たいしつせいおうだん(びりるびんたいしゃいじょうしょう)
体質性黄疸(ビリルビン代謝異常症)
生まれつきビリルビンという物質を上手に分解・排泄できないため黄疸が起こる病気
10人の医師がチェック 133回の改訂 最終更新: 2020.12.17

体質性黄疸の検査と治療について:血液検査など

体質性黄疸は生まれつき肝臓の一部の機能が低下していて、ビリルビンという物質がたまりやすくなる病気です。検査では主に血液検査でビリルビン値や他の肝機能検査値を調べます。また、体質性黄疸以外の黄疸の原因を探るために、問診、身体診察、画像検査などを行います。

1. 問診

問診ではまず、黄疸に特徴的な症状がないかを質問されます。

  • 白目や皮膚の色が黄色くなっていないか
  • 尿の色が濃くなっていないか

自分自身でこれらの症状に気がつくこともあれば、自分では気づいていなかったが家族や友人に変化を指摘されて気がつくこともあります。

◎持病やこれまでかかった病気について

自覚症状以外に、過去に治療した病気、現在治療中の病気の情報は黄疸の診断を進めるために重要です。もともと肝臓の病気を持っている人では、その病気が悪化して黄疸が出ている可能性を考えなくてはなりません。

◎服用中の薬やサプリメントについて

普段から服用している処方薬や、市販薬・サプリメントについても質問されます。薬剤による肝炎や肝障害は黄疸の原因になりますので、受診から数ヶ月前までさかのぼって薬の情報が必要になることもあります。普段からお薬手帳に記録をつけるようにしておくと、問診のときに正確な情報を伝えやすくなります。

◎飲酒習慣について

アルコールは肝炎の原因の一つです。問診では飲酒の頻度や飲酒量について質問されます。現在は禁酒していても過去に多量に飲酒していた場合にはすでに肝臓がダメージを受けている可能性があるので、過去の飲酒習慣も重要な情報です。

◎海外旅行、生食、性交渉などの経験について

肝炎流行地域への海外旅行歴、生肉・生の魚介類の摂取歴、不特定多数との性交渉歴はウイルス性肝炎の原因を探るうえで重要な情報です。

◎家族の病気について

家族内に肝臓の病気を持っている人がいるかどうかを質問されることがあります。体質性黄疸は親から子に遺伝することがあり、家族に体質性黄疸の人がいるかどうかは重要な情報です。またウイルス性肝炎のうちB型肝炎母子感染することが知られており、母親や兄弟にB型肝炎の人がいるかどうかを聞かれることがあります。

2. 身体診察

身体診察ではまず、黄疸症状があるかどうかを確認します。具体的には白目(眼球結膜)が黄色くないか、皮膚の色が黄色くないかを観察します。

また、他の病気と区別するために、黄疸以外の症状のチェックも重要です。例えば肝硬変が原因で黄疸を起こしている人では、意識がもうろうとする、皮膚の血管が拡張する(くも状血管腫)、手のひらが赤くなる(手掌紅斑)、腹水がたまってお腹がふくらむ、手足がむくむ、などの症状が見られることがあります。このように、体質性黄疸以外の病気による黄疸と見分けるために、身体診察で全身を詳しく調べます。

3. 血液検査

血液検査ではビリルビン値やその他の肝機能検査値を調べます。体質性黄疸ではビリルビン値の上昇はあるものの、その他の肝機能検査値は正常です。具体的には以下のような項目を検査します。

ビリルビン値

血液中のビリルビン濃度を調べます。直接ビリルビン(抱合型ビリルビン)濃度、間接ビリルビン(非抱合型ビリルビン)濃度をそれぞれ検査することができ、両者を合わせたものを総ビリルビン濃度といいます。

体質性黄疸では、その他の肝機能検査値には異常がないのにビリルビン値のみが高値となります。体質性黄疸には直接ビリルビン値が高くなるもの(デュビン・ジョンソン症候群ローター症候群)、間接ビリルビン値が高くなるもの(クリグラー・ナジャール症候群ジルベール症候群)があります。上昇しているビリルビンの種類を調べると、体質性黄疸の原因となる病気をしぼりこむことができます。

その他の肝機能検査値

血液検査で調べられるその他の肝機能検査値には以下のようなものがあります。

  • AST(GOT)
  • ALT(GPT)
  • γGTP
  • ALP

これらは肝細胞が壊れたときに血液中に出てくる酵素であり、特に急性肝炎や薬剤性肝炎で数値が上昇します。また胆管閉塞(がんや総胆管結石などによって胆管がふさがり、胆汁の流れが妨げられた状態)のときにもこれらの数値が上昇します。

体質性黄疸では肝臓におけるビリルビン処理に異常がありますが、肝細胞が壊れたり胆汁の流れが悪くなることはないため、これらの数値は正常範囲となります。

4. 画像検査

体質性黄疸では肝臓の画像検査で異常が見られることはほとんどありません。画像検査では腹部超音波検査CT検査、MRI検査などを行い、体質性黄疸以外の肝臓の病気がないかを調べます。

腹部超音波検査

腹部エコー検査とも呼ばれ、超音波を使って身体の表面からお腹の中にある肝臓を観察する検査です。超音波を出すプローブという機械をお腹に押し当て、肝臓からはね返ってきた超音波を画像に変換してディスプレイに表示し、肝臓の形や内部構造をチェックします。

慢性肝炎や肝硬変など肝臓が傷んでいる人では、肝臓の表面がでこぼこしたり肝臓の内部がざらざらした画像で表示されます。また胆管が閉塞して胆汁の流れが悪くなっている人では、肝臓の中に走っている胆管がふくらむ胆管拡張と呼ばれるサインが観察されます。

体質性黄疸の人は腹部超音波検査で異常が見られることはほとんどなく、主に体質性黄疸以外の肝臓・胆管の病気を探すために利用されます。

CT検査・MRI検査

CT検査は放射線を使って、MRI検査は磁気を利用して身体の断面像を映し出す画像検査です。肝臓の断面図を表示し、肝臓の形や大きさをチェックしたり、胆汁を流す胆管の太さを計測します。

例えば肝硬変などの病気で肝臓が傷んでいる人は、肝臓の表面がでこぼこしたり肝臓全体の大きさが縮んで見えます。また、胆管が閉塞して胆汁の流れが悪くなっている人では胆管が太く拡張しているのが観察できます。人によっては胆管閉塞の原因となっている病気を確認できることもあります。造影剤という薬を注射しながら撮影することでさらに詳細な画像を撮影することができるので、病状によっては造影剤の使用を推奨されることがあります。

体質性黄疸を持っていたとしてもCT検査やMRI検査で異常が見られることはほとんどありません。体質性黄疸以外の肝臓・胆管の病気がないかを確認するために検査を行います。

5. 体質性黄疸の治療

体質性黄疸を持っていたとしても、日常生活に影響が出ることや生命に関わる病状となることはほとんどありません。そのため体質性黄疸に対しては特別な治療は必要ありません。

例外はクリグラー・ナジャール症候群というまれな病気を持って生まれた乳児の場合で、核黄疸という命に関わる病気を防ぐために光線療法、血漿交換、ビリルビン吸着などの治療を行うことがあります。

参考文献

  • 福井次矢・黒川清/監修, 「ハリソン内科学 第2版」, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2006
  • 杉本恒明・矢崎義雄/総編集, 「内科学 第9版」, 朝倉書店, 2007
  • 小俣政男・千葉勉/監修, 「専門医のための消化器病学 第2版」, 医学書院, 2013年