慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の治し方は?
慢性副鼻腔炎の治療は自宅でできるものから手術まで幅広い選択肢があります。また、治療が長期間に及んだり再発しやすかったりするために治りにくいという印象を持たれているかもしれません。ここでは治療の方法や完治に要する期間などを中心に説明します。
目次
1. 慢性副鼻腔炎は自然治癒する?
軽症の副鼻腔炎であれば、薬を使わずに鼻うがいなどによって、自然
2. 慢性副鼻腔炎の人が自宅でできることは?
慢性副鼻腔炎の家庭内治療の代表的なものに鼻うがい(鼻の洗浄)があります。鼻うがいと病院での治療を組み合わせることで、早く治療効果がでる可能性があります。
鼻うがいとは?
塩水で鼻を洗浄する方法です。鼻の中にある
慢性副鼻腔炎に鼻うがいは効く?
鼻うがいは慢性副鼻腔炎の多くの人に対して症状の改善効果があり、副作用や
慢性副鼻腔炎にツボ押しは効く?
慢性副鼻腔炎に効果のあると言われているツボは下記です。
- 上星(じょうせい):頭の中央で、髪の毛の生え際から頭頂方面に2 cmほどの部位
- 印堂(いんどう):眉間の中央
- 迎香(げいこう):小鼻の左右の凹み
- 鼻通(びつう):迎香の少し上
- 合谷(ごうこく):手の甲の人差し指と親指の付け根
- 内庭(ないてい):足の人差し指と中指の付け根
- 太陽(たいよう):こめかみの目尻側
慢性副鼻腔炎そのものが治るというよりは、頭痛や頭重感、顔面痛などの症状が軽くなると考えられています。病院での治療に並行して試してみてもいいかもしれません。
慢性副鼻腔炎で臭いが気になるときに自宅でできることは?
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)に伴う臭いの原因は主に以下の2つです。
- 鼻水の悪臭
- 鼻づまりによる口臭
2つの対処法について自宅でできることを説明します
■鼻水の臭い
鼻をかんだ時に、鼻の中にたまった膿が塊になって出てきて、不快な臭いを感じたことがあるかもしれません。慢性副鼻腔炎の場合、鼻水に膿が混じることが多いので悪臭を感じることが多いです。膿を含んだ鼻水を少なくするためには自宅できる鼻うがいが有効です。治療とともに鼻うがいも同時に行ってみて下さい。
■鼻づまりによる口臭
慢性副鼻腔炎による鼻づまりが強い場合は、口呼吸になります。口呼吸で口の中が乾燥すると、口の中の細菌が増えて、口臭の原因になります。鼻詰まりに対しては治療をすることで良くなることが望め、同時に口が乾燥しないようにこまめな水分補給などを心がけることも大切です。
3. 慢性副鼻腔炎に市販薬は効く?
慢性副鼻腔炎の市販薬には、チクナイン®錠、ベルエムピ®L錠、ホノミビスキン®、エンピーズ®、フジビトール®などがあります。いずれも漢方薬をもとにして作られています。
チクナイン®は辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)、ベルエムピ®L錠は荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)と同成分です。フジビトール®B錠は葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)の成分が含まれており、いずれも蓄膿症に対して効能・効果があります。漢方薬は、体質によって合うものが異なるため、いずれの市販薬の効果にも個人差がでます。市販薬を購入する際には薬剤師に相談すると、自分にあった薬を選べるかもしれません。
4. 病院では慢性副鼻腔炎に対してどんな治療をするのか?
病院で行う慢性副鼻腔炎の治療には鼻の処置や処方薬の内服、手術があります。これらの治療を組み合わせて行うことで、症状の改善を行います。これ以降では治療とともにかかるべき診療科や気になる点などについても説明します。
慢性副鼻腔炎は何科を受診すればいいのか?
慢性副鼻腔炎は耳鼻咽喉科で治療を行うので、受診する科として適切です。大人の場合は耳鼻咽喉科を受診して下さい。
悩ましいのは子どもの場合です。副鼻腔炎であった場合には専門的な処置や検査ができる耳鼻咽喉科を受診するのがよいのですが、大人に比べて子どもは症状を上手に伝えられなかったりすることもあり副鼻腔炎を疑うのが難しいことがあります。このため、まず小児科を受診して症状の原因が慢性副鼻腔炎かどうかを調べてもらうのはよい選択だと考えられます。小児科で慢性副鼻腔炎と診断された場合には、その程度に応じてそのまま小児科で治療をする場合もあれば耳鼻咽喉科を紹介される場合もあります。
子どもでも慢性副鼻腔炎の治療は同じ?
子どもの慢性副鼻腔炎の特徴は以下の通りです。
- 細菌感染が多く、原因菌が大人と異なる
- 症状の悪化を繰り返す
- 鼻茸の
合併 が少ない - 成長とともに自然治癒に至ることが多い
大人の慢性副鼻腔炎で最も異なる点は、鼻の奥にある
慢性副鼻腔炎に処方される薬は?
慢性副鼻腔炎で処方される薬は下記のようなものがあります。
- 抗菌薬:マクロライド系など
- 気道疾患治療薬
- 抗
アレルギー 薬 副腎皮質ステロイド薬 - 漢方薬
これらを組み合わせて治療を行います。以下ではそれぞれの治療について解説します。
■抗菌薬:マクロライドなど
慢性副鼻腔炎で日本で広く処方されている薬は、マクロライド系抗菌薬です。常用量の半分の量で8−12週間内服します。この治療方法は「マクロライド少量長期投与」、「マクロライド少量長期療法」、「マクロライド療法」などと呼ばれます。この治療には、鼻茸のない慢性副鼻腔炎で症状の改善に有効であった報告と、効果がないという報告の両方があります。マクロライド系抗菌薬の耐性菌の増加の問題や、下痢の副作用が起こりやすい問題もあります。
現在、抗菌薬の不適切使用が問題となっており、治療により得られる症状改善などのメリットの大きさを考えて、マクロライド少量長期投与を行うか検討が必要です。
治療中に風邪をひくと、悪化することがあり、症状が強い場合は、他の抗菌薬を用いることがあります。かぜをきっかけに鼻水の悪化や頭痛、顔面痛の悪化があり10日間程度しても改善がない場合や、高熱が持続する場合(急性増悪:きゅうせいぞうあく)は、ペニシリン系抗菌薬(商品名サワシリン®など)などを用います。症状がかなり強い場合は、ニューキノロン系抗菌薬(商品名ジェニナック®など)を用いることもあります。ただし、抗菌薬が必要かどうかは慎重に判断されます。安易な抗菌薬の使用は
■気道疾患治療薬
カルボシステインという気道疾患治療薬は、気道粘液成分を調整することで以下の様な効果が期待できます。
- 鼻汁の粘稠度(ねんちょうど:粘り気)を少なくする
- 鼻水などの粘液を輸送する細胞の働きを改善する
- 粘液貯留や粘膜肥厚を防いで気道粘膜を正常化する
カルボシステインは副作用が少ないので長期間に渡って内服することもあれば、他の治療薬と一緒に使われることもあります。
■抗アレルギー薬
抗アレルギー薬のうち、花粉症などに用いられる抗
■副腎皮質ステロイド薬
副腎皮質ステロイド薬の内服は、好酸球性副鼻腔炎に有効です。点鼻用の
■漢方薬
漢方薬は有効性が不明ですが、体質によっては効果があるかもしれません。
鼻の中に棒を入れる治療:副鼻腔自然口開大処置
慢性副鼻腔炎に対して鼻の中に棒を入れる治療が耳鼻咽喉科で行われることがあります。この処置を副鼻腔自然口開大処置といいます。
慢性副鼻腔炎では炎症により分泌物の排泄や換気が悪くなり、さらに炎症が悪化する悪循環に陥っています。この悪循環を改善する目的で分泌物の排泄や換気をしやすくする副鼻腔自然口開大処置を行います。
副鼻腔自然口開大処置で用いる長い綿棒には、局所麻酔薬(塩酸リドカインなど)と血管収縮薬(エピネフリンやナファゾリンなど)が塗り込んであります。局所麻酔薬で鼻粘膜を麻酔し痛みをやわらげ、血管収縮薬で鼻の粘膜を縮めて、排泄経路を広くします。棒を抜いた後に、鼻・副鼻腔にあったねばっこい鼻汁を、吸引して除去します。
この処置に加えて薬液を細かい霧状にして鼻や口から吸入するネブライザー療法を行なうことで、さらに症状を改善させる効果が知られています。
参考文献:荒木 倫利,他, 副鼻腔自然口開大処置の有用性とその評価, 耳鼻咽喉科展望, 2003 補1; 46: 28-33
慢性副鼻腔炎で点滴をすることはある?
慢性副鼻腔炎の治療で点滴をすることはほとんどありませんが、急激に副鼻腔炎が悪化した場合には必要なことがあります。急激な慢性副鼻腔炎の悪化は、慢性副鼻腔炎急性増悪(きゅうせいぞうあく)と呼ばれます。ねばっこい鼻汁や、色のついた鼻汁の量が増えたり、鼻づまりが悪化したり、頬や額、目の周囲が痛くなり、場所によっては歯痛として感じます。
細菌感染によって急性増悪が起きていると考えられる場合は、点滴の抗菌薬が使用されることがあります。
慢性副鼻腔炎の手術とは?
投薬治療や局所治療などを行っても、鼻づまりや粘っこい鼻汁、色のついた鼻汁、後鼻漏、頭痛などの症状が残る場合、手術が検討されます。
手術は
慢性副鼻腔炎の治療は妊婦でもできる?
慢性副鼻腔炎でも症状が軽症であれば妊娠中でもそのまま経過をみることができます。急激に悪化した場合は、ペニシリン系やセフェム系の抗菌薬を使用することがあります。
妊娠中に薬を使うことは赤ちゃんへの影響が心配になるところですが、ペニシリン系やセフェム系の抗菌薬は妊婦に使っても安全だとされています。その他に、鼻うがいや、耳鼻咽喉科での鼻処置や副鼻腔自然口開大処置なども有効です。漢方薬による治療も選択肢のひとつですが、自己判断で飲むのではなく医師から処方を受けてください。
日本で慢性副鼻腔炎の治療に多く用いられているマクロライド系抗菌薬は、妊婦に使用しても安全とされていました。しかし、2015年に発表された論文は、ペニシリン系の抗菌薬を服用した例よりも、マクロライド系の抗菌薬を使用した例で、子どもの脳性麻痺やてんかんのリスクが増加していると報告しています。1本の論文だけで結論は出せませんが、ペニシリン系やセフェム系の選択肢があるなら、念のためマクロライド系抗菌薬を避けるという考え方もできるでしょう。(PLos One. 2015; 10(3): e0122034)
慢性副鼻腔炎の治療は授乳中でもできる?
慢性副鼻腔炎の治療で何を行っているかによりますが、鼻うがいや、耳鼻咽喉科での局所治療のみの場合は授乳も問題ありません。
一方で、慢性副鼻腔炎は薬を用いて治療することもあります。日本で広く用いられているマクロライド系抗菌薬は、授乳中に使用しても安全とされています。症状のある場合は授乳しながら治療しても安全です。急性増悪時に用いられる、ペニシリン系やセフェム系抗菌薬も、授乳中も安全に使用できる薬剤として知られています。
慢性副鼻腔炎の治療費は?
慢性副鼻腔炎の治療は大きく分けて、投薬による治療と手術治療があります。
投薬治療では通院での初診料・再診料、処置料、薬剤料などがかかります。画像検査をした場合は、その費用もかかります。例えば再診では鼻処置、副鼻腔自然口開大処置、ネブライザー、処方せん料を合わせて約2000円ほどの費用が想定されます。このうち1-3割が窓口で支払う自己負担となります。これにくわえて、薬剤料がかかります。
手術治療では手術内容や入院の有無などで、費用は異なりますが、約10万円から20万円程度です。高額療養費制度の対象となることがあります。費用について詳しく知りたい場合は、手術を行う病院に問い合わせてください。行う予定の手術名や、高額療養費制度についてもあわせて質問するといいでしょう。
高額療養費制度について詳しくは厚生労働省のウェブサイトやこちらの「コラム」による説明を参考にしてください。
慢性副鼻腔炎に診療ガイドラインはある?
慢性副鼻腔炎に
5. 慢性副鼻腔炎の治療中に風邪を引いたら風邪薬を飲んでもいい?注意することはある?
慢性副鼻腔炎の治療中に、風邪を引いた場合に薬を飲んで良いか悩むかもしれません。
発熱やのどの痛みなどがある場合は、市販の風邪薬を併用しても構いませんし、ロキソプロフェンナトリウム(商品名ロキソニン®など)などの解熱鎮痛薬も有効です。
人によっては、高血圧や糖尿病などの他の病気で飲んでいる薬があるかもしれません。そのような場合は、薬の飲み合わせも考えなければなりませんので、薬局の薬剤師に相談もしくは内科や耳鼻咽喉科を受診して下さい。
風邪をきっかけに慢性副鼻腔炎の急激な悪化(急性増悪)を起こす可能性があります。急性増悪が起きると、鼻水がさらに黄色くなったり、ねばっこくなったり、量が多くなったりします。鼻水以外の症状は、頭痛や歯痛、発熱などです。慢性副鼻腔炎の急性増悪に対しては抗菌薬の追加などが必要なこともあります。このため、症状の悪化や今までになかった症状の出現など急性増悪を疑わせる場合には耳鼻咽喉科を受診して下さい。
6. 慢性副鼻腔炎の治療期間は?完治はするのか?
「長い治療期間」や「繰り返す再発」のために慢性副鼻腔炎は治りにくいまたは治らない病気というイメージを持たれているかもしれません。実際に慢性副鼻腔炎は治りにくいのでしょうか。治療期間と完治について説明します。
慢性副鼻腔炎の治療期間は?
マクロライド少量長期投与を行った場合の治療期間は8-12週間が目安になります。治療が有効だと判断される場合は6ヶ月まで治療期間を延長して経過をみることもあります。
途中で明らかに無効である場合は中止して、手術などの他の治療に切り替えます。手術が上手く行けば治療はその時点で終了となります。手術では病気を起こしている鼻の粘膜を切り取ったりするのでもとに近い状態になるには4週間程度かかるとされています。「慢性副鼻腔炎の手術とは?」で詳しく説明しているので参考にして下さい。
慢性副鼻腔炎は完治する?
慢性副鼻腔炎は鼻や副鼻腔の環境が改善すると完治します。鼻茸のない慢性副鼻腔炎に一定の効果があるとされてマクロライド少量長期投与は治療が有効であれば、8-12週間で完治するとされています。
しかし、慢性副鼻腔炎では一度完治しても、風邪などをきっかけに再発することがあります。以前にマクロライド系抗菌薬が有効であった人は、再発しても治療で完治が見込めます。マクロライド少量長期投与について詳しくは「慢性副鼻腔炎の薬」で説明しているので参考にして下さい。
再発を繰り返す場合には手術も選択肢の1つです。手術では副鼻腔と鼻をつなぐ経路を大きく広げたり、鼻内の骨で囲まれた複雑な空間を大きく1つにつなげて、副鼻腔内に炎症物質がたまることを防ぐようにします。
手術は有効な治療ですが、全員が完治するわけではなく再発する人もいます。特に生まれつき、鼻・副鼻腔から肺などの呼吸器系の鼻水や痰を出す、線毛細胞の機能低下(
子どもが慢性副鼻腔炎になっても治る?
子どもの慢性副鼻腔炎は完治が可能です。特に、軽症であれば小児の慢性副鼻腔炎は成長とともに、自然治癒することが多いです。このため、粘液溶解剤や鼻うがいや鼻処置、ネブライザー治療での局所治療で経過をみることが多いです。
一方で、成人と違って子ども(特に幼児)は風邪を引きやすいので症状の悪化(慢性副鼻腔炎急性増悪)を繰り返す場合もあります。この場合、大人と同様にマクロライド少量長期投与が行われることがありますが耐性菌の問題や副作用の問題から、
内服治療などを行っても治らない場合には手術が検討されることがあります。慢性副鼻腔炎の手術については「慢性副鼻腔炎の手術」で詳しく説明しているので参考にして下さい。