自律神経失調症とはどのような病気か:交感神経と副交感神経の役割、原因となるストレス、ホルモンバランス、病気など
目次
1. 自律神経とはどんなものなのか:交感神経と副交感神経の働きについて
自律神経は全身に張り巡らされている神経です。自律神経は、臓器をはたらかせたり休ませたりするという、とても大切な役割を担っています。自律神経が関わるものとしては次のものが挙げられます。
【自律神経が関わる身体の働き】
- 心臓の拍動
- 食べ物の消化
- 涙の分泌
- 唾液の分泌
- 発汗(汗をかくこと)
- 勃起
- 排尿
交感神経と副交感神経は、下記の図のように対になるはたらきをしています。
たとえば心拍数は交感神経のはたらきで多くなり、副交感神経のはたらきで少なくなります。胃腸の運動はその逆です。臓器によってはたらきかけ方は違いますが、ふたつの自律神経のうち、一方が臓器をはたらかせて、もう一方が休ませるという基本的な関係は同じです。
一般的に交感神経は次の状況で活発になります。
【交感神経が活発になる状況】
- 緊張しているとき
- 怒り、恐怖、不安を感じているとき
- 起きているとき
たとえば、大事な会議でプレゼンをする時などの緊張する場面を想像してみてください。汗が出て、心臓がドキドキし、口の中がパサつく様子が浮かんでくると思います。これが交感神経が活発になった状態です。
一方で、一般的に、副交感神経は次の状況で活発になります。
【副交感神経が活発になる状況】
- リラックスしているとき
- 寝ているとき
心拍は落ち着き、唾液の出が良くなったり、胃腸の動きが活発になったりします。
2. 自律神経失調症は交感神経と副交感神経のバランスが崩れてる状態
ここまでで説明したように、自律神経には交感神経と副交感神経の2つがあります。周りの環境や心の状態に合わせて、どちらかが活発になりどちらかの働きが抑えられる、といったように対応しながら、身体を適切な状態に保っています。
たとえば、目が覚めるときに血圧が上がるのは、起きて活動するために必要なことです。逆に、休んでいる時に胃腸がよく働くのも、余ったエネルギーを有効活用するためには理にかなっていることです。
この交感神経と副交感神経のバランスが崩れると、自律神経失調症となり、めまいや頭痛などのさまざまな症状が全身にあらわれるようになるのです。症状については「こちらのページ」で詳しく説明しています。
3. 自律神経のバランスを崩す原因①:ストレス(肉体・精神・社会・心理)
自律神経のはたらきをコントロールしている部位の一つが、
長い間強いストレスにさらされると、視床下部が刺激され続け、交感神経が活発な状態が続くことになります。そうした状況が続くと、本来は副交感神経が活発になるような場面でも、交感神経が活発なままとなってしまい、さまざまな症状が現れます。
たとえば、本来副交感神経が活発になるリラックスした場面で交感神経が活発になってしまっていると、心臓がドキドキする、異様なほど汗をかくといった、リラックスとは相反する症状が現れます。
自律神経に影響を及ぼすストレスはその原因によって次の4種類に分けて考えることができます。
【自律神経失調症の原因になるストレス】
- 肉体的ストレス
- 環境的ストレス
- 社会的ストレス
- 心理的ストレス
一つひとつ詳しくみていきます。
自律神経失調症の原因:肉体的ストレス
「ストレス」と聞いて思い浮かびやすいのは、いわゆる精神的なストレスかもしれません。しかし、自律神経失調症の原因になる「ストレス」には身体的な原因をもつものも含まれます。
肉体的ストレスの原因には次のようなものがあります。
【自律神経失調症の原因になる肉体的ストレス】
- 病気
- ケガ
- 生活習慣の乱れ
- 偏った食事
- 運動不足
- 夜更かし
- 不規則な睡眠
意外かもしれませんが、病気やケガも自律神経失調症の引き金になりえます。これらが引き金となっている人では、病気やケガの治療がうまくいくことで自律神経失調症が改善することもあります。
また、生活習慣の乱れも自律神経のバランスを崩す原因になります。起きている間は交感神経が活発になり、寝ている間は主に副交感神経が活発になるというように、1日の中でメインとして働く自律神経の入れ替わりが起こっているわけです。そこへ、夜更かしや昼夜逆転など睡眠リズムの乱れといったストレスが加わると、自律神経のバランスを崩すことにつながってしまうのです。
自律神経失調症と診断を受けている人や、疑いがある人はまず睡眠を中心に生活リズムが規則正しいか確認してみてください。
自律神経失調症の原因:環境的ストレス
環境からの刺激は心身にストレスを与えることがあります。環境的ストレスとしては次の例が挙げられます。
【自律神経失調症の原因になる環境的ストレス】
- 季節の変わり目、急な気温の変化
- 紫外線
- 騒音
自律神経のリズムは一日のなかだけでなく、年間を通じても変化していきます。例えば、暑い夏には副交感神経が働きやすく、寒い冬には交感神経が働きやすくなります。こうした、季節ごとのバランス調節によって、夏には汗をかきやすくして体温が上がり過ぎないようにする、といった適応をしています。この身体に備わったメカニズムに異常が起こりやすいのは、気温の変化幅が大きい季節の変わり目です。急な気温の変化によって自律神経の調節がうまくいかなくなると考えられています。
季節の変わり目をうまく乗り切るためには、できるだけ気候の変化に身体を慣らせつつも、「無理をしない」といった対策に期待が持てるかもしれません。
また、紫外線、騒音も量が過ぎれば、自律神経のバランスを乱す原因となります。これらは工夫次第で、避けたり、
自律神経失調症の原因:社会的ストレス
ライフイベントなどの社会的なストレスも自律神経失調症の原因になりえます。
【自律神経失調症の原因になる社会的ストレス】
- 仕事内容の変化や心配事
- 学校での変化や問題
- 家庭での重要な出来事
人間関係や社会生活における問題は多くの人が抱えるストレスかもしれません。しかし社会的なストレスには必ずしも辛いことばかりが含まれるわけではありません。引っ越し、昇進、転職、進学などの変化がストレスとなることもあります。こうしたストレスを解決するのは簡単ではありませんが、コミュニケーションをしっかりととったり、周囲の人に助言を求めたりすることで解決の糸口が見つかることがあります。
自律神経失調症の原因:心理的ストレス
強い感情などの心理的な変化も心身にストレスをかけて、自律神経失調症の原因になりえます。心理的ストレスがかかるのは次のような感情が湧く状況です。
【自律神経失調症の原因になる心理的ストレス】
- 悲しみ
- 怒り
- 不満
- 恐怖
たとえば、配偶者や親友との死別のような深い悲しみを感じるような出来事が、自律神経失調症の引き金になることはしばしばあります。悲しみに限らず、強い感情を自分だけの力で上手にコントロールするのは難しいことがあります。感情に強く影響されていると感じた場合には、周囲の人に相談したり、話を聞いてもらったりするなどして、頼ってみてください。
4. 自律神経失調症の原因としてストレスに注目するのはなぜか
自律神経失調症をうまく治療するには、まず何が原因となっているかを見極める必要があります。
原因としてストレスに注目する理由の一つに、悪循環が起きやすいということがあります。ストレスが原因で自律神経失調症が引き起こされると、自律神経失調症の症状がさらにストレスを引き起こします。結果としてますます自律神経失調症が悪くなるという悪循環に陥ってしまいます。
中でも病気やケガは、身体と心の両方にストレスを与えるため、強いストレス源になり、自律神経失調症の原因になりやすい要素です。
もう一つの理由としては、ストレスは本人しかわからない場合が多いということです。お医者さんは原因ごとに有効な治療法を一緒に考えてくれますが、原因がよりはっきりと見えていればいるほど、有力な対処法が取りやすくなります。
たとえば、自律神経失調症の原因が次に説明するホルモンバランスの乱れであれば、ホルモンを調整することで治療が可能ですし、ホルモンの乱れを調べる方法もある程度確立しています。一方で、ストレスは本人にしかわからないことが多いのです。そのため、上手に治療をすすめるには、自分にストレスがかかっているのか、もしそうであるならばどんなストレスがかかっているかを客観的に見つめることが必要になってきます。
効果的な治療を行うためにも、ストレスの有無や種類についてまずしっかりと考えてみてください。
5. 自律神経のバランスを崩す原因②:ホルモンバランスの変化
視床下部は自律神経の調整以外に、ホルモンの分泌にも重要な役割を果たしています。また、月経周期や、閉経に伴って起こる女性ホルモンの量の変化が、自律神経の働きに影響を与えることも分かっています。女性ではホルモンの分泌量が一定ではなく変化があることが自律神経失調症の原因になりうると考えられています。
月経の前後や閉経期に自律神経失調症が疑われる症状が出ている人は、ホルモンバランスを調整することで効果が期待できるかもしれません。当てはまる人は婦人科で相談してみてください。
6. 自律神経に影響を及ぼす病気について
自律神経失調症はストレスなどが原因となることがある一方で、糖尿病やパーキンソン病などの病気が自律神経に異常を及ぼすことがあります。
【自律神経へ影響を及ぼす病気】
それぞれについて、以下で一つずつ詳しく説明します。
糖尿病
糖尿病は体内で
糖尿病は初期にはあまり症状が目立たないのですが、長年かけて起こる続
糖尿病について詳しい説明は「糖尿の詳細情報」を参考にしてください。
パーキンソン病
パーキンソン病は脳内物質であるドパミン(ドーパミン)の不足が原因で、以下のようにさまざまな症状が現れる病気です。
- 手足が震える(振戦)
- 手足の動きがカクカクとしてしまう(痙縮、強剛)
- 動作がゆっくりになる
- 立って歩くときのバランスが悪くなる(姿勢反射障害)
パーキンソン病では自律神経のはたらきが悪くなり、次のような症状が数年間かけて出現し、徐々に進行していきます。
- 立ちくらみ
- 便秘
排尿障害 (頻尿 、残尿、失禁)- 勃起不全
パーキンソン病の診断では
脳卒中(脳出血や脳梗塞)
脳の血管が破れて出血する脳出血や、脳の血管が詰まってしまう脳梗塞などをあわせて脳卒中と呼びます。高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病が原因になります。
脳卒中も自律神経の異常を引き起こすのですが、特に、便秘や尿に関連した症状(頻尿、残尿、失禁)が多いです。
詳しくは「脳梗塞の詳細情報」や「脳出血の基礎知識」を参考にしてください。
ギラン・バレー症候群
ギラン・バレー症候群は、
自律神経の異常による症状としては、
詳しくは「ギランバレー症候群の詳細情報」を参考にしてください。
多系統萎縮症(オリーブ・橋・小脳萎縮症、線条体黒質変性症、シャイ・ドレーガー症候群)
多系統萎縮症という名前はいくつかの病気をまとめたもので、オリーブ・橋・小脳萎縮症、線条体黒質変性症、シャイ・ドレーガー症候群などが含まれます。
脳の細胞が障害されて起こる病気で、歩きにくくなったり、パーキンソン病に似た症状や、自律神経失調症の症状が現れたりします。これらの症状は脳細胞の異常が原因ですが、異常が起きるメカニズムは分かっていません。
自律神経に関わる症状としては、立ちくらみ、勃起障害、排尿障害(頻尿、残尿、失禁)、便秘、汗をかきにくくなるといったものがあります。
診断のためには頭の
詳しくは「多系統萎縮症の基礎知識」を参考にしてください。
脊髄損傷(頸髄損傷、胸髄損傷)
脊髄損傷による自律神経の症状は立ちくらみや排尿障害(頻尿、残尿、失禁)、便秘、勃起障害、汗をかきにくくなることなどです。重症の場合には血圧が低下して、自律神経の異常が命に関わることもあります。
診断は
詳しくは「脊髄損傷の基礎知識」を参考にしてください。
参考文献