こうとうがん
喉頭がん
のどの奥の、のどぼとけのあたりの位置(喉頭)にできるがん
11人の医師がチェック 95回の改訂 最終更新: 2024.05.11

喉頭がんの放射線治療で気をつけるべき有害反応とは?

放射線治療がん細胞の死滅を目的とした治療ですが、がんだけではなく、がん以外の部分にも影響を与えます。副作用は症状の出てくる時期によって急性期有害反応と、晩期有害反応に分けられます。

1. 放射線治療の急性期有害反応とは?

粘膜炎

粘膜炎は放射線治療で必ず起きる重要な有害反応です。重症化した場合は、放射線治療を中止せざるを得ないこともあります。

喉頭に放射線を当てると、照射部分に一致して、がんとともに周囲の正常な粘膜が焼けます。粘膜が焼けると粘膜炎となり、のどの違和感や飲み込みにくさがでます。声門上がんでは口に近い部分まで、広く放射線があたるため、広範囲の粘膜炎になります。

放射線治療開始後、2-3週目(照射した量が合計20-30Gyになるころ)のあたりで口やのどの乾燥や、味覚障害が出現します。3-4週目(30-40Gy)以降に、照射範囲に一致して、粘膜が赤くなったり、むくんだり、出血などがおこります。治療が進むにつれて更に悪化し、痛みの悪化を認め、飲み込みにくさも悪化します。照射終了後1-2週で最も悪化し、1ヶ月程度で回復します。

粘膜炎では痰や分泌物が口からのどに溜まります。痛みで痰や分泌物が上手く出せない場合、肺炎などを起こしやすくなります。粘膜炎の影響や、放射線による嚥下障害(飲み込みの障害)で、嚥下性肺炎誤嚥性肺炎)をおこし、放射線治療を中止せざるをえないこともあります。

放射線治療を中断したり、中止することは、がんの治療で期待した効果が得られないこととなります。そのような事態を避けるために、治療前や治療中にできるケアについては、「放射線治療のケアは何をするの?」に詳しく説明してあります。

皮膚炎

喉頭に放射線をあてる場合は、放射線は必ず皮膚を通過して喉頭に達します。そのため皮膚の放射線のあたった部分に、赤みや痛みを生じます。放射線治療による皮膚の障害は、ひどい日焼けのような状況を想像するとわかりやすいかもしれません。つまり、赤くなったり、乾燥したり、痛みがでたり、皮がむけることもあります。

放射線治療開始後、2-3週目(照射した量が合計20-30Gyになるころ)のあたりで皮膚の赤みなどが生じ、かゆみや皮膚のピリピリした感じが出現します。3-5週目(30-50Gy)では、皮膚の乾燥や落屑(らくせつ;ポロポロ剥がれること)が生じ、熱感や軽い痛みが出現します。治療を続けると、更に悪化し、5-6週目(50-60Gy)では、皮膚のびらん、浸出液、出血がおき、強いかゆみや痛みを生じます。照射終了後も悪化し、2-3週でピークに達し、1-3ヶ月で回復します。

皮膚炎に対しては、保湿をすることと、刺激を避けることが重要です。

ひげそりや体にテープを貼ることなどを避け、襟のない服をきるほうが良いでしょう。ひげは剃らない方が望ましいのですが、難しいこともあると思います。ひげそりをする場合は、クリームやローションの使用は避けて、通常のカミソリではなく、刺激の少ない電気シェーバーを用いましょう。皮膚炎に対するケアについては、「放射線治療のケアは何をするの?」に詳しく説明してあります。

唾液分泌障害

唾液を作り出す、耳下腺や顎下腺や口の中にある小さな唾液腺が照射される場合には、唾液の分泌量が低下します。長期間にわたって唾液が減ると口腔内の乾燥が起こり、う歯虫歯)の原因にもなります。

味覚障害

舌に放射線があたると、味覚障害が生じます。喉頭がんでは舌全体に照射されることは少ないです。照射範囲が狭いと、半年-1年後には味覚はほぼ回復します。

2. 放射線による晩期障害とは?

嚥下障害

食べものが飲み込みにくくなることを嚥下障害(えんげしょうがい)といいます。放射線によって、のどの感覚低下がおこり、嚥下反射や咳反射がおこりにくくなります。粘膜炎による痛みや、乾燥によっても飲み込みにくくなります。痛みは放射線治療後に改善しますが、乾燥は長期間持続することがあります。放射線によって、咽頭粘膜が線維化して硬くなったり、嚥下に関連する筋肉が硬くなることで、嚥下運動がうまくいかなくなることがあります。

放射線性皮膚炎

急性期の放射線障害が改善後も皮膚の障害が残ることがあります。

皮膚の細胞や、皮脂腺、汗腺などが放射線の影響を受け、皮膚の乾燥や炎症を起こします。放射線治療終了後、数ヶ月後に、皮膚が硬くなったり、黒ずんだり、乾燥したりします。

放射線治療後も、皮膚炎を最小限にするためのケアを行うと重症化を防ぐことができます。入浴時に皮膚をゴシゴシ擦らないようにします。皮膚の乾燥は持続することが多いため、刺激の少ない保湿クリームを使用しましょう。直射日光を浴びると皮膚の乾燥が悪化するため、なるべく避けましょう。

唾液分泌障害

放射線によって耳下腺(じかせん)や顎下腺(がくかせん)、口腔内の小さな唾液腺が破壊されることで、唾液の量が少なくなります。唾液が少なくなると、口の中が乾燥して粘ついて不快になります。唾液の分泌が低下し、口腔内が乾燥すると、口の中の細菌感染や、う歯などの原因になります。うがいや保湿剤を用いたケア、水分摂取を心がけます。

唾液腺マッサージも有効です。

  • 耳下腺:耳の前のあたりを円を描くように押します。
  • 顎下腺:顎の骨の内側の柔らかい部分を、耳の下から顎の先まで、軽く押します。
  • 舌下腺:顎の先の尖った部分の内側で、舌の付け根を押し上げます。

口腔乾燥が続くと、口腔内の痛みにもつながるため、保湿や水分摂取を行います。唾液が少ないと食事が飲み込みにくくなるため、食べ物と水分を交互に摂取すると良いでしょう。口腔乾燥が強い場合は、唾液分泌促進薬を用います。

味覚低下

放射線照射中よりおこります。徐々に回復していくことがほとんどです。稀に広範囲の照射後は味覚が改善しないこともあります。

難治性粘膜潰瘍

放射線により、口腔〜のど、食道などに潰瘍ができることがあります。潰瘍が進行すると、出血や穿孔孔形成などが起こることがあります。食事を飲み込んだ時にしみるような感覚や、痛み、違和感がでてきた場合は、一度主治医に相談してみましょう。

甲状腺機能低下

甲状腺はのど仏のすぐ尾側にあります。喉頭への照射を行った場合は、甲状腺が照射され甲状腺機能が低下することがあります。頸部に照射した場合は約10-50%に甲状腺機能低下が起こります。

放射線治療後は定期的に甲状腺ホルモン値をはかり、必要に応じて、甲状腺ホルモンの補充を行います。

放射線骨髄炎、顎骨壊死(がっこつえし)

顎の骨に50-70Gyの放射線があたると骨髄炎がおこることがあります。放射線治療前に歯周炎う歯があった場合で、歯科治療を行わずに放射線治療を行った場合は、放射線治療後に感染などの症状を起こし、顎骨壊死(顎の骨が腐ること)になることもあります。顎骨への放射線量、歯の状態でう歯が多い場合、糖尿病などがあると起こりやすくなります。

放射線治療後の抜歯は顎骨壊死の原因になるため、放射線治療前には、う歯の確認、必要に応じて抜歯、う歯歯周炎の有無などを確認し、口腔ケアを行います。

顎骨壊死は、放射線治療後の数ヶ月から数年後までに出現することがあります。その場合は、必ず放射線治療を受けたことを伝えましょう。

喉頭壊死(こうとうえし)

放射線治療により喉頭の血流が悪化し、喉頭の軟骨などが腐ることがあります。これを喉頭壊死といいます。喉頭壊死の割合は3%前後と言われています。喉頭壊死の診断は難しく、がんの再発と区別をするのが困難です。

症状は、のど周囲の痛み、飲み込み時の痛み、飲み込みにくさ、声がれの悪化、息苦しさなどです。喉頭壊死を疑った場合は、各種画像検査を追加しますが、いずれの画像でも、がんの再発と区別することができません。

ほとんどの場合は、確定診断の目的を兼ねて再度手術を行います。手術では壊死した部分を摘出する必要があるため、喉頭全摘術や、咽喉食摘術(下咽頭・喉頭・頸部食道をまとめて摘出)を行います。喉頭温存を目的とした放射線治療ですが、喉頭壊死を発症した場合は、喉頭を摘出せざるを得ません。

喉頭浮腫(こうとうふしゅ)

放射線治療を行うと、喉頭の粘膜に炎症がおきて、浮腫を起こします。呼吸困難や嚥下障害の原因にもなります。のどの違和感などの悪化があれば、すぐに相談してみましょう。喉頭浮腫の経過観察の目的でも、耳鼻科の外来を継続通院しましょう。

頸部リンパ浮腫

喉頭の後ろにある下咽頭に放射線が当たった場合に起こりやすくなります。下咽頭はリンパ流が豊富なため、放射線治療でリンパの流れが悪くなると、一時的に頸部の腫れが起こります。顎下のあたりから頸部まで腫れることがあります。リンパの流れを改善するようにマッサージなどを行うと症状を改善することができます。

3. 放射線治療のケアは何をするの?

放射線治療では、粘膜炎や皮膚炎などをはじめとした、様々な有害事象が起こります。有害事象が強い場合は、放射線治療を中断したり、中止せざるを得ないこともあります。放射線治療を中断したり、中止することは、がんの治療で期待した効果が得られないこととなります。そのような事態を避けるために、治療前や治療中にできるケアについて、みていきましょう。

4. 放射線治療前に行うケアとは?

放射線治療前に歯科で、口腔内の評価を行います。放射線治療中は、粘膜炎による痛みのため、う歯歯周炎の治療が困難であるため、事前に治療を行います。放射線治療後の歯科治療は、放射線骨髄炎、顎骨壊死(がっこつえし)になるリスクが高いため、抜歯などが必要な場合は、放射線治療前に行います。

放射線治療中の口腔ケアの方法も事前に習っておくとよいでしょう。しっかりとした口腔ケアを行うことは、放射線治療中の粘膜炎の悪化や、嚥下性肺炎誤嚥性肺炎)などの合併症の発症予防になります。

5. 放射線治療中に行うケアとは?

放射線治療中に行うケアで重要なことは、粘膜炎と皮膚炎に対するケアです。粘膜炎や皮膚炎が悪化した場合は、放射線治療を中止せざるを得ないこともあります。治療を中止すると、期待したがんへの効果が得られなくなります。中止まで至らない場合でも、粘膜炎が悪化して、食事が摂れなくなった場合には、栄養状態が悪化し、更なる粘膜炎の悪化や、皮膚炎の悪化につながります。放射線治療を完遂するためには、どのようなことをすれば良いのかみていきましょう。

放射線治療中の粘膜炎のケア

放射線治療中に口腔内のケアを行うことで、粘膜炎の悪化を防ぐことができます。

  • 口腔内の清潔保持
  • 口腔内の保湿
  • 痛みのコントロール
  • 食事の工夫

粘膜炎が悪化した場合には、放射線治療を中止せざるを得ないこともあります。治療を中止すると、期待したがんへの効果が得られないため、協力して口腔ケアを行っていきましょう。

■口腔内の清潔保持

粘膜炎は口腔内がよごれて、感染を起こすと悪化します。口腔内を清潔に保つために、歯みがきやうがいを行いましょう。歯みがきに使用するブラシは様々なものがありますので、歯科医師や歯科衛生士と相談しましょう。

うがいは粘膜炎になる前から使用して、習慣化しておきましょう。うがいは、歯みがきができないほどの、粘膜炎になった時にも口腔内の清潔保持にも使用可能です。アルコールを含む咳嗽薬やポビドンヨードガーグル液などは口腔内の乾燥を悪化させるため、避けたほうが良いです。

粘膜炎で口からの食事ができなくなっても、口腔内は痰や分泌物で汚染されるため、歯みがきやうがいは継続しましょう。

■口腔内の保湿

唾液腺に放射線が照射された場合は、口腔内が乾燥します。唾液は粘膜の保護作用ももつため、乾燥すると粘膜が傷つきやすくなり、粘膜炎が悪化します。唾液分泌が低下すると食事の飲み込みが悪化したり、口腔乾燥により睡眠障害になることもあります。

水分摂取をする他、刺激の少ない保湿剤や人工唾液を用いて、保湿を行いましょう。唾液を出しやすくする内服薬もありますので、主治医や歯科医師に相談してみてもよいでしょう。

■痛みのコントロール

粘膜炎は放射線治療が進むにしたがって悪化します。粘膜炎が悪化すると口から食事をとることができにくくなります。痛みがある場合は、痛み止めを使用すると食事がしやすくなります。内服の痛み止めや、麻酔薬のうがい薬など種々ありますので、相談してみましょう。痛みが悪化した場合は医療用の麻薬を使用することもあります。医療用の麻薬と聞くと、抵抗があるかもしれません。麻薬の副作用には眠気、吐き気、便秘、呼吸の抑制、薬の依存などがありますが、痛みの強さに応じて、適切に使用した場合は、安全に使用ができます。医療用の麻薬を使用しながら口からの食事を継続することで、栄養状態を維持して元気に過ごす助けになります。

■食事の工夫

粘膜炎の悪化で、食事量が低下すると、栄養状態が悪化して、粘膜炎が治りにくくなります。食べやすい食事への工夫も重要です。

粘膜の刺激を減らすために、高温の食品や、刺激性食品(酸味や辛いもの)を避けたり、味付けを控えめにしたり、口でつぶせる柔らかさにしましょう。

栄養補助食品などもありますので、主治医に相談しましょう。

経口摂取が出来なくなった場合は、点滴や胃瘻(いろう)、経鼻胃管などの栄養摂取方法を検討します。

放射線治療中の皮膚のケア

頸部の放射線治療では、体の厚みが不均一であること、衣類の襟による刺激が加わりやすいことなどから、放射線皮膚炎をおこしやすく、ケアが大切です。

  • 皮膚の清潔
  • 皮膚の保湿
  • 皮膚の刺激を回避する

具体的にどのような点を注意すべきか、みていきましょう。

■皮膚の清潔

照射部位は清潔に保ちましょう。皮膚の落屑(らくせつ;ポロポロ剥がれること)したものが残っていると、感染しやすいため、石鹸などをよく泡立てて、優しく洗いましょう。熱いお湯では刺激が強いため、微温湯(ぬるま湯)を使用します。洗浄後に拭く時も、タオルなどで強くこすることはさけて、押さえて水分を拭き取るようにしましょう。

皮膚炎が悪化した際は、石鹸は使用せずに、洗い流すのみにしましょう。水道水で洗うのが痛い場合は、病院で相談してみましょう。生理食塩水などを用いると、刺激を減らすことができます。

■皮膚の保湿

表皮剥離がないうちは、なにもつけずにおきましょう。表皮剥離が出現してきたら、軟膏(白色ワセリン、アズノール®軟膏など)を塗布して保湿をしましょう。軟膏は皮膚を洗浄して清潔にした後にしましょう。乾燥してきたら、清潔にして、塗りましょう。放射線照射中は、金属を含む酸化亜鉛(亜鉛華軟膏)、スルファジアジン銀(ゲーベン®クリーム)や、基剤がクリームのものは避けましょう。基本的には病院で処方されたもの以外は塗らないようにしましょう。化粧品を含めて、市販のものは使用しないようにしましょう。

表皮剥離し、皮膚を保護する必要がある場合でも、直接ガーゼをあてないようにしましょう。普通のガーゼは皮膚にくっつきやすく、剥がす際に、更に表皮が剥がれて皮膚炎が悪化することがあります。貼り付きにくいガーゼなどがありますので、主治医に相談してみましょう。

■皮膚の刺激を回避する

衣服の襟が当たらないようにしましょう。皮膚への刺激になるような、ウールや固い素材をさけましょう。照射野に絆創膏や湿布などを貼らないようにしましょう。刺激が強い場合もありますので、市販の化粧品やクリームなどの使用は行わずに、病院で処方された軟膏のみを使用しましょう。軟膏を塗る時も強くこすらないようにしましょう。

ひげそりは刺激を考えると、全くしないことが望ましいのですが、現実的に難しい場合も多いですね。髭を剃る場合は、クリームやローションの使用は避けて、通常のカミソリではなく、刺激の少ない電気シェーバーを用いて最低限の頻度で行うと良いでしょう。

6. 放射線治療後に行うケアとは?

粘膜炎は、放射線治療終了後に2-4週程度で徐々に改善します。粘膜炎の症状がある間は、治療中と同じような、口腔ケアや、保湿、痛みのコントロールをしましょう。

口腔乾燥は照射終了後も数年にわたって持続することがあります。口腔乾燥などの症状がある場合は、保湿などは引き続きおこないましょう。

口腔乾燥からは、う歯虫歯)になりやすくなります。う歯で抜歯などをすると、顎骨壊死のリスクが高まりますので、う歯にもならないよう、継続的な口腔ケアも重要です。