たいしつせいおうだん(びりるびんたいしゃいじょうしょう)
体質性黄疸(ビリルビン代謝異常症)
生まれつきビリルビンという物質を上手に分解・排泄できないため黄疸が起こる病気
10人の医師がチェック 133回の改訂 最終更新: 2020.12.17

体質性黄疸とはどのような病気か:症状、原因、治療など

黄疸とは、黄色の色素であるビリルビンの分解や排泄が十分に行われず、血液中のビリルビン濃度が上昇した状態のことです。黄疸の原因となる病気には様々な種類の肝炎や溶結性疾患などがありますが、先天性の原因によって起こる黄疸のことを特に「体質性黄疸」と呼びます。基本的には良性の病気であり、特別な治療は不要です。体質性黄疸が心配な人は消化器内科または小児科を受診してください。

1. 体質性黄疸とは

体質性黄疸とは、先天性の原因によって血液中のビリルビン濃度が上昇する病気のことです。ビリルビンは主に肝臓で処理され、胆汁という消化液とともに腸に運ばれ、最終的には便と共に体外へと排泄されます。体質性黄疸では生まれつき肝臓でのビリルビン処理の過程に異常があり、ビリルビンがうまく体外へ排泄されず体内に留まります。

ビリルビンとは

ビリルビンは黄色の色素です。赤血球の中のヘモグロビンというタンパク質に多く含まれている「ヘム」という物質を分解した時に生成されます。ビリルビンの80%は赤血球から作られます。

ビリルビンは細胞保護効果をもつ有益な物質ですが、量が多いと臓器に悪影響を及ぼします。血液中のビリルビン濃度を一定に保つため、身体にはビリルビンを処理して排泄する仕組みがあります

肝臓におけるビリルビンの処理

ヘムから作られるビリルビンはそのままでは水にうまく溶けません。アルブミンという水溶性の物質とくっつくことで血液中に溶け込み、処理工場である肝臓へと運ばれます。

◎ビリルビン処理の第一段階

肝臓に運ばれたビリルビンは肝細胞の中に取り込まれ、UDPグルクロン酸転移酵素(UDP-glucuronosyltransferase-1-A1, UGT1A1)という酵素によって処理されます。この処理のことを「グルクロン酸抱合」と呼び、グルクロン酸抱合を受けたビリルビンは水に溶けやすい物質に変化します。

少し難しい話が続きますが、水に溶けやすくなる前のビリルビンを「間接ビリルビン(非抱合型ビリルビン)」、溶けやすくなった後のビリルビンを「直接ビリルビン」と呼びます。ビリルビンが過剰である時に、間接ビリルビンと直接ビリルビンのどちらが多いのかを見ることで、処理のどの段階に黄疸の原因があるのかを絞り込むことができます。

◎ビリルビン処理の第二段階

直接ビリルビンは次に、胆汁という消化液の中に運び出されます。詳しくいうと、直接ビリルビンは肝細胞の中から多剤耐性関連蛋白2(multi drug resistance-associated protein 2, MRP2)というタンパク質を介して胆管に放出されます。MRP2はビリルビンを胆管へと汲み出すポンプ、というわけです。胆管は胆汁を流す管であり、ここに運び出されたビリルビンは胆汁と共に十二指腸に流れ出し、小腸から大腸を通って便となって体外に排泄されます。

2. 体質性黄疸の原因と種類

体質性黄疸の原因は、ビリルビンの処理に関わるタンパク質であるUGT1A1やMRP2の異常です。間接ビリルビンを直接ビリルビンに変換するUGT1A1に異常があると、血液中の間接ビリルビン濃度が高まります。直接ビリルビンを胆汁に排出するポンプの役割を持つMRP2に異常がある場合などでは、血液中の直接ビリルビン濃度が上昇します。

高間接ビリルビン血症

UGT1A1の機能が低下すると間接ビリルビンから直接ビリルビンへの変換がうまくいかず、間接ビリルビンが増加します。このような病気には次の2つがあります。

  • クリグラー・ナジャール(Crigler-Najjar)症候群
  • ジルベール(Gilbert)症候群

高直接ビリルビン血症

肝細胞で間接ビリルビンから直接ビリルビンが作られるところまでは正常ですが、これ以降のビリルビン処理に問題があると直接ビリルビンが増加します。このような病気には次の2つがあります。

  • デュビン・ジョンソン(Dubin-Johnson)症候群
  • ローター(Rotor)症候群

これらの病気の詳細についてはこちらのページで説明しています。

黄疸を引き起こすその他の病気

体質性黄疸以外にも黄疸をきたす病気にはいくつかの種類があります。黄疸の治療法は原因疾患によって異なりますので、体質性黄疸なのか、それ以外の病気による黄疸なのかを見分けることは重要です。

ここでは、ビリルビンと一緒に血液検査で調べることが多い肝機能検査値の異常があるかどうかで病気を分類します。

◎ビリルビンは高値だが、それ以外の肝機能検査値に異常がない病気

◎ビリルビンが高値で、それ以外の肝機能検査値にも異常が見られる病気

3. 体質性黄疸の症状

体質性黄疸を持つ人でも特別な自覚症状は見られないことが多いです。

血清ビリルビン値が3mg/dLを超えるくらいまで上昇すると「黄疸症状」が見られるようになります。黄疸ではビリルビンの沈着によって身体のいろいろな場所が黄色く変化します。

【黄疸が見られるときの主な症状】

  • 白目が黄色くなる
  • 皮膚が黄色くなる
  • 尿の色が濃くなる
  • 身体のだるさ(倦怠感
  • 皮膚のかゆみ(掻痒感)

黄疸の症状について、詳しくはこちらのページで説明しています。

4. 体質性黄疸の検査

体質性黄疸の検査では、主に血液検査でビリルビン値や他の肝機能検査値を調べます。また、体質性黄疸以外の黄疸の原因を探るために、問診、身体診察、画像検査などを行います。

血液検査

血液検査ではビリルビン値やその他の肝機能検査値(AST、ALT、γGTP、ALPなど)を調べます。体質性黄疸ではビリルビン値の上昇はあるものの、その他の肝機能検査値は正常です。ビリルビンのうち直接ビリルビンが増加しているのか、間接ビリルビンが増加しているのかによって原因となる病気が異なります。

問診

問診では黄疸に特徴的な症状(白目や皮膚の色が黄色い、尿の色が濃い、など)がないかを質問されます。また、もともと肝臓の病気を持っていないか、普段から服用している薬はあるか、アルコールを飲むか、家族に肝臓の病気を持っている人がいるか、などについて確認されます。

身体診察

身体診察では白目(眼球結膜)が黄色い、皮膚の色が黄色い、などの黄疸症状があるかどうかを観察します。

画像検査

画像検査では腹部超音波検査CT検査、MRI検査などを行います。体質性黄疸では肝臓の画像検査で異常が見られることはほとんどなく、これらの検査は体質性黄疸以外の肝臓の病気がないかを調べることが目的です。

5. 体質性黄疸の治療

体質性黄疸を持っていたとしても、日常生活に影響が出ることや生命に関わる病状となることはほとんどありません。そのため体質性黄疸に対しては特別な治療は必要ありません。

例外はクリグラー・ナジャール症候群というまれな病気を持って生まれた乳児の場合で、核黄疸という命に関わる病気を防ぐために光線療法、血漿交換、ビリルビン吸着などの治療を行うことがあります。

参考文献

  • 福井次矢・黒川清/監修, 「ハリソン内科学 第2版」, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2006
  • 杉本恒明・矢崎義雄/総編集, 「内科学 第9版」, 朝倉書店, 2007
  • 小俣政男・千葉勉/監修, 「専門医のための消化器病学 第2版」, 医学書院, 2013年