急性虫垂炎(盲腸・アッペ)の症状は?右下腹部痛・嘔吐・発熱など
急性虫垂炎は盲腸(もうちょう)と呼ばれることも多く馴染みのある病気だと思います。急性虫垂炎は発熱・腹痛・嘔吐などが特徴的な症状です。このページでは急性虫垂炎の症状について解説していきます。
目次
1. 急性虫垂炎に初期症状はある?
急性虫垂炎になった人の架空の例を挙げて説明していきます。
16歳の田中太郎くんは、ある日の午前中の授業中になんだかみぞおちの辺りに痛みを感じました。痛みはぼんやりとしています。太郎くんは「食べ過ぎかな?」と思って我慢していました。
急性虫垂炎の初期症状はみぞおちや臍(へそ)の辺りに持続的な腹痛が現れます。みぞおちのあたりを心窩部(しんかぶ)と言い、心窩部の痛みは心窩部痛とも言います。急性虫垂炎がひどくなると徐々に痛みが右の下腹部に移動していきます。
急性虫垂炎の症状では発熱もよく現れますが、初期は微熱のことが多いです。また
2. 急性虫垂炎の腹痛の特徴は?
急性虫垂炎の腹痛は初期症状と進行した症状で痛みや部位などが変わります。
参照:ハリソン内科学 第2版
初期症状としての腹痛
急性虫垂炎の初期の腹痛は臍やみぞおちの辺りを中心に痛みます。初期に現れる腹痛の持続時間は数時間です。
初期の痛みの原因は虫垂の圧力が上昇して虫垂が引き伸ばされたりすることです。このような痛みを内臓痛といいいます。内臓痛は痛みの場所がはっきりしません。このため虫垂炎の初期の腹痛は臍やみぞおち全体が痛みます。
進行した状態の腹痛
午後になってもお腹の痛みは相変わらずです。お腹の痛みに加えて少し気持ち悪い感じも出てきました。家に帰って横になっていると気持ち悪さのために一回嘔吐をしました。吐き気は治まりましたが、お腹の痛みは徐々に強くなってきて、右の下腹部が痛む様になってきました。
虫垂に痛みが出てしばらくたつと虫垂に腸内
3. 急性虫垂炎でお腹の痛む場所は?
腹痛は急性虫垂炎の代表的な症状です。急性虫垂炎の原因になる虫垂は右下腹部にあります。急性虫垂炎になったとき押すと痛む特徴的な場所があります。昔から診察でよく使われていたもので、人の名前がついています。名前を覚える必要はないのでこの急性虫垂炎ではこの辺りが痛むのだと理解してもらえればと思います。
マックバー二ー点
マックバーニー点(McBurney点)は、急性虫垂炎の身体診察では最も有名なお腹が痛む場所です。古い本などでは「マックバーネー」などと書いてあるものもあります。
マックバーニー点は、右の上前腸
ランツ点
ランツ点は両側の上前腸骨棘(腰骨の出っ張り)を結んだ線の右1/3の点のことです。ランツ点は虫垂の先端が位置する場所と考えられています。
4. 腹痛の原因になる他の病気は?
急性虫垂炎は腹痛の原因となる代表的な病気の一つですが、腹痛には他にも多くの原因があります。急性虫垂炎と区別が必要な主な病気について解説します。
- 腸の病気
- 膵臓や胆嚢の病気
- 腎臓や
尿管 の病気- 右腎盂腎炎(みぎじんうじんえん)
- 右尿管結石(みぎにょうかんけっせき)
- 女性に特有の病気
腸の病気
急性虫垂炎は腸の一部である虫垂に起きた炎症を原因とします。急性虫垂炎も腸の病気なので、ほかの腸の病気と見分けるのが難しいときがあります。右側の大腸(上行結腸)に憩室(けいしつ)という飛び出た部分ができてそこに炎症が起きる憩室炎などとの区別が重要です。
膵臓や胆嚢の病気
虫垂炎と膵臓(すいぞう)や胆嚢(たんのう)の病気との区別が必要になることがあります。膵臓は背中側にある臓器でアルコールなどを原因として炎症が起きることがあります。背部痛や腹痛が症状です。膵炎は画像検査や血液検査で区別します。
胆嚢は右の脇腹(季肋部)に痛みがでるので紛らわしいことがあります。妊娠中の女性などは虫垂の位置が頭側に移動しているので区別が難しいときがあります。
腎臓や尿管の病気
腎臓や尿管の病気も腹痛の原因になります。身体診察や画像検査で区別することができます。腎盂腎炎(じんうじんえん)は腎臓に感染が起きる病気です。尿管結石は尿管に石ができてそれが移動することが痛みの原因になります。
女性に特有の病気
卵巣や子宮は女性にしかない臓器です。卵巣や子宮を原因として腹痛が起きることがあります。卵巣や卵管がなんらかの原因で捻(ねじ)れたりすることがあり、急な腹痛の原因になります。また
5. 急性虫垂炎では熱が出る?
夕方から微熱がありました。夜になってもお腹の痛みは治まらずに微熱だった体温も38℃を超えるようになりました。心配になったご両親は病院に連れていくことにしました。
急性虫垂炎を
発熱には初期の状態と進行した状態では異なります。
急性虫垂炎の初期の体温は微熱のことがあります。高熱(38.3℃以上)が出る時は虫垂に穴が開いて腹膜炎を起こしている可能性があります。穴が開くことを
腹膜炎は腹部の臓器を包んでいる腹膜という膜に炎症が起きることです。腸などの臓器の隙間には腹腔(ふくくう)というスペースがあります。腹腔には本来は細菌がいません。一方で腸には多くの細菌が常在菌として存在しています。虫垂に穴があき細菌が多く含まれた腸の内容物が腹腔内に流れ込むと、感染や激しい炎症を起こします。
参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第2版, MEDSi, 2006
6. 吐き気は急性虫垂炎の症状?
吐き気は急性虫垂炎でよく見られる症状の一つです。
吐き気や嘔吐(おうと)は急性虫垂炎の人のうち50%から60%に現れるとされています。急性虫垂炎の吐き気は腹痛の前に現れることはまれとされています。嘔吐は自然と収まることが多いです。
参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第2版, MEDSi, 2006
7. 急性虫垂炎は破裂することがある?
急性虫垂炎の病状が重くなると虫垂に穴が開く(穿孔する)ことがあります。これを「虫垂が破裂する」と表現されることがあります。
虫垂炎は虫垂と大腸(盲腸)のつなぎ目が塞がったり狭くなることから発症すると考えられています。虫垂と大腸のつなぎ目が閉塞したり細くなると虫垂の中の圧力が上昇します。虫垂の中の圧力が上昇すると血流が悪くなり虫垂がダメージをうけます。ダメージを受けた虫垂の壁に本来ならば入り込むことのない
虫垂に穴があくまでの時間には個人差があります。症状の発症から24時間以内に20%、48時間以上で65%の人に穿孔があったという報告があります。急性虫垂炎を発症して時間が経過すると虫垂に穴があく確率は上昇します。
急性虫垂炎が進行して虫垂が穿孔すると腹膜炎や
8. 急性垂炎の穿孔が原因でおきる腹膜炎とは?
腹膜炎は腹膜という膜に炎症が起きることです。腹膜は腸などのお腹の中の臓器を覆っています。臓器から腹膜を隔てて、腹腔という隙間の空間があります。腸の中と違い腹腔には細菌がいません。腸に穴が開くと腹腔の中に腸の内容が漏れ出ます。本来は無菌である腹腔に細菌が漏れ出て感染をおこすと激しい炎症が起きます。腹膜炎によって起きる症状は以下です。
- 高熱
- 激しい腹痛
- お腹が硬くなる
- 吐き気・嘔吐
頻脈 (ひんみゃく):脈が速くなる- 血圧が下がる
腹膜炎が起きると激しい腹痛が起き、お腹が硬くなります。また強い炎症が腸に影響すると腸が動かなくなる
9. 腸閉塞(ちょうへいそく)は急性虫垂炎の症状?
腸閉塞は腸に異物が詰まったり腸の動きが悪くなったりして腸の中の流れが止まる病気です。腸閉塞にはいくつか種類があり腸の動きが悪くなる腸閉塞は麻痺性腸閉塞(まひせいちょうへいそく)といいます。急性虫垂炎で起きる腸閉塞は麻痺性腸閉塞です。
虫垂炎が重くなると虫垂に穴が開きます(穿孔)。穿孔が起きると腸の内容物が腸の外に出ていきます。腸の周りは腹腔というスペースです。腸の中身が腹腔にもれ出ると腹膜炎を起こします。
腹膜炎はとても激しい炎症です。腹膜炎による炎症は腹腔内に広がっていきます。炎症が広がると腹腔内に収まっている腸に影響を与え、腸は動きを止めます。
腸閉塞が起きると以下の症状が起きます。
- 腹痛
- お腹が張る
- 吐き気・嘔吐(おうと)
この症状に加えて腹膜炎の症状が起きていることが多いです。虫垂炎でおきる腸閉塞のほとんどは虫垂が破れて腸の中身が漏れ出たことによる腹膜炎が原因だからです。腹膜炎についてはこのページ内にある腹膜炎の章を参考にしてください。
10. 子供の急性虫垂炎の症状は?初期症状はある?
子供の急性虫垂炎の症状は大人と同じような症状が現れます。急性虫垂炎は発症してから時間が経つとともに症状が悪化していきます。小児は症状が正確に伝えられなかったりして診断に時間がかかり重症化して発見されることもあります。早期に発見することで手術が回避できることもあるのでお腹を痛がったりする症状があればしっかりと症状を聞くことが大事です。
参考文献
・Pediatr Emerg Care. 2007;23:849-55
・JAMA. 2007;298:438-51
初期症状
- 食欲不振
- 臍の周りを中心にした痛み
- 微熱
急性虫垂炎の初期症状として出やすいのが腹痛です。急性虫垂炎の腹痛は臍(へそ)の周りや心窩部(しんかぶ)を中心として気持ち悪さをともなうような痛みです。微熱や食欲不振もよく現れます。この時点では急性虫垂炎と診断するのは難しいことがあります。急性虫垂炎では時間の経過とともに腹痛の特徴が変わってきたり熱が高くなります。医療機関を受診して急性虫垂炎とはっきりと診断がつかなくても以下の進行したときの症状などを参考に症状の変化に気を配ることが大事です。
進行したときの主な症状
- 右下腹部の痛み
- 発熱
- 吐き気・嘔吐
- 歩行困難
急性虫垂炎が進行すると特徴的な症状が現れます。はじめはお腹の全体が痛んでいたのが、痛む場所がはっきりとしてきます。急性虫垂炎で痛むのは右下腹部です。また微熱だった体温は38℃を超えるような高熱に変わります。歩行が出来なかったりすることも重要な手がかりになります。
腹痛は腸炎などが原因になることもあります。急性虫垂炎と腸炎を見分けるのは難しいことがあります。腸炎などを原因とする腹痛ではお腹をさすってあげると痛みが和らいだり落ち着いたりします。急性虫垂炎ではお腹を触ることをいやがることが多いです。普段の腹痛とは違うかを観察することが大事です。
注意する点
急性虫垂炎は特徴的な症状から発見されることが多いです。しかし小児の場合はまだ症状を伝える力が十分ではないこともあり発見が遅れて重症化しやすいことが知られています。
急性虫垂炎が心配なときにはできるだけ具体的な質問をしてあげることが大事です。例えば「痛い場所を指差して」や「お腹が痛い場所は変わった?」などです。その他では機嫌やぐずつきが治らないことなども参考になると思います。
医療機関を受診しても急性虫垂炎の初期かほかの病気かはわからないといわれることもあります。小児の虫垂炎を初期の段階で診断することは難しい場合があります。受診後も自宅で症状などを注意深く観察することが大事です。また診察を受けた後もどのような症状がでたら再受診の必要があるかなどを具体的に聞いておくことが大事です。
11. 急性虫垂炎以外の腹痛の原因になる子供の病気は?
急性虫垂炎は腹痛の原因の一つですが、腹痛は他にも多くの病気が原因になります。ここでは急性虫垂炎以外で小児の腹痛の原因になる主な病気を解説します。
腸重積(ちょうじゅうせき)
腸の一部が腸の中に入り込んでしまう病気が腸重積です。腸重積は1歳までに多い病気で、腸の
精巣捻転(せいそうねんてん)
精巣は睾丸(こう
感染性胃腸炎
感染性胃腸炎は細菌や
便秘(べんぴ)
腹痛で救急外来を受診する小児の約半数の原因は便秘とされています。便秘の痛みは急性虫垂炎と異なり痛みの移動などがないことが多いです。しかし症状から見分けることは難しいので腹痛が続くようであれば小児科などを受診して調べてみてもらうのがよいと思います。
成人同様便秘には明らかな原因がない場合がほとんどです。便秘が原因による腹痛が繰り返して起きる場合は小児科を受診して便秘の原因がないかを調べることも重要です。
参考文献:J Pediatr. 2007;151:666-9
12. 妊婦の急性虫垂炎の症状は?初期症状はある?
妊娠中に処置が必要な腹痛のうち虫垂炎は頻度が高く注意が必要です。報告によると1000妊娠から2000妊娠に1人起きるといわれています。早期に対応しなければ胎児(赤ちゃん)への影響も懸念されます。妊娠中の急性虫垂炎にはどんな症状が現れるのでしょうか。
参考文献:Obstet Gynedol.1991;77:835-40
初期症状は気づきにくいことが多い
- 臍やみぞおちを中心とした腹痛
- 吐き気
- 微熱
妊娠中の急性虫垂炎の初期症状は妊娠していないときと大きくは変わりません。急性虫垂炎の初期症状は臍やみぞおちの辺りが痛んだり吐き気などの症状が現れます。しかし妊娠中は日常から軽い腹痛や吐き気などが現れることが多いので急性虫垂炎の初期症状に気づかないことがあります。
妊娠の影響による症状に比べて急性虫垂炎を原因とする症状は持続時間が長くなります。いつもと違う症状には注意が必要です。
進行したときの主な症状
- 右下腹部痛
- 吐き気・嘔吐
- 高熱
急性虫垂炎が進行すると痛みの場所が右の下腹部に移り痛みも強くなります。右下腹部が痛むのは虫垂が右下腹部にあるからです。医師は右下腹部痛の患者さんには常に急性虫垂炎を頭にいれて診療をしています。
ところが妊娠状態では大きくなった子宮に押し上げられて虫垂が右の下腹部から上腹部に移動してしまうこことがあります。またお腹の筋肉の下にある腹膜という膜に炎症
が及ぶとことも腹痛の原因ですが、子宮により腹膜が引き伸ばされると炎症の影響が少なくなり腹痛が軽くなることも知られています。
このため急性虫垂炎が起きても典型的な症状が現れないことがあります。腹痛などの症状は妊娠していない人に比べて弱い傾向にあります。症状が現れにくいということは知らぬうちに重症化してしまう危険性をはらんでいます。妊娠中にいつもと違う腹痛を自覚したときには十分な注意が必要です。
注意する点
妊娠中の急性虫垂炎を診断するのは難しいのですが、妊娠の腹痛の原因は急性虫垂炎だけではありません。他には早期陣痛発来や常位胎盤早期剥離、卵巣・卵管捻転症などの可能性もあります。腹痛や吐き気は妊娠中によく現れる症状ですが、いつもと違う症状だと感じるときにはすみやかに医療機関を受診して原因を調べてください。
13. 急性虫垂炎以外で腹痛を起こす妊婦の病気は?
急性虫垂炎は腹痛の原因の一つですが、腹痛は他にも多くの病気が原因になります。妊娠中は腹痛が起きることが多いので、腹痛があっても病気とは限りません。ここでは急性虫垂炎以外の腹痛の原因になる主な病気を紹介します。
- 妊娠経過中の病気
- 子宮・卵巣の病気
- 腸の病気
- 胆嚢の病気
- 尿管の病気
- 右尿管結石
妊娠経過中の病気
妊娠中は腹痛が起きることが多く、その多くは心配のいらない腹痛です。一方で妊娠経過に問題がおきて腹痛がおきることがあります。妊娠経中に問題が起きて腹痛が起きる場合は痛みの間隔が規則的であったり出血をともなったりするなどの特徴があります。
妊娠したら受診をするべき腹痛の種類とそれにともなう症状などを医師に確認しておくことが大事です。
子宮・卵巣の病気
子宮筋腫は子宮の筋肉が
卵管や卵巣につながる血管が捻れることがあります。卵管が捻れると腹痛の原因になります。特に右側の卵管や卵巣に捻れが起きると急性虫垂炎と似たような症状が現れることがあります。
腸の病気
虫垂は右側の大腸につながった臓器です。右側の大腸(上行結腸)の憩室炎などが起きると急性虫垂炎と似たような症状が現れることがあります。憩室は腸の壁にできるくぼみ状の変化で、憩室炎は憩室に細菌が感染する病気です。その他には腸の動きがなくなる腸閉塞なども急性虫垂炎と区別が必要になることがあります。
妊娠中の腹痛の原因として多いのが便秘や下痢です。子宮が大きくなり腸に影響して便秘や下痢が現れることがあります。
胆嚢の病気
胆嚢に炎症が起きる胆嚢炎は右の脇腹(季肋部)に痛みがでて発熱などの症状が現れます。妊娠中は虫垂が子宮に押されて右の上腹部に移動していることがあります。このために右の脇腹が痛むときには急性虫垂炎と胆嚢炎などを区別する必要があります。
尿管の病気
尿管は腎臓で出来た尿を膀胱に運ぶ管です。尿管は背中側にある臓器ですが腹痛が現れることがあります。特に右側にできた尿管結石は急性虫垂炎との区別が必要なと場合があります。