破傷風とはどんな病気か?症状、予防接種、治療などについて
破傷風は神経に対する毒をもつ破傷風菌が原因となる
破傷風はどんな病気か
破傷風は破傷風菌(Clostridium tetani)が原因となる感染症です。破傷風菌は神経に対する毒をもっているため、感染するとけいれんなどの重い症状が現れ、場合によっては死に至ります。過去の日本では感染した人の8割ほどが亡くなる感染症でしたが、現在はワクチン(三種混合ワクチン:ジフテリア、百日咳、破傷風に対するワクチン)が定期接種される背景もあり、感染者数も死亡者数も減っています。とはいえ、最近でも年間に数十人が感染しており、そのうちの半分近くが亡くなっている状況です。さらに世界に視野を広げると、いまでも死亡者の多い感染症となっています。
破傷風の原因菌である破傷風菌とは一体どういった
原因となる破傷風菌とは?
破傷風菌はクロストリジウム属の細菌で、酸素のある環境では生育できない偏性嫌気性菌という細菌です。大気に触れると死滅してしまうため、芽胞という頑丈な状態となって主に土壌の中に存在します。
身体に傷がついたときに、土壌中に存在する芽胞がその傷の中に侵入すると感染が起こります。そのため、土いじりをしているうちに傷ができた人や釘などでけがをした人が破傷風になりやすいのですが、特に傷に心当たりがない人にも起こりえます。
破傷風の潜伏期間は?
感染が起こってから症状が出てくるまでを
この間に、体内に侵入した破傷風菌の芽胞が栄養型に変化して増殖します。栄養体が増えて身体に影響を与えるようになると、症状が出てくるようになります。
破傷風の感染経路は?
破傷風は傷口などの皮膚や粘膜が壊れた部分に細菌が侵入して感染が起こります。結核やインフルエンザのように、空中を病原体がただよって感染するタイプ(
破傷風の死亡率は?予防方法は?
破傷風の死亡率は非常に高いです。破傷風菌の神経毒によって神経が
破傷風にならないようにするためには、次の2つに気をつけることが大事です。
- 破傷風の予防接種を欠かさず受ける
- 傷口ができたらキレイに洗浄する
以前の日本においては破傷風患者が多くいましたが、三種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風)が予防接種されるようになり、2012年からは四種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ)が定期接種となったことを受けて、感染する人が減っています。歴史から見ても、このワクチン接種はとても大きな役割を果たしていることがわかります。
破傷風は死亡率の高い病気ですので、破傷風にならないように心がける必要があります。ワクチン接種することで破傷風に対する
また、傷口をきれいに洗浄することも大切です。破傷風菌は身体の傷口から体内に侵入するので、傷ができたら洗い流すようにしてください。日本の水道水はとてもきれいなので、特別な消毒液などを使わずに水道水を使って洗えば十分です。
破傷風の症状は?
破傷風になるといろいろな症状が出てきます。破傷風は特に神経が冒されやすいのも特徴です。代表的な症状は次のものになります。
- 開口障害
- 食事摂取困難
- 顔面筋の硬直
- 項部硬直(首が固くなる)
- 強直性痙攣(けいれん)
これらの症状は破傷風以外の病気でも起こりえますが、急に症状が出てきた場合には破傷風を考えなければなりません。必ず医療機関にかかってください。(破傷風の症状についてもっと知りたい人はこちらのページを参考にしてください)
破傷風になると後遺症が残るのか
破傷風は神経毒を出すため、神経が冒されることが多いです。そのため、ものが食べられなくなったり、けいれんが起こったりし、時には呼吸ができなくなったりもします。しかし、治療が奏功するとほとんどの人は大きな後遺症が残らずに治ります。
破傷風と診断された人は、自分の経過がどういった状況なのかや今後どういったことが予想されるのかについて、主治医に聞いてみるようにしてください。
破傷風が疑われたときにはどんな検査がされる?診断は?
破傷風が疑われた人は細菌学的検査(塗抹検査、
問診では身体の状況や受傷の有無、持病の有無などが聞かれます。特に以下のことについて聞かれることが多いです。
- 皮膚に傷はあるか?
- どこで受傷したか?
- 破傷風のワクチン(三種混合ワクチン、四種混合ワクチンなど)を打っているか?
- どういう症状が出ているのか?
- いつから症状が出ているのか?
- 症状は進行しているのか?
- 持病はあるのか?
- なにか薬を飲んでいるか?
破傷風は致死率の高い病気ですが、できるだけ早期から治療を行うことで救命率が上がります。問診は多くの時間がかからない診察ですし、これをきちんと行うだけで破傷風と診断できる場合もあります。
全身診察では身体の変化や症状について客観的に調べることができます。自分の気づかないうちにできた傷の有無や、打鍵機(だけんき)を用いた神経伝達のチェック、筋肉の硬直の程度などが調べられます。(破傷風の検査や診断についてもっと知りたい人はこちらのページを参考にしてください)
破傷風の治療について
破傷風に対する治療は主に次のことが行われます。
- 抗破傷風ヒト
免疫グロブリン - 破傷風トキソイド
抗菌薬 (抗生物質 )- 傷口の洗浄やデブリードマン
- 救命措置(人工呼吸器管理、昇圧剤、抗けいれん薬など)
これらの治療は、破傷風と診断された人だけでなく破傷風が疑われる人にも行われます。もう少し詳しく説明します。
抗破傷風ヒト免疫グロブリン
破傷風の治療が必要な場合には、抗破傷風ヒト免疫グロブリンという薬を使います。この薬は破傷風菌が出す毒素に対する免疫防御物質(
破傷風トキソイド
破傷風トキソイドは基本的に破傷風の予防として用いられますが、破傷風菌による感染が疑われる場合に用いられることがあります。特に次にあてはまる人には使用されることがあります。
【破傷風トキソイドの適応と考えられる人】
- 破傷風の予防接種を受けていない人
- 破傷風の予防接種を受ける回数が足りない人
- 破傷風の予防接種を受けたかどうかわからない人
- 破傷風の予防接種を受けてから10年以上経っている人
- 破傷風の予防接種を受けてから5年以上10年未満であるが、受傷した部位が汚染されている人
*予防接種を受ける回数に関しては「予防接種のコラム」を参考にしてください。
破傷風トキソイドを使用するかどうかは専門的な判断に基づいて決定されます。上のリストにある通り、ワクチンの接種状況と傷の程度がとても重要な判断材料になるため、自分の予防接種の状況について答えられるようにどこかに記載しておくようにしてください。
抗菌薬(抗生物質)
破傷風に対して抗菌薬が使用されることがあります。用いられることの多い抗菌薬は以下になります。
抗菌薬は破傷風の治療に欠かせないものではありませんが、創部の汚染が強い場合には使用されます。
傷口の洗浄やデブリードマン
創部が明らかに存在する場合には、清潔に保つことが大事です。傷をよく水で洗い流して汚れを取り除くようにしてください。また、汚染が強い場合には、汚染部位を切除(デブリードマン)する必要があります。
救命措置
破傷風による呼吸の麻痺や痙攣(けいれん)によって命が奪われることがあります。そのため、重症の破傷風に対して次のような治療が行われることがあります。
- 人工呼吸器管理
- 昇圧薬の使用
- 抗けいれん薬の使用
◎人工呼吸器管理
人工呼吸器管理は、呼吸ができなくなくなり命の危険が迫っている人に使用する治療法です。破傷風が重症になると呼吸ができなくなるため、人工呼吸器が用いられることがあります。この治療では口から管を挿入して気管にまで到達させる処置(気管挿管)が必要です。この処置は非常に苦しいため、意識を失う薬を用いて苦痛が緩和されます。
◎昇圧薬の使用
重症の破傷風では
◎抗けいれん薬の使用
破傷風は細菌の作る神経毒によって、神経の麻痺が起こります。その一つとしてけいれんが起こることがあります。
けいれんが続くと、呼吸がうまくできずに命を落とすことがあります。また、破傷風のけいれんは、てんかんのように意識がなくなるわけではないため、筋肉の痛みが非常に強いことも知られています。こうした背景からけいれんを止める薬(抗けいれん薬)がしばしば使用されます。
破傷風の症状についてもっと詳しく知りたい人はこちらのページを参考にしてください。
破傷風の予防接種(ワクチン)について
破傷風には非常に効果が高いワクチンが存在します。正しく接種すれば、その予防効果はほぼ100%であると言われています。現在は破傷風単独のワクチンではなく、四種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)が定期接種(定められた年齢になったら受けるように国が推奨しているワクチン)に指定されています。
四種混合ワクチンとは
四種混合ワクチンはジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオの4つの感染に対して予防効果があります。日本ではしばらく三種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)が打たれていましたが、2012年の11月から四種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)が定期接種となっています。
破傷風ワクチンの効果はどのくらい続くのか?
破傷風ワクチンを接種してからおよそ10年が経つと、その効果がなくなってしまうと考えられています。最後に破傷風を含むワクチンを接種してから10年以上が経った人は破傷風になりやすくなっているので、傷ができやすい仕事をする人や医療関係者は追加の接種が望まれます。
ほとんどのワクチンは小さいときに受けるので、自分のワクチン接種歴を完璧に記憶するのは大変です。母子健康手帳に記載されているので確認するようにしてください。
ワクチンについてもっと詳しく知りたい人はこのページを参考にしてください。
参考文献
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・国立感染症研究所ホームページ「破傷風」(2018.6.27閲覧)