薬物性肝障害とはどのような病気なのか
薬物性肝障害は薬剤によって肝臓がダメージを受けた状態です。どの薬剤も肝障害を引き起こす可能性があり、健康食品やサプリメントも原因となります。肝臓が少々ダメージを受けたくらいでは自覚症状はほとんどでませんが、肝臓の機能が低下してくると、だるさ、食欲不振、身体の
目次
1. どんな薬によって肝障害が生じるか
どのような薬も薬物性肝障害の原因になりえます。多くの人に使われている薬も例外ではなく、たとえば解熱鎮痛薬、痛風の薬、総合感冒薬、
2. 薬を飲み始めてどのくらいで発症するのか
服用開始から肝障害があるとわかるまでの期間は、約20%の人で7日以内、約80%の人で90日以内であったという報告があります。なかには使い始めてから2年経過した後に
3. 薬物性肝障害の症状について
薬物性肝障害を起こすと下記のような症状が現れます。薬を使っている人でこれらの症状に気づいたら、薬物性肝障害の可能性があるので受診してください。
【薬物性肝障害の症状】
倦怠感 - 食欲不振
黄疸 - 腹痛
発疹 - かゆみ
意識障害
ただし、軽症の薬物性肝障害では症状を感じない人も多いので、症状がなくても発症していないとはいえません。このため、処方薬を常用している人は、定期的な血液検査を提案されることがあります。
4. 薬物性肝障害の検査について
薬物性肝障害の主な検査には、
血液検査
血液検査をすると肝障害があるかどうかがわかります。また、肝障害の原因について調べたり、重症度を確認したりできます。
◎肝障害の有無を調べる血液検査
肝障害があるかどうかの判断には、下記の血液検査の項目が役立ちます。
- ALT
- AST
- γ-GTP
- 総
ビリルビン (直接ビリルビン) - ALP
これらの検査で異常がみつかったら、肝臓がダメージを受けていると考えられます。その原因が何かを調べるために、次に述べる追加検査が行われます。
◎肝障害の原因を調べる血液検査
肝障害の原因を探るために、下記の血液検査が追加で行われます。
- 好酸球数
- 薬剤
リンパ球 刺激試験(DLST) - 肝炎
ウイルス 検査 自己抗体 検査(抗核抗体 や抗ミトコンドリアM2抗体 )
薬物性肝障害以外に肝障害を生じる病気がないかどうか調べる検査も重要です。たとえば、肝炎ウイルス検査はB型肝炎やC型肝炎などの病気を、自己抗体検査は自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎といった病気を調べるのに役立ちます。
◎肝障害の重症度を調べる血液検査
薬物性肝障害が重症になると、下記の検査結果が異常値となることがあります。
- PT(プロトロンビン時間)
- APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)
- 血中アンモニア濃度
これらの検査結果は、劇症肝炎という重篤な状態かどうかの判断に役立ちます。
画像検査(腹部超音波検査や腹部CT・MRI検査など)
薬物性肝障害と同じような症状が現れる病気に胆石症、肝臓がん、胆管がんがあります。これらの病気と薬物性肝障害を区別するのに、
5. 薬物性肝障害の治療について
薬物性肝障害の治療で最も重要なのが、原因薬剤を中止することです。これに加えて肝障害の治療薬を使われることがあります。
使用していた薬の中止
原因薬剤を中止することが最も重要な治療となります。とはいえ、どの薬が原因かは検査をしてもはっきりと同定できないことが多いです。このため、発症時に使用していたすべての薬を中止することがよくあります。
薬物性肝障害の治療薬
薬物性肝障害では下記のような治療薬を使われることがあります。
【内服製剤】
- ウルソデオキシコール酸(主な商品名:ウルソ®︎)
ステロイド薬 (主な商品名:プレドニン®︎)
【注射製剤】
- グリチルリチン製剤(主な商品名:強力ネオミノファーゲンシー®︎)
- ステロイド薬(主な商品名:ソル・メドロール®︎)
病状に応じて、これらの薬は使い分けされます。詳しく知りたい人は「薬物性肝障害の治療について」のページも参照してください。
6. 薬物性肝障害のガイドラインについて
医療における
- 厚生労働省 「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性肝障害(令和元年9月改定)」
- 欧州肝臓学会 「薬物性肝障害ガイドライン2019」
厚生労働省の作成した「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性肝障害」には、医療者向けのページだけではなく患者さん向けのページも用意されています。
【参考文献】
- 滝川一, 薬物性肝障害の診断と治療. 日内会誌. 2015;991-997.
- 厚生労働省. 重篤副作用疾患別対応マニュアル「薬物性肝障害」令和元年9月改
- European Association for the Study of the Liver. EASL Clinical Practice Guidelines: Drug-induced liver injury. Journal of Hepatology. 2019.
- Yue-cheng Yu,et al.CSH guidelines for the diagnosis and treatment of drug-induced liver injury. Hepatol Int 2017;11(3):221-241.