へりこばくたーぴろりかんせんしょう
ヘリコバクター・ピロリ感染症
胃の粘膜にピロリ菌が感染した状態。胃腸などの様々な病気の原因となることが分かっている。抗生物質などを使って治療可能
16人の医師がチェック 168回の改訂 最終更新: 2024.02.20

ヘリコバクター・ピロリ感染症が疑われたときに行われる検査とは

ピロリ菌感染が疑われた人では、問診や身体診察に加えて、①胃粘膜の状態を調べる検査と、②ピロリ菌が感染しているかどうかを調べる検査を行います。近年、人間ドックなどでは「胃がんリスク層別化検診(ABC検診)」として血液検査を用いたスクリーニング検査も行われています。

1. 保険適用でピロリ菌の検査・治療を受けるには

健康保険を使ってピロリ菌が感染しているかどうかを調べる検査を受けるためには、次の条件のうちいずれかに当てはまる必要があります。

つまり、3番目のITPの場合を除くと、まずは画像検査(内視鏡検査または胃X線検査)を受けて胃炎または胃十二指腸潰瘍があるかどうかを調べます。

なお、上記に当てはまらない人でも人間ドックや健康診断で自費で検査することは可能です。ただし、ピロリ菌検査が陽性で除菌治療(保険診療)が必要になった場合には、除菌前に内視鏡検査または胃X線検査を受ける必要があります。

2. 胃粘膜の状態を調べるための検査

胃粘膜に胃炎があるかどうかを調べる検査には、内視鏡検査や胃X線検査があります。

上部消化管内視鏡検査

胃カメラ検査」とも呼ばれる検査です。先端にカメラのついた細長い管(内視鏡)を使用し、口または鼻から内視鏡を入れて食道、胃、十二指腸の観察を行います。

上部消化管内視鏡検査では胃の粘膜を直接観察できるので、胃炎があるかどうかを診断することができます。ピロリ菌感染胃炎では胃粘膜全体が赤みがかって見える、粘液が付着する、胃の壁が薄くなり血管が透けて見える、胃のひだがなくなり凹凸が目立つなどの特徴的なサインが見られることがあります。また、胃潰瘍十二指腸潰瘍がある場合にも診断ができます。

内視鏡検査のメリットの一つは、生検検査(組織を採取して顕微鏡で調べる検査)が行えることです。胃の粘膜を採取してピロリ菌感染の有無を調べることもできますし、胃がんが疑われる病変があった場合には本当にがん細胞があるかどうかを調べることができます。

胃X線検査

「バリウム検査」とも呼ばれる検査です。造影剤(バリウム)を飲んでレントゲンで胃や食道の輪郭を映し出し、病気がないかを調べます。バリウムを胃や食道の壁にまんべんなく広げるために身体をぐるぐると回転させながら写真をとります。

胃X線検査では胃潰瘍十二指腸潰瘍の診断を行うことができます。また、胃炎に特徴的なサインが見られた場合には「胃炎疑い」の診断となります。ただし、ピロリ菌感染胃炎かどうかを区別することは難しいため、胃X線検査で胃炎が疑われた場合には内視鏡検査を受ける必要があります。胃X線検査で胃がんが疑われた場合にも内視鏡検査で精密検査をする必要があります。

3. ピロリ菌感染を調べるための検査

内視鏡検査(または胃X線検査)でピロリ菌感染胃炎や胃・十二指腸潰瘍と診断された人は、ピロリ菌がいるかどうかを調べる検査を行います。この検査にはいくつかの種類があります。

それぞれについて解説します。

尿素呼気試験(Urease breath test, UBT)

ピロリ菌が出す「ウレアーゼ」という酵素を利用した検査です。専用の検査薬(特殊な印を付けた尿素)を内服すると、胃にピロリ菌がいる場合にはウレアーゼによって尿素が分解され、二酸化炭素とアンモニアになります。この二酸化炭素には特殊な印が残るようになっており、息(呼気)を採取すると特殊な印のついた二酸化炭素の量が測定できます。

検査薬を内服する前後で息(呼気)を採取し、特殊な印のついた二酸化炭素の量がどのくらい増えているかを測定することでピロリ菌がいるかどうかを判定します。

検査の負担が少なく精度が高いことから非常によく利用される検査です。少し専門的な内容ですが、検査の精度は感度特異度ともに約98-100%と言われています。

また、ピロリ菌除菌後の治療効果判定にも優れた検査です。

尿素呼気試験の注意点は、抗菌薬や胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬(PPI)など)を内服している人ではうまく結果が判定できないことです。これらの薬を飲んでいると、本当はピロリ菌がいるにも関わらず検査が陰性と判定されることがあります(これを「偽陰性」と呼びます)。そのため、検査の2週間以上前から内服を中止する必要があります。

血液検査(抗ヘリコバクター・ピロリ抗体測定法)

採血を行い、ピロリ菌に対する抗体が血液の中にどのくらい含まれているかを調べます。抗体測定法にはEIA法、イムノクロマト法、ラテックス法などいくつかの方法があり、ピロリ菌に感染している人では抗体の値が高くなります。内服している薬の種類によらず検査が可能な点がメリットです。

血液検査も尿素呼気試験と同じく、検査の負担が少なく検査精度が高いことからよく利用されています(感度88-100%、特異度50-100%)。このページで説明しているABC検診でも血液検査によるピロリ菌感染判定が用いられています。

血液検査で注意する点は2つあります。

1つ目は、境界値付近の検査結果の場合に陽性、陰性の判定が難しくなることです。この場合は個人の病状に応じて判断する必要があり、時には別の検査を追加して判定し直すこともあります。詳しくは担当のお医者さんと相談してください。

2つ目は、除菌治療後の効果判定に血液検査を用いる場合です。除菌治療が成功していたとしても、すぐには血液検査が陰性にはなりません。ですので治療効果判定は最低でも6か月以上経過したあとに行う必要があります(抗体の値が治療前の半分以下になった場合に除菌成功と判断します)。陰性になるまで1年以上かかることもあります。

便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定法

ピロリ菌は胃に感染する菌ですが、一部は消化管を通って便の中に排泄されます。検便のように便を採取し、便の中にあるピロリ菌抗原の量を測定することでピロリ菌がいるかどうか判定できます。排泄後24~48時間経った便では正しい判定ができなくなりますが、専用の採便キットに便を採取すれば常温以下で1週間程度保存することができます。

便中抗原検査も検査精度が高く、除菌判定にも用いることができます(感度96-100%、特異度97-100%)

ただし、下痢の時に検体を取ると濃度が薄くなって判定に影響する可能性があるため避けたほうが良いです。

内視鏡を用いる検査

上部消化管内視鏡検査を行い、胃粘膜の一部を生検してピロリ菌の有無を調べる検査です。内視鏡検査の際にまとめて一度に検査できることが利点ですが、ピロリ菌がいる部分をうまく採取できなかった場合に正しく診断できないことがあります。

◎迅速ウレアーゼ試験(Rapid urease test, RUT)

内視鏡で生検した胃粘膜組織を試薬に入れ、試薬の色の変化で判定を行います。試薬には尿素が入っており、ピロリ菌がいればピロリ菌の出すウレアーゼで尿素が分解されてアルカリ性のアンモニアが生じます。このアンモニアがpH指示薬(リトマス試験紙のようなもの)と反応して試薬の色の変化が起こります。

内視鏡検査後20分~2時間で迅速に判定が行えること、検査精度が高いことから内視鏡検査と同時に行われることが多い検査です(感度91-98%、特異度91-100%)。

検査結果を保存できないこと、除菌治療後の効果判定では検査精度が落ちることが、迅速ウレアーゼ試験のデメリットです。

◎鏡検法

内視鏡で生検した組織をホルマリンで固定し、顕微鏡で観察して実際にピロリ菌がいるかどうかを調べます。ピロリ菌に色を付けて検出しやすくする、免疫染色と呼ばれる特殊検査を併用する場合があります。

迅速ウレアーゼ試験とは違って検査結果を保存できること、検査精度が高いことがメリットです(感度92-98%、特異度89-100%)。除菌治療後の効果判定には不向きとされています。

◎培養法

内視鏡で生検した胃粘膜組織を培養し、ピロリ菌を発育させて増やす検査です。ピロリ菌そのものを保存して検査できるのがメリットで、感染しているピロリ菌に対して効果がある抗菌薬の種類を調べる「薬剤感受性試験」を行うことができます。この結果をもとにして除菌治療薬を選択します。

ピロリ菌を培養するのに4-7日間と時間がかかること、ピロリ菌のいない場所を生検すると正確に検査できないことがデメリットです(感度68-98%、特異度100%)。

4. ABC検診とは?

ABC検診は「胃がんリスク層別化検診」とも呼ばれ、人間ドックや健康診断に取り入れられています。胃がんのリスクは、①ピロリ菌の有無、②ピロリ関連胃炎(萎縮性胃炎)の程度によって判定することができ、ABC検診では血液検査でこの2つを調べます(ABC法)。そして検査結果をもとに受診者が4つのグループ(A群~D群)のどこに当てはまるかを調べます。

ABC検診とは

①ピロリ菌の有無について

上の説明でも出てきた「抗ヘリコバクター・ピロリ抗体測定法」で調べます。この検査でピロリ菌の陽性、陰性を判定します。

②萎縮性胃炎の程度について

「血清ペプシノゲン(PG)測定」という方法で調べます。ペプシノゲンにはPGIとPGIIという2つのタイプがあり、ピロリ菌が感染して胃粘膜の炎症が起こるとPGI、PGIIはともに値が高くなります。その後時間が経って萎縮性胃炎の程度が強くなると、PGIIの値は高いままでPGIの値だけが低下します。それによってPGIとPGIIの比(PGI/PGII比)も低下します。つまり、PGIの値が低く、PGI/PGII比が低い人は萎縮性胃炎の進んだ人と考えられます。ABC検診では以下の数値を基準にしています。

  • PGI 70ng/mL以下
  • PGI/PGII比 3以下

この両方を満たす人をペプシノゲン値陽性と判定します。

ABC検査の結果の見方

A群は「①ピロリ菌なし・ ②萎縮性胃炎なし」でもっとも胃がんのリスクが低いグループです。対してD群は「①ピロリ菌なし・②高度の萎縮性胃炎」でもっとも胃がんのリスクが高いグループです。ピロリ菌がいないのになぜリスクが高いのか疑問に思う人もいると思います。D群の人ではピロリ菌感染によって胃全体が萎縮性胃炎の状態になり、最終的にピロリ菌が住みつくことができなくなった状態なのです。これまでのデータでD群のような胃の人が最も胃がんのリスクが高いことが分かっています。1年間の胃がん発生頻度はA群でほぼ0%、B群で0.1%、C群で0.2%、D群で1.3%とされています。

ピロリ菌陽性のB群とC群の人はピロリ菌除菌がすすめられます。D群の人は基本的に除菌は不要ですが、抗ピロリ抗体の値によっては別の検査で本当にピロリ菌が陰性なのかを確認する場合があります。詳しくはお医者さんに相談してください。

また、B、C、D群の人は胃がんのリスクが高いと考えられ、定期的な内視鏡検査を受けることが望ましいとされています。

ABC検診で注意すること

ABC検診は血液検査を用いて胃粘膜の状態を予測するものです。血液検査のみを用いた判定であるため身体への負担が少ないことがメリットですが、検査の結果が実際の胃粘膜の状態と一致しない場合があります。特に、抗ピロリ抗体検査が偽陰性(本当はピロリ菌がいるのに、検査ではピロリ菌がいないと判定されること)の場合には、ピロリ菌除菌の機会を失ったり、胃がんのリスクが高い状態を放置してしまうリスクがあります。

また、ABC法では胃がんがあるかどうかを判定することはできません胃がんの有無を判定できるのは内視鏡検査などの画像検査だけです。たとえABC検診でA群と判定されたとしても、それは「あなたには胃がんがありません」という保証にはならないのです。実際に、胃がん患者さんをABC法で検査すると10%前後がA群と判定されたというデータもあります。

ABC検診は簡便で優れた検査法ですが、仮にA群と判定された人でも一度は胃内視鏡検査や胃X線検査などの画像検査で胃粘膜の状態や胃がんの有無を確認することが大切です

参考文献

・日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会, 「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版」, 先端医学社, 2016
・日本消化器病学会:「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」に対する除菌治療に関するQ&A一覧
・一般社団法人日本消化器がん検診学会「血液による胃がんリスク評価(いわゆる「ABC分類」)を受けられた方へのご注意
・認定NPO法人 日本胃がん予知・診断・治療研究機構「胃がんリスク層別化検診(ABC検診)とは

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