40歳代以降に発症する人が大多数です。年齢階級別の乳がんの罹患率を示します。

がんの統計 '16」を元に作成

年間に25-29歳では10万人あたり7.4人、対して45-49歳では10万人あたり247.9人が新たに乳がんを診断されています。

20歳代の乳がんは決して多くはないので、検診の効果は低いと考えられます。つまり、検査をしても乳がんが見つかる確率は低くなります。

乳がん検診の目的は乳がんを早期に見つけて早期に治療を行い、乳がんによる死亡者を減らすことです。めったにない20歳代の乳がんを検診でタイミングよく見つけられる確率は非常に低いと言えます。

対して、検査で病気を見つけることはいいことだけではありません。どんな検査も見逃しがあると同時に、病気でないものを誤って病気の疑いありと判定してしまうことがあります。乳がんではないものが「乳がんの疑い」とされ、不安になったり精密検査を受けることになったりするのはできるだけ避けたいことです。

検査の特性から言っても、乳がんが見つかる確率が低い20歳代でマンモグラフィを受けることはお勧めできません。マンモグラフィは放射線を使う検査です。マンモグラフィによる放射線被曝は微量とはいえ、利益が不明ならできるだけ避けるべきです。また若い女性の発達した乳腺に対しては、マンモグラフィでがんを疑わせる病変が見分けにくくなることも問題と考えられています。

20歳代を対象にした乳がん検診の有用性は現在のところ示されていません。

ただし例外があります。乳がんが発生しやすい遺伝子変異(BRCA1、BRCA2)が見つかっている人には、25-30歳からMRI検査を利用した検診を定期的に受けることなどが勧められています。

参照:乳がん診療ガイドライン

乳がんの検診はマンモグラフィを用いることが一般的です。ほかにも自分で触って調べることを「自己検診」とも言います。超音波検査による検診についてもあわせて説明します。

マンモグラフィ検診は乳がんの早期発見を目的とした集団検診です。マンモグラフィはレントゲン写真の一種です。放射線を使って乳房を撮影します。

マンモグラフィの画像は、専門の医師が特徴を読み取って、カテゴリー分類という方法で評価します。カテゴリー分類は5段階で評価されます。カテゴリーは、乳がんの可能性がどの程度疑わしいかを分類したものです。

カテゴリー分類

カテゴリー 所見 がんが検出される確率
カテゴリー1 異常なし ごくまれ
カテゴリー2 良性 まれ
カテゴリー3 良性、しかし悪性を否定できず 約5-10%
カテゴリー4 悪性の疑い 約30-40%
カテゴリー5 悪性 約90%

参考:乳がん診療ガイドライン


カテゴリー3以上なら精密検査に進みます。詳しくは「乳がんの検査で何がわかる?」で説明しています。

カテゴリーと紛らわしい言葉で「ステージ」というものもあります。カテゴリーとステージはまったく違います。カテゴリー4やカテゴリー5という結果を聞いても「末期がんに違いない」と思う必要はありません。カテゴリー4でも精密検査で乳がんが否定されることは珍しくありません。

乳がんの半数以上が自覚症状をきっかけに発見されます。みずから乳房を触って状態を確かめる方法が考案されています。
 

自己検診は、乳房にいつもと違うところはないかを判断するためのセルフチェックです。外見上の変化や触れたときの感触が判断材料になります。

  • しこり(硬い塊)の有無
  • 乳頭からの分泌物の有無
  • 乳頭のへこみ
  • 乳頭のただれ
  • 乳房の皮膚の変色
  • 乳房の皮膚のガサつき
  • 脇のしこり
  • つっぱっているような感覚
  • 痛み

乳房を触ってチェックする前に、まずは乳房をしっかりと見ます。上から胸を見て観察するのでは乳房の下側が見えにくいので、鏡を使うと乳房の全体が見やすくなります。

次に乳房を触ります。全体をまんべんなく触ります。触る時の体勢は、立って触ったり座ったりして触るのではなく、仰向けに寝て触ります。仰向けになると乳房が均一に広がり、触れやすくなります。また背中の下に座布団やタオルを敷くと胸を張った姿勢になってさらに触りやすくなります。

乳首をつまんで分泌物が出てこないかを確認します。乳がんがあると本来は出てこない分泌物が出てくることがあります。

親指以外の指を使って乳房の外側も内側も圧迫しながら触っていきます。乳房がたるむ感じになると触りにくくなりますので、うまく反対の手も使いながらまんべんなく触ります。

セルフチェックの動作は何回かやってみるうちに慣れてきます。うまくできるか自信がなくてもまずはやってみてください。

乳房を触ったあとは脇の下に指を入れて、脇の奥にしこりがないかを確認します。

乳がんが進行するとリンパ節転移を起こします。リンパ節転移が起こるとリンパ節は大きく固くなります。

乳がんのリンパ節転移は脇のリンパ節にできやすいことがわかっています。脇のリンパ節を触ることはリンパ節転移を探す狙いがあります。

月経(生理)の周期によって乳房は変化します。月経のあとは女性ホルモンの影響を受けて乳腺が発達して乳房が張り、しこりが隠れやすくなります。月経が終わって数日したくらいの時期は胸の張りが治まってチェックしやすくなります。

セルフチェックは毎日やる必要はありません。乳がんは数日で急に大きくなることはないので、月に1回か2回で十分と考えられます。

乳がん検診で超音波検査は必須ではありません。マンモグラフィで異常を指摘された人には超音波検査がよく使われています。

超音波検査は、人の耳には聞こえないような高い振動数の音波を利用して体の中を画像として描き出す検査です。レントゲン写真やCT検査と違って放射線被曝の心配はありません。マンモグラフィで病変を見分けにくいとき、超音波検査を使うと見やすくなる場合があります。

しかし現在のところ、超音波検査による検診が乳がんによる死亡を減らすことを示した研究結果はありません。このため超音波検査は検診で必ず行われる検査ではありません。

乳がんの検診では、マンモグラフィと視触診(見て触る診察)でがんの疑いの強さを判定します。異常があると判断された場合に超音波を用いた検査が行われます。

超音波検査はマンモグラフィとは異なる原理を使っているので、マンモグラフィではっきりとしなかった病変などを見つけることが可能な場合があります。しかし、最初にがんを見つけるための検査(検診)で、全員に超音波検査を行うことは一般的ではありません。

マンモグラフィは乳がんを早期に発見できる検査ですが、マンモグラフィで検査結果が判断しにくい人も中にはいます。若い女性は乳腺が発達しています。発達した乳腺はマンモグラフィで白く写りますが、乳がんもマンモグラフィでは白く写ります。このために若い女性以外でも体質的に乳腺が発達した女性に対してはマンモグラフィより超音波検査の方ががんを検出するのに適しているという考え方もあります。

超音波検査の問題点として、マンモグラフィ検診のうえさらに検査を増やすことで、乳がん以外の良性の疾患の検出が増えてしまい針生検などが増加することが懸念されています。針生検は手術ほど体への負担はないものの、体に傷をつける検査です。必要ではない検査は行わない方がよいです。

また超音波検査は、マンモグラフィに比べて検査を行う医師や検査技師の力量が出やすい検査です。つまり検査を行う人で少しずつ見方が異なる可能性があります。

超音波検査を検診として利用した場合に、乳がんによって死亡する患者さんが減少することを科学的に証明した研究はありません。このために現在のところ超音波検査を検診として必ず行うことはありません。

現在の超音波検査は、マンモグラフィで異常を指摘された人に対して行われる精密検査として位置づけられていられています。今後、超音波検査の効果がどれくらいあるかについては検証が必要です。

乳がん検診では超音波検査を必ずしも受ける必要はありません。検診として超音波検査を受けたいと思う人は、検査を上手に利用するために医師に相談してみてください。

マンモグラフィを利用した検診は自治体で実施されています。検診を受診する場合と自己負担で検査を受ける場合で負担する費用が変わります。

  • 検診:0-3000円
  • 全額を自己負担した場合:5000円前後

住んでいる自治体や実施する医療機関で金額は異なることがあります。お住まいの自治体での検診を考えている場合は、検査で必要な金額を自治体の窓口に問い合わせることが確実です。

乳がん検診のマンモグラフィは放射線を使用します。授乳中は受けていいのか心配になると思います。マンモグラフィで受ける放射線の量で、乳房やその分泌物に与える影響はきわめてわずかです。放射線の影響を心配する必要はありません。

ただし、授乳中は乳腺が発達していることが問題です。乳がんはマンモグラフィで白く写りますが、乳腺が発達した状態でマンモグラフィを受けると、乳房全体が白く写り込んでしまい乳がんかどうかの判断が難しくなります。同じ理由で、月経(生理)の周期によっても、乳房が張るタイミングはマンモグラフィを受けるのに最適ではありません。

症状がなく、2年ごとの検診のタイミングが授乳の時期に重なったときは、マンモグラフィ撮影の前に担当医に相談してください。乳房の状態をみて問題ないと判断された場合はマンモグラフィを撮影されます。

気になる点については医師に相談してみることが大事です。

マンモグラフィの結果はカテゴリー分類で評価されます。カテゴリー分類とは、乳がんの疑いの強さを評価したものです。カテゴリー分類は5段階で評価されます。数字が大きいほどがんの疑いが強いことを意味します。

マンモグラフィの結果で石灰化という言葉が使われます。石灰化は診断の目安になる場合がありますが、決定的ではありません。

石灰化とは、カルシウムが沈着していることを意味します。カルシウムは骨の成分です。骨がレントゲンで白く写るようにカルシウムがある場所は白く写ります。白く写ったものを「石灰化あり」と表現されます。

乳がんは石灰化を起こすことがあります。しかし、乳がん以外にも石灰化を起こすものはあります。石灰化があるだけで乳がんとは限りません。がんを「悪性」と呼ぶのに対して、がんではないものを「良性」と言います。

石灰化は組織の壊死(えし)を反映します。がんが発生して増殖すると、大きくなったがために真ん中のがん細胞には酸素が行き渡らなくなり、細胞が死滅します。壊死ということもあります。壊死が起こるとその周りにはカルシウムがたまり石灰化となります。

良性の石灰化と乳がんによる石灰化には違った特徴があります。画像に写る特徴からある程度見分けることができます。

  • 良性の石灰化 
    • 単発(1つ)  
    • ポップコーンのように粗い感じ 
    • 中心が透けている
  • 乳がんの石灰化
    • 針のような形
    • 大きさが不揃いの石灰化が多数ある
    • ぱらぱらとした砂状の形

石灰化があることは必ずしも乳がんの存在を意味しません。良性の石灰化も多く存在します。良性の石灰化が乳がんになることもありません。マンモグラフィでは石灰化という言葉よりもカテゴリー分類に注目することをお勧めします。

マンモグラフィで乳がんの可能性が無視できないと判断された場合、精密検査を受けるよう勧められます。

検診で行われるマンモグラフィの結果に対してカテゴリー分類が行われます。カテゴリーは5段階で評価されます。カテゴリーごとに悪性の可能性が対応しています。

カテゴリー分類

カテゴリー 所見 がんが検出される確率
カテゴリー1 異常なし 非常にまれ
カテゴリー2 良性 まれ
カテゴリー3 良性、しかし悪性を否定できず 約5-10%
カテゴリー4 悪性の疑い 約30-40%
カテゴリー5 悪性 約90%

参考:乳がん診療ガイドライン

カテゴリー3以上では乳がんの可能性を考えて精密検査が勧められます。超音波検査を行い乳がんと疑わしい病変の観察を行います。必要に応じて乳がんが疑われる病変に対して生検(組織診断)を行います。

乳がん検診では陽性という言葉はあまり一般的ではありません。結果が返ってくるときはカテゴリー分類そのものが書かれているか、もしくは「要精密検査」という形で精密検査を行うように指示されることが多いと思います。

マンモグラフィの結果だけで乳がんの確定診断には至りません。その後の生検(組織診断)で乳がんが確認された時点で確定診断となります。

マンモグラフィで乳がんを疑う結果が出たときに次の検査を受けないのは、検査の使い方として合理的とは言えません。実際には表のように、カテゴリー3でも精密検査で乳がんが否定される場合のほうが多いというレベルです。精密検査で良性とわかって安心する人もいます。精密検査の指示を受け取ったときは速やかに検査を進めてください。