やくぶつせいかんしょうがい
薬物性肝障害
服用した薬の副作用として肝臓が障害を受けるもの。軽いものであれば、薬の服用を中止することで自然に快復することが多い
6人の医師がチェック 103回の改訂 最終更新: 2020.07.22

薬物性肝障害とはどのような病気なのか

薬物性肝障害は薬剤によって肝臓がダメージを受けた状態です。どの薬剤も肝障害を引き起こす可能性があり、健康食品やサプリメントも原因となります。肝臓が少々ダメージを受けたくらいでは自覚症状はほとんどでませんが、肝臓の機能が低下してくると、だるさ、食欲不振、身体のむくみなどの症状が現れることがあります。このページでは薬物性肝障害の概要について説明をしていきます。

1. どんな薬によって肝障害が生じるか

どのような薬も薬物性肝障害の原因になりえます。多くの人に使われている薬も例外ではなく、たとえば解熱鎮痛薬、痛風の薬、総合感冒薬、抗生物質、漢方薬といった薬も原因なりうるといわれています。加えて、薬ではありませんが、健康食品やサプリメントによって肝障害が起こることも少なくなく、これも薬物性肝障害に含まれます。

2. 薬を飲み始めてどのくらいで発症するのか

服用開始から肝障害があるとわかるまでの期間は、約20%の人で7日以内、約80%の人で90日以内であったという報告があります。なかには使い始めてから2年経過した後に発症した人もいて、発症するまでの期間は個人差が大きいです。

3. 薬物性肝障害の症状について

薬物性肝障害を起こすと下記のような症状が現れます。薬を使っている人でこれらの症状に気づいたら、薬物性肝障害の可能性があるので受診してください。

【薬物性肝障害の症状】

  • 倦怠感
  • 食欲不振
  • 黄疸
  • 腹痛
  • 発疹
  • かゆみ
  • 意識障害

ただし、軽症の薬物性肝障害では症状を感じない人も多いので、症状がなくても発症していないとはいえません。このため、処方薬を常用している人は、定期的な血液検査を提案されることがあります。

4. 薬物性肝障害の検査について

薬物性肝障害の主な検査には、問診や診察に加えて下記のような検査があります。検査は病気を発見したり病状を調べたりするのに有用です。

血液検査

血液検査をすると肝障害があるかどうかがわかります。また、肝障害の原因について調べたり、重症度を確認したりできます。

◎肝障害の有無を調べる血液検査

肝障害があるかどうかの判断には、下記の血液検査の項目が役立ちます。

  • ALT
  • AST
  • γ-GTP
  • ビリルビン(直接ビリルビン)
  • ALP

これらの検査で異常がみつかったら、肝臓がダメージを受けていると考えられます。その原因が何かを調べるために、次に述べる追加検査が行われます。

◎肝障害の原因を調べる血液検査

肝障害の原因を探るために、下記の血液検査が追加で行われます。

  • 好酸球数
  • 薬剤リンパ球刺激試験(DLST)
  • 肝炎ウイルス検査
  • 自己抗体検査(抗核抗体や抗ミトコンドリアM2抗体

アレルギーが関与した薬物性肝障害では、好酸球数が高値になりやすいです。また、薬剤リンパ球刺激試験(DLST)をすると、薬物性肝障害の原因薬物を同定できることがあります。

薬物性肝障害以外に肝障害を生じる病気がないかどうか調べる検査も重要です。たとえば、肝炎ウイルス検査はB型肝炎C型肝炎などの病気を、自己抗体検査は自己免疫性肝炎原発性胆汁性胆管炎といった病気を調べるのに役立ちます。

◎肝障害の重症度を調べる血液検査

薬物性肝障害が重症になると、下記の検査結果が異常値となることがあります。

  • PT(プロトロンビン時間)
  • APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)
  • 血中アンモニア濃度

これらの検査結果は、劇症肝炎という重篤な状態かどうかの判断に役立ちます。

画像検査(腹部超音波検査や腹部CT・MRI検査など)

薬物性肝障害と同じような症状が現れる病気に胆石症肝臓がん胆管がんがあります。これらの病気と薬物性肝障害を区別するのに、腹部超音波検査をはじめとする画像検査が有用です。

5. 薬物性肝障害の治療について

薬物性肝障害の治療で最も重要なのが、原因薬剤を中止することです。これに加えて肝障害の治療薬を使われることがあります。

使用していた薬の中止

原因薬剤を中止することが最も重要な治療となります。とはいえ、どの薬が原因かは検査をしてもはっきりと同定できないことが多いです。このため、発症時に使用していたすべての薬を中止することがよくあります。

薬物性肝障害の治療薬

薬物性肝障害では下記のような治療薬を使われることがあります。

【内服製剤】

【注射製剤】

  • グリチルリチン製剤(主な商品名:強力ネオミノファーゲンシー®︎)
  • ステロイド薬(主な商品名:ソル・メドロール®︎)

病状に応じて、これらの薬は使い分けされます。詳しく知りたい人は「薬物性肝障害の治療について」のページも参照してください。

6. 薬物性肝障害のガイドラインについて

医療におけるガイドラインとは、診断、治療などをするときの指針をまとめたものです。お医者さんが活用している薬物性肝障害のガイドラインには下記があります。

厚生労働省の作成した「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性肝障害」には、医療者向けのページだけではなく患者さん向けのページも用意されています。

【参考文献】