ほうかしきえん(ほうそうえん)
蜂窩織炎(蜂巣炎)
皮膚の下の蜂窩織と呼ばれる部位(皮膚の表面を除いた部分で真皮から脂肪織の間)が細菌に感染し、炎症を起こす病気
9人の医師がチェック 189回の改訂 最終更新: 2022.05.31

蜂窩織炎の治療について:抗菌薬(抗生物質、抗生剤)治療など

蜂窩織炎(ほうかしきえん)の治療の基本は感染の原因となっている起炎菌に対して有効な抗菌薬を用いることです。またそれ以外にも蜂窩織炎の治療で知っておくべきことについて説明します。

1. 抗菌薬(抗生物質、抗生剤)治療

抗菌薬は細菌が増えるのを抑える薬です。点滴薬も内服薬(飲み薬)もあります。抗菌薬の種類によってどうやって細菌を増殖させにくくするかは異なりますが、抗菌薬を使用すると身体で起こっている細菌感染が治まります。

細菌によっては抗菌薬を効きにくくさせて自分の身を守るような仕組みを持っているものがいるので、細菌感染を治療する場合には次のことが大切です。

  • どんな細菌が感染の原因になっているか
  • 感染の原因となっている細菌(起炎菌)はどういった抗菌薬が有効か

この2つを意識しながら治療を行うことが大切ですが、検査の結果が出ないうちの治療開始時は起炎菌も有効な抗菌薬も分かっていません。そのため過去のデータから、感染の起こっている身体の部位によって有効性が高いと思われる抗菌薬を初期治療で使用します。一般的に、持病のない人の蜂窩織炎のほとんどは、起炎菌が溶血性連鎖球菌か黄色ブドウ球菌ですので、これらに有効と思われる抗菌薬が初期治療に用いられます。

皮膚の下の組織(皮下脂肪、蜂窩織)の感染症である蜂窩織炎に対しては次の抗菌薬が初期治療で用いられることが多いです。

  • ペニシリン系抗菌薬
  • セフェム系抗菌薬
  • リンコマイシン系抗菌薬
  • カルバペネム系抗菌薬

これらは異なる種類の抗菌薬です。各々の特徴について説明します。

ペニシリン系抗菌薬(ビクシリン®、ユナシン®、オーグメンチン®など)

ペニシリン系抗菌薬は1928年にアレクサンダー・フレミングによって発見された抗生物質です。この発見によってフレミングはノーベル賞を受賞しました。ペニシリン系抗菌薬は細胞壁合成阻害薬に分類され、細菌の持つ細胞壁のペプチドグリカンに関する反応を阻害することで細胞が増殖できなくさせます。

蜂窩織炎に対してよく使われるペニシリン系抗菌薬は以下の種類があります。

  • ベンジルペニシリン(ペニシリンG)
  • ベンジルペニシリンベンザチン(バイシリン®G)
  • アンピシリン(ビクシリン®など)
  • アモキシシリン(サワシリン®など)
  • ピペラシリン(ペントシリン®など)

蜂窩織炎を起こす連鎖球菌に対してペニシリン系抗菌薬はよく効きます。また、抗菌薬は治療の標的とする起炎菌以外にも効いてしまうと、体内の常在菌を殺してしまうデメリットがありますが、ペニシリン系抗菌薬が有効な細菌はあまり多くないため有用です。

一方で、黄色ブドウ球菌にはペニシリン系抗菌薬は有効でないことが多いため、塗抹検査で溶連菌が疑わしい(顕微鏡で見るとグラム陽性球菌が連なっている)時に用いられることが多いです。

また、動物に噛まれたり、糖尿病が持病であったりすると、ペニシリン系抗菌薬の中でも、より多くの細菌に対して有効である抗菌薬を使用することがあります。次のものがそれに当たります。

  • アンピシリン・スルバクタム(ユナシン®など)
  • アモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチン®など)

また、どんな抗菌薬も副作用に注意が必要です。ペニシリン系抗菌薬は副作用が比較的少ないですが、使用してから以下のことが出現しないか確認が必要です。

使用後にこのような症状が出現した際には処方した医師などに相談してください。

セフェム系抗菌薬(セファメジン®、ケフレックス®、ロセフィン®など)

セフェム系抗菌薬は細菌感染の治療で非常によく使われる抗菌薬です。作用の仕組みから細胞壁合成阻害薬とも呼ばれます。セフェム系抗菌薬は、細菌の持つ細胞壁のペプチドグリカンに関する反応を阻害することで細胞を増殖できなくさせます。

セフェム系抗菌薬は第1世代から第4世代に分類されます。それぞれの世代にあたる薬剤の例は次のようになります。

  • 第1世代セフェム系抗菌薬の主な例
    • セファレキシン(ケフレックス®、ラリキシン®など)
    • セファゾリン(セファメジン®など)
  • 第2世代セフェム系抗菌薬の主な例
    • セファクロル(ケフラール®など)
    • セフォチアム(パンスポリン®、ハロスポア®など)
    • セフメタゾール*(セフメタゾン®など)
  • 第3世代セフェム系抗菌薬の主な例
    • セフトリアキソン(ロセフィン®など)
    • セフォタキシム(クラフォラン®、セフォタックス®)
  • 第4世代セフェム系抗菌薬の主な例
    • セフェピム(マキシピーム®、セフェピム)
    • セフォゾプラン(ファーストシン®)

*セフメタゾールはセファマイシンというグループの抗菌薬で他のものとは分子の構造が少し異なります。

これらのセフェム系抗菌薬の中でも、セファレキシンやセファゾリン、セフトリアキソンなどが蜂窩織炎の感染に治療に用いられることが多いです。これらは蜂窩織炎の起炎菌になりやすい溶血性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌に対して効果を発揮するため使用されます。免疫不全の人に起こる蜂窩織炎の原因となる細菌は少し複雑ですので、多くの細菌に対して有効なセフェピムが用いられることがあります。(蜂窩織炎の起炎菌に関して詳しく知りたい人は「細菌検査」の章を読んでください。)

セフェム系抗菌薬の副作用はあまり多くないですが、次のようなものに気をつけなければなりません。

使用してからリストに有るような症状が出現した場合は処方した医師などに相談してください。

リンコマイシン系抗菌薬(ダラシン®など)

リンコマイシン系抗菌薬は細菌のタンパク質合成を阻害することで細菌の増殖を抑えます。タンパク質合成はリボソームという器官で行われ、リンコマイシン系抗菌薬はリボソーム(30Sと50Sというサブユニットがあります)の50Sサブユニットに作用します。

リンコマイシン系抗菌薬は溶血性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌に対して有効な抗菌薬です。他にもフソバクテリウムやバクテロイデスなどの嫌気性菌にも効果があります。また、ペニシリン系抗菌薬やセフェム系抗菌薬に対してアレルギーが有る場合にも使用できることが強みです。リンコマイシン系抗菌薬には次のようなものがあります。

  • クリンダマイシン(ダラシン®など)

リンコマイシン系抗菌薬の副作用はあまり多くはないですが、以下のものが出現することがあります。

  • 皮膚症状
    • 痒み(かゆみ)、紅斑(こうはん)など
  • 消化器症状
    • 下痢、悪心(吐き気)、食欲低下、腹痛など
  • 肝機能障害
    • 肝機能障害による黄疸など

使用してからリストに有るような症状が出現した場合は処方した医師などに相談してください。

カルバペネム系抗菌薬(メロペン®、チエナム®など)

カルバペネム系抗菌薬はセフェム系抗菌薬やペニシリン系抗菌薬と同様に細胞壁合成阻害薬に分類される薬です。カルバペネム系抗菌薬はPBP(ペニシリンン結合タンパク質)という細胞壁の合成に深く関わるタンパク質に結合して細胞壁の合成を阻害します。カルバペネム系抗菌薬には以下の種類があります。

  • メロペネム(メロペン®、メロペネム)
  • イミペネム/シラスタチン(チエナム®など)
  • ドリペネム(フィニバックス®)

カルバペネム系抗菌薬は非常に多くの細菌に対して有効です。ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生菌という耐性菌が感染の原因になっていると考えられる場合にも有効性のある貴重な抗菌薬です。そのため安易に使用するとカルバペネム系抗菌薬が効かない細菌が増えてくるため、安易に使用してはならない抗菌薬です。(抗菌薬と耐性菌の関係については「抗生物質(抗菌薬)を使えば使うほど薬が効かなくなる?」を参考にして下さい。)

蜂窩織炎の治療の多くの場面では、そんな安易に使用してはならないカルバペネム系抗菌薬は不要です。しかし、糖尿病などの易感染性(感染が起こりやすい状態)を起こす病気を持つ場合には出番が現れます。免疫力の低下している人は蜂窩織炎を起こしやすい溶連菌や黄色ブドウ球菌以外の細菌も起炎菌となりやすいため、多くの細菌に対して有効な抗菌薬が必要となる場合があります。特に重症の蜂窩織炎や、症状が急速に悪化して壊死性軟部組織感染症への進行が疑われる場合にはカルバペネム系抗菌薬が選択肢になります。

カルバペネム系抗菌薬の副作用は下痢、嘔吐などの消化器症状のほか意識障害や腎障害などがあります。またバルプロ酸という抗てんかん薬と同時に使うとバルプロ酸の効果が弱まりてんかん発作が起こることがあります。

カルバペネム系抗菌薬についての詳細な情報は「カルバペネム系抗菌薬の解説」もあわせて参考にしてください。

2. 症状を和らげる薬

蜂窩織炎への薬物治療は原因である細菌に対しての抗菌薬(抗生物質、抗生剤)の投与が中心となり、感染している細菌の種類によって適切な抗菌薬が選択され、それぞれの病態などに合わせて必要な期間投与されます。

薬による治療の中心はあくまでも抗菌薬になりますが、細菌感染に付随しておこる症状などを緩和する目的で抗菌薬以外の薬の使用も考慮される場合もあります。

発熱や痛みに対する薬(ロキソニン®など)

蜂窩織炎の症状を和らげる目的の薬としては、例えば、発熱や痛みに対して解熱鎮痛薬の使用が考慮される場合があります。

発熱自体は細菌などに対する生体防御反応のひとつですが、過度な発熱がある場合には解熱鎮痛薬を使うことで一時的に症状をやわらげ、体力の消耗などを抑えることが期待できます。

一般的な解熱鎮痛薬と呼ばれる薬の多くはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる種類に分類されます。具体的にはロキソプロフェンナトリウム(主な商品名:ロキソニン®)やジクロフェナクナトリウム(主な商品名:ボルタレン®)などのNSAIDsが痛みや炎症などをやわらげる目的で使われることも考えられます。NSAIDsは解熱・鎮痛・抗炎症作用をあらわす一方で、胃腸障害や腎障害などの副作用に注意が必要です。(NSAIDsの副作用に関してはメドレーコラム「副作用は胃痛、胸やけだけじゃない!?ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン®など)について」でも紹介しています)

NSAIDsによる副作用へのリスクは薬剤によっても異なりますし、蜂窩織炎の治療ではあくまで一時的な使用になることが多く副作用への懸念は比較的少ないと考えられますが、持病で消化性潰瘍や腎疾患などを持っている場合にはより注意が必要です。

アセトアミノフェン(主な商品名:カロナール®)は解熱鎮痛薬として小児(子供)から高齢者に至るまで幅広く使われている薬で内服薬(飲み薬)の他、坐剤や注射剤の剤形(剤型)もあり用途などに合わせた選択が可能です。安全性も比較的高く、同じく解熱鎮痛薬として知られるNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)に比べて一般的に胃腸障害などの懸念が少ないというメリットもあります。(アセトアミノフェンとNSAIDsの違いに関してはメドレーコラム「ロキソニンとカロナールは何が違うの?解熱鎮痛薬の特徴について解説」でも紹介しています)

発熱と痛みに対しては有用性が高いアセトアミノフェンですが腫れ(炎症)に対してはほとんど効果が期待できないとされ、こと「炎症を抑える」という観点においてはNSAIDsの方が適している場合も考えられます。

発熱・痛み以外の症状に対する薬

発熱や痛み以外にも、蜂窩織炎で現れやすい皮膚の腫れなどの症状に対して薬による治療が考慮される場合があります。

解熱鎮痛薬以外では体内の水分を排泄させ患肢を細くするなどの目的で利尿薬の使用が考慮されたり、スキンケアなどを目的として軟膏などの塗り薬が使われることも考えられます。

皮膚症状を伴う病態などに対して使われる漢方薬

その他、病態などによっては漢方薬が有用となる場合も考えられます。

例えば、なんらかの理由によってリンパの流れが悪くなることでおこるリンパ浮腫は蜂窩織炎をひきおこす要因のひとつとなりますが、この浮腫の改善に漢方薬が有用となることもあります。ここからは蜂窩織炎などの皮膚症状に対して効果が期待できる漢方薬をいくつか挙げてみていきます。

◎排散及湯(ハイノウサンキュウトウ)

一般的には患部が赤く腫れあがり、痛みを伴うような化膿性の皮膚疾患、蓄膿症、歯槽膿漏などに使われる漢方薬です。

発赤や膿などの改善が期待できる桔梗(キキョウ)や枳実(キジツ)を含む計6種類の生薬から構成され、方剤名にある「排膿」からも細菌感染などによる化膿状態の改善に対してイメージしやすい漢方薬ともいえます。

急性だけでなく慢性の炎症にも用いられ、がん治療後のリンパ浮腫や蜂窩織炎を反復発症するようなリンパ浮腫などに対しての有用性も考えられています。

蜂窩織炎以外にも憩室炎帯状疱疹後の皮膚びらんなどに対しても使われてきた経緯もあり、抗菌薬(抗生物質、抗生剤)や抗ウイルス薬などと併用される場合も考えられる漢方薬です。

◎五苓散(ゴレイサン)

水滞(水毒)など体内の「水」の改善に効果が期待できる漢方薬で、一般的には浮腫、下痢や吐き気などの消化器症状、頭痛、めまいなどの症状を改善する効果が期待できる漢方薬です。

猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、桂皮(ケイヒ)の5種類の生薬から構成され、名前(方剤名)の由来は種類の生薬と主薬となる猪からとったものです。(味猪苓散が詰まってできた名前とされています)

猪苓、沢瀉、蒼朮、茯苓といった生薬は水分代謝や水分貯留に関わる症状の改善が期待できるとされています。香辛料のシナモン(ニッキ)としても使われる桂皮は末梢血管拡張作用、鎮静作用、発汗解熱作用などにより頭痛や発熱などに対する改善作用の他、水分代謝調節作用なども期待できる生薬とされています。

浮腫の改善を目的として使われる薬としては利尿薬(ループ利尿薬など)が一般的ですが、利尿薬には尿として体内の水を排泄することで脱水を引き起こしたりカリウムなどの電解質のバランスを崩してしまう懸念もあります。一般的に五苓散ではこれらの懸念が少ないことや患者個々の体力や体質などにそれほどよらずに使えること、速効性も期待できることなどもメリットとして考えられます。五苓散には利尿薬を使っても改善が不十分であるようなリンパ浮腫などに対しての有用性も考えられるとされています。

◎柴苓湯(サイレイトウ)

先ほどの五苓散(ゴレイサン)に小柴胡湯(ショウサイコトウ)という漢方薬(漢方方剤)を合わせたもので一般的には吐き気や喉の渇きなどがあるような下痢や胃腸炎、浮腫などの改善に適するとされています。

含有する五苓散の利水作用による浮腫などの改善の他、抗炎症作用も期待できネフローゼ症候群などの腎疾患の治療にも使われることがある漢方薬です。

一般的に柴苓湯は五苓散より高い利水作用をあらわすとされ抗炎症作用などを併せ持つことから蜂窩織炎や熱傷の急性期などのリンパ浮腫を伴う皮膚症状に対しても有用とされています。

◎その他の漢方薬

その他、熱を冷ます作用などをあらわす生薬の石膏(セッコウ)を含む白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)や蜂窩織炎との関連性も考えられる肛門周囲膿瘍などに対して感染時の免疫低下やリンパ浮腫などの改善が期待できるとされる十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)などの漢方薬が使われるケースも考えられます。

通常、漢方薬による治療は局所の症状だけでなく全身の状態を診て健康な状態からの隔たりを判断し、判定した病態に対して適切だと考えられる薬が選択されます。一見すると皮膚症状とは関係ないように思える漢方薬でも体のバランスなどを改善する効果が期待できることがあります。どのような目的で漢方薬が使われているのかなどをしっかりと医師や薬剤師から聞いておくことも大切です。

◎漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬でおこる可能性がある間質性肺炎や肝障害などがあります。ただし、これらの副作用がおこる可能性は比較的稀とされ、万が一あらわれても多くの場合、漢方薬を中止することで解消されます。

漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわしますが、漢方薬自体がこの証に合っていない場合にも副作用があらわれることは考えられます。

一方で何らかの気になる症状が現れた場合でも自己判断で薬を中止することはかえって治療の妨げになる場合もあります。もちろん非常に重篤な症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を服用することによってもしも気になる症状があらわれた場合は自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。

3. 蜂窩織炎の治療期間

感染症の治療で抗菌薬を用いるときに延々と使用し続けることはよくありません。抗菌薬には副作用が存在するので、感染症が治っているのにもかかわらず使い続けると、副作用の危険性ばかりが目立つようになります。そこで、過去のデータからどういった種類の抗菌薬をどの程度使うことが最も適切なのかが検討されています。

蜂窩織炎の治療期間は「症状がなくなってから3日間」が推奨されています。つまり、皮膚の赤みや皮膚の痛みなどの症状が完全になくなってから3日間は抗菌薬を投与することが治療のスタンダードになっています。また、それ以上治療薬を投与しても、副作用などの観点からあまりメリットがないので注意が必要です。

4. どういった抗菌薬を使用すると良いのか?

細菌による感染症の治療は次の流れで行います。

  1. 感染部位の細菌学的検査(塗抹検査、培養検査)を行う
  2. 感染部位、持病の有無、重症度から初期治療に用いる抗菌薬を選択する
  3. 細菌学的検査の結果から起炎菌と薬剤感受性が判明したら、抗菌薬を適正化する

この流れの中で最も有効な抗菌薬治療が選ばれます。

感染部位の細菌学的検査(塗抹検査、培養検査)を行う

感染が起こっている部位の分泌液や組織を採取して細菌学的検査を行います。

塗抹検査は感染が疑われる検体をスライドガラスに薄く塗って顕微鏡で調べる検査です。グラム染色という色付けを行うことで、10-20分程度で細菌の形や特色を調べることができます。塗抹検査では起炎菌の推測ができますが、確定はできません。

また、同時に細菌培養検査も行います。培養検査は感染している検体に含まれる細菌を発育しやすい環境に置いて増殖させる検査です。培養すると細菌の数が大幅に増えますので、細菌の名前を確定することや抗菌薬(抗生物質)の効きやすさを調べることもできます。細菌培養検査は通常結果が出るまで数日かかります。

感染部位、持病の有無、重症度から初期治療に用いる抗菌薬を選択する

感染部位ごとに初期治療としての使用が推奨される抗菌薬があります。過去のデータから、起炎菌になりやすい細菌とそれに対して治療成績の良い抗菌薬が導き出されているので、それに従って治療に適している抗菌薬が選ばれます。また、治療期間に関しても過去のデータから適切なものが設定されています。ここで、感染に関連する持病があるかや重症かどうかどうかによっても抗菌薬の選択肢が変わることがあります。

過去のデータに従って始めた治療は、細菌学的検査での結果(起炎菌と薬剤感受性検査の結果)が出るまで継続されます。

細菌学的検査の結果から起炎菌と薬剤感受性が判明したら、抗菌薬を最適化する

細菌学的検査での結果(起炎菌と薬剤感受性検査の結果)が出ると、最も有効な抗菌薬が分かるので、それに従い治療が最適化されます。最適化するときには次のことがポイントになります。

  • 起炎菌に対して有効である
  • あまり多くの細菌に対して有効でない
  • 副作用が起こりにくい

最適化された抗菌薬は「起炎菌に対しては有効であるが多くの細菌に対しては効かない」ものが優れています。つまり、体内には多くの常在菌(身体に対して特に悪さをしない細菌)が存在しており、常在菌を殺すことなく起炎菌のみを殺すような抗菌薬が最も有効になります。

5. 動物に噛まれたことが原因の場合には治療法が少し変わる?

蜂窩織炎の起炎菌は一般的に溶血性連鎖球菌と黄色ブドウ球菌が多いです。しかし、動物に噛まれたり、糖尿病が持病にあったりすると、起炎菌が少し異なってきます。以下が状況による蜂窩織炎の主な起炎菌になります。

【蜂窩織炎の原因となりやすい細菌】

  • 一般的に蜂窩織炎の原因となりやすい細菌
    • 溶血性連鎖球菌(特にStreptococcus pyogenes)
    • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
  • 免疫力が低下した人で蜂窩織炎の原因となりやすい細菌
    • 溶血性連鎖球菌
    • 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)
    • 黄色ブドウ球菌
    • 大腸菌(Escherichia coli)
    • クレブシエラ桿菌(Klebsiella pneumoniae)
    • インフルエンザ桿菌(Haemophilus influenzae)
    • 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)
  • 水回り(淡水)で蜂窩織炎が起こったときに原因となりやすい細菌
    • エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)
    • エドワードシエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)
    • マイコバクテリウム・マリヌム(Mycobacterium marinum)
  • 水回り(海水)で蜂窩織炎が起こったときに原因となりやすい細菌
    • ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)
    • エリジペロスリックス・ルジオパシエ(Erysipelothrix rhusiopathiae)
    • マイコバクテリウム・マリヌム
  • 動物(犬・猫)に噛まれたことで蜂窩織炎が起こったときに原因となりやすい細菌
    • パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)
    • カプノサイトファーガ・カニモルサス(Capnocytophaga canimorsus)

上のリストにあるように、動物に噛まれた場合には溶血性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌以外にもパスツレラ・ムルトシダやカプノサイトファーガ・カニモルサスなどが原因となることがあります。そのため、通常の治療薬とは異なるものが使用されることが多く、アンピシリン・スルバクタム(ユナシン®など)やアモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチン®など)が用いられます。

6. なかなか蜂窩織炎が治らない場合にはどうしたら良いか

抗菌薬を用いても蜂窩織炎がなかなか治らないことがあります。その場合にはどういったことを考えたら良いのでしょうか。まずは次のことを考える必要があります。

  • 適切な抗菌薬を使用していない
  • 抗菌薬の使用量が適切でない
  • 耐性菌(抗菌薬が効きにくくなっている細菌)が起炎菌である
  • 膿が感染部位に溜まっている
  • 蜂窩織炎がより重症の皮膚軟部組織感染症に進行している
  • 一見良くなっていないような気がするが、実は良くなっている
  • 実は蜂窩織炎ではない(ウイルス感染による皮疹膠原病による皮疹などに注意)

治りの悪い蜂窩織炎ではこれらいずれかが起こっている可能性が高いです。しかし、実際にこれのどれが起こっているのかを判断するのは経験のある医療者でないと難しいです。感染症は適切な抗菌薬治療を行うと数日で改善傾向が見られることがほとんどですので、抗菌薬治療を行って数日経っても改善が実感できない場合には、医療機関にかかって診てもらうようにして下さい。

7. 蜂窩織炎に診療ガイドラインはあるのか?

診療ガイドラインを多く収集・評価しているMindsという組織では、診療ガイドラインのことを「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量し、最善の患者アウトカムを目指した推奨を提示することで、患者と医療者の意思決定を支援する文書」としています。少し難しい表現になっていますが、過去の多くの論文から最も優れた結果になることが期待できる診療上の指針ガイドラインということになります。

実は国内には皮膚感染症に関する成書はありますが、蜂窩織炎に対する公式の診療ガイドラインはありません。海外には蜂窩織炎に関するガイドラインがIDSA(Infectious Diseases Society of America)という世界的に信頼度の高い組織から出されています。

海外のガイドラインは診療を行う上で非常に参考になります。一方で、人種や生活環境、細菌の耐性化傾向などが異なるため、そのまま結果を鵜呑みにしてしまうことは避けなければなりません。患者の状況や細菌学的検査の結果を正しく把握することが最も大切なことになります。

参考文献
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・IDSA:Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Skin and Soft-Tissue Infections