[医師監修・作成]甲状腺がんの手術:手術法や合併症、日常生活の注意点など | MEDLEY(メドレー)
こうじょうせんがん
甲状腺がん
甲状腺にできるがんのこと。様々なタイプがあるが、甲状腺乳頭がんというタイプが非常に多い
11人の医師がチェック 128回の改訂 最終更新: 2021.11.26

甲状腺がんの手術:手術法や合併症、日常生活の注意点など

甲状腺がんの治療の中心が手術です。がんの種類や広がりによって手術の範囲が異なります。手術の合併症と、手術後の注意点などについても合わせてみていきましょう。

1. 甲状腺がんの手術はどんな人に行う治療なのか:治療の適応

甲状腺がんの治療の中心は手術です。基本的には甲状腺がんと診断された全ての人が手術の対象になります。甲状腺がんの治療には手術治療、放射線治療、薬物治療がありますが、目に見える大きさのがんに対しての基本となる治療は手術治療です。

治療を行うことができる場合を、治療の適応があると言います。甲状腺がんは、離れた臓器に転移がある場合でも、手術の適応がある場合があります。手術の適応については組織型によって異なります。組織型とは顕微鏡でがんを見た時の見た目による分類です。甲状腺がんの組織型は、乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がんに大きくわけられます。乳頭がん、濾胞がん、髄様がんでは多くの場合に手術の適応がありますが、未分化がんは手術の適応がない場合も多いです。

手術の適応の有無は、手術をすることで目的を達成できる見込みがあるかどうかによって決まります。甲状腺がんの手術の目的には2種類あります。

  1. がんを取り除くこと
  2. がんによる症状を緩和すること

手術を受けようとする人の状態によって、どちらの目的で手術を行うかが違います。それぞれの手術がどんな人に対して行われるかを説明します。

◎がんを取り除くための手術

がんを取り除く目的の手術は甲状腺がんになったほとんどの人に行われます。

乳頭がんや濾胞がんでは最初の診断時に離れた臓器への転移がある場合でも手術を行います。髄様がんで離れた臓器への転移がある場合には手術が行われない場合もあります。未分化がんの場合は、がんが取り切れる大きさの場合には取り切る手術を行います。取り切れない大きさの場合には、まず放射線治療や抗がん剤治療を行って、取り切れる大きさになれば手術を行います。

手術で切り取る甲状腺の範囲は、がんの組織型、大きさと広がりによって決まります。甲状腺を全て摘出する場合と、半分のみ摘出する場合があります。

甲状腺がんはくびのリンパ節に転移することがあります。リンパ節転移に対する治療の中心も手術です。目に見える大きさのリンパ節転移は手術で取り切ります。一見正常に見えるリンパ節にもがん細胞が隠れていることがあるので、一定範囲のリンパ節をまとめて取り除く手術(リンパ節郭清)を行います。リンパ節転移が見つかっている範囲に応じて、リンパ節転移を取り残さないように郭清の範囲を決めます。

甲状腺乳頭がん、濾胞がんの手術の考え方は同じです。がんの状態に応じた選択肢について下記の表にまとめます。

表 甲状腺乳頭がん、濾胞がんの手術の選択肢

ステージ T分類 N分類 甲状腺の手術 リンパ節の手術
葉峡部切除術 全摘術 気管周囲郭清 縦隔郭清 頸部郭清
I T1 N0

-

-

-

T2 N0

-

-

II T1 N1a

-

-

N1b

-

T2 N1a

-

N1b

T3 N0

-

-

N1a

-

N1b

III T4a N0

×

-

-

N1a

×

-

N1b

×

IVA T4b N0

×

-

-

N1a

×

-

N1b

×

◯:行うことが多い、△:がんの範囲に応じて行う、-:通常は行わない、×:がんを取り残す可能性が高く行わない

T分類はがんの大きさ、N分類はリンパ節転移の広さを表します。T分類とN分類に加えて、離れた臓器に転移があるか(M分類)も総合してステージが決まります。ステージについて詳しくは「甲状腺がんの検査」で説明しています。

乳頭がん、濾胞がんに対する手術では、がんの大きさと、リンパ節転移の広さに応じて手術範囲を決定します。甲状腺全摘術と甲状腺葉峡部切除術の違いなどについては、このページの「甲状腺がんの手術の種類」で説明します。

手術前の検査でリンパ節転移が見つからない場合でも、通常は気管周囲のリンパ節郭清(気管周囲郭清)を行います。リンパ節転移があらかじめわかっている場合には、左右の肺の間にある縦隔のリンパ節郭清(上縦隔郭清)や、側頸部のリンパ節郭清(頸部郭清)を行います。

甲状腺髄様がんの手術範囲を決めるには、がんの種類をさらに分けます。髄様がんの発症には遺伝子変異が関連することがわかっています。髄様がんの約4割が遺伝性髄様がんであり、同じ家族内で髄様がんを発症します。髄様がんの治療では遺伝性髄様がんか、遺伝性ではない髄様がんかで甲状腺を摘出する範囲が異なります。どちらの場合もリンパ節転移しやすいので、手術では甲状腺の周りのリンパ節を一緒に取り除きます。

遺伝性ではない髄様がんの場合には、腫瘍の大きさやステージに応じて甲状腺を摘出する範囲を決定します。遺伝性ではない髄様がんに対する手術範囲の選択肢について下記にまとめます。

表 遺伝性ではない甲状腺髄様がんの手術の選択肢

ステージ T分類 N分類 甲状腺の手術 リンパ節の手術
葉峡部切除術 全摘術 気管周囲郭清 上縦隔郭清 頸部郭清
I T1 N0

-

-

-

II T2/T3 N0

-

-

III T1 N1a

-

-

T2/T3

-

IVA T1 N1b

-

T2/T3

T4a Nに関係なく

×

IVB T4b Nに関係なく

×

◯:行うことが多い、△:がんの範囲に応じて行う、-:通常は行わない、×:がんを取り残す可能性が高く行わない

T分類はがんの大きさ、N分類はリンパ節転移の広さを表します。T分類とN分類に加えて、離れた臓器に転移があるか(M分類)も総合してステージが決まります。ステージについて詳しくは「甲状腺がんの検査」で説明しています。

遺伝性ではない髄様がんに対する手術では、がんの大きさと、リンパ節転移の広さに応じて手術範囲を決定します。手術前の検査でリンパ節転移が見つからない場合でも、通常は気管周囲のリンパ節郭清(気管周囲郭清)を行います。リンパ節転移があらかじめわかっている場合には、左右の肺の間にある縦隔のリンパ節郭清(上縦隔郭清)や、側頸部のリンパ節郭清(頸部郭清)を行います。

遺伝性髄様がんの場合には甲状腺にある細胞の全てががんになりやすい素質を持っているため、甲状腺を残すとそこから再発する可能性が高く、甲状腺を残さずに摘出します。リンパ節の手術の範囲は、遺伝性髄様がんでも遺伝性ではない髄様がんと同様の基準で決めます。

◎がんによる症状を緩和するための手術

甲状腺がんが取り切れないと判断した場合には、症状を緩和するための手術を行います。甲状腺がんが首で大きくなった場合には、空気の通り道である気管を圧迫したり、気管の中にがんが入り込んで窒息する可能性があります。窒息を回避するための手術として気管切開術を行います。

甲状腺がんから肺や骨などの離れた臓器に転移した場合は、甲状腺がんの組織型と転移の場所と数によって治療を決定します。乳頭がんや濾胞がんでは手術治療が可能な場所で、数が1つの場合には手術を行います。髄様がんや未分化がんでは広がりに応じて、手術、抗がん剤治療などを行います。

ここでは甲状腺やリンパ節に対する手術について説明します。甲状腺がんが転移した場合の治療に関しては、「甲状腺がんが転移した場所の治療は?」に記載してあります。

2. 甲状腺がんの手術の種類

甲状腺がんを取りきるための手術には、甲状腺を全て切り取る甲状腺全摘術と、一部のみ切り取る甲状腺葉峡部切除術があります。どちらの手術でも、周囲のリンパ節の転移に応じてリンパ節郭清術を一緒に行うことがあります。

その他に、甲状腺がんを取り切る目的ではなく症状を改善する目的で行う手術として気管切開術があります。

甲状腺がんをとりきるために、甲状腺全摘術か甲状腺葉峡部切除術のどちらを行うかは、がんの組織型とがんの広がり、転移の有無などを総合的に判断して決めます。

甲状腺乳頭がんと濾胞がんでは再発リスクが高いと予想される場合には甲状腺全摘術を行い、再発リスクが低い場合には甲状腺を温存する甲状腺葉峡部切除術を行います。甲状腺髄様がんでは遺伝性であるかどうかと、甲状腺がんの広がりによって手術範囲を決定します。甲状腺未分化がんではがんが首に広く広がっているため、甲状腺全摘術を行うことが多いです。

手術の方法ごとの違いなどを説明するには、甲状腺のまわりにある臓器などについて先に説明する必要があります。やや専門的な内容もありますが以下で説明します。

【甲状腺の場所とまわりにあるもの】

甲状腺はのどぼとけのすぐ下にあり、気管の前に張り付いています。のど仏は甲状軟骨と呼ばれる軟骨の出っ張りです。甲状腺は右と左に大きくわかれますが、真ん中でくっついています。右と左の部分を右葉(うよう)と左葉(さよう)と呼び、真ん中を峡部(きょうぶ)と呼びます。峡部からは錐体葉(すいたいよう)と呼ばれる葉がくっついています。イメージでは気管の前に蝶々が羽を広げたような形で張り付いています。

甲状腺のまわりにある構造として重要なものが、副甲状腺と反回神経(はんかいしんけい)、上喉頭神経(じょうこうとうしんけい)です。

◎副甲状腺(上皮小体:じょうひしょうたい)

副甲状腺は甲状腺の裏に右上下に1つずつあり、合計4つあります。体のカルシウムを調整するホルモンを分泌しています。カルシウムが減ると、不整脈が出たり、手足のしびれが出ることがあります。副甲状腺は1つでも残っているとカルシウムの調整ができます。甲状腺全摘術の場合には副甲状腺の機能を残すために、副甲状腺を首の筋肉内に移植します。

◎反回神経と上喉頭神経

反回神経と上喉頭神経は声帯の動きを担当する神経です。反回神経は甲状腺の裏の気管の脇を通り、上喉頭神経は甲状腺の斜め上にあります。

反回神経は声帯の開閉を担当する神経です。甲状腺の手術の時には反回神経が麻痺して動かなくなることがあります。片方の反回神経が麻痺すると、声帯の片方が動かなくなり息漏れをする声になることがあります。両側の反回神経が麻痺した場合には、両側の声帯が動かなくなります。声帯が真ん中で動かなくなると、息を吸ったり吐いたりできなくなります。鼻や口から吸った空気は声帯を通って肺に入ります。息を吸うと声帯が開いて、空気が肺に入ります。声帯麻痺が起きると声帯が開かなくなるので、息が吸えなくなってしまいます。その場合には、一時的に呼吸を補助するために、気管切開が必要になることがあります。

上喉頭神経は裏声を出す神経で、傷ついた場合には高い声や裏声が出しにくくなります。上喉頭神経は声帯の開閉には関わっていないので、傷ついた場合に呼吸ができなくなることはありません。

甲状腺全摘術:甲状腺を全て摘出する手術

甲状腺全摘術は甲状腺に隣り合う反回神経などを残しながら甲状腺を摘出する手術方法です。

手術は全身麻酔で行います。

切る場所の皮膚には鎖骨の上あたりに丸首の襟のような傷がつきます。全摘術の場合には10cmほどの傷になることが多いです。

声帯の動きを担当する神経(上喉頭神経と反回神経)を温存して甲状腺を摘出します。医療機関によっては声帯の動きを確認する特殊な装置を使用して、安全に手術を行う工夫をしています。神経を温存した場合でも、手術中に触ることで一時的に麻痺を起こすことがあります。神経を切断していない場合には、半年程度で徐々に神経の働きが改善します。

声帯の動きを担当する神経は、甲状腺の上にある上喉頭神経と甲状腺の裏を通る反回神経です。上喉頭神経は裏声を出す神経で、傷ついた場合には高い声や裏声が出しにくくなります。反回神経は声帯の開閉を担当する神経です。傷つくと声帯の片方が麻痺して息漏れをする声になることがあります。

甲状腺全摘術では、両側の反回神経が麻痺する可能性があります。両側の反回神経麻痺が起きた場合には、両側の声帯が動かなくなります。声帯が真ん中で動かなくなると、呼吸ができなくなることがあります。声帯麻痺が起きると声帯が開かなくなるので、息が吸えなくなってしまいます。その場合には、一時的に呼吸を補助するために、気管切開が必要になることがあります。

甲状腺がんが手術前に反回神経のまわりに広がっている場合があります。この場合、手術前から甲状腺がんの影響により反回神経麻痺の症状が出ていることもあります。

手術前から反回神経麻痺があった場合には、反回神経の機能を残すよりも、がんを取りきることを優先して手術を行います。がんを取りきる時に神経を切らざるを得なかった場合にはつなぎ合わせます。反回神経を完全に切断すると神経から声帯に刺激が全くなくなります。神経から刺激がない筋肉は痩せていきます。声帯も内部に筋肉を含むため、反回神経から刺激が入らなくなると、声帯が痩せて声がれが更に悪化します。しかし、反回神経が一度切れてもつなぎ合わせておくことで、声帯が痩せることを防ぐ効果があるとともに、まれではありますが声帯が動くようになることもあります。

手術前に反回神経麻痺がない場合で、手術中に反回神経の周囲にがんが広がっていることがわかった場合には、神経のまわりのがんをできるかぎり切除します。がんを完全に取りきるために神経を切断することはあまり行いません。なぜなら、神経を切断してがんを摘出した場合と、がんが少しのこっても神経を温存して声を出す機能を残した場合では、大きく生存率は変わらないという報告があるからです。そのため、手術前に反回神経麻痺がない場合には、神経の周りにがんを少し残しても、神経を温存する方法を取ることが多いです。

甲状腺全摘術のメリットは下記になります。

  • 残した甲状腺にがんが再発するリスクを減らせる
  • 手術後に放射性ヨード内用療法を行うことで再発リスクを減らせる
  • 放射性ヨードを利用した検査を行うことで再発や転移を調べることができる
  • サイログロブリンを血液検査で測定することで再発の有無を調べることができる

手術後の放射性ヨード内用療法は、甲状腺組織や甲状腺乳頭がん、濾胞がんが放射性ヨードを取り込む働きを利用した治療です。甲状腺の一部を残す手術方法では、残した甲状腺に放射性ヨードが取り込まれてしまうため、放射性ヨード内用療法を行うことができません。放射性ヨード内用療法が可能になる点は甲状腺全摘術のメリットと言えます。放射性ヨード内用療法について詳しくは「甲状腺がんの放射線治療:放射性ヨード内用療法」で説明しています。

放射性ヨードは検査にも使われます。再発や転移で現れた甲状腺がんが放射性ヨードを取り込む性質を持っていれば、画像検査で再発や転移を知ることができます。この検査も甲状腺の一部を残している場合には使えません。

サイログロブリンは甲状腺組織で作られている物質です。甲状腺全摘術によって血液中のサイログロブリンはなくなるはずですが、もし再び増えてくることがあれば、甲状腺がんの再発が疑われます。

検査の方法などについて詳しくは「甲状腺がんを疑われた時に行う検査とステージ分類」のページで説明しています。

甲状腺全摘術のデメリットは下記になります。

  • 手術で反回神経麻痺を起こす確率が高くなる
  • 甲状腺ホルモンの不足が必発であり、生涯、甲状腺ホルモンを内服する必要がある
  • 副甲状腺機能低下を起こすことが多く、起こった場合は生涯、ビタミンD製剤を服用する必要がある

【甲状腺全摘術が勧められる場合】

甲状腺全摘術が勧められる場合は、甲状腺乳頭がんと濾胞がんで再発リスクが高い場合と、遺伝性の髄様がんの場合です。

乳頭がんと濾胞がんで、再発リスクが高い場合は、手術後の補助療法として放射性ヨード内用療法を行います。放射性ヨード内用療法を行う条件として、甲状腺全摘術を行っている必要があります。なぜなら、甲状腺が残存していると残存した甲状腺に放射性ヨードが取り込まれてしまうからです。再発リスクが高いと予想される場合には基本的に、甲状腺全摘術を行ったうえで放射性ヨード内用療法を術後行います。

甲状腺腫瘍診療ガイドライン』では甲状腺全摘術を行う基準として下記のような場合を挙げています。下記の条件にあてまる場合は甲状腺全摘術が勧められます。

  • 乳頭がんで大きさが5cmを超えるとき
  • 3cm以上のリンパ節転移があるとき
  • 内頸静脈・頸動脈・椎前筋膜(背骨の前の筋肉を包む膜)・主な神経へがんが広がっているとき
  • 気管、食道の粘膜をこえてがんが広がっているとき
  • 肺や骨などの離れた臓器へがんが転移(遠隔転移)しているとき

髄様がんのうち、遺伝性髄様がんの場合には甲状腺にある細胞の全てががんになりやすい素質を持っているため、甲状腺を残すとそこから再発する可能性が高く、甲状腺全摘術を行います。

甲状腺葉峡部切除術:甲状腺を半分摘出する手術

甲状腺葉峡部切除術は、甲状腺を半分取り除く手術です。がんがある方の甲状腺を取ります。甲状腺の真ん中には峡部と呼ばれる部分がありますが、甲状腺葉峡部切除術では甲状腺の片方の葉と峡部を一緒に取り除きます。甲状腺の片方の葉のみを取り除き、峡部を残す場合には甲状腺葉切除術と呼びます。甲状腺葉切除術と甲状腺葉峡部切除術はほぼ同じで、以下の説明はどちらにも当てはまります。

傷跡は甲状腺がんのある側の方に、鎖骨の上に丸襟状につきます。

声帯の動きを担当する神経を温存して甲状腺を摘出します。医療機関によっては声帯の動きを確認する特殊な装置を使用して、安全に手術を行う工夫をしています。神経を温存した場合でも、手術中に神経に触ることで一時的に麻痺を起こすことがあります。麻痺が出ても神経を切断していなければ、半年程度で徐々に神経の働きが改善します。

声帯の動きを担当する神経は、甲状腺の上にある上喉頭神経と甲状腺の裏を通る反回神経です。上喉頭神経は裏声を出す神経で、傷ついた場合には高い声や裏声が出しにくくなります。反回神経は声帯の開閉を担当する神経です。傷つくと声帯の片方が麻痺して息漏れをする声になることがあります。

声帯麻痺が起きた場合でも、甲状腺全摘術と異なり、片方のみしか麻痺しないので呼吸が苦しくなることはありません。甲状腺機能の低下が起きた場合も多くの場合は一時的なので、甲状腺ホルモンを一生飲む必要はありません。

甲状腺葉峡部切除術のメリットは下記です。

  • 手術によって反回神経麻痺を起こす確率が全摘術に比較して低い
  • 甲状腺ホルモンの不足が起きにくく、症状が出た場合でも一時的なものであることが多く、甲状腺ホルモンの内服を長期間に渡って続ける必要がない
  • 副甲状腺機能低下を起こしにくい

甲状腺葉峡部切除術のデメリットは下記です。

  • 残した甲状腺にがんが再発する可能性がある
  • 放射性ヨード内用療法や、放射性ヨードを用いた検査を行うことができない
    • 放射性ヨード内用療法やヨードを用いた検査を行うためには、再度手術を行って甲状腺を全摘出する必要がある
  • サイログロブリンで再発の有無を推定することができない

気管周囲郭清術・上縦隔郭清術・頸部郭清術:リンパ節の切除

甲状腺の全部または一部を取り除く手術と一緒に、リンパ節の切除をあわせて行います。

甲状腺がんが転移しやすいリンパ節は気管前リンパ節(気管の前にあるリンパ節)と、気管傍リンパ節(気管の脇にあるリンパ節)です。この部分のリンパ節を取り除く気管周囲郭清術を必ず行います。

気管前リンパ節・気管傍リンパ節以外のリンパ節に対する手術は、リンパ節転移の範囲に応じて行います。

上縦隔(じょうじゅうかく)にリンパ節転移がある場合には上縦隔郭清を行います。縦隔とは左右の肺の間にある部分で、心臓や大動脈などがある部分です。縦隔の上のほうを上縦隔とよびます。

くびの横のリンパ節に転移がある場合には頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)を行います。頸部郭清術は顎から鎖骨の間の範囲にある脂肪をリンパ節ごと摘出する手術です。ただし重要な血管や神経は摘出せず残します。

リンパ節転移は元々のがんのある部分から、がん細胞がリンパ管を通って移動することでできたものです。そのため、転移したリンパ節のみを摘出するのみでは不十分で、途中のリンパ管にもがん細胞がいる可能性があり、リンパ管も一緒に摘出する必要があります。リンパ管は頸部の脂肪の中に埋まっているため、脂肪ごと摘出します。

脂肪の中には重要な血管や神経もあるため、それらを傷つけないように摘出します。しかしリンパ節転移が大きく、血管や神経に巻きついている場合は、血管や神経を切断せざるを得ないことがあります。

気管切開

甲状腺がんが大きくて手術で取り切れないと判断した場合に、症状を緩和するための手術を行うことがあります。甲状腺がんが首で大きくなった場合には、空気の通り道である気管を圧迫したり、気管の中にがんが入り込んだりすることで、窒息する可能性があります。窒息を回避するための手術として気管切開術を行います。

息苦しさをとる治療方法としては、手術で呼吸経路を確保する方法と、息苦しさを緩和する薬物治療があります。息苦しさを緩和する薬物治療では、呼吸は楽になりますが、空気の通り道を塞いでいるがんはそのままであり、呼吸の経路を作らなければいずれ窒息してしまいます。

呼吸の経路を作る方法は気管内挿管と気管切開という方法があります。

気管内挿管では口から気管にかけて、細長いチューブを入れて呼吸の経路を確保します。気管内挿管中は鎮静薬を使う必要があり、意識がありません。意思疎通ができず、眠ったままになります。食事などもとれず、動くこともできません。

もう一つの方法は気管切開です。気管切開とは気管の真上の皮膚を切り開いて、気管に穴をあけて空気を通すチューブをいれて、呼吸の経路を作る手術です。

気管切開では頸部の鎖骨の間あたりの皮膚を3-5cmほど切開し、皮下の筋肉を避けて、気管に穴をあけます。気管の穴に、直径10mm程度のシリコン製のチューブ(気管切開チューブ、気管切開カニューレ)を入れて、そのカニューレを通して呼吸ができるようにします。

気管切開を行う利点は気管内挿管と違い、意識のある状態でいられることです。意思疎通ができ、動くこともでき、食事もできます。

気管切開を行って不便な点は、声がでなくなること、咳や痰が多くなること、食べ物が飲み込みにくくなること、首までお風呂につかれないこと、便をいきめないことなどがあります。

3. 甲状腺がんの内視鏡手術

甲状腺の内視鏡手術は良性腫瘍のみに行われています。甲状腺がんに対する内視鏡手術は先進医療であり、一部の施設のみで行われています。

通常行う皮膚を大きく切る手術よりも、傷が目立たない点と、手術による身体への負担が少ない点が通常の手術方法より優れています。ただし内視鏡で摘出できるがんは大きさが2cm以下で、まわりのリンパ節や遠い臓器に転移がないものだけです。

4. 甲状腺がんの手術の合併症

甲状腺がんの手術の合併症には、手術直後に起こるものと、長期間続くものがあります。

手術直後に起こるものとして、出血や喉のむくみなどがあります。手術後に起きて、長期間続くものとして、声がれ、呼吸が苦しくなること、疲れやすくなることや、むくみやすくなること、手足のしびれなどがあります。

このうち疲れやすさ・むくみ・手足のしびれは、甲状腺や副甲状腺の機能が失われることで起こる症状ですが、手術後に適切に薬を使うことで避けられます。

出血

手術中には止血を行いますが、手術後に出血することがあります。出血をすると皮膚の下に血液がたまります。出血が多い場合には、再度全身麻酔をして出血している部分を確認して、止血することがあります。甲状腺の手術後で出血した場合には、甲状腺は気管に近い部分にあるため、空気の通り道がむくむこともあります。空気の通り道がむくむと呼吸が苦しくなる可能性があり危険です。そのため、出血が多い場合で、空気の通り道がむくんで来ている徴候が見られた場合には、止血をするために再度手術を行います。

のどのむくみ:喉頭浮腫

甲状腺はもともと気管の前にあります。手術のときに気管の近くを触って炎症が起こることや、細い血管やリンパ管を触ることで血流やリンパの流れが悪くなることにより、手術後に喉がむくむことがあります(喉頭浮腫)。喉がむくむと、喉の痛み、違和感、飲み込みにくさ、息苦しさなどが出ることがあります。

むくみは手術後数日たつと、徐々に改善します。息苦しさなどの症状がる場合や、むくみが強い場合には、むくみを取るための薬を使うことがあります。むくみをとるためには副腎皮質ステロイドを使用します。

ごくまれですが、むくみが悪化して呼吸ができなくなりそうな場合には、呼吸の経路を作るために気管切開をすることがあります。

声がれ:嗄声

声帯の動きを担当する神経を傷つけることがあり、その場合には声がれが起こります。声がれのことを医学用語では嗄声(させい)と呼びます。息が漏れるような声になります。

甲状腺の手術では声帯の動きを担当する神経の近くを触ります。声帯の動きを担当する神経は、甲状腺の上にある上喉頭神経と甲状腺の裏を通る反回神経です。上喉頭神経は裏声を出す神経で、傷ついた場合には高い声や裏声が出しにくくなります。反回神経は声帯の開閉を担当する神経です。傷つくと声帯の片方が麻痺して息漏れをする声になることがあります。

神経を切断した場合には、神経をつなぎ合わせるなどの処置を行いますが、回復しない場合もあります。神経を切断しなくとも、手術中に触るだけで麻痺することがあります。神経の動きが戻る場合には、数ヶ月から半年程度で改善します。

息苦しさ:呼吸困難

甲状腺全摘術では、両側の反回神経が麻痺する可能性があります。両側の反回神経麻痺が起きた場合には、両側の声帯が動かなくなります。声帯が真ん中で動かなくなると、呼吸ができなくなることがあります。鼻や口から吸った空気は声帯を通って肺に入ります。息を吸うと声帯が開いて、空気が肺に入ります。声帯麻痺が起きると声帯が開かなくなるので、息が吸えずに呼吸が苦しくなってしまいます。その場合には、一時的に呼吸を補助するために、気管切開が必要になることがあります。

体のむくみ、疲れやすさ:甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンは体を活発にする効果があります。甲状腺がんで甲状腺を取り除くと、甲状腺ホルモンの量が減ります。甲状腺全摘術後の場合には甲状腺ホルモンが全く出なくなります。

甲状腺ホルモンの量が低下すると下記のような症状がでます。

  • 体がだるくなる
  • 寒がりになる
  • 顔や手足がむくむ
  • 便秘がちになる
  • 常に眠い
  • 食欲はないのに太る
  • 肌が乾燥する
  • 脈が遅くなる

このように、甲状腺ホルモンが不足するとさまざまな体の症状が出るため、甲状腺ホルモンを補充する必要があります。甲状腺ホルモンは内服で補充します。

甲状腺を全て摘出した場合は、一生甲状腺ホルモンを内服する必要があります。甲状腺を半分切除した場合には甲状腺ホルモンが不足する場合と、不足しない場合があります。甲状腺を半分切除した場合で、甲状腺ホルモンが不足した場合には、手術で残った甲状腺がホルモンを十分な量を分泌できるようになるまで、甲状腺ホルモンを内服します。

手足のしびれ:テタニー

甲状腺の裏に体のカルシウムを調整するホルモンを出す副甲状腺がります。カルシウムが減ると、不整脈が出たり、手足のしびれが出ることがあります。副甲状腺は左右の上下にあり、合計4つあります。甲状腺全摘術の場合には副甲状腺の機能を残すために、副甲状腺を首の筋肉内に移植します。移植した副甲状腺が十分なホルモンを分泌できるようになるまで、数ヶ月かかります。

その間はカルシウムの量が減るため、カルシウムやビタミンDの薬を飲む必要があります。

カルシウムを吸収する際にビタミンDも必要なため、一緒に内服します。カルシウム値が落ち着いたら、ビタミンDのみの内服に切り替え、その後、ビタミンD製剤も中止にします。まれに、副甲状腺ホルモンの量が少ない場合には、ビタミンD製剤の内服が継続して必要なことがあります。

リンパ液の漏れ:乳糜瘻(にゅうびろう)、乳糜胸(にゅうびきょう)

甲状腺がんの手術で、頸部郭清術をあわせて行った時に起きやすい合併症です。体の栄養分を運ぶリンパ管を手術中に傷つけると、リンパ管から漏れたリンパ液が皮膚の下にたまります。リンパ液が漏れることを乳糜と呼びます。漏れるリンパ液の量が多くなるとリンパ液が肺の周りに溜まることもあります。肺の周りにリンパ液が貯まることを乳糜胸と呼びます。

乳糜瘻が少量の場合には圧迫してリンパ管の穴が閉じるのを待ちますが、量が多い場合には再度手術を行ってリンパ管を縫い閉じる必要があります。

手の上がりにくさ・肩が重い感じ:副神経麻痺

甲状腺がんの手術で首の横の頸部郭清術を行った場合に起こりやすい合併症です。首の横を通って肩に向かう副神経が麻痺することで、副神経が動かしている筋肉に影響が現れます。頸部郭清術の時には副神経を必ず触るため、切断しなくても軽い麻痺が出ることがあります。副神経麻痺で起こりやすい症状は、肩が重くなる、肩こりのような感じが続く、手を横に開く時に90度以上があがりにくくなるなどです。手術後に肩を動かすリハビリを行うことで症状が改善します。

首の締め付け感・しびれ:頸神経麻痺

甲状腺がんの手術で首の横の頸部郭清術を行った場合に起こることがある合併症です。首の感覚を担当する頸神経を切断した場合に起こります。両側の頸神経を切断すると、首が締まるような感覚になります。マッサージなどを行ってほぐすようにします。

5. 甲状腺がんの手術後の日常生活の注意点

甲状腺がんの手術後に気をつけることは、薬を飲み忘れないことです。

特に甲状腺全摘術後の場合には、甲状腺ホルモンを飲まないと、1週間程度で甲状腺ホルモンが少なくなります。甲状腺ホルモンを長期間内服しないと甲状腺ホルモンの不足による症状がおこります。甲状腺ホルモンが不足すると、体がだるくなったり、むくみやすくなったり、眠くなったりする症状がでます。重症では、心不全を起こすことや、認知症に似た症状を起こすことがあります。また、甲状腺ホルモンの不足によって脳から分泌される甲状腺刺激ホルモンの量が増加します。すると甲状腺刺激ホルモンの作用を受けて甲状腺がんが増殖する可能性があります。

数日間のみ内服ができない場合には問題ないことが多いですが、長期間に渡って内服できない場合には、通院中の病院に相談してください。

甲状腺がんの治療後に食べてはいけないものはありませんが、食事と甲状腺ホルモンの内服のタイミングを検討する必要があります。一部の食事では甲状腺ホルモンの吸収を弱める可能性があるからです。

またシンチグラフィ検査や放射性ヨード内用療法のため一時的に食事制限がかかる場合があります。放射性ヨード内用療法やシンチグラフィ検査に使う、放射性ヨードを手術後に残った甲状腺や甲状腺がん組織に、きちんと取り込ませるために体内のヨードを枯渇させておく必要があるからです。

甲状腺全摘術では甲状腺にくっついている副甲状腺も一緒に摘出します。副甲状腺は副甲状腺ホルモンを分泌し、血液中のカルシウムの量を保つ機能があるため、生きていくために必要な臓器です。カルシウム値が低くなると不整脈や手足のしびれを起こすことがあります。そこで甲状腺を取り出したあと副甲状腺は切り離して首の中に移植して手術を終えることが一般的です。この方法なら副甲状腺はなくならないので、手術後に一時的にカルシウム値が低下しても、半年程度たつとカルシウム値は正常範囲にもどることが多いです。しかしカルシウム値が戻らない場合には、副甲状腺が働かなくなってしまっていると考えられ、カルシウム値を正常にするために一生、カルシウム製剤ビタミンD製剤の内服が必要になります。