ヘリコバクター・ピロリ感染症はどんな病気か?
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は胃の粘膜に感染する
目次
1. ヘリコバクター・ピロリ菌について
ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)はらせん形をした細菌で、菌体の端に2-7本の鞭毛(べんもう)と呼ばれるヒゲのようなものが付いています。大きさは約3.5マイクロメートル(1マイクロメートルは1mmの1000分の1)で動物の胃に生息しており、鞭毛を動かして液体の中を移動します。胃の中には強力な酸である胃酸があるため普通の細菌は生き残ることができません。ピロリ菌は「ウレアーゼ」と呼ばれる
2. ヘリコバクター・ピロリ感染症とはどんな病気なのか?
ヘリコバクター・ピロリ感染症ではピロリ菌が胃の粘膜に感染して胃炎を引き起こします。この状態をヘリコバクター・ピロリ感染胃炎と呼びます。
感染経路について
ピロリ菌は不衛生な飲み水や食べ物から感染したり、ピロリ菌に感染している他の家族から家族内感染すると言われています。胃粘膜の
感染率について
日本では上下水道の整備など衛生環境が改善したことによりピロリ菌感染の頻度は低下しています。2015年の報告によると、日本全国のピロリ菌感染者の割合は約35%と言われています。
年代別に見ると、ピロリ菌の感染率は70歳以上の人で40%以上、40歳代で20%、30歳代で12%と年代が若くなるほど感染率が低い傾向にあります。
ヘリコバクター・ピロリ感染症と関連がある病気
ヘリコバクター・ピロリ感染症で代表的な病気は、ピロリ菌によって引き起こされる「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」です。ピロリ菌に感染した人全員に胃炎が起こるとされており、胃炎の状態が長く続くと胃の粘膜が「萎縮性胃炎」と呼ばれる状態となります。この萎縮性胃炎が起きたところから胃・十二指腸潰瘍や胃がんが生じます。
その他にピロリ菌感染が原因で引き起こされることが分かっている病気には、次のようなものがあります。
【ヘリコバクター・ピロリ感染症が引き起こす病気】
- 慢性胃炎(萎縮性胃炎)
- 胃過形成性ポリープ
- 機能性ディスペプシア(FD)
- 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
- 胃がん
- 胃MALTリンパ腫(マルトリンパ腫)
- 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
- 鉄欠乏性貧血
これらの病気ではピロリ菌の除菌治療によって病状が改善する可能性があります(詳しくはこちらのページでも説明しています)。
また、ピロリ菌感染と関連があるのではないかと言われている病気には次のようなものがあります。
【ヘリコバクター・ピロリ感染症に関連があると言われる病気】
これらの病気とピロリ菌の関連については分かっていないことが多く、今後の研究結果が待たれます。
3. ヘリコバクター・ピロリ感染症に起こりやすい症状について
ピロリ菌に感染した直後には急性胃炎が起こるため、次のような症状が出ることがあります。
- 胃もたれ、吐き気
- 腹痛
- 食欲低下
一方、ピロリ菌に
4. ヘリコバクター・ピロリ感染症が疑われたときに行われる検査について
ピロリ菌感染が疑われた場合には、①胃炎があるかどうか調べる検査、②ピロリ菌感染の有無を調べる検査、の2つを行います。
胃炎があるかどうか調べる検査
内視鏡 検査で胃炎がみつかったこと- 内視鏡検査または胃
X線検査 で胃潰瘍・十二指腸潰瘍と診断されていること - 特発性血小板減少性紫斑病と診断されていること
つまり、3番目の場合を除くとまずは内視鏡検査(または胃X線検査)を受ける必要があります。
◎
「
上部消化管内視鏡検査では胃の粘膜を直接観察できるので、胃炎があるかどうかを診断することができます。また、胃潰瘍や十二指腸潰瘍がある場合にも診断ができます。
内視鏡検査のメリットの一つは、
◎胃X線検査
「バリウム検査」と呼ばれることもある検査です。
胃X線検査では胃潰瘍や十二指腸潰瘍の診断を行うことができますが、ピロリ菌の治療に必要な胃炎の診断を行うことはできません。胃X線検査で胃炎が疑われた場合には内視鏡検査を受ける必要があります。
ピロリ菌感染を調べる検査
内視鏡検査(または胃X線検査)で胃炎や胃・十二指腸潰瘍と診断された場合、ピロリ菌がいるかどうかを調べる検査を行います。この検査にはいくつかの種類がありますが、検査が簡便で精度が高いことから、尿素呼気試験または血液検査が利用されることが多いです。
◎尿素呼気試験(Urease breath test, UBT)
ピロリ菌が出す「ウレアーゼ」という酵素を利用した検査です。専用の検査薬を内服する前後で息(呼気)を採取し、その中に含まれる二酸化炭素を調べることでピロリ菌の有無を判定します。
抗菌薬や胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬(PPI)など)を内服している人ではうまく結果判定できないことがあるため、検査の2週間以上前から内服を中止するようにします。
◎血液検査(抗ヘリコバクター・ピロリ
採血を行い、ピロリ菌に対する抗体が血液の中にどのくらい含まれているかを調べます。ピロリ菌に感染している人では抗体の値が高くなります。
内服している薬の種類によらず検査が可能です。
◎便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定法
ピロリ菌は胃に感染する菌ですが、一部は
◎内視鏡を用いる検査
上部消化管内視鏡検査を行い、胃粘膜の一部を生検してピロリ菌の有無を調べる検査です。迅速ウレアーゼ試験(RUT)、鏡検法、
内視鏡検査の際にまとめて一度に検査できることが利点ですが、ピロリ菌がいる部分をうまく採取できなかった場合に正しく診断できないことがあります。
5. ヘリコバクター・ピロリ感染症の治療について
ヘリコバクター・ピロリ感染症では、ピロリ菌の除菌治療を行います。ピロリ菌の除菌を行うことで胃炎が改善したり胃がんや胃潰瘍のリスクを低下させることができます。
除菌治療
2種類の抗菌薬と1種類の胃酸分泌抑制薬の計3種類を、1日2回(朝、夕)、合計7日間内服します。
まず一次除菌を行います。決められたとおりに薬剤を内服できれば約90%の人が除菌できると言われています。一次除菌が不成功だった人には二次除菌までが保険適用となっています。それぞれに使用する薬剤は次のとおりです。
◎一次除菌
抗菌薬①:アモキシシリン(AMPC)
抗菌薬②:クラリスロマイシン(CAM)
胃酸分泌抑制薬:プロトンポンプ阻害薬(PPI)またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)
◎二次除菌
抗菌薬①:アモキシシリン(AMPC)
抗菌薬②:メトロニダゾール(MNZ)
胃酸分泌抑制薬:プロトンポンプ阻害薬(PPI)またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)
近年、クラリスロマイシン(CAM)に対して
副作用
除菌治療を受けた人のうち約4%に副作用が見られるというデータがあります。除菌治療でよく見られる副作用は、下痢・軟便、味覚異常、口内炎、
多くの場合は軽い副作用があっても内服を続けられますが、強い副作用が出た場合には内服を中止する必要があります。除菌治療を始めてから気になる症状が出た場合には主治医の先生に相談してください。
除菌後に気をつけること
ピロリ菌を除菌すると胃の
除菌に成功すると確かに胃がんのリスクを低下させることはできますが、そのリスクをすぐにゼロにすることはできません。そのためピロリ菌除菌を行った後も、胃がんの早期発見のために内視鏡検査などの画像検査を定期的に受けるようにしてください。
参考文献
・日本ヘリコバクター学会
・日本消化器病学会:「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」に対する除菌治療に関するQ&A一覧
(2020.5.8閲覧)