はしょうふう
破傷風
破傷風菌が傷口から体内に侵入して、けいれんや呼吸障害などを引き起こす病気
8人の医師がチェック 134回の改訂 最終更新: 2024.06.04

Beta 破傷風のQ&A

    破傷風の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    破傷風は、破傷風菌(Clostridium tetani)が産生する毒素の一つである神経毒素が痙攣をひき起こす感染症です。

    破傷風菌は土壌中に広く常在し、 何らかの原因で生じた人間の傷口から体内に侵入します。侵入した破傷風菌は感染部位で増殖して破傷風毒素を産生します。破傷風の特徴的な症状である強直性痙攣は破傷風毒素が主な原因であり、潜伏期間(3-21日)の後に局所の症状(痙笑、開口障害、嚥下困難など)から始まります。その後、全身症状(呼吸困難や後弓反張など)に移行し、重篤な患者では呼吸筋の麻痺により窒息死することがあります。

    破傷風は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    2000年以降は1年間に100人前後の患者(致命率:20-50%)が報告されています。また、これらの患者の95%以上が30才以上の成人です。

    破傷風は、他人にうつる病気ですか?

    基本的に土壌にいる破傷風菌が問題となるので人から人へ感染することは心配しなくて良いです。しかし、人に咬みつかれて感染した報告は少ないながら存在します。

    破傷風は、遺伝する病気ですか?

    感染による急性疾患ですので、治癒すれば遺伝の心配はないと考えて良いです。

    破傷風は、どんな症状で発症するのですか?

    患者は通常3-21日の潜伏期を経て特有の症状を呈しますが、その段階は次の4期に分けられます。

    第一期:潜伏期の後、顔面神経の麻痺が生じることから口を開けにくくなり、歯が噛み合わされた状態になります。その他には、全身倦怠感・咽頭痛・首筋の張り・寝汗・歯ぎしりなどの症状も出てきます。

    第二期:次第に開口障害が強くなってきます。さらに、顔面筋の緊張や硬直によって額にしわを生じ、 口唇は横に拡がって開いていきます。これはあたかも苦笑するような表情をで、このような顔貌を破傷風顔貌と称します。

    第三期:首の筋肉が緊張して硬直します。次第に背筋にも緊張や強直をきたして発作的に強直性痙攣が見られてきます。高熱をきたしたり、呼吸に必要な筋肉が動かなくなったり、飲み込み機能の低下による肺炎が見られることもあります。この時期が生命に最も危険な時期で、病状の進行が早いものほど生命危険度が高いと考えられています。(症状が出始めて48時間以内に第三期に至ると最も致死率が高い。)

    第四期:全身性の痙攣はみられないが、筋の強直はまだ残っています。数週間かけて段々と症状は軽快していきます。

    破傷風は、どのように診断するのですか?

    顔面筋の痙攣があれば破傷風を疑います。傷口の細菌培養で破傷風菌が証明されれば確定診断ですが、検出率は非常に低いです。実際に1999-2000年に報告があった破傷風157例の中で、臨床材料から菌が分離されたのは1例のみであり、他の156例は臨床症状から診断されています。

     また、菌の検出率が低いこと以外にも、以下の理由で培養による確定診断が必ずしも必要でないと考えられます。
    1. 破傷風患者の約1/4が外傷歴不明で、培養を行う部位が判然としないことも多いため。
    2. 培養の結果を待っていると症状が進行し致死率も高くなるので、破傷風を疑ったら検査結果よりも治療が優先されるため。

    破傷風の、その他の検査について教えて下さい。

    好中球の上昇やクレアチニンキナーゼの上昇も見られることが多いですが、あくまでも補助的な検査であることに留意が必要です。

    破傷風と診断が紛らわしい病気はありますか?

    ・顎関節症:開口障害があります。
    ・てんかん・髄膜炎・脳炎:痙攣が見られます。ただし、ここに挙がる中枢神経系疾患は意識障害をきたすことが多いですが、破傷風自体で意識障害をきたすことは珍しいです。
    ・ストリキニーネ中毒:苦笑するような顔貌をきたします。
    ・狂犬病:顔面の痙攣が見られます。

    破傷風の治療法について教えて下さい。

    治療はいくつかの方策を合わせて行っていきます。

     まず、破傷風菌が作った神経外毒素を中和する目的に、抗破傷風免疫グロブリン(TIG:Tetanus Immune Globulin)を使用します。
     次に、破傷風菌の増殖抑制の目的に抗菌薬を使用します。抗菌薬は大量のペニシリンを使用することが通常ですが、ミノマイシンやセフトリアキソンといった抗菌薬を内服する場合もあります。
     また、傷口が分かっている場合は、異物や壊死組織の除去や洗浄・消毒を行います。処置を行う際には、菌が血流に乗って全身へ飛んでいくこともありますので、TIGと抗菌薬投与はあらかじめ行っておくことが重要です。
     さらに、痙攣に対しては痙攣を止める薬を使用し、呼吸が停止した場合は人工呼吸器を用いて呼吸をサポートします。

    破傷風の薬は、生涯飲み続けることになるのですか?

    一生飲み続ける必要はありません。

    破傷風では入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?

    呼吸停止した場合は、入院施設にいないと命の危険に関わりますので、基本的に入院治療を行うべきです。

    破傷風は、再発を予防できる病気ですか?

    破傷風トキソイドというワクチンを接種することで免疫を高めれば予防はできます。感染後に3回ワクチンを打つことが必要です。

    破傷風に関して、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。

    乳幼児期に接種する三種混合ワクチンの接種は必ず行ってください。 また、何らかの原因で傷口ができた場合は、必ず水洗いして汚れを落としてください。 口が開きにくいといった症状が出た場合は、必ず医療機関を受診することをお勧めいたします。(傷口がはっきりとしている場合は特に。)

    破傷風は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?

    完治することが多いですが、神経が侵される病気ですので、後遺症が残る場合はあります。