破傷風の治療と予防について:免疫グロブリン、トキソイド、予防接種(ワクチン)など
破傷風はとても死亡率が高い病気です。現代の治療をもってしても感染者の20-50%程が亡くなってしまいます。できるだけ早くから治療を行うことで救命率が上がりますが、なによりも予防接種を打っておくことが重要です。
破傷風になった場合や疑われる場合の治療
破傷風は破傷風菌による
実は破傷風が疑われる人に対しても、同様の治療が行われます。破傷風は非常に死亡率が高い病気なので、診断の確定を待っている間に手遅れにならないようにするためです。
破傷風に対する治療は主に次のことが行われます。
- 抗破傷風ヒト免疫グロブリンの投与
- 破傷風トキソイドの投与
- 抗菌薬(
抗生物質 )の投与 - 傷口の洗浄やデブリードマン
- 救命措置(人工呼吸器管理、昇圧剤、抗けいれん薬など)
これらの治療に対してもう少し詳しく説明します。
抗破傷風ヒト免疫グロブリン
破傷風の治療が必要な場合には、抗破傷風ヒト免疫グロブリンという薬を使います。抗破傷風ヒト免疫グロブリンは筋肉注射や
この薬は破傷風に対する
破傷風トキソイド
破傷風トキソイドは筋肉注射あるいは皮下注射で使用されます。この薬は基本的に破傷風の予防として用いられますが、破傷風菌による感染が疑われる場合に用いられることがあります。特に次にあてはまる人には使用されることがあります。
【破傷風トキソイドの適応と考えられる人】
- 破傷風の予防接種を受けていない人
- 破傷風の予防接種を受ける回数が足りない人
- 破傷風の予防接種を受けたかどうかわからない人
- 破傷風の予防接種を受けてから10年以上経っている人
- 破傷風の予防接種を受けてから5年以上10年未満であるが、受傷した部位が汚染されている人
*予防接種を受ける回数に関しては「予防接種のコラム」を参考にしてください。
破傷風トキソイドを使用するかどうかは専門的な判断に基づいて決定されます。上のリストにある通り、ワクチンの接種状況と傷の程度がとても重要な判断材料になるため、自分の予防接種の状況について答えられるようにどこかに記載しておくようにしてください。
抗菌薬(抗生物質)
破傷風に対して抗菌薬が使用されることがあります。破傷風菌への抗菌効果よりも、他の菌による傷口の混合感染の予防や治療がメインの目的になります。用いられることの多い抗菌薬は以下になります。
- ベンジルペニシリン(ペニシリンG®)
- メトロニダゾール(フラジール®、アネメトロ®など)
- ドキシサイクリン(ビブラマイシン®)
抗菌薬は破傷風の治療に欠かせないものではありませんが、特に創部の汚染が著しい場合には使用したほうが良いと考えられます。
傷口の洗浄やデブリードマン
創部が明らかに存在する場合には、清潔に保つことが大事です。傷口をよく水で洗い流して汚れを取り除くようにしてください。また、汚染が強い場合には、汚染部位を切除(デブリードマン)する必要があります。必ず医療機関を受診して、受傷した時の状況とワクチンの接種状況を伝えるようにしてください。
救命措置
破傷風による呼吸の
- 人工呼吸器管理
- 昇圧薬の使用
- 抗けいれん薬の使用
◎人工呼吸器管理
人工呼吸器管理は、呼吸ができなくなり命の危険が迫っている人に使用する治療法です。破傷風が重症になると呼吸ができなくなるため、人工呼吸器が用いられることがあります。この治療では口から管を挿入して気管にまで到達させる処置(気管挿管)が必要です。この処置は非常に苦しいため、意識を失う薬を用いて苦痛が緩和されます。
◎昇圧薬の使用
重症の破傷風では
◎抗けいれん薬の使用
破傷風は
けいれんが続くと、呼吸がうまくできずに命を落とすことがあります。また、破傷風のけいれんは、てんかんのように意識がなくなるわけではないため、筋肉の痛みが非常に強いことも知られています。こうした背景からけいれんを止める薬(抗けいれん薬)がしばしば使用されます。
破傷風を予防するためのワクチン(予防接種)
破傷風は非常に死亡率の高い病気です。適切に治療しても20-50%くらいの人が亡くなるため、破傷風にならないように予防することがとても大切です。汚い場所で傷ができた場合には、必ず水道水で洗い流すようにしてください。
また、破傷風には非常に効果が高いワクチンが存在します。正しく接種すれば、その予防効果はほぼ100%であると言われています。現在は破傷風単独のワクチンではなく、四種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)が定期接種に指定されています。
定期接種と任意接種とは?
ワクチンには「定期接種」と「任意接種」の2種類があります。定期接種に指定されるワクチンは、定められた年齢になったら受けるように国が推奨しているものです。基本的に無料で受けられることができます。
【定期接種に指定されるワクチンの例】
- 四種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)
- BCG(結核)
- MRワクチン(麻疹、風疹)
- 日本脳炎ワクチン
- 水疱瘡ワクチン(水痘・帯状疱疹)
肺炎球菌 ワクチン(PCV13)- ヒブワクチン(
インフルエンザ桿菌 b型) - B型肝炎ワクチン
- ロタ
ウイルス ワクチン ヒトパピローマウイルス ワクチン(2020年10月1日現在、副反応を踏まえて再開を吟味している状況)
一方、任意接種に指定されるワクチンは希望する人が受けられるものです。任意接種とはいえ重要な感染症予防効果があり、基本的には受けることが望ましいワクチンです。
【任意接種に指定されるワクチンの例】
これだけ多くのワクチンのほとんどを2歳までに受けなければなりません。そのため、スケジュールを上手に立てることが必要です。上手なスケジュールを立てることに関するコラムがありますので参考にしてください。
四種混合ワクチンと三種混合ワクチン
三種混合ワクチンはジフテリア・百日咳・破傷風に対するワクチンです。四種混合ワクチンはそれに加えてポリオの予防効果があります。日本ではしばらく三種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)が打たれていましたが、2012年の11月から四種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)が定期接種となっています。
破傷風ワクチンの効果は永遠に続くのか?
破傷風ワクチンを接種してからおよそ10年が経つと、その効果がなくなってしまうと考えられています。日本では生後12-18ヶ月までに四種混合ワクチンを4回接種して、11歳の時にも二種混合ワクチン(ジフテリア、破傷風)を追加で接種することが推奨されています。
最後に破傷風を含むワクチンを接種してから10年以上が経った人は要注意です。破傷風になりやすくなっているので、特に傷ができやすい仕事をする人や医療関係者は追加の接種が望まれます。また、11歳時の二種混合ワクチンは任意接種なので、これを受けていない人もいることを忘れてはいけません。
ほとんどのワクチンは小さいときに受けるので、自分のワクチン接種歴を完璧に記憶するのは大変です。母子健康手帳に記載されているので確認するようにしてください。
参考文献
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・国立感染症研究所ホームページ「破傷風」(2018.6.27閲覧)