こうじょうせんがん
甲状腺がん
甲状腺にできるがんのこと。様々なタイプがあるが、甲状腺乳頭がんというタイプが非常に多い
11人の医師がチェック 129回の改訂 最終更新: 2024.02.17

甲状腺がんの放射線治療:放射性ヨード内用療法、外照射など

甲状腺がんの放射線治療には放射性ヨード内用療法と外照射の2種類があります。放射性ヨード内用療法は甲状腺がん特有の治療で、甲状腺乳頭がんと濾胞がんの性質を利用した治療方法です。病状によっては手術や薬物治療に追加して、放射性ヨード内用療法を勧められることがあるかもしれません。外照射は甲状腺転移したがんに対して行われる治療です。ここでは甲状腺がんに行われる放射線治療について、治療を行う基準や実際の治療方法などを説明します。

1. 甲状腺がんの放射線治療はどんな人に行う治療なのか:治療の適応

甲状腺がんの放射線治療には、放射性ヨード内用療法と外照射の2種類があります。放射性ヨード内用療法は、放射性物質を飲んで治療する方法です。身体の中から照射を行うので、内照射とも呼びます。対して、外照射は身体の外から放射線をあてる方法です。

それぞれどんな人に適しているかを説明します。

放射性ヨード内用療法(アイソトープ治療)

放射性ヨード内用療法は甲状腺がんの手術後の治療として行われます。甲状腺がんのうち、正常な甲状腺の性質を残しているタイプのがんに対して行います。

甲状腺は本来、ヨード(ヨウ素)を材料にして甲状腺ホルモンを作る機能を持っています。甲状腺がんの中には顕微鏡で見分けられるいくつかのタイプ(組織型)があるのですが、組織型で乳頭がんと濾胞がんにあたる甲状腺がんは、正常な甲状腺と同じように、ヨードを取り込む性質(ヨード摂取能)を持っています。この性質を持つ乳頭がんと濾胞がんはまとめて分化がんとも呼ばれます。

放射性ヨード内用療法は分化がんがヨードを取り込む性質を利用した治療です。そのため分化がんに対してのみ行います。甲状腺がんの中でも異なる性質をもつ髄様がんに対しては行いません。

また、分化がんの人全員に行うわけではなく、手術後再発のリスクが高いと考えられる場合や、手術後の経過観察中に再発が見つかった場合に行います。

放射性ヨード内用療法には2種類があります。甲状腺全摘術後に残った甲状腺組織を破壊する目的で行うアブレーションと、再発や転移が起こった場合に行う治療です。

◎アブレーションはどんな人に行う治療なのか

アブレーションは再発リスクが高い人に行います。アブレーションを行うことで、身体に残った甲状腺組織や目に見えない小さな転移をなくすことができます。再発リスクが高いかどうかは、手術前の画像検査でのがんの広がりや、手術で摘出したがんの組織の様子をよく調べて決定します。

乳頭がんや濾胞がんの人で、下記のような場合にアブレーションを行うか検討します。高リスク群ではアブレーションを行うことで、再発のリスクを下げられます。中リスク群ではアブレーションを行った方が生存率が高まるという報告と、関連しないとの報告があるため、一人ひとりの状態に応じて、治療を行うか検討します。

<高リスク群:以下のいずれかがある場合>

  • がんが見た目で甲状腺の外に広がっている場合
  • がんを摘出した端にがんが残っていた場合(切除断端陽性)
  • がんが遠くの臓器に転移(遠隔転移)している場合
  • 甲状腺全摘術後にサイログロブリンが高値の場合
  • 頸部リンパ節に転移していて、リンパ節転移の大きさが3cm以上の場合
  • 濾胞がんで血管やリンパ管に4か所以上で入り込んでいる場合

がんが見た目で甲状腺の外に広がっていた場合や、切除断端陽性の場合には手術した場所の周りに甲状腺がんの組織が残っている可能性が高く再発リスクが高いと考えられます。

遠隔転移がある場合や、甲状腺全摘術後にサイログロブリンが高値の場合には、全身に甲状腺がんが広がっている可能性があり再発リスクが高いと考えられます。

頸部リンパ節転移が大きい場合や、血管やリンパ管に広がっている場合には、リンパ節や血管を通して甲状腺がんが広がっている可能性が高いため、再発リスクが高いと考えます。

<中リスク群:以下のいずれかがある場合>

  • 顕微鏡で調べるとがんが甲状腺の外に広がっていた場合
  • 大きさ3cm未満の頸部リンパ節転移が6個以上ある場合
  • 乳頭がんで血管やリンパ管にがんが入り込んでいる場合
  • 術後のヨードシンチグラムで甲状腺のあった部位以外への集積がある場合
  • 進行が早いと考えられる特殊な組織型の場合
    • 高細胞型乳頭がん
    • びまん性硬化型乳頭がん
    • 円柱細胞がん
    • 広汎浸潤型濾胞がん
    • 索状・充実状・島状・硬性浸潤などの低分化がん

見た目でがんが広がっていなくても、顕微鏡でみるとがんが甲状腺の外に広がっていた場合には、甲状腺がんが広がっている可能性があり、甲状腺の外にがんがない場合に比べて再発リスクが高くなります。

頸部リンパ節転移の数が多い場合や、血管やリンパ管にがんが広がっている場合には、リンパ節や血管を通して甲状腺がんが広がっている可能性が高いため、リンパ節転移が少ない場合や、リンパ管や血管にがんがない場合に比べて、再発リスクが高いと考えます。

ヨードシンチグラム(シンチグラフィ検査)は放射性ヨードを身体に入れる検査です。詳しくは「甲状腺がんの検査」のページで説明していますが、甲状腺のあった部位以外への放射性ヨードの集積は、甲状腺の外にがんがひろがっていることを示すため、再発リスクが通常よりも高くなります。

特殊な組織型は統計上、再発リスクが高いことが知られています。

◎再発や転移に対する放射性ヨード内用療法はどんな人に行う治療なのか

放射性ヨード内用療法は手術後に再発や遠隔転移が見つかった場合にも行います。放射性ヨードを内服する点ではアブレーションと同じですが、アブレーションで使う量よりも多く内服する点が違います。

再発や転移に対する放射性ヨード内用療法は、肺転移が小さく微小結節としてみえる場合や、骨転移が多数ある場合などに行います。微小結節とはCT検査などの画像検査で肺全体に数mm大の小さな転移が広がっていて、大きなかたまりとしてうつる転移はない状態を指します。肺転移に対する放射性ヨード内用療法は微小結節でとても効果的な治療です。大きな塊の肺転移への放射性ヨード内容療法は、微小結節への使用に比べると効果が劣りますが、他の治療がなければ行います。放射性ヨード内用療法の効果は若年者ほど高く、高齢者で劣ります。しかし手術など他の治療が行えない場合で、がんにヨード摂取能がある場合には放射性ヨード内用療法を行います。

目に見える大きさの再発や転移では、放射性ヨード内用療法より手術で切り取ります。骨転移では単発の場合には手術で切り取ります。肺転移の数が少なく、大きい場合にも手術で切り取ることがあります。脳転移では放射性ヨード内用療法は効きにくく、通常は手術と全脳照射と呼ばれる外照射もしくは、脳転移の大きさが小さければ、転移巣のみに放射線をあてる定位放射線照射を行います。

再発や転移に対する放射性ヨード内用療法を行う前に、治療の効果が見込めるかを調べるために放射性ヨードシンチグラフィ検査を行います。

正常の甲状腺や、乳頭がんや濾胞がんはヨードを取り込む機能(ヨード摂取能)を持っています。再発や転移として現れたがんに、ヨード摂取能が残っていると、放射性ヨードシンチグラフィ検査でがんのある部分にヨードが集まります。放射性ヨードシンチグラフィ検査では、がんの再発や転移部位とともに、ヨード摂取能を検査することができます。

再発や転移として現れたがんに、ヨード摂取能が残っていなければ、放射性ヨード内用療法の効果は期待できません。放射性ヨードシンチグラフィ検査でヨードの取り込みを確認できた場合にだけ放射性ヨードの内服を行います。がんにヨード摂取能がなくなるか、合計の放射性ヨード使用量が600mCiに達するまでは、放射性ヨード内用療法を継続します。治療開始から2年間は3ヶ月か6ヶ月ごとに行い、それ以降は1年に1回程度の間隔で継続します。

ヨード摂取能がない場合や、合計の放射性ヨード使用量が600mCiを超えた場合には、効果がなくなった(放射性ヨード内用療法抵抗性)と考え、分子標的薬による薬物治療を検討します。

放射性ヨード内用療法抵抗性と判断する具体的な条件は下記です。

  • 放射性ヨードの取り込みがない場合
  • 放射性ヨード内用療法後12ヶ月以内に病状が進行する場合
  • 放射性ヨードの使用量が合計で600mCi以上(22GBq)の場合

放射性ヨード内用療法を行う乳頭がんや濾胞がんは、一般的に大きくなる速度が遅いため再発してもすぐに進行しないことがあります。進行が遅いがんに対しては、薬の副作用などを総合すると利点が少ないと考えられるため、分子標的治療薬による治療は行いません。がんが再発した場合でも転移したがんが2年以上大きくならない場合や、がんの数が増えないなど進行が遅い場合には、すぐには分子標的薬による治療を行わずに経過観察とします。分子標的薬による治療に関しては「甲状腺がんの薬物治療:抗がん剤治療」に詳しく書いてありますので、参考にしてください。

参考文献
・The evolving role of (131)I for the treatment of differentiated thyroid carcinoma. J Nucl Med. 2005 Jan;46 Suppl 1:28S-37S.

外照射

外照射はがんのある部分に局所的に放射線を身体の外から当てる治療です。放射線を甲状腺に照射する場合と、転移した部位に照射する場合があります。

甲状腺に照射する場合には、がんを小さくする目的や、手術後に再発リスクを低下させる目的があります。

がんを小さくする目的では、悪性リンパ腫や、手術を行うことのできない甲状腺未分化がんに対して行われます。悪性リンパ腫では外照射でリンパ腫を小さくします。甲状腺未分化がんでは、外照射と抗がん剤を組み合わせて治療を行うことで、がんを小さくすることができることがあります。未分化がんが治療で小さくなり、手術で切り取れそうな時は追加で手術治療を行います。

手術後の再発リスクを低下させる治療は乳頭がんや濾胞がんに対して行われます。一般的な方法は、ホルモン治療や放射性ヨード内用療法ですが、例外的に放射性ヨード内用療法が行えない場合には、外照射を行うことがあります。

転移した部位への外照射は、骨転移や脳転移に対して行います。

2. 甲状腺がんの放射線治療:放射性ヨード内用療法(アイソトープ治療)

甲状腺がんの放射線治療で中心的な役割を果たすのが放射性ヨード内用療法です。あまり馴染みのない治療方法だと思います。甲状腺乳頭がんと濾胞がんにのみ行われる治療で、がん細胞がヨードを取り込む機能を利用する方法です。治療効果を最大限に出すために、治療を受ける前に甲状腺がんの手術をしていることが条件になる上、事前に食事に気をつける必要があります。ここでは治療の仕組み、受けられる条件、事前準備、実際の方法、副作用などについて説明します。

放射性ヨード内用療法の仕組み

甲状腺はヨードを取り込んで甲状腺ホルモンを作り出します。そのため放射性ヨードを内服すると身体にある甲状腺組織に取り込まれます。放射性ヨードは放射線を放出するので、放射性ヨードを取り込んだ甲状腺組織は内部から放射線を浴びることになり破壊されます。

甲状腺がんでも、甲状腺の性質に近いものはヨードを取り込んでいます。そこで放射性ヨードを内服すると、がんに放射性ヨードが取り込まれ、がん組織を破壊します。転移や再発が全身にある場合でもいっぺんに治療ができます。

放射性ヨード内用療法に利用する放射性ヨードはI-131です。I-131はβ線を放出する放射性同位体(アイソトープ)です。放射性同位体を使うという意味で、放射性ヨード内用療法はアイソトープ治療とも呼ばれます。I-131によるβ線は、組織の中で広がる距離が2mmであるため、甲状腺に接している他の臓器を傷つけることが少ないのが特徴です。

放射性ヨード内用療法を行う前には、放射性ヨードが効率よくがんに取り込まれるように、準備が必要です。

第1に、甲状腺が残っていると、甲状腺に放射性ヨードが取り込まれ、がんに届く放射性ヨードが減ってしまうため、あらかじめ甲状腺を全て摘出しておく必要があります。がんは放射性ヨード摂取能がありますが、正常の甲状腺に比較してその機能はとても弱いものです。そのため正常の甲状腺を全て取り除いておく必要があります。

第2に、残っている甲状腺組織や、甲状腺がんの転移巣や再発巣に放射性ヨードが取り込まれやすいように、放射性ヨード内用療法前にはヨードの摂取を制限します。

第3に、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を増加させておくことが必要になります。TSHは甲状腺ホルモンを作る司令を出すホルモンです。甲状腺組織に働いて、ヨードを取りこんで甲状腺ホルモンを作る働きを調整しています。TSHが体内で増加すると甲状腺ホルモンをたくさん作ろうと甲状腺の組織がたくさんヨードを取り込みます。甲状腺がんも正常な甲状腺組織と同じようにTSHに反応してヨードを取り込みます。甲状腺ホルモンが不足するとTSHが多く分泌されるので、TSHを増加させるために甲状腺ホルモンの服用を中止します。もしくは、甲状腺刺激ホルモン製剤の注射を使います。

放射性ヨードを内服すると身体の中で甲状腺組織がある部分に放射性ヨードが取り込まれます。内服後に甲状腺シンチグラフィ検査を行うと、全身のどこに取り込まれたかがわかり、甲状腺組織が残存する場所や、再発や転移がある場所を確認することができます。

甲状腺シンチグラフィ検査には、甲状腺組織が残存する場所や、再発転移がある場所を確認する他に、がんの組織がヨードを摂取する仕組みが残っているかを確認する目的もあります。検査は外来で行うことができます。少量の放射性ヨードを内服してシンチグラフィを撮影し、再発転移巣がヨードを取り込むかどうかを確認します。

ヨードを取り込む機能がある場合には、治療に必要な量の放射性ヨードの内服を行います。再発転移の場合は、がんにヨードを取り込む機能がある限りは、放射性ヨード内用療法を継続します。

放射性ヨード内用療法を行う目的

放射性ヨード内用療法は目的によって2種類あります。甲状腺全摘術後に残った甲状腺組織を破壊する目的で行うアブレーションと、再発や転移した場合に行う放射性ヨード内用療法です。

◎アブレーションの目的

甲状腺全摘術後にも約90%の人で甲状腺組織が体内に存在すると言われています。甲状腺組織が残っていると術後の検査や治療に不利になります。ところが超音波検査やCT検査でも残った甲状腺組織が見つからない場合が多くあります。そこでアブレーションによって目に見えない残りの甲状腺組織を破壊します。

残存した甲状腺組織を破壊する目的は1)術後の経過観察をしやすくするためと、2)再発リスクを減らすためです。

1)術後の経過観察のため

術後の経過観察では、定期的にサイログロブリンを血液検査で調べます。サイログロブリンは甲状腺組織からできるタンパク質です。甲状腺を全て摘出した場合には理論的にはサイログロブリンは体内にないことになります。ただし、甲状腺がんの細胞が残っていて再び増殖するとサイログロブリンを作ることがあります。

そこで、再発や遠隔転移の指標にサイログロブリンを使います。血液検査でサイログロブリンの値があがってきた場合には、再発や遠隔転移の可能性を考えます。

しかし、甲状腺全摘術後に甲状腺組織が残っていると、残存した甲状腺組織からサイログロブリンが分泌されてしまい、サイログロブリンを再発や遠隔転移の指標にできなくなります。そこで、アブレーションを行なって残存した甲状腺組織をなくしておくと、サイログロブリンの値が上がってきた時点で再発や遠隔転移の可能性を考えて、すぐ調べることができます。

2)再発リスクを減らすため

もともと再発リスクが高いと考えられる人では、手術後で目に見える甲状腺を取り切っても周囲に残った目に見えない甲状腺組織から再発する可能性があります。また、再発リスクが高そうな甲状腺がんでは、最初の手術時にすでに、目に見えない小さな転移がある場合があります。アブレーションを行うことで、残存している甲状腺組織をなくすことができ、すでにあった小さな転移を治療することができます。

再発リスクが高いと考えられる人にアブレーションを行いますが、その条件は施設ごとに一定していません。甲状腺の外にがんが広がっている場合、血管やリンパ管に広がっている場合、リンパ節転移が大きい場合、甲状腺全摘術後にサイログロブリンの値が高い場合は積極的にアブレーションを行うことが多いようです。

◎再発転移に対する放射性ヨード内用療法の目的

放射性ヨード内用療法は再発や遠隔転移の治療としても行われます。ただし、手術ができる場合には手術を先に検討します。なぜなら、目に見える大きさの塊としての再発の場合には放射性ヨード内用療法の効果が少ないからです。目に見える再発の数がひとつの場合、骨や脳への転移では手術での切除を行います。肺の場合には、大きさによって手術を行うか放射性ヨード内用療法を行うかを検討します。

肺に複数の転移があっても手術を行う場合があります。

放射性ヨード内用療法は手術ができない小さな肺転移や骨転移が多数ある場合などに効果が出やすい治療です。

放射性ヨード内用療法を受けるための条件

放射性ヨード内用療法を行うための条件は下記の2点です。

  • 甲状腺分化がん(乳頭がん、濾胞がん)であること
  • 甲状腺がすべて取り除かれていること(甲状腺全摘術後)

放射性ヨード内用療法が有効となる甲状腺がんは、ヨードを取り込む性質を持つがんです。甲状腺がんのうち分化がんと呼ばれる乳頭がんと濾胞がんはヨードを取り込みます。髄様がんや未分化がん、悪性リンパ腫はヨードを取り込まないので、放射性ヨード内用療法は行いません。

放射性ヨード内用療法では内服した放射性ヨードが甲状腺組織に取り込まれます。甲状腺がんのヨードを取り込む能力は、正常甲状腺に比較して大変弱いものなので、甲状腺が残っていると、残った甲状腺に放射性ヨードが取り込まれてしまうため、効果的な治療を行うことができません。そのため、甲状腺を全て取り除いていることが条件です。甲状腺を半分摘出した後(甲状腺葉峡部切除術後)に転移や再発が見つかり、放射性ヨード内用療法を行う場合には、まず手術をして残っている甲状腺を摘出する必要があります。

妊娠中は胎児への影響が考えられるため、放射性ヨード内用療法を行うことができません。

また、1年以内に妊娠を希望する場合も放射性ヨード内用療法は行いません。

「放射性ヨウ素内用療法に関するガイドライン」では放射性ヨウ素治療後6ヵ月間は妊娠、授乳などは避け、男性も6ヵ月間は避妊をするよう記載されています。放射性ヨード内用療法を受けた後、半年から1年以上経って妊娠した場合には、子どもの先天異常の頻度が増えるなどの影響はありません。

放射性ヨード内用療法を受けるための準備:前処置

放射性ヨード内用療法を効果的に行うために前処置が必要になります。前処置は残存した甲状腺組織や再発・転移した甲状腺がんの組織に放射性ヨードが十分取り込まれるようにするために行います。

その方法は、体内でヨードを枯渇させることと、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を増やすことです。

◎放射性ヨード内用療法の前処置:ヨード制限

放射性ヨード内用療法は、甲状腺組織や甲状腺乳頭がんや濾胞がんがヨードを取り込む働きを利用して行う治療です。甲状腺組織や乳頭がん、濾胞がんは、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の働きによって、身体のヨードを取り込みます。身体のヨードを枯渇させると、内服した放射性ヨードを甲状腺組織や、乳頭がん、濾胞がんが取り込みやすくなるため、効果的な治療を行うことができます。

2週間前から昆布、ひじき、わかめ、海苔などのヨードを含む食品を避けてください。多くの食べ物に旨味成分として加えられている昆布エキスは多くのヨードを含みます。出汁などにもヨードが含まれますので注意してください。海産の塩にも塩(塩化ナトリウム)以外の成分としてヨードが含まれるため、精製塩が望ましいです。

放射性ヨード内用療法に使われる放射性ヨードは非常に少量であり、昆布1gに含まれるヨードの数千〜数万分の1という量です。治療効果をあげるためには適切なヨード制限が重要です。

日本人は通常の食事で1日に500-3,000μgのヨードを摂取しています(1,000μg=1mg)。放射性ヨード内用療法のためには1日のヨード摂取を50μgに抑える必要があります。

日本核医学会推薦食品として、ヨード含量を低く抑えた「ヨウ素制限用食品・ ヨードライトC」も市販されているので、使用するとヨード制限の助けになります。

<ヨードを多く含む食品>

下記の食品はヨードを多く含みますので避けてください。食べてしまった場合には、治療がうまくできない可能性もありますので、主治医に相談してください。

  • 海藻類:昆布、わかめ、のり、ひじき、もずくなど
    • 昆布を使った食品:とろろ昆布、おぼろ昆布、昆布佃煮、昆布茶、昆布だし、昆布だしを含む風味調味料、インスタント味噌汁などのインスタント食品、だしの素、だし入り醤油(味噌)など(※1)
    • テングサ加工品:寒天、ところてん、ようかん、こんにゃくなど(※2)
  • 貝類:あさり、しじみ、かき、あわび、貝柱、貝のだし汁など
  • 魚類
    • 魚類の加工品:蒲鉾、ちくわ、さつま揚げ、缶詰、干物、塩辛など
  • 肉の内臓部分:レバー、モツ、ホルモンなど
  • 赤色の人工着色料:赤色3号(Erythrosine)・赤色105号(Rose Bengal)
    • チェリー・福神漬・紅生姜・梅干・着色したアメやゼリー等の菓子類
    • 着色したソーセージ等
  • 清涼飲料水(※3)
  • ヨード強化卵
  • 健康食品(※4)
  • 塩分の多い輸入食品:ポテトチップ、ナッツ、ハム、ベーコン、コンビーフなど(※5)

※1 市販の調味料は醤油、味噌、酢を含めて、昆布だし、昆布エキスなどを使用しているものがあります。
※2 一部のヨーグルトやプリンにはとろみ成分「寒天」の表示があります。こんにゃくには色付けとして「ひじき」を添加しているのが一般的です。
※3 清涼飲料水には昆布エキスを含むものがあります。
※4 健康食品にはヨードを添加しているものがあります。
※5 輸入食品はヨードを含む塩を使っている場合があります。

<食べても構わない食品>

下記の食品にはヨードが少ないため、食べても構いません。ただし量が多すぎないよう気を付けるべきものもあります。

  • しいたけのだし汁、鶏がらスープ、肉のだし汁、コンソメ、ブイヨン
  • 穀物類:ごはん、パン、麺類(※1)
  • 野菜類
  • イモ類
  • きのこ類
  • 果物類
  • 豆類:豆腐、油揚げ、納豆、厚揚げ、大豆食品、枝豆、煮豆など
  • 肉類(内臓部分以外):牛肉、豚肉、鶏肉
  • たまご:ヨード強化卵以外なら1日1個まで
  • 牛乳:1日200mL 程度まで
  • コーヒー、ジュース、緑茶、ウーロン茶(※2)

※1 昆布だしを使った炊き込みご飯などは避けてください。
※2 清涼飲料水には旨み成分「昆布エキス」が添加されている製品があるので注意してください。

<ヨードが含まれる薬>

下記の薬にはヨードが多く含まれるので、使用している場合には主治医に必ず相談してください。下記の薬が中止できない場合には、放射性ヨード内用療法を行うことが難しいため、他の治療方法を検討することになります。

  • 甲状腺ホルモン製剤(商品名:チラーヂン®Sなど)
  • 不整脈剤:アミオダロン(商品名:アンカロン®など)
  • 胃炎・消化性潰瘍剤:マリジン®M、ガストロフィリン®Aなど
  • 肝不全治療薬:アミノレバン®EN、へパンED®など
  • 消毒用のヨード製剤:イソジン®、ルゴールなど
  • ヨード造影

放射性ヨード内用療法を行う時期の近くで造影剤を用いたCT検査を行う可能性がある場合には相談してください。

◎放射性ヨード内用療法の前処置:TSHを増加させる処置

放射性ヨード内用療法は、甲状腺組織や甲状腺乳頭がんや濾胞がんがヨードを取り込む働きを利用して行う治療です。

甲状腺組織や乳頭がん、濾胞がんは、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の働きによって、身体のヨードを取り込みます。TSHは甲状腺ホルモンを作る司令を出すホルモンです。甲状腺組織に働いて、ヨードを取りこんで甲状腺ホルモンを作る働きを調整しています。TSHが体内で増加すると、甲状腺ホルモンをたくさん作ろうと甲状腺組織がたくさんヨードを取り込みます。乳頭がんや濾胞がんも正常な甲状腺組織と同じように、TSHの司令に反応してヨードを取り込みます。そこで、放射性ヨードを甲状腺組織や乳頭がん、濾胞がんに多く取り込ませるために、放射性ヨード内用療法の治療前には、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を増加させます。

TSHを増加させる方法には、甲状腺ホルモンの内服を一時中断する方法と、TSH製剤の注射を行う方法があります。それぞれの詳細と注意点などを説明します。

1. 甲状腺ホルモンの内服を一時中断する方法

手術で甲状腺を全て取り除いた後は、甲状腺ホルモンの内服を続けますが、内服を一時中断することで甲状腺ホルモンが減り、TSHが増加します。この方法では、2週間甲状腺ホルモンの内服を中断します。

内服を中断している2週間は甲状腺ホルモンが減少するため、甲状腺機能低下症の症状が起きます。寒気、便秘、全身倦怠感、心臓や腎臓機能の低下、認知機能の低下などが起き、日々の生活に不便が生じることがあります。放射性ヨード内用療法が終わって甲状腺ホルモンの内服を再開すれば甲状腺ホルモンの不足は解消します。

甲状腺がんの細胞はTSHによって増殖するため、2週間のTSH増加によってがんが悪化することもあります。

甲状腺機能低下に伴って腎機能が低下すると内服したヨード製剤が排泄されにくくなり、被曝量が増加する欠点もあります。

2. TSH製剤の注射を行う方法

合成されたTSHを注射してTSHを増加させる方法です。使用する薬は遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモン製剤(商品名:タイロゲン®)です。

TSH製剤は、放射性ヨード内用療法の内服を行う2日前と前日に筋肉注射します。TSH製剤を使えば甲状腺ホルモン内服の中止が必要ないため、甲状腺機能低下症の症状がなく生活の質が保たれます。TSH製剤を使用するメリットは他にも、TSHが増加する期間が短いためがんの増殖への影響が少ないことや、甲状腺機能低下症による腎機能の低下がないため被曝量が軽減されることなどがあります。

TSH製剤の欠点は高価であることです。1回の注射あたり約10万円かかり、3割負担なら1回の注射で3万円ほどを支払うことになります。TSH製剤の注射は2回必要なので、3割負担で合計6万円ほどかかります。

放射性ヨード内用療法を行う時にTSH製剤が保険適用となっているのは、アブレーションの一部です。再発や転移に対する放射性ヨード内用療法を行う場合には、TSH製剤を使用することができず、甲状腺ホルモンの内服を一時中断する方法が必要です。

放射性ヨード内用療法の実際の方法

放射性ヨード内用療法を実際に行うには、前処置を行った後に放射性ヨードを内服します。内服する放射性ヨードの量が少ない場合で一定の条件を満たせば外来通院で行うことができます。放射性ヨードの内服量が多い場合には入院が必要です。

アブレーションは外来で可能な場合があります。アブレーションで内用量が多い場合と、肺転移などに対する治療を行う場合には入院が必要です。

外来の場合と入院の場合に分けて放射性ヨード内用療法の方法を説明します。

◎外来で行う場合

放射性ヨード内用療法を外来で行うことができるのは、アブレーションで放射性ヨードの内服量が少ない時です。

外来でアブレーションを行う場合には帰宅後も少量の放射線が身体から外に出ています。放射線量は少なく、同居の家族やまわりの人に放射線による害を与えるほどではありません。しかし、できるだけ他の人にあたる放射線の量を減らすために3日間は注意して生活してください。

まわりの人が放射線を受ける量は、治療を受けた人と接する時間が短ければ短いほど、距離が離れれば離れるほど減ります。

放射性ヨードを飲んでから3日たつまでは、汗や唾液、尿などに放射性ヨードが含まれます。この間は衣類を他の人のものと一緒に洗濯することや、同じ布団やベッドで寝ることは避けてください。

その他の注意点は下記になります。

<治療日に帰宅するときの注意点>

  • できるだけ公共交通機関を利用しないで帰宅してください。
  • 公共交通機関を利用する場合には、連続しての乗車を1時間以内にしてください。
  • 公共交通機関を利用する場合には、混雑した車両、子どもや妊婦との接触はさけてください。
  • 放射性ヨード内用後に吐き気を起こすことがあります。帰宅途中で気分が悪くなった時のためにエチケット袋を持ち歩いてください。吐物に放射性ヨードが含まれるため、嘔吐による周囲の汚染に注意してください。

<治療後3日間の注意点>

  • 治療効果を継続させるために、ヨード制限食を続けてください。
  • 妊婦、子どもと会うことを避けてください。(治療後7日目までは妊婦、子どもとの密接な接触は避けてください)
  • トイレはすぐに2回水洗をしてください。
  • 就寝は一人の専用の部屋でしてください。
  • 入浴は家族の最後にして、入浴後はすぐに浴槽のお湯を抜き、洗浄してください。
  • 衣類は他の家族と別にして洗濯してください。
  • 旅行や長時間の外出は控えてください。
  • 人が多く集まる施設へ行くことや、行事の参加などはしないようにしてください
  • 職場は3日間は休んでください。(飲食店や、子どもや妊婦と一緒にいる職場では休職期間の延長が必要となることがあるので、主治医に確認してください)

◎入院で行う場合

入院で行う場合には、放射性ヨード内用療法の効果が期待できるかを調べるために、外来で甲状腺シンチグラフィ検査を行います。甲状腺シンチグラフィ検査では、少量の放射性ヨードを内服して、がんがヨードを取り込むかどうかを確認します。ヨードの取り込みがある場合にはヨード内用療法の効果が期待できます。

入院初日に放射性ヨードのはいったカプセルを飲んで、その後は部屋で過ごします。放射性ヨードを内服した後は、体から放射線が出ている状態になるため、放射線管理区域で生活する必要があります。外出はできません。入院は約4日から1週間程度ですが、腎臓が悪い場合などは、体からの放射性ヨードの排泄が遅くなって、入院が長引くことがあります。

再発転移巣にヨード取り込み能がある限りは、放射性ヨード内用療法を継続します。治療開始2年は3ヶ月か6ヶ月ごとに行い、それ以降は1年に1回程度の間隔で継続します。

放射性ヨード内用療法の副作用

放射性ヨード内用療法の副作用は、放射性ヨードによるものと、甲状腺ホルモンの内服を中止としたためにおこるものがあります。

放射性ヨードによる副作用は誰にでも起こる可能性があります。

甲状腺ホルモンを中止した場合の副作用は、TSH製剤を使用して放射性ヨード治療を行うことで避けられます。ただし、放射性ヨード治療でTSH製剤を使用することができるのは、アブレーションの一部のみで、転移や再発に伴う放射性ヨード治療では甲状腺ホルモンの内服を中止して行う必要があるため、この副作用がでることがあります。

◎放射性ヨードによる症状

・吐き気、嘔吐

食欲不振、吐き気(悪心)、嘔吐などの症状が60-70%の人に起こります。嘔吐する人は10%未満です。腸などの消化管にも放射性ヨードが少し取り込まれることが、食欲不振、悪心、嘔吐を引き起こすと言われています。嘔吐した場合には吐物に放射性物質が含まれるため、周りに広げないように破棄する必要があります。

・唾液腺の腫れ・痛み:放射線性唾液腺炎

耳下腺の腫れ、痛み、唾液の分泌低下は軽い症状も含めると60-70%の人に起こります。耳下腺などの唾液腺にも放射性ヨードが少し取り込まれるためです。放射性ヨード内用療法を繰り返すと、唾液を輸送する経路が細くなり、唾液腺が腫れやすくなります。分泌される唾液量も徐々に低下します。

・味覚の低下:味覚障害

一時的に唾液分泌が減ることに伴って、一時的な味覚障害を生じますが回復します。味覚は舌にある味蕾(みらい)と呼ばれる味のセンサーから、神経を伝わって脳へ伝わります。味蕾で味を感知するためには水分が必要です。スープなどの汁物は唾液がなくても味を感じることができますが、乾いた食物では水分が必要です。唾液が減ると乾いた食物の味を感じることができなくなります。放射性ヨードによる唾液分泌低下は一時的なものであり、唾液量の改善とともに味覚も改善します。

・涙の減少:涙腺機能異常

涙を分泌する涙腺にも放射性ヨードが取り込まれて、涙腺を障害します。実際に涙の量の低下が起こることは少ないです。

・くびの腫れ・痛み:頸部腫脹疼痛

頸部に甲状腺が残っている場合には、甲状腺に放射性ヨードが取り込まれます。甲状腺のある部分のくびの前のあたりの痛みや腫れが20%の人に起こります。見た目でわかる大きさの甲状腺がない場合でも、首が腫れることがあります。残っている甲状腺組織が少ない場合には、痛みはなく、腫れのみが起こります。

・甲状腺がんがある部分のむくみや出血:腫瘍周囲の浮腫や出血

甲状腺がんは放射性ヨードを取り込んで、一時的に炎症を起こします。炎症を起こすことで、がんの周りのむくみや出血を起こすこともあります。

甲状腺がんの転移が脳や背骨にある場合には、むくみによって、それまでなかった神経症状が出ることがあります。たとえば、脳転移がある時にヨード内用療法を行い、脳転移の周囲がむくみや出血を起こすと、麻痺などの症状がでることがあります。背骨の転移がある場合にも、転移の周囲がむくむと、手足のしびれや麻痺の症状がでることがあります。

このように、脳転移がある場合や、背骨の転移などですでに足のしびれなどの症状がある場合には、ヨード内用療法を行うことで症状の悪化を起こすことがあるため、行わないことがあります。

無月経など生殖機能への影響

妊娠可能な女性では、放射性ヨード内用療法の後に一時的な無月経が20-30%で起こります。治療後の不妊や胎児先天異常のリスクは増加しません。治療後1年以内の妊娠では流産が増加するという報告もありますが、関係しないという報告もあり結論はでていません。

男性の場合は一時的な精子減少があるものの、数回の治療では不妊に繋がることはないと言われています。

白血球血小板の減少:骨髄抑制

一時的に血液中の細胞が減ることがありますが、通常は徐々に改善します。血液内には赤血球、白血球、血小板などの細胞があります。このうち放射性ヨード治療で影響をうけやすいのは、白血球と血小板です。血液の細胞は骨髄と呼ばれる骨の中心部で作られますが、放射線の影響で一時的に細胞を作る働きが低下するため、血液内の細胞数が減ります。放射性ヨード内用療法を繰り返し行うと、骨髄の細胞を作る働きが低下したままとなり白血球数や血小板数が回復するのに時間がかかったり、正常の水準まで回復しなくなったりすることがあります。

・肺障害:放射線性肺臓炎、肺線維症

肺転移が多い場合には、放射性ヨード内用療法によって放射線性肺蔵炎、肺線維症が引き起こされることがあります。乾いた咳や発熱が続くことが初期症状です。進行すると動いた時の息苦しさなどが出てくることがあります。まれではありますが急激に呼吸が苦しくなることもありますので、乾いた咳や微熱が持続する場合には主治医に相談してください。肺転移が多い場合には肺障害がでやすいと言われており、注意して治療を行います。

・発がん:二次性発がん

二次性発がんとは、がん治療に使った抗がん剤や放射線により正常細胞が障害されて、治療を終えた数年から数十年後に、もとの病気とは別の種類のがんや白血病が起こることです。放射性ヨード内用療法に関しては、二次性発がんが起こるという意見と、関係ないという意見があります。

大人の場合には、二次性発がんのリスクよりも、甲状腺がんの悪化のリスクの方が高いと考えられるため、放射性ヨード内用療法を行うことが多いです。

小児の場合には放射性ヨード内用療法を行ってから長期的に生存すると考えられ、二次性発がんが起こりうる期間が長くなります。そのため、小児の場合は二次性発がんのリスクと、甲状腺がんの治療の効果を一人ひとり検討して、放射性ヨード内用療法を行うか考えます。

一般的に小児の甲状腺乳頭がんは大人よりも進行が遅く、肺転移などがおこった場合でも病状の進行が非常に遅い場合もあります。病状の進行速度と、放射性ヨード治療で得られる治療効果、二次性発がんのリスクを検討して治療を決めます。

参考文献
・Side effects of "rational dose" iodine-131 therapy for metastatic well-differentiated thyroid carcinoma. J Nucl Med. 1986 Oct;27(10):1519-27.
・Radioactive iodine and the salivary glands. Thyroid. 2003 Mar;13(3):265-71.
・Incidence of radiation thyroiditis and thyroid remnant ablation success rates following 1110 MBq (30 mCi) and 3700 MBq (100 mCi) post-surgical 131I ablation therapy for differentiated thyroid carcinoma. Clin Endocrinol (Oxf). 2008 Dec;69(6):957-62.
・Therapeutic administration of 131I for differentiated thyroid cancer: radiation dose to ovaries and outcome of pregnancies. J Nucl Med. 2008 May;49(5):845-52.

◎甲状腺ホルモン不足症状

放射性ヨード治療を行う場合には甲状腺刺激ホルモン(TSH)を十分に増加させておく必要があります。TSHを増加させる方法としてTSH製剤を使用する場合と甲状腺ホルモンを中止する方法があります。アブレーションの場合にはTSH製剤を使用できることがありますが、再発・転移に対する放射性ヨード治療では甲状腺ホルモンの内服を中止してTSHを増加させる必要があります。甲状腺ホルモンを内服中止することにより、甲状腺機能低下症の症状が出ることがあります。甲状腺機能低下症の症状は、疲れやすさ、食欲低下、便秘、寒がりになること、皮膚の乾燥、体重増加、うつ状態などです。

放射性ヨード内用療法を受けられる医療機関

放射性ヨード内用療法の治療には入院する方法と外来で行う方法があります。内服する放射性ヨードの量によって入院か外来かが決まっています。

アブレーションで内服量が少ない場合には外来で行うことができます。アブレーションで内服量が多い場合や再発や転移に対して放射性ヨード内用療法を行う場合には入院が必要です。外来アブレーションを行う施設は増えていますが、入院での放射性ヨード内用療法を行うことができる施設は少なく不足しています。

放射性ヨード内用療法を行うかどうかについては、個々の病状や治療の適応を主治医に説明してもらい相談して決定します。手術を行った医療機関で放射性ヨード内用療法も行える場合は問題ありませんが、できない場合には他の医療機関を紹介してもらう必要があります。提携の医療機関がある場合にはその病院を紹介してもらうことになります。提携医療機関が決まっていない場合には、通いやすい場所を目安に紹介してもらってください。日本核医学会のホームページに放射性ヨード内用療法を行うことのできる施設が掲載されていますので、参考にしてください。

治療の費用

治療にかかる費用は病状によって個人差があります。放射性ヨード内用療法では入院で行う場合と、外来で行う場合で費用が異なります。入院での放射性ヨード内用療法を行う場合には約10万円の費用がかかります。

治療の際に、TSH製剤を使用するかどうかによっても費用は異なります。TSH製剤を使う場合には、2回の注射の費用を合計すると、自己負担3割の場合には約6万円の追加となり、自己負担1割の場合には約2万円の追加費用がかかります。

治療にかかる費用が高額になった場合には「高額療養費制度」が利用できます。1ヶ月に支払った医療費が一定額を超えた場合に、超えた分の費用を返還してくれる制度です。自己負担の上限額は、年齢や所得によって異なります。

治療前に加入している健保組合などの窓口で「限度額適用認定証」をもらっておくと、医療機関での治療費の支払いは、はじめから自己負担の上限額までになります。

3. 甲状腺がんの放射線治療:外照射

外照射とは、がんのある部位に身体の外から放射線を当てることです。

一般的には土日祝日を除いて、毎日同じ部位に、同じ量の放射線を決まった量に達するまで当てます。1回に当てる量は場所によってことなり、1.8Gy(グレイ)から3Gy程度です。当てる放射線の総量は身体の部位によって決まっており、放射線による神経障害や骨の壊死などがでない量まで当てます。

放射線治療の効果と副作用の関係について、理解の助けのため、原理を大まかに説明します。がん細胞は増殖するために細胞分裂を繰り返しています。放射線を当てると細胞のDNAが傷ついて、それ以上細胞が増殖できなくなります。細胞分裂のタイミングによって放射線の影響を受けやすい時期と受けにくい時期があるのですが、がんの中では多くの細胞がバラバラなタイミングで分裂しているので、一度だけ放射線を当てても効きにくかった細胞が分裂を続けてしまいます。そこで、様々な細胞に放射線が満遍なく効果を発揮するように、少量ずつの放射線を何度も照射します。

実際には放射線の影響を逃れた細胞が残ってしまい、いつか増殖を再開する可能性がありますが、放射線治療の終了直後にがんが大きくなることはほとんどありません。これは細胞分裂の周期の中で放射線が効きにくい時期から再び分裂する時期までに時間がかかるからです。通常、放射線の照射が終わった後も、効果が1ヶ月程度は持続します。

甲状腺がんに対する外照射は、甲状腺に放射線を当てる場合と、甲状腺がんが転移した部分に放射線を当てる場合があります。実際の方法や副作用についてみていきましょう。

甲状腺がんに対する外照射はどんな時に行うか

甲状腺がんに対して外照射を行う場合には、甲状腺のある部分に放射線をあてる方法と、骨や脳などの甲状腺がんが転移した部分にあてる方法があります。

◎甲状腺に対して行う場合

・甲状腺分化がん(乳頭がん、濾胞がん)

甲状腺分化がんに対しては外照射の効果が低いため、手術や放射性ヨード内用療法を優先して行います。手術や放射性ヨード内用療法が行えない場合には放射線の外照射を行うことがあります。

たとえば、甲状腺の外への甲状腺がんの広がりがあって、手術でできるかぎり取り除いてもがんが残っている可能性がある場合や、リンパ節の周囲にがんが広がっている場合で、放射性ヨード内用療法が行えない場合に行います。放射線ヨード内用療法が行えない場合とは、甲状腺がん以外にも治療を要する病気が同時にあってヨード制限を行うことができない場合などです。

・未分化がん

未分化がんでは多くの場合、診断時にすでに遠隔転移があることや、甲状腺にあるがんが広範囲に広がっていることなどにより、手術のみでは病状をコントロールすることができません。また、未分化がんの性質として、放射性ヨード内用療法やホルモン治療は効果が期待できません。

そのような未分化がんに対しては抗がん剤と放射線の外照射を併用します。抗がん剤と放射線でがんが小さくなった場合には、その後に手術を行うこともあります。

◎転移した場所に行う場合

甲状腺がんで転移をおこしやすい場所は肺、骨、脳です。このうち、骨転移や脳転移は外照射によって症状を和らげる目的の治療を行うことがあります。

・骨転移

骨転移が1か所の場合は、症状がある場合もない場合も手術での完全切除を検討します。

多発の骨転移があり、骨折や神経麻痺の症状を引き起こしている場合では可能であれば手術を行います。手術後に放射性ヨード内用療法を併用することもあります。放射性ヨード療法は骨転移には効果が弱いですが、治療前のシンチグラフィ検査で転移巣にヨードの集積があれば放射性ヨード内用療法を行います。

多発の骨転移があり、骨折や神経麻痺がないものの痛みがある場合は、痛みを和らげる目的で外照射を検討します。ビスホスホネート製剤も使用し、転移により骨が弱くなった状態の改善をします。

多発の骨転移で症状がない場合には、ビスホスホネート製剤の使用、ホルモン治療、放射性ヨード内用療法などを組み合わせて治療を行います。

・脳転移

脳転移の数と大きさ、転移による症状によって、手術や外照射による放射線治療を行います。外照射には脳全体に放射線をあてる全脳照射とがんにのみあてる定位放射線照射(ガンマナイフ)があります。

脳転移は小さなものであっても、脳転移の周囲がむくむことで麻痺や失語症などの症状がでて生活の質を低下させる可能性があります。脳転移が大きい場合には脳のむくみが悪化して意識状態や呼吸状態が悪化する可能性があります。そのため、脳転移が大きい場合には積極的に手術治療を検討します。脳転移が1つしかなく3cm以上の大きさで、手術可能な場所であり、手術後の余命が6ヶ月以上期待できることが手術を行う条件です。

手術以外の治療方法は全脳照射が基本です。3cm以下の脳転移が1個から4個の場合にはまずは全脳照射を考慮します。脳転移が2個から4個あり、そのうち1つの脳転移が3cm以上であれば、3cm以上のものを手術で摘出し、残りは定位放射線照射もしくは全脳照射を行います。転移数が5個以上の場合には全脳照射を行います。

外照射の方法

放射線は決まった場所に毎日同じ量をあてます。場所によって合計でどのくらいの量を当てるかが決定しています。当てる放射線の総量は重大な副作用がでにくい量になっています。例えば、甲状腺に照射する場合には脊髄に放射線があたるため、放射線量が多くなると脊髄の麻痺が起こることがあります。脊髄の麻痺が起こる線量は今までの経験でわかっており、それを超えない量で行います。

・乳頭がん、濾胞がん

リンパ節転移がなく甲状腺のあった部位のみに照射する場合には、1回1.8-2Gyずつに分けて合計60-70Gyの照射を行います。

リンパ節転移がある場合には、広い範囲のリンパ節に1回1.8-2Gyずつ合計40-50Gyあてて、更に甲状腺があった部位に10-20Gy照射します。

・未分化がん

未分化がんは手術、抗がん剤治療、放射線治療をあわせて行います。どの組み合わせが最善かは決まった基準がないため、がんの広がりや、年齢、全身状態に応じて治療を選択します。

一般的に受診時にすでに首の広範囲にがんが広がっていることが多いので、最初に手術で全てを取りきることが難しいため、最初に抗がん剤治療と外照射を合わせて行って、がんを小さくしてから手術を行うことが多いです。

外照射は一般的に頸部リンパ節に40-50Gy、甲状腺の場所に10-20Gyの照射を行います。未分化がんは増殖速度が速いため、様々な細胞が分裂するタイミングに合わせて放射線を当てるために1日1回よりも1日2回に分けてあてる照射方法がより効果を期待できます。しかし、1日2回の照射を行えない施設もありますので、主治医に確認してみてください。

外照射の副作用

外照射による放射線治療の副作用は、放射線を当てている皮膚に炎症を起こすことと、甲状腺周囲の場合には食道などに炎症を起こすことです。

皮膚炎

甲状腺や転移した場所に外照射で放射線をあてる場合は、放射線は必ず皮膚を通過します。そのため皮膚の放射線のあたった部分に、赤みや痛みが出ます。放射線治療による皮膚の障害は、ひどい日焼けのような状況を想像するとわかりやすいかもしれません。つまり、赤くなったり、乾燥したり、痛みがでたりします。皮がむけることもあります。

放射線治療開始後、2-3週目(照射した量が合計20-30Gyになるころ)のあたりで皮膚の赤み、かゆみやピリピリした感じが出現します。3-5週目(30-50Gy)では、皮膚の乾燥や落屑(らくせつ;ポロポロ剥がれること)、熱感や軽い痛みが出現します。治療を続けると、更に悪化し、5-6週目(50-60Gy)では、皮膚のただれ(びらん)、浸出液、出血がおき、強いかゆみや痛みを引き起こします。照射終了後も悪化し、2-3週でピークに達し、1-3ヶ月で回復します。

皮膚炎を起こした皮膚は刺激に弱く、皮膚の剥離が起きやすい状態にあります。皮膚の剥離が起きると皮膚のバリアがなくなり感染などに弱くなります。皮膚炎に対しては、保湿をすることと、刺激を避けることで皮膚の剥離を防ぐことができます。身体にテープを貼ることなどを避け、襟のない服を着るほうが良いでしょう。

【治療中の皮膚のケア方法】

  • 皮膚を清潔にする
  • 皮膚を保湿する
  • 皮膚の刺激を回避する

頸部は円柱状の形をしているため、放射線を1つの方向から当てた場合に、放射線が出るところから近い部位と遠い部位で、あたる放射線の強さが異なります。当たる放射線の量が多い部分が出てしまうことと、衣類の襟による刺激が加わりやすいことなどから、放射線皮膚炎をおこしやすいです。どのような点を注意すべきか、みていきましょう。

■皮膚を清潔にする

皮膚の落屑(らくせつ;ポロポロ剥がれること)したものが残っていると、感染しやすいため、洗って取り除いてください。皮膚を刺激しないように洗うには、石鹸などをよく泡立てて、優しく洗います。熱いお湯では刺激が強いため、微温湯(ぬるま湯)を使用します。洗浄後に拭く時も、タオルなどで強くこすることはさけて、押さえて水分を拭き取るようにします。

皮膚炎が悪化した際は、石鹸は使用せずに、洗い流すだけのほうがいいです。水道水で洗うのが痛い場合は、主治医に相談し、生理食塩水などを処方してもらうことも検討します。生理食塩水は体液と成分が似ているので、刺激を減らすことができます。

■皮膚を保湿する

表皮剥離がないうちは、保湿剤をつける必要はありません。表皮剥離が出現してきたら、軟膏(白色ワセリン、アズノール®軟膏など)を塗って保湿をしてください。軟膏をうまくつけるには、まず皮膚を洗浄して剥がれたものを取り除きます。乾燥してきたら、清潔にして、塗ります。放射線照射中は、金属を含む酸化亜鉛(亜鉛華軟膏)、スルファジアジン銀(ゲーベン®クリーム)や、基剤がクリームのものは避けましょう。なぜなら、金属が入っているので、放射線を当てた時に反射を起こして周囲の組織に放射線が当たってしまうからです。基本的には病院で処方されたもの以外は合わない場合もあるので、化粧品を含めて、市販のものは使用しないほうが無難です。

表皮剥離し、皮膚を保護する必要がある場合には、普通のガーゼを直接あてないようにしてください。普通のガーゼを直接あてると皮膚にくっついてしまいガーゼを交換する際に、更に表皮が剥がれて皮膚炎が悪化することがあります。貼り付きにくいガーゼなどがありますので、主治医に相談してみましょう。

■皮膚の刺激を回避する

衣服の襟が当たると刺激になりやすいので、襟のない服がおすすめです。ウールや固い素材も皮膚への刺激になります。照射野の保護や保湿には、市販の化粧品やクリーム、絆創膏、湿布などは刺激が強い場合もありますので避け、な病院で処方された軟膏のみを使用してください。軟膏を塗る時も強くこすらないことで刺激を抑えられます。

◎のどや食道の潰瘍:難治性粘膜潰瘍

放射線により、口の中(口腔)やのど、食道などの粘膜が傷つきえぐれた状態(潰瘍)ができることがあります。食事を飲み込んだ時のしみるような感覚や、痛み、違和感がでることがあります。粘膜を保護する薬や痛み止めを内服して対処します。潰瘍が進行すると、出血や穴が開くこと(穿孔)、隣り合った空間とつながってしまうこと(孔形成)などが起こることがあります。

食事を飲み込んだ時にしみるような感覚や、痛み、違和感がでてきた場合は、一度主治医に相談してください。粘膜の状態をファイバースコープなどで評価します。ファイバースコープは直径2-4mm程度の胃カメラと似た細いカメラで、鼻から入れてのどや食道を観察することができます。

痛みで食事が減ってしまった場合には、食事に栄養剤をあわせて飲んだりします。食事が全くとれなくなった場合には、点滴などを併用する場合もあります。