蜂窩織炎の予防や日常生活の注意点について
蜂窩織炎にならないようにするためには日常生活に気をつけるべきことがあります。また、同様に日常生活に気をつけることで蜂窩織炎の再発にも気をつけることができます。このページでは蜂窩織炎に関する注意点について説明します。
目次
1. 蜂窩織炎はうつるのか?
蜂窩織炎(ほうかしきえん)は
蜂窩織炎は真皮や皮下組織の感染症です。下の図を見て下さい。
【皮膚の中における感染部位と病名】
人の皮膚の一番外側には表皮があり、これが全身の大半を覆っています。そして、表皮は異物(細菌や
一方で、表皮に何らかの傷があった場合には表皮よりも内側に細菌が侵入できるため、蜂窩織炎が起こりやすくなります。蜂窩織炎になりやすい状態として、例えば次のようなものが挙げられます。
これらの自覚がある人は周囲の誰かの蜂窩織炎がうつる可能性があります。皮膚に持病がある人が蜂窩織炎を疑う
2. 蜂窩織炎と思ったら何科にかかれば良いのか?
蜂窩織炎かもしれないと思った場合や皮膚が赤くなったり痛くなったりした場合に医療機関にかかって下さい。蜂窩織炎は皮膚の感染症なので、皮膚科や感染症科が専門になります。蜂窩織炎が重症になるとすぐさま処置が必要な場合があるので、皮膚科や感染症科にかかるのが最も望ましいです。症状が軽い場合は、内科や小児科のクリニックにかかっても問題ありません。
3. 蜂窩織炎で入院が必要な時はあるのか?
蜂窩織炎の治療で入院が必要となることがあります。症状が強い場合や症状の広がりが早い場合には、重症の蜂窩織炎や壊死性軟部組織感染症(壊死性筋膜炎や壊死性筋炎)が疑われるので、入院が勧められます。入院することのメリットは次のことになります。
- 点滴の
抗菌薬 を使用できる - 病状が悪化して致命的な状態になったときにすぐに救命的対応ができる
飲み薬の抗菌薬は一部が吸収されないため、点滴の抗菌薬のほうが効果が優れています。そのため、蜂窩織炎が重症の場合には点滴の抗菌薬を使用します。
一方で、入院期間は治療が完了するまでである必要はありません。治療によって症状が軽快してきた場合には、内服の(飲み薬の)抗菌薬を使用して自宅治療することができます。入院する期間が長くなると、筋力の低下や
4. こんな状況は要注意
蜂窩織炎は皮膚(真皮)から皮下組織にかけての感染症です。皮下組織よりも感染が起こっている場所が深くなると、壊死性軟部組織感染症(壊死性筋膜炎、壊死性筋炎、ガス壊疽)という非常に重症な病気になります。この病気は急速に感染が進行してしまうため、救命のために感染している部位を大きく切除(切断)しなくてはならなくなるほど重症です。
また、蜂窩織炎が起こっている部位によっては気をつけなければならないことがありますので注意してください。
もう少し詳しく説明します。
皮膚の変色がどんどん広がっていく
蜂窩織炎になると皮膚が変色します。また、感染当初は変色が拡大していきます。
しかし、この変色が急速に拡大する場合は要注意です。具体的には数十分刻みで変色が広がるような場合です。この状態は先に述べた壊死性筋膜炎や壊死性筋炎の可能性があり、一刻を争う状態です。できるだけ早く医療機関を受診してください。
皮膚がとにかく強烈に痛い
蜂窩織炎では痛みを感じることが多いです。しかし、痛みが非常に強い場合には蜂窩織炎が進んで壊死性筋膜炎に進行している可能性が高いと考えられています。
痛みは主観的なものなので一概に語れません。中には壊死性筋膜炎になってもあんまり痛みを感じないという人もいます。一方で、皮膚に
水疱(みずぶくれ)ができる
真皮や皮下組織に起こった感染が進むと皮膚に水ぶくれができることがあります。この変化は蜂窩織炎が進行して壊死性軟部組織感染症に至った可能性を示唆します。水ぶくれが出現したり悪化したりする場合には、早めに医療機関にかかるようにして下さい。
眼の周りや顔に症状が出る
眼や顔の皮膚の蜂窩織炎が起こった場合には注意が必要です。眼の周りで蜂窩織炎が起こった状態を眼窩蜂窩織炎と言います。この状態は重症になることが多く、眼が動かしくなったり物が二重に見えるようになったりして、場合によっては視力が低下してしまいます。ひどい場合には髄膜炎という重症になることもあるため、眼の周りや顔に皮膚の赤みや痛みが出た場合には、早めに医療機関にかかるようにしてください。
5. こんな人の蜂窩織炎は要注意
一般的に蜂窩織炎は重症になることの少ない病気です。抗菌薬を中心とした治療を行うことで
一方で、蜂窩織炎になると重症になったり再発を繰り返したりすることが予想されるため、注意が必要な人がいます。この章では、蜂窩織炎になった場合に特に気をつけたほうが良い人について説明します。
糖尿病のある人
糖尿病がある人は蜂窩織炎に罹りやすいですし、重症になりやすいです。糖尿病によって皮膚のバリアが弱くなることや
詳しくは次の段落で説明しますが、免疫力の低下した人に蜂窩織炎が起こると、通常は蜂窩織炎の原因とならない細菌は蜂窩織炎を起こすことがあります。そのため、抗菌薬は広域
免疫不全のある人
免疫力が低下している場合は、蜂窩織炎が重症になりやすいですし、普通は原因とならない細菌が蜂窩織炎を起こします。蜂窩織炎は一般的に溶血性連鎖球菌と
【免疫力が低下した人で蜂窩織炎の原因となりやすい細菌】
- 溶血性連鎖球菌(特にStreptococcus pyogenes)
肺炎球菌 (Streptococcus pneumoniae)- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
大腸菌 (Escherichia coli)- クレブシエラ桿菌(Klebsiella pneumoniae)
インフルエンザ桿菌 (Haemophilus influenzae)緑膿菌 (Pseudomonas aeruginosa)
免疫不全状態では、感染の原因微生物に対して抵抗力が落ちているため、感染症が重症になりやすいです。もともと免疫不全があると言われている人は、皮膚に覚えた違和感が軽度でも慎重に観察する必要があります。症状が悪くなっていると自覚したら医療者に相談して下さい。
リンパ浮腫のある人
リンパ浮腫とは、リンパの流れが悪くなって浮腫み(
リンパの流れが悪くなると蜂窩織炎が起こりやすいです。また、リンパ浮腫があると蜂窩織炎を繰り返しやすいことも分かっています。蜂窩織炎を繰り返す場合には主治医に相談してリンパマッサージなどの予防方法を教わっておくと良いです。
耐性菌が身体から検出された人
耐性菌とは抗菌薬が効きにくい細菌のことです。耐性菌が感染を起こすと特殊な抗菌薬を使用しないと治療が難しくなります。そのため身体から耐性菌が見られた場合には、耐性菌が感染の原因となっている可能性が出てくるため注意が必要です。
細菌感染が疑われたら、細菌
少し難しい話をしますと、メチシリン
過去に耐性菌が検出されている人は耐性菌が感染に関与している可能性が高くなります。過去に耐性菌が検出された記憶がある場合には、必ず医療機関に報告するようにして下さい。治療方針が変わる可能性があります。
6. 蜂窩織炎で後遺症が残ることはあるのか?
蜂窩織炎で後遺症が残ることは珍しいです。皮膚が赤くなったり浮腫んだりしますが、治療が済むと元通りになることがほとんどです。
一方で、蜂窩織炎が進行して壊死性軟部組織感染症に至ると、皮膚が黒くなったり
7. 蜂窩織炎を予防する方法はあるのか?
蜂窩織炎は皮膚(真皮)や皮下組織に細菌が侵入して感染が起こる病気です。そのため皮膚に傷ができやすい状態や、リンパ浮腫によって常に浮腫があるような状態では感染が起こりやすいです。また、不潔な状態が続く場合も蜂窩織炎が起こりやすくなります。次のことに気をつけて下さい。
- 糖尿病の治療をしっかりと行う
- 身体を不潔にしない(但し、洗いすぎは皮膚に傷がつくので神経質になりすぎなくて良い)
- リンパ浮腫が起こりやすい人はマッサージなどを行う
- 傷ができたら放置しない
- 水虫の治療をしっかりと行う
- アトピー性皮膚炎の治療をしっかりと行う
上のことに気をつければ蜂窩織炎になりにくくなります。どんなに蜂窩織炎を予防しようとしても、起こる時は起こってしまいます。蜂窩織炎は早期治療が大切ですので、「蜂窩織炎の特徴的な症状について:皮膚の変色や痛み、発熱など」にあるような症状が出た場合には医療機関を受診するようにして下さい。
8. 蜂窩織炎が再発する場合にはどうしたら良い?
糖尿病のコントロールが悪い場合やリンパ浮腫がある場合には、蜂窩織炎が治ったと思ってもまた繰り返すようなことが起こりやすいです。上の章と同じ内容になりますが、皮膚の持病や糖尿病などのコントロールをしっかりと行うことが再発の予防になります。蜂窩織炎を繰り返しやすい人はどうしても繰り返してしまいますが、蜂窩織炎になりにくくするために上の章のリストにある内容を実践してみて下さい。
9. 蜂窩織炎の際にはお風呂に入ってよいのか?
蜂窩織炎になったからお風呂に入ってはいけないというわけではありません。感染が起こっている部位を清潔に保つことは大切です。しかし、浮腫みが強い場合や痛みが強い場合には、お風呂で温まると症状が悪化することがあります。感染が起こって間もない時期(急性期)にはお風呂に入るのは避けたほうが良いかもしれません。
参考文献
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・ 伊東 直哉, 感染症内科ただいま診断中!, 中外医学社, 2017