まんせいふくびくうえん(ちくのうしょう)
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)
急性副鼻腔炎が治りきらずに慢性化したもの。一般的には蓄膿症と呼ばれることも多い
11人の医師がチェック 50回の改訂 最終更新: 2022.08.29

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の手術とは?

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)では投薬治療が無効で、手術により症状改善が期待できる場合に、手術治療を考慮します。手術は鼻の穴からの内視鏡で行います。手術を行うか自分でも検討できるように、一緒に手術について知っていきましょう。 

慢性副鼻腔炎で手術を検討する場合は下記の2つがあります。

  • 保存治療で改善がみられない場合

  • 感染などで急激に悪化して、目や脳の症状がでた場合

まず「保存治療で改善がみられないとき」についてです。保存治療とは手術などのように血が出る処置を用いない治療のことです。保存治療には薬物治療や鼻うがいなどの処置が含まれます。
日本で行われている主な薬物療法のであるマクロライド少量長期投与の効果は60-80%です。つまり一定数は治療を行っても症状が改善しません。保存治療によっても症状が残って、日々の生活が不便な場合には手術を検討します。

手術を検討するもうひとつの場合は、慢性副鼻腔炎が急激に悪化した場合(慢性副鼻腔炎急性増悪)です。副鼻腔にたまった分泌液に感染が起こると、炎症が悪化します。副鼻腔は目や脳と近く、強い炎症で、まぶたが腫れたり、目が見えにくくなったり、ものが二重に見えたり、意識がボーとしたりする症状がでることがあります。そのような場合は、緊急手術を行うことがあります。

子供の慢性副鼻腔炎は成長とともに自然治癒することが多いのですが、保存治療をおこなっても、改善が無い場合は手術を検討します。

どんな時に手術を検討するかについては、日本においての小児慢性副鼻腔炎のガイドラインはなく、意見が必ずしも統一されていません。欧州の論文を参考にすると、マクロライド療法、ステロイド点鼻、鼻うがいなどでも症状が改善しない場合とされています。(Rhinology supplement 2012;23:1-298.

小児の慢性副鼻腔炎では成人と異なりアデノイドの影響が報告されています。

アデノイドとは別名で咽頭扁桃(いんとうへんとう)といいます。鼻の奥の突き当たりの部分で、鼻からのどに移行する上咽頭という部分にあるリンパ組織の塊です。鼻や口からはいる細菌ウイルスと戦う物質を作ったり、戦う場となったりして、体内に細菌やウイルスが侵入することを防ぐ働きをしています。アデノイドの細菌感染が長引くことで、慢性副鼻腔炎が長引いたり、悪化すると考えられています。

このため、小児の慢性副鼻腔炎に対する手術治療の最初の選択肢は、アデノイド切除術です。アデノイド切除術は鼻の奥にある扁桃組織を切除器具を用いて切り取る手術です。

同時に上顎洞穿刺を行う場合があります。上顎洞穿刺は鼻の横にある上顎洞に、鼻の中から太い針を刺して、上顎洞のを抜いて、洗浄する方法です。子供の場合は上顎洞炎が多いため、上顎洞穿刺を併用したアデノイド切除術が有効とされています。

アデノイド切除術で効果が無かった場合は、内視鏡下副鼻腔手術を行います。内視鏡下副鼻腔手術では、以前は、顔や顎の骨の発達が遅れるのではないかと懸念されていましたが、最近の報告では影響を及ぼさないとされています。手術は体に負担がかかりますが、保存治療で症状が改善できない場合に有効な治療です。

現在主流となっている慢性副鼻腔炎の手術方法は、内視鏡を使って行う内視鏡下副鼻腔手術です。以前は歯茎や眉毛の下を切って行なう手術が主流でしたが、現在は鼻の穴から、直径約4mmの硬い内視鏡を入れて、鼻の中を拡大した画面で見ながら手術を行います。

図:副鼻腔の解剖イラスト。前頭洞、蝶形骨洞、篩骨洞、上顎洞の位置を示す。

副鼻腔は鼻のまわりにある骨に囲まれた空間で、小さな穴や管(自然口)で鼻の中とつながっています。炎症で粘膜が腫れると鼻茸(はなたけ)ができたり、自然口が閉鎖したりして、鼻内の環境が更に悪化します。鼻の粘膜や骨を削る機械や器具を使用して、副鼻腔と鼻を大きくつなげて、鼻の中の空間を大きく一つにつなげます。鼻内を大きくつなげることで鼻水の流れがよくなり、分泌液の中に含まれる炎症の物質の排泄が改善し、鼻の中の環境を改善することで慢性副鼻腔炎の症状を改善します。

慢性副鼻腔炎の手術は5-7日の入院で行う病院が多いですが、手術の前日に入院して、翌日に退院するという2泊3日の日程で行う施設もあります。少数ではありますが、日帰り手術を行っている施設もあります。

手術の後は、鼻粘膜が腫れて鼻づまりが一時的に悪化するため、日帰り手術を行っても鼻づまりが辛く、夜間眠れないなどの症状が出て、手術後の一定期間は通常の日常生活を送ることが困難な場合があります。

術後に鼻出血のリスクが高い好酸球性副鼻腔炎などでは、入院して手術を行うことが安全です。

手術を検討する場合はその施設での平均入院日数などを担当医に聞いて、自分が割くことができる時間の範囲であればそのままの施設で治療を受けるのもよいですし、より短い入院期間で治療したくて、他の病院の意見も聞いてみたいのであればセカンドオピニオンを利用するのもいい方法です。

慢性副鼻腔炎の手術は現在ではほとんどが全身麻酔です。全身麻酔の利点としては、痛みを感じないことや手術中の記憶がないことです。 また、鼻の手術では血がのどから空気の通り道である気管の中に垂れ込んで、呼吸に影響を与えることがあります。しかし、気管の中に管を入れる全身麻酔では、血液が空気の通り道に流れ込んでも挿入している管のおかげで呼吸へ影響することはほとんどありません。

全身麻酔を行うためには、麻酔に耐えられるかどうかの判断が重要です。具体的には全身の状態や持病の有無などが調べられます。例えば心臓や肺に重い持病があると、心臓や肺への悪影響が懸念されて、全身麻酔ができない場合があります。

慢性副鼻腔炎の手術は全身麻酔で行うことがほとんどです。そのため手術中は痛みを感じません。手術後の出血を予防するために、手術の最後に、鼻内に止血のための溶ける綿や、スポンジ(メロセル)や、軟膏のついたガーゼをいれておきます。これらの詰め物により鼻の痛みが、当日から翌日あたりまで出ることが多いです。術後は鼻の粘膜も腫れるため、鼻づまりが悪化して、鼻の痛みが改善した後も頭痛が続くことがあります。鼻の詰め物を抜くと頭痛は和らぎますが、鼻づまりが改善するには1-2週間かかるため、その間は頭が重い感覚が持続することがあります。

慢性副鼻腔炎の手術時間は手術の範囲や、手術を行う原因疾患で異なります。副鼻腔は全部で、左右4か所ずつあります。副鼻腔炎のある部分を手術で大きくあけるのですが、片側か両側か、何か所あけるかと、手術を行う原因の病気で異なります。

左右の鼻をわける鼻中隔(びちゅうかく)が大きく曲がっている場合は、内視鏡を操作するスペースが狭く、鼻中隔をまっすぐにする手術を同時に行う必要があります。これらの手術を同時に行うかどうかによって手術時間は異なります。

全身麻酔にかかる時間を除いた手術時間は1時間から3時間程度です。

慢性副鼻腔炎の手術直後からの一般的な経過を説明します。

手術直後は鼻血がでないように鼻の中に溶ける綿やスポンジなどが入っています。手術直後は鼻がつまり、鼻の痛みや頭痛、発熱、微熱、倦怠感(体のだるい感じ)などが起こります。また、鼻がつまるため、嗅覚や味覚が低下します。

翌日から1週間後に鼻の中に入ったスポンジやガーゼを抜きます。その後、鼻うがいをして、鼻内に残った血の塊や、溶ける綿を洗い流します。最初は血の塊や、どろっとした粘液の塊がでてきますが、徐々に良くなっていきます。

手術をした病院に通院して鼻から入れる細いカメラ(ファイバースコープ)で手術した場所の回復具合の確認が行われます。鼻粘膜が落ち着くまでは、鼻出血のリスクがあるため、飲酒や激しい運動、長風呂を避けます。個人差がありますが、2−4週間程度は安静にします。4週間程度たつと鼻粘膜がきれいになってきます。数ヶ月から半年間は手術を行った病院に通院して、鼻の中をみて手術後の回復具合の確認が行われます。

慢性副鼻腔炎の手術は保険が適用されるので自己負担額は3割以下です。費用は手術の内容や入院期間により異なります。手術の内容は次のものです。

  • 手術を行うのが片側か両側か

  • 手術を行う副鼻腔の数;上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞のうち何か所手術するか

  • 同時に行う手術の有無

    • 鼻の骨の曲がりを治す手術(鼻中隔矯正術、内視鏡下鼻中隔手術1型など)

    • 鼻の粘膜の腫れを治す手術(粘膜下下鼻甲介骨切除術、内視鏡下鼻腔手術1型など)

    • 鼻水をだす神経を切断する手術(経鼻腔的翼突管神経切断術など)

上記で多少差がでるものの、だいたい10万円から20万円程度になります。費用について詳しく知りたい場合は、手術を行う病院の窓口に問い合わせておくとより近い値を知ることができるので、手術の前に利用してみて下さい。

合併症(がっぺいしょう)とは治療によって引き起こされる問題のことです。手術がうまくいってもある程度の確率で起こってしまう合併症もあります。

慢性副鼻腔炎の手術の合併症のうち、特に深刻なものは、目や脳に影響が出ることです。副鼻腔は目や脳と近いため、手術中の操作で、ごくまれに目や脳に影響を及ぼすことがあります。慢性副鼻腔炎の主な手術合併症の例を挙げます。

  • 目に関連する合併症

    • 目が見えにくくなる(視力障害)

    • ものが二重にみえるようになる(複視

    • 涙が止まらない

  • 脳に関連する合併症

    • 脳と鼻の境がなくなり脳脊髄が鼻に漏れる(脳脊髄液漏:のうせきずいえきろう)

  • 鼻に関連する合併症

    • 鼻の中がくっついて狭くなる

    • 鼻血

以下ではそれぞれについて解説し、発生した場合の対処法について説明します。

副鼻腔の手術合併症の中で、眼球を入れている眼窩(がんか)という空間の損傷(眼窩損傷)が最も多く起こります。特に深刻な場合として失明があります。

■目が見えにくくなるまたは見えなくなる(視力障害または失明)

失明する原因としては、眼窩内に出血した場合と、視力の神経である視神経を損傷する2つのパターンがあります。

眼窩内出血は、眼窩の壁の骨を損傷した場合や、眼窩に近い場所を通る動脈を損傷した場合に起こります。眼窩内に出血を起こすことで、眼窩の中に大量の血液がたまり、眼窩内の圧が上昇して失明に至ります。眼窩内出血が見つかった場合は、眼窩内の圧を逃がすように、眼窩の骨を除去し血腫(血の塊)を除きます。必要に応じて、目の内側を切開して眼窩内圧の上昇を防ぎます。

失明に至る原因のもう1つは、視力の神経である視神経を損傷することです。鼻の一番奥の副鼻腔である蝶形骨洞の外側には、視神経をいれる視神経管があり、その部分を損傷することで起こります。

■ものが二重にみえるようになる(複視)

失明には至らなくても、ものが二重にみえる複視(ふくし)という症状になることもあります。これは、眼窩を損傷し、眼球の周りにある目を動かす筋肉(外眼筋)を損傷した場合に起こります。

■涙が止まらない

鼻涙管(びるいかん)は目と鼻をつなぐ細い管です。涙が出た時に鼻水がでる感覚を経験をしたことがあるかもしれませんが、その時に目から鼻へ涙を流している管が鼻涙管です。

鼻涙管が鼻内にあるため手術時に傷つけてしまうことがあります。傷がついたことが原因で鼻涙管が詰まった場合は、術後に涙が止まらない症状がでます。その場合は、鼻涙管に管を入れる手術を行うことがあります。

副鼻腔の上方には脳があり、骨で隔てられています。脳は硬膜という膜で包まれていますが、手術により骨や硬膜に穴があくと、脳の周囲にある脳脊髄液がもれます。硬膜に穴が空いたままになると、鼻内の細菌が脳脊髄液内に入って感染を起こして髄膜炎という重い状態を引き起こします。内視鏡下副鼻腔手術により髄液鼻漏が生じる確率は1%以下とされています。髄液漏が見つかった場合は、穴の開いた場所に脂肪や別の部位から採取した筋膜を移植して、穴を閉じる手術をします。

鼻に関連する合併症

手術で鼻粘膜が傷がつくことで、鼻粘膜同士がくっついて鼻の中の空間が狭くなることもあります。術後に癒着部分を切って広げる処置を行います。

手術後は鼻血を防ぐ目的で、鼻内に止血効果のある溶ける綿をいれたり、スポンジをいれたり、抗菌薬の軟膏をつけたガーゼをいれます。しかし、詰め物をしても鼻血をおこすことがあります。出血量が多い場合は、血を止めるために鼻の中の出血部位を電気メスで焼いたり、止血の目的で再び手術が必要になることもあります。

鼻内に詰め物をたくさんした場合は、鼻水にある細菌のうち、黄色ブドウ球菌が毒素をつくりだし、体内の血液に毒素が入ると、悪寒、発熱などを起こすトキシック・ショック症候群になることがあります。トキシック・ショック症候群にいったんなると、血圧低下などをきたし、命に関わるような事態になることがあります。このため、鼻の詰め物をしているときには、1日に数回血圧などを計って身体に異常が起きていないかを調べています。

手術の合併症は以前に副鼻腔の手術などを行った方に多く起こります。なぜなら、一度手術をした鼻の中は、通常の構造と変わっていることが多いからです。通常の構造と異なると、手術時の目印となる構造物がなく、手術の際にどの部分を手術してるのかわかりにくくなり、合併症を引き起こす可能性があります。鼻内は複雑に骨の空間で区切られているため、非常にわかりにくく、合併症を予防して安全に手術をするために、手術前に撮影した画像を用いたナビゲーションシステムという方法を使って手術をすることがあります。

慢性副鼻腔炎の手術後の再発は、一般的な慢性副鼻腔炎では少ないです。手術時の副鼻腔の開放が小さい場合には再発したり、手術時に他の副鼻腔の出入り口(自然口)を塞いでしまった場合などには、手術後に再発することがあります。

また、手術時の原因が見当らないのに再発した場合は特殊な慢性副鼻腔炎や他にも原因が隠れているの可能性を考えます。

好酸球性副鼻腔炎

好酸球性副鼻腔炎では再発率がほぼ半数といわれています。手術の後は外来に通院しながら、経過を診ますが、半分の人で好酸球性副鼻腔炎の症状である鼻茸(鼻内にできるポリープ)ができて再発が確認されます。

再発率の高い好酸球性副鼻腔炎では、下記の症状があります。

また、好酸球性副鼻腔炎は、下記の病気と一緒に起きることがあります。

詳しくは「好酸球性副鼻腔炎とは?」で説明しているので参考にして下さい。

■歯性上顎洞炎

上顎歯の齲歯虫歯)が原因になるような歯性上顎洞炎では、手術で上顎洞の換気を改善しても、歯の根の炎症から再発します。

原発性線毛運動不全症

もともと気道の線毛細胞の働きが悪い場合も炎症の液体が排泄されず、慢性副鼻腔を再発します。このような病気を原発性線毛運動不全症と呼びます。

皆さんは名医に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか?

慢性副鼻腔炎のように手術療法がある病気だと、手術が上手な医師が名医と考えるかもしれません。しかし、慢性副鼻腔炎の治療には保存治療と手術治療があります。保存治療にも、いろいろな薬剤の選択肢があります。このように色々な治療の選択肢のある病気において、名医とはさまざまな治療について精通し、適切な治療を提供できる医師ではないでしょうか。保存治療の種類や期間を、個々の状態や、希望に応じて選択し、適切なタイミングで手術治療をすすめられることが、名医であるかもしれません。

手術に関しても、どんな医師を「名医」と考えるかは人それぞれです。手術経験数、手術時間の短さ、手術の正確さや丁寧さ、再発率の低さ、日帰り手術など入院期間の短さ、診察の丁寧さなど様々な指標があります。治療のためには医師と患者の人間関係も大切です。そこで、出会った医師を「名医」と思えるかどうかは相性にもよるということになります。

手術件数など目に見える客観的な指標のみならず、自分と相性が合うかどうかを見極めて、治療施設を選ぶといいでしょう。

鼻のレーザー治療を聞いたことがあるかもしれません。しかし、慢性副鼻腔炎にはレーザー治療はありません。慢性副鼻腔炎の治療は保存療法と、手術治療になります。

レーザー治療は主に、アレルギー性鼻炎や、肥厚性鼻炎が原因の睡眠時無呼吸症候群に行います。クリニックなどでも行っており、鼻の粘膜をレーザーで焼くことで、鼻閉症状をメインに効果があります。術後2年間に約20-60%の人で鼻水、くしゃみが再発します。慢性副鼻腔炎に合併した、アレルギー性鼻炎や、肥厚性鼻炎には効果があるかもしれませんが、慢性副鼻腔炎には効果がありません。