まんせいふくびくうえん(ちくのうしょう)
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)
急性副鼻腔炎が治りきらずに慢性化したもの。一般的には蓄膿症と呼ばれることも多い
11人の医師がチェック 50回の改訂 最終更新: 2022.08.29

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の原因は?

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の原因は、急性副鼻腔炎を繰り返し、細菌感染が残存することです。細菌感染が長引くことで、副鼻腔内に炎症を起こす分泌液がたまって、炎症が持続するようになります。どのような仕組みで慢性副鼻腔炎になるのか、説明していきます。 

副鼻腔とは鼻に隣接する骨に囲まれた空間です。正常構造では鼻の中(鼻腔)と副鼻腔が小さな穴や管(副鼻腔自然口)で繋がっていて、副鼻腔の中の空気は鼻腔を通じて交換されています。

副鼻腔粘膜からは分泌液が出ているとともに、副鼻腔粘膜の細胞の働きで、分泌液を鼻腔に輸送しています。しかし、急性副鼻腔炎を繰り返して、炎症が残存すると自然口が狭くなったり閉じてしまい、出口がなくなり、副鼻腔内に分泌液がたまりやすくなります。

さらに副鼻腔粘膜の細胞の働きが低下し、分泌液の輸送能が低下します。

加えて、鼻腔と副鼻腔の換気が悪化すると、副鼻腔内で細菌が増える環境ができます。細菌が増殖すると、副鼻腔内の炎症がさらに悪化します。

副鼻腔にたまった分泌液には、炎症を起こす物質が含まれています。そのため、分泌液が出て行かなければ、細菌感染がなくなったあとも炎症が持続します。

分泌液が鼻腔内にでてくると、粘っこい鼻水や色のついた鼻水になり、鼻内の粘膜が腫れることで鼻づまりを起こします。粘膜の腫れや鼻水で、鼻づまりが悪化すると、臭いの神経のある鼻の奥に臭いが到達しないため、嗅覚の低下を起こします。

分泌液がのどに落ちると、後鼻漏や咳の症状になります。

副鼻腔内にたまった分泌液の影響で、副鼻腔のある部分に一致した痛みや重い感じが出ます。副鼻腔は1か所ではなく、大きく分けて左右に4か所ずつあり、それぞれに対応した症状は下記です。

  • 前頭洞(ぜんとうどう):前額部痛、頭重感

  • 上顎洞(じょうがくどう):頬の痛み、歯痛

  • 篩骨洞(しこつどう):眉間や目の奥の痛みや重い感覚、頭重感

  • 蝶形骨洞(ちょうけいこつどう):後頭部痛、頭重感

図:副鼻腔の解剖イラスト。前頭洞、蝶形骨洞、篩骨洞、上顎洞の位置を示す。

慢性副鼻腔炎の原因菌を調べた全国調査があります。原因となっていることが多かったものの例を挙げます。(第4回耳鼻咽喉科領域感染症臨床分離菌全国サーベイランス結果報告.日本耳鼻咽喉科感染症研究会会誌 2008; 26: 15-26)

  • 黄色ブドウ球菌

  • 肺炎球菌

  • インフルエンザ菌

  • モラキセラ・カタラーリス菌

  • 緑膿菌

これらの細菌のうち1種類もしくは複数が感染して慢性副鼻腔炎を起こします。近年、黄色ブドウ球菌や緑膿菌が、細菌のまわりに抗菌薬が効きにくくなる膜(バイオフィルム)を作ることで、特に治りにくい慢性副鼻腔炎の原因になると考えられています。

特殊な副鼻腔炎として、カビが原因でおこる副鼻腔真菌症(ふくびくうしんきんしょう)や、歯が原因となる歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)などもあります。歯が原因の場合は、嫌気性菌が原因となることがあります。嫌気性菌とは酸素があるところでは生きられない菌です。炎症で副鼻腔粘膜が腫れて、酸素の出入りがなくなると、嫌気性菌が増殖して慢性副鼻腔炎を起こします。

慢性副鼻腔炎は他の人へうつることはありません。慢性副鼻腔炎の成人と、子供や赤ちゃんが一緒に生活したり、キスなどの接触をしてもうつることはありません。慢性副鼻腔炎になる原因としては急性副鼻腔炎などの細菌感染が原因ですが、慢性副鼻腔炎になった後は、細菌感染がなくても炎症が続く状態なので、うつる原因の感染がないためです。

慢性副鼻腔炎がうつることがないため、風邪になることもありません。慢性副鼻腔炎の人と一緒にいても、風邪をひくことはありません。慢性副鼻腔炎の大人と、子供や赤ちゃんが一緒にいても、熱がでたり、風邪をひいたり、うつることはありません。

急性副鼻腔炎は最初は、ウイルスによる上気道炎かぜ)に続いて起こります。上気道炎かぜ)で熱が出ているような段階では、くしゃみや咳などでウイルスがうつる可能性があります。当初はウイルス感染であった急性副鼻腔炎に細菌感染が合併した場合、原因菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラキセラカタラーリス菌などです。くしゃみや、咳、鼻水を介して細菌がうつることはあります。うつされた側の人が、その菌で急性副鼻腔炎を引き起こすかは、個人差があります。うつされた側の全員が急性副鼻腔炎発症するわけではありません。

空気や痰などに乗ったウイルスや細菌が鼻から副鼻腔へ入って、感染を起こして急性副鼻腔炎になりうることはあります。その感染が長引いたり、繰り返したりすると、慢性副鼻腔炎になります。

空気にのって副鼻腔内に入ったウイルスや細菌が体に感染を起こすかについては個人差があります。

慢性副鼻腔炎が繰り返す原因は、いくつかあります。

  • 治りきっていない状態で治療を中断した場合

  • 歯が原因の慢性副鼻腔炎の場合

  • その他、特殊な慢性副鼻腔炎の場合

説明します。

まず、治りきっていない状態での治療中断についてです。

慢性副鼻腔炎では鼻から副鼻腔内の慢性的な炎症が起きているので、分泌物が貯留しやすい状態になっています。治療を開始して、鼻内の環境が改善しても治りきっていない状態で治療を中断すると、再び鼻内の環境が悪化して分泌物が貯留しやすくなります。

次に歯が原因の場合です。上顎歯(上の歯)の齲歯虫歯)や歯根嚢胞などが原因となり、頰にある副鼻腔をメインとした歯性上顎洞炎になることがあります。この場合は、副鼻腔炎の治療を行って症状が改善した場合でも、歯の炎症が取れない限り、再び副鼻腔炎を起こしてしまいます。副鼻腔炎を繰り返さないためには原因となっている歯の治療をすることが大切です。

その他、特殊な慢性副鼻腔炎である、気管支喘息を合併する好酸球性副鼻腔炎や、カビが原因となる副鼻腔真菌症、カビに対するアレルギー反応で起こるアレルギー性真菌性副鼻腔炎などでは、治療をしても繰り返してしまうことが多いとされています。

慢性副鼻腔炎の治し方は、以下の通りです。

  1. 投薬治療

  2. 局所療法

  3. 手術治療

慢性副鼻腔炎で鼻水や鼻づまりの症状がある時は、治療を行います。

投薬治療としては気道疾患治療薬(カルボシステインなどの気道粘液調整薬、気道粘液溶解薬)、鼻用のステロイド薬などを用います。

マクロライド系抗菌薬も日本でよく行われる治療です。この治療では、マクロライド系抗菌薬(商品名:クラリス®、クラリシッド®など)を通常量の半量で、8-12週間内服します。鼻茸のない慢性副鼻腔炎には症状の改善に効果があるという報告と、効果がないという報告があります。そのため、この治療を行うにあたっては、副作用の下痢や、マクロライド系抗菌薬に対する耐性菌の増加の可能性の問題を考える必要があります。現在、抗菌薬の不適切使用が問題となっており、上手に使わないと副作用ばかり起こることがあります。鼻茸がない場合で、慢性副鼻腔炎の症状が強く、治療による症状改善のメリットが大きいと考えられる場合は、マクロライド少量長期投与を含め、医者とともに検討してみても良いでしょう。

局所療法には鼻うがいなどがあり後鼻漏などの症状に対して有効です。その他では、耳鼻咽喉科のクリニックなどで行う鼻水の吸引や、副鼻腔自然口開大処置(鼻の粘膜を縮めて鼻水の出る経路を広げる治療)、ネブライザー療法なども局所治療に含まれます。

内服治療を行っても症状の改善がない場合は、手術治療を検討します。手術は必須ではなく、症状によって日常生活に支障がある場合など、個々の希望にあわせて行います。副鼻腔真菌症では投薬加療での完治が難しいため、最初から手術治療を勧められます。難治性の好酸球性副鼻腔炎でも手術治療を行うことがあります。

東洋医学の治療で代表的なものは漢方薬による治療です。慢性副鼻腔炎(蓄膿症)で保険適用がある漢方薬は下記です。

  • 葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)

  • 荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)

  • 辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)

漢方薬は細菌の増殖をおさえるより、副鼻腔炎になりやすい体質を改善する目的で使用します。個々の体質(証)によって、効果的な薬は異なります。体質にあわせて使用してみてもいいでしょう。