へりこばくたーぴろりかんせんしょう
ヘリコバクター・ピロリ感染症
胃の粘膜にピロリ菌が感染した状態。胃腸などの様々な病気の原因となることが分かっている。抗生物質などを使って治療可能
16人の医師がチェック 168回の改訂 最終更新: 2024.02.20

ヘリコバクター・ピロリ感染症の治療とは

ヘリコバクター・ピロリ感染症ではピロリ菌の除菌治療を行います。2種類の抗菌薬と1種類の胃酸分泌抑制薬を1週間内服します。ピロリ菌の除菌を行うことで胃炎が改善したり胃がん胃潰瘍のリスクを低下させることができます。

1. 除菌治療

2種類の抗菌薬と1種類の胃酸分泌抑制薬の計3種類を、1日2回(朝、夕)、合計7日間内服します。色々な薬の組み合わせが考えられますが、これまでの研究で治療成績が良いと分かっている組み合わせを使用します。

まず最初に行う治療を一次除菌と呼びます。決められたとおりに薬剤を内服できれば約90%の人が除菌できると言われています。一次除菌が不成功だった人には二次除菌を行います。日本では二次除菌までが保険適用となっています。

一次除菌で使われる薬剤

種類 一般名 商品名
抗菌薬① アモキシシリン(AMPC) サワシリン® など
抗菌薬② クラリスロマイシン(CAM) クラリス® など
胃酸分泌抑制薬    
・プロトンポンプ阻害薬(PPI) ランソプラゾール(LPZ)
オメプラゾール(OPZ)
ラベプラゾール(RPZ)
エソメプラゾール(EPZ)
タケプロン® など
オメプラール® など
パリエット® など
ネキシウム® など
・カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB) ボノプラザン(VPZ) タケキャブ® など

飲み忘れがないようにこれらの薬をパッケージ製品にしたものがよく利用されています。

一次除菌の除菌成功率は90%前後と言われており、大部分の人でピロリ菌を除菌することができます。胃酸分泌抑制薬にはさまざまな種類がありますが、おおむねどの薬剤でも除菌効果は同等とされています。ただし、以下に説明するような耐性菌の問題で除菌に失敗することがあります。

一次除菌の問題点

近年、クラリスロマイシン(CAM)に対して「薬剤耐性」をもったピロリ菌が増加しており、一次除菌の成功率が低下しています。薬剤耐性とはある抗菌薬のもつ作用が効きにくい状態のことで、本来あらわれるはずの効果が十分に出なくなります。薬剤耐性をもつ菌のことを「耐性菌」と呼びます。過去に抗菌薬を内服したことがある人では、その抗菌薬が効きにくい耐性菌が身体の中で生き延びて増えていることがあります。

日本ではいろいろな感染症に対してクラリスロマイシンが数多く処方されており、ピロリ菌の約30%がクラリスロマイシン耐性菌であると言われています。クラリスロマイシン耐性ピロリ菌に対する一次除菌の成功率は約40-80%と十分な成績ではありません。

ピロリ菌がクラリスロマイシン耐性菌かどうかを調べるには、薬剤感受性試験を行います(薬剤感受性試験についてはこちらのページでも解説しています)。薬剤感受性試験でクラリスロマイシンに耐性であることが判明した場合には、治療成績の良くない一次除菌の薬剤を使用せず、最初から二次除菌の薬剤で治療を始めることができます。

もちろん、これ以上耐性菌を増やさないようにクラリスロマイシンの適正使用につとめることも重要です(参考コラム:クラリスロマイシンが効かない?)。日本全国で見ると抗菌薬が不必要に処方されるケースが多いことが分かっています。お医者さんが不要な抗菌薬を処方しないことはもちろん、患者さんも必要のない抗菌薬を希望しないことが大切です(参考コラム:抗菌薬の適正使用とは?)。

二次除菌で使われる薬剤

種類 一般名 商品名
抗菌薬① アモキシシリン(AMPC) サワシリン® など
抗菌薬② メトロニダゾール(MNZ) フラジール® など
胃酸分泌抑制薬    
・プロトンポンプ阻害薬(PPI) ランソプラゾール(LPZ)
オメプラゾール(OPZ)
ラベプラゾール(RPZ)
エソメプラゾール(EPZ)
タケプロン® など
オメプラール® など
パリエット® など
ネキシウム® など
・カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB) ボノプラザン(VPZ) タケキャブ® など

二次除菌でもパッケージ製品が利用されています。

二次除菌の除菌成功率は85~98%と言われています。

三次除菌以降の治療はあるのか?

一次除菌・二次除菌でほとんどの人がピロリ菌を除菌できますが、一部の人ではうまく除菌できないこともあります。前述した耐性菌の問題や、薬の分解速度が人によって異なることなどが原因です。また、ペニシリンアレルギーの人ではペニシリンの仲間であるアモキシシリン(AMPC)を内服できないため、除菌治療そのものが受けられません。

このような人のために三次除菌としていろいろな薬の組み合わせが提案されています。どこの病院でも行っている治療ではありませんので、主治医の先生に相談して専門医の外来を受診する必要があります。日本ヘリコバクター学会認定医は学会ホームページから検索できます。ただし、三次除菌以降の治療は保険適用外ですので自費診療となります。

副作用

除菌治療を受けた人のうち約4%に副作用が見られるというデータがあります。除菌治療でよく見られる副作用は、下痢・軟便、味覚異常、口内炎発疹などです。

多くの場合は軽い副作用があっても内服を続けられますが、強い副作用が出た場合には内服を中止する必要があります。除菌治療を始めてから気になる症状が出た場合には主治医の先生に相談してください。

除菌中の注意点

◎服薬を守ること

1日2回、7日間で計14回の内服をきちんと行ってください。しっかり服薬できていないとピロリ菌の除菌が不成功になることもあります。

◎喫煙をさけること

除菌治療中に喫煙すると除菌成功率が下がるという報告があります。除菌薬を内服している期間は禁煙を心がけてください。

◎飲酒

二次除菌で処方されるメトロニダゾール(MNZ)は、内服中にアルコールを摂取すると腹痛、嘔吐、ほてりなどの症状が現れることがあります。二次除菌の間はアルコール摂取を避けることが望ましいです。

除菌後に気をつけること

ピロリ菌を除菌すると胃の炎症が改善し、胃粘膜は萎縮性胃炎の状態から徐々に正常の胃粘膜に近づいていきます。しかし、完全に元通りの胃になるには数年から数十年の時間がかかると考えられており、この間にも胃がんが発生する可能性があります。

除菌に成功すると確かに胃がんのリスクを低下させることはできますが、そのリスクをすぐにゼロにすることはできません。そのため、ピロリ菌除菌を行った後も、内視鏡検査などの画像検査を定期的に受けて胃がんの早期発見に努める必要があります。

2. ガイドライン

ヘリコバクター・ピロリ感染症のガイドラインは、日本ヘリコバクター学会から「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン(2016改訂版)」が出版されています。

参考文献

・日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会, 「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版」, 先端医学社, 2016
・日本消化器病学会:「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」に対する除菌治療に関するQ&A一覧

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