ほうかしきえん(ほうそうえん)
蜂窩織炎(蜂巣炎)
皮膚の下の蜂窩織と呼ばれる部位(皮膚の表面を除いた部分で真皮から脂肪織の間)が細菌に感染し、炎症を起こす病気
9人の医師がチェック 189回の改訂 最終更新: 2022.05.31

蜂窩織炎の特徴的な症状について:皮膚の変色や痛み、発熱など

蜂窩織炎(ほうかしきえん)は皮膚から皮下組織辺りで起こる感染症です。皮膚で感染が起こると、皮膚が変色したり、皮膚に痛みが走ったりします。このページでは蜂窩織炎の症状について詳しく説明します。

1. 蜂窩織炎ではどんな症状が出やすいのか?

蜂窩織炎は皮膚(真皮)や皮下組織に感染が起こった状態です。皮膚の解剖と炎症の起こった部位による病気の違いを簡単に示します。

【皮膚の中における感染部位と病名】

図:蜂窩織炎は真皮や皮下組織の感染症。

皮下で起こった感染はさまざまな症状を起こします。主な症状は次のものです。

  • 皮膚の症状
    • 皮膚の発赤
    • 皮膚の腫れ
    • 皮膚の痛み
    • 皮膚のかゆみ
  • 全身の症状
    • 発熱
    • だるさ
    • 関節痛

これらの症状についてもう少し詳しく説明します。

【参考】

Necrotizing Fasciitis

CHEST 1996;110:219-29

皮膚の変色(発赤)

蜂窩織炎になると皮膚が赤くなることがあります。これは蜂窩織炎によく見られる変化で皮膚の炎症を反映したものです。蜂窩織炎の影響が強くなって筋膜(筋肉の線維をまとめている膜)に炎症が及ぶと、皮膚が黒色に変化することがあります。この場合は、命に関わる緊急事態の可能性があるため、医療機関を受診してください。

皮膚の腫れ

蜂窩織炎では皮膚が腫れること(浮腫)があります。その理由は2つに大別できます。

  • 蜂窩織炎の炎症によって皮下に浮腫が起こる
  • 浮腫(血液やリンパのうっ滞など)が起こることが原因となって蜂窩織炎が起こる

上の2つはよく見ると原因と結果が真逆です。つまり、蜂窩織炎に浮腫を伴いやすいのですが、「蜂窩織炎から浮腫が起こる場合」と「浮腫から蜂窩織炎が起こる場合」の両方があるということです。

蜂窩織炎から浮腫が起こる場合には蜂窩織炎の感染が治まれば自然と腫れも治ります。一方で、浮腫から蜂窩織炎が起こる場合は、蜂窩織炎の感染が治まっても腫れが取れないことがあります。その際にはなぜ浮腫があるのかについてきちんと原因を探す必要があります。よくよく調べると、手術の影響でリンパの流れが悪いことが原因で浮腫が起こっていたり、静脈に血栓があることが原因で浮腫が起こっていたりするのが見つかることも多いです。

皮膚の痛み

蜂窩織炎では皮膚の痛みがよく起こります。これはさまざまなことが原因として考えられます。例えば、皮膚や皮下組織の炎症が神経に波及することで痛みが起こっていたり、浮腫が強くなることで神経が圧迫されることで痛みが起こっていたりします。

蜂窩織炎による皮膚の痛みの多くは感染が治まると楽になりますが、感染が治まった後も痛みが続く場合には状況を正確に把握する必要があります。主治医に相談してください。

かゆみ

炎症を持った皮膚や浮腫によって張った皮膚がかゆくなること(掻痒感)があります。かゆみの強さは状況によって異なりますが、あまりにかゆみが強いときには我慢せずに薬を使ったほうが良い場合があります。

発熱

蜂窩織炎は皮膚や皮下組織で起こる感染症です。蜂窩織炎に限らずあらゆる感染症は発熱を起こすことがあります。これは、感染によって体内に炎症物質(炎症性サイトカイン)が作られて全身に広がることが原因です。

発熱が続くと身体が疲弊して体力が落ちてしまいますが、発熱は必ずしも身体にとって悪い反応でもありません。血流を良くしたり、体内に侵入した微生物が繁殖しにくくしたりする効果もあります。そのため身体が疲弊していないけれども発熱があるといった場合には、解熱薬などを用いて熱を下げなくても良いです。

だるさ(倦怠感)

蜂窩織炎でだるさを覚えることがあります。これは発熱と同じく感染による炎症が全身に影響を及ぼすことで起こります。見た目から感染が皮膚にとどまっている(限局している)状態であっても、だるさを感じて不思議ではありません。

関節痛

蜂窩織炎で関節痛が出ることがあります。感染が関節に波及して痛みが出ることがありますし、発熱や倦怠感のように炎症が全身に影響を与えることで痛みが出ることもあります。

2. こんな症状が出たら要注意

蜂窩織炎は皮膚(真皮)から皮下組織にかけての感染症です。皮下組織よりも感染が起こっている場所が深くなると、壊死性筋膜炎壊死性筋炎という非常に重症な病気になります。この病気は急速に感染が進行してしまうため、救命のために感染している部位を大きく切除(切断)しなくてはならなくなるほど重症です。

また、蜂窩織炎が起こっている部位によっては気をつけなければならないことがありますので注意してください。

もう少し詳しく説明します。

皮膚の変色がどんどん広がっていく

蜂窩織炎になると皮膚が変色します。また、感染当初は変色が拡大していきます。

しかし、この変色が急速に拡大する場合は要注意です。具体的には数十分刻みで変色が広がるような場合です。この状態は先に述べた壊死性筋膜炎壊死性筋炎の可能性があり、一刻を争う状態です。できるだけ早く医療機関を受診してください。

皮膚がとにかく強烈に痛い

蜂窩織炎では痛みを感じることが多いです。しかし、痛みが非常に強い場合には蜂窩織炎が進んで壊死性筋膜炎に進行している可能性が高いと考えられています。

痛みは主観的なものなので一概に語れません。中には壊死性筋膜炎になってもあんまり痛みを感じないという人もいます。一方で、皮膚に炎症が起こって非常に痛いのに無理して我慢する必要はありません。我慢していて治ることは少ないので、できるだけ早く医療機関を受診してください。

眼の周りや顔に症状が出る

眼や顔の皮膚の蜂窩織炎が起こった場合には注意が必要です。眼の周りで蜂窩織炎が起こった状態を眼窩蜂窩織炎と言います。この状態は重症になることが多く、眼が動かしにくくなったり物が二重に見えるようになったりして、場合によっては視力が低下してしまいます。ひどい場合には髄膜炎という重症になることもあるため、眼の周りや顔に皮膚の赤みや痛みが出た場合には、早めに医療機関にかかりましょう。

【参考】

・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・ 伊東 直哉, 感染症内科ただいま診断中!, 中外医学社, 2017