のうこうそく
脳梗塞
脳の血管が詰まる結果、酸素や栄養が行き届かなくなり、脳細胞が壊死する。運動・感覚の麻痺などを起こし、後遺症による寝たきりや死亡にもつながる
21人の医師がチェック 442回の改訂 最終更新: 2023.10.28

脳梗塞の治療について:rt-PA、カテーテル治療、血液をさらさらにする薬など

脳梗塞が起こった直後は、薬やカテーテルを使って、詰まった血管の通りを良くする治療を行います。脳梗塞の影響で脳に高い圧力がかかっている場合には、圧力を下げる目的で手術が行われることもあります。また、再発を予防するために脳血液をさらさらにする薬を使用し、再発リスクを高める持病があれば持病の治療もきちんと行います。

1. 脳血管のつまりを改善する治療:rt-PA・カテーテル治療

発症したばかり(急性期)の脳梗塞に対する治療が発展してきています。血栓を溶かすrt-PAという薬を使った治療や、脳に詰まった血栓を取り除くカテーテル治療と呼ばれるものです。新しい治療のおかげで、命が助かったり、重い後遺症をまぬがれたりする人も少なくありません。

rt-PAについて

rt-PAは、血栓(血液のかたまり)を溶かす作用のある薬です。

脳梗塞を発症してから4.5時間以内を「超急性期」と呼ぶことが多いのですが、超急性期であれば、rt-PAの有効性が証明されています。血栓が薬によって溶けて、詰まった血管が再開通することがあります。

rt-PAは脳梗塞に効果を発揮する一方で、出血しやすくなるなどの副作用があります。副作用により脳出血を引き起こす恐れがあるため、rt-PAを使うべき場合には厳しい条件が決められています。ですので、発症時間が不明な場合は、頭部MRI検査の結果によって行えるかどうかが判断されます。

■rt-PAについてより詳しく
治療を受けるうえでは、ここまでの説明を理解してもらえれば十分です。一方で、rt-PAについて学術的な興味をもった人もいるかと思いますので、rt−PAについて詳しく説明します。繰り返しになりますが、中身を知らずとも治療の内容を大まかに掴んでさえいれば、十分なので、ここは飛ばしても問題はありません。

rt-PAは、遺伝子組み換え組織型プラスミノーゲンアクチベーター(recombinant tissue plasminogen activator)の略です。遺伝子組み換え技術によって作られた細菌などを利用して大量生産されているt-PAという意味です。

t-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)は、人間の体内でも作られている物質です。健康な身体の中では、t-PAが作用していることにより、血管の中で血栓ができないようになっています。

詳しく説明します。血液が固まる時にはフィブリンという物質が必要です。t-PAはまず、プラスミノーゲンという物質を活性化します。するとプラスミノーゲンはプラスミンに変化します。プラスミンにはフィブリンを分解する作用があり、血栓を溶かすことができます。このようにしてt-PAは血栓を溶かす作用をあらわします。

日本で脳梗塞の治療に使われているrt-PAはアルテプラーゼという物質です。商品名としてアクチバシン®グルトパ®があります。病院ではアルテプラーゼのことを「ティーピーエー」と言っていることが多いです。

アルテプラーゼの効果・効能は「虚血性脳血管障害急性期に伴う機能障害の改善(発症後4.5時間以内)」とされています。発症から4.5時間を超えてしまうと治療効果が低くなると同時に、頭蓋内の出血の危険性が高まるなどのデメリットが増すとされています。

ほかにも、ふだんから血をさらさらにする薬を飲んでいる、直近にほかの病気で手術を受けたばかりである、アルツハイマー型認知症で薬(レカネマブ)を飲んでいる、などの状況では、発症から4.5時間以内であってもrt−PAの治療を受けられないことがあります。

脳梗塞のカテーテル治療について

rt-PAが使えない場合や、使っても効果が見られなかった場合には、カテーテル治療(血管内治療)が選択肢の一つになります。

また、脳の前側に栄養を送る動脈(内頚動脈または中大脳動脈)が閉塞している場合で、発症から6時間以内であれば、カテーテル治療を行うことが勧められています。

脳梗塞のカテーテル治療とは、血管の中にカテーテルという細い管を通し、専用の器械を用いて血管に詰まっている血栓(血の塊)を回収する方法です。近年は器械の進化がめざましく、次々と新しい製品が生まれ、また脳梗塞の治療として有効であるという研究結果も多く報告されてきています。

カテーテル治療には、らせん状になったワイヤーで血栓を貫通してそのまま引きずり出す方法や、強力な吸引ポンプを用いて砕いた血栓を吸引する方法などがあります。

2. 薬物治療:血液をさらさらにする薬(抗血小板薬、抗凝固薬)

脳梗塞の再発予防として血液をさらさらにする薬(抗血小板薬または抗凝固薬)が使われ、抗血栓療法と呼ばれます。どちらの薬が使われるかは脳梗塞のタイプによって異なります。基本的には、アテローム血栓性脳梗塞ラクナ梗塞の場合は抗血小板薬が使われ、心原性塞栓の場合は抗凝固薬が使われます。

【抗血栓療法】

  • 抗凝固薬
    • アルガトロバン
    • ヘパリン
  • 抗血小板薬
    • オザグレル
    • アスピリン
    • クロピドグレル

抗凝固薬は注射または内服薬による治療です。入院中は注射薬が使われ、退院後は飲み薬に切り替えることが多いです。一方で、抗血小板薬は主に飲み薬による治療です。脳梗塞を発症してからの経過時間症状の重さなどを考慮して適切なものが選択されます。

抗凝固薬とは

抗凝固薬は、血栓の形成に関わる血液凝固因子という物質の働きを抑えます。

脳梗塞の治療に使う代表的な抗凝固薬としてアルガトロバン(商品名:スロンノン、ノバスタンなど)があります。アルガトロバンはトロンビンという血液凝固因子を阻害することで抗凝固作用を表します。発症後48時間以内で大きさが1.5cmを超すような脳梗塞(ただし、心原性の脳塞栓症を除く)への抗凝固療法薬として推奨されています。また、脳梗塞を発症してから48時間以内の人にはヘパリンという薬による治療も選択肢の一つとされています。 退院が近くなると、飲み薬への切り替えが行われます。ワーファリンやDOAC(ドアック)と呼ばれる薬が処方されます。

抗血小板薬とは

抗凝固薬が血液凝固因子を抑えるのに対して、抗血小板薬は血小板の働きを抑えることで血栓ができる働きを抑えます。

血小板は血液の中に含まれる小さい細胞です。血小板は血栓ができるために必要です。血液が固まって血栓ができる反応(凝固)は複雑ですが、トロンボキサン(TX)という物質が働くと、血小板が互いに集まって血栓を作ろうとします(血小板凝集)。

オザグレル(商品名カタクロット、キサンボンなど)は、トロンボキサンが作られるのを抑えます。発症から5日以内の脳血栓症(ただし、心原性の脳塞栓症を除く脳梗塞)においてオザグレルは有効な治療法とされています。

抗血小板薬の中ではアスピリンによる治療も有効です。特に発症後48時間以内の早期における脳梗塞の治療薬としてアスピリンは推奨されています。

また、発症早期の非心原性脳梗塞や一過性脳虚血発作TIA)の治療法として、例えばアスピリンとクロピドグレル(商品名プラビックスなど)といった2種類の抗血小板薬を同時に使う治療法が推奨されています。

抗血小板薬・抗凝固薬で注意すること

抗血小板薬・抗凝固薬は「血液を固まりにくくする薬」ですので出血に対しては注意が必要になります。例えば、ワルファリンではPT-INRという数値を検査で確認しながら、薬が効いているかを判断します。DOACについてもそれぞれの薬に適した検査や腎機能の状態に合わせた調節などによって、薬の効果が安全かつ適切にあらわれるように治療が行われます。

それでも日常生活における出血への配慮は必要で、例えば以下のようなことに気をつけると良いでしょう。

  • 切り傷や打撲など、けがをする可能性のある作業や運動はできるだけ避けるか、十分に気をつけて行う
  • 歯ブラシは歯茎からの出血を考慮してなるべく柔らかいタイプを使う
  • ヒゲを剃る時はなるべく出血の危険性が少ない電気カミソリを使う
  • 屋内での転倒を避けるため、電気コードなど突っかかりやすいものを片付ける
  • 転びにくい靴を選ぶ

このように生活の中で注意しつつ、もし出血してしまった場合は慌てずにタオルなどでしっかりと患部を押さえてください。この際、通常(抗凝固薬を服用していない場合)よりも血液が止まるまで時間がかかることを覚えておいてください。

もちろんひどい怪我などによる出血やタオルなどで止血しても血が止まらない場合、血尿血便が起こった場合などは病院やクリニックの受診も考慮しつつ主治医へ連絡するなど適切な対処が必要です。

3. 脳梗塞に対する脳保護療法について

脳梗塞では、フリーラジカルという物質が増加して、脳の機能に障害を引き起こしてしまいます。エダラボン(商品名:ラジカット®など)という薬は、フリーラジカルの増加を抑える働きがあり、脳の保護作用が期待されます。

4. 脳浮腫を改善する治療について

脳梗塞によって引き起こされる危険な状態のひとつが脳浮腫(のうふしゅ)です。脳浮腫を改善するために薬や手術が行われます。

脳浮腫について

脳浮腫とは脳梗塞や脳出血によって脳細胞の内外に水分が溜まり、結果として脳の容積が増えてしまった状態です。脳浮腫がひどくなると、脳が本来納まっている場所からはみ出してしまうことがあります。これは脳ヘルニアと言って、危険な状態です。

脳ヘルニアは脳のさまざまな部分を圧迫し、症状の悪化などにつながり、命に関わることもあります。脳浮腫を改善する治療には脳ヘルニアを防ぐ狙いがあります。

脳ヘルニアの種類

脳ヘルニアは主に以下の種類があります。

■帯状回(たいじょうかい)ヘルニア
大脳は右半球と左半球に分かれています。左右の大脳半球の間には、髄膜(大脳鎌)が上から仕切りのように入ってきています。大脳鎌の下端の部分には、大脳皮質のうち帯状回という部分が接しています。脳浮腫により帯状回の一部が大脳鎌の下を抜けて反対側に飛び出してしまうことを帯状回ヘルニアと言います。大脳鎌下(だいのうかまか)ヘルニアとも言います。

■テント切痕(せっこん)ヘルニア
テントヘルニアとも言います。テント(小脳テント)というのは髄膜の一部です。小脳を上からおおむね水平に覆う位置にテントがあります。テントの左右中央(正中)には大脳鎌がつながっています。テントの上側には大脳の一部(側頭葉)、テントの下側には小脳があります。テントによって頭蓋内はおおむね上下に分かれるのですが、脳幹はテントの上下でつながっています。脳幹が通る部分はテントが欠けた形になっています。この部分をテント切痕と言います。本来ならテントの上にある部分がテント切痕にはまり込んでしまうのがテント切痕ヘルニアです。テント切痕ヘルニアでは、生命維持の中枢である脳幹が圧迫され、命に関わります。圧迫によって脳幹に出血を起こす場合もあります(デュレー出血)。

■鉤(こう)ヘルニア
側頭葉の一部がテント切痕から下に向かって押し出されている状態です。側頭葉のうちの「鉤」(または鉤回)という部分が押し出されるので鉤ヘルニアという名前があります。鉤ヘルニアはしばしば動眼神経障害を起こします。

■中心性ヘルニア
間脳や脳幹が下に向かって押し付けられている状態です。脳幹を圧迫して命に関わります

■小脳扁桃ヘルニア(大孔ヘルニア、大後頭孔ヘルニア)
小脳扁桃というのは小脳の一部です。小脳の一番下側にあります。小脳扁桃は、頭蓋骨の背中側にある大孔(大後頭孔)という穴の近くにあります。大孔の下は脊柱管です。脳幹の先は大孔を通って脊柱管の中で脊髄として下に伸びています。小脳扁桃が大孔にはまり込んでしまうことを大孔ヘルニアと言います。大孔ヘルニアでは脳幹が圧迫されます。特に延髄が圧迫されることで呼吸停止の原因になります。

脳浮腫の薬物治療

脳ヘルニアが起こると命が危なくなります。そこで脳浮腫を軽減する抗脳浮腫療法が行われます。

脳浮腫療法では、濃度の濃いグリセリン(高張グリセロール、商品名:グリセオールなど)を静脈から入れます。これによって脳浮腫の原因となっている水分を血液中に移動させ、脳浮腫や脳代謝を改善する作用が期待できます。特に心原性の脳塞栓症やアテローム血栓性梗塞などの頭蓋内圧の変化を伴うような脳梗塞の急性期治療において有効とされています。

その他、マンニトール(D-マンニトール)という薬を静脈から入れることで浮腫を改善する方法も選択肢の一つとされています。

グリセロールとマンニトールはともに浸透圧利尿薬という名前でも知られる薬です。

浸透圧利尿薬は、体内の化学反応にはほぼ影響しません。しかし、血液の中に浸透圧利尿薬が入ることで、血液が濃くなります。血液が濃くなると、血管の周りの組織から水が血液に取り込まれます。もともと血管の中と外では常に水が出入りしているのですが、液体の濃さ(浸透圧)に差ができると、水は自然に浸透圧のバランスを元に戻す方向に移動します(浸透)。つまり、血液が濃くなったときは血液を薄くする方向に、すなわち血管の外から中に水が移動します。この現象を利用して血管に水分を回収する薬が浸透圧利尿薬です。浸透圧利尿薬の作用によって、脳の余分な水分が血管を通って全身に移動し、脳浮腫が改善することを狙って使われます。

浸透圧利尿薬は「利尿薬」という名前のとおり、尿を増やす作用もあります。浸透圧利尿薬は腎臓を通って尿の中に排泄されます。腎臓では尿を作る途中の段階(原尿)で水分を再吸収しています。浸透圧利尿薬が入っていると、原尿が濃くなるため、原尿から水分が再吸収されにくくなります。その結果、より多くの水分が尿として排泄されるようになります。

脳梗塞の急性期の手術:外減圧術

片方の脳に大きく広がる心原性脳塞栓症や小脳梗塞の場合、数日かけて脳浮腫が進行します。脳は頭蓋骨に囲まれた限られたスペースのため、腫れてしまうと逃げ場がなく、一気に内部の圧力が高くなります。すると脳ヘルニアと呼ばれる状態になり、生命の中枢である脳幹が圧迫されてしまうのです。

大きな脳梗塞が原因で脳が腫れている場合、年齢が18-60歳であることなど一定の条件を満たせば、命を助けるために「外減圧術」という手術が行われることがあります。この手術法は、脳が腫れても圧力が高くなり過ぎないように、手術で頭蓋骨の一部を外して、外したまま頭の皮膚を閉じる方法です。無事に脳梗塞の急性期を乗り切って、腫れも引いた場合、発症から数カ月後に手術で外していた頭蓋骨を戻します。

ただし、一点だけ注意しなければいけないことがあります。脳梗塞で一度死んでしまった脳の細胞は元には戻らないということです。外減圧術は脳梗塞を治すための手術というよりは、「脳梗塞が重症でこのままだと命に危険が及ぶことが予想される場合に行われる手術」なのです。

5. 脳梗塞の再発を予防するための治療法について

脳梗塞は再発の多い病気です。そのため、一度脳梗塞を起こした人は、退院後も再発予防のための治療を続ける必要があります。

【脳梗塞再発の予防法】

  • ①生活習慣病の予防や治療
  • ②禁煙
  • ③血液をさらさらにする薬(抗血小板薬と抗凝固薬)を使った治療
  • ④手術
  • ⑤カテーテル治療

特に高血圧、糖尿病脂質異常症といった病気がある人は、脳梗塞を発症する前よりも厳格に治療を行う必要があります。

6. 脳梗塞再発予防①:生活習慣病の予防や治療

高血圧症糖尿病脂質異常症といった生活習慣病は脳梗塞の発症と深い関わりがあります。そのため、これらの治療が脳梗塞の予防につながります。

高血圧の治療

高血圧は脳梗塞の危険因子であることが分かっています。特に収縮期血圧上の血圧)が160mmHg以上の場合、脳梗塞を起こす危険性は約3倍という報告があるくらいです。

脳梗塞を起こしてしまった人の再発予防について、日本脳卒中学会が作成している「脳卒中治療ガイドライン2021」では、以下のような記載があります。

  • 脳梗塞の再発予防では、降圧療法が勧められる
  • 血圧は140/90mmHg未満を目指すことは妥当
  • 両側内頚動脈高度狭窄がない、主幹動脈閉塞がない、ラクナ梗塞である、抗血栓薬内服中である場合には、可能であればより低い血圧レベルが推奨され、血圧は130/80mmHg未満を目指すことが妥当

つまり、脳梗塞の再発予防では上の血圧を140mmHg未満、下の血圧を90mmHg未満が目標になるということです。脳梗塞に関連する重要な血管に異常がない人、ラクナ梗塞の人、抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)を内服している人ではさらなる血圧の改善が目標となり、上の血圧を130mmHg未満、下の血圧を80mmHg未満に保つのが望ましいです。

脳梗塞の再発予防をふまえた高血圧の薬としては、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬という種類の薬や、ACE阻害薬に利尿薬を併用した治療において有効性が確認されています。他のカルシウム拮抗薬やARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)などの種類に含まれるいくつかの薬において脳梗塞への有効性が確認されています。

もちろん高血圧以外の持病を持っているかどうかやその病気の状態などによっても使われる薬が変わってくることも考えられますが、いずれにしても適正な血圧を維持することは脳梗塞の予防において大切です。

糖尿病の治療

糖尿病は脳梗塞を起こす危険性を2-3倍も高くします。

再発予防として、糖尿病を適切にコントロールすることが重要です。糖尿病の治療薬にはさまざまな種類がありますが、その中でもピオグリタゾンという糖尿病治療薬が脳梗塞の再発予防に有効とされています。

脂質異常症の治療

脂質異常症は血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪が多い、あるいはHDLコレステロール(善玉コレステロール)が少ない病気です。脂質異常症があると、脳梗塞を発症する危険性が高まります。

非心原性の脳梗塞を発症した人のコレステロールの管理について、日本動脈硬化学会による「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」では以下の値が推奨されています。

  • LDLコレステロール:120mg/dL未満
  • non-HDLコレステロール:150mg/dL未満
  • HDLコレステロール:40mg/dL以上
  • 中性脂肪(TG):150mg/dL未満

スタチン系と呼ばれる脂質異常症の治療薬に脳梗塞の予防効果があると期待されています。また、魚の油に含まれるEPA(イコサペント酸エチル)製剤をスタチン系の薬と一緒に飲むことで、脳梗塞の再発をより抑えられる可能性があります。

7. 脳梗塞再発予防②:禁煙

喫煙は脳梗塞の危険因子として知られています。特に喫煙本数が多ければ多いほど、脳梗塞で命を落とす危険性が高まります。脳梗塞を起こした人は、再発予防のための禁煙が勧められます。

8. 脳梗塞再発予防③:血液をさらさらにする薬(抗血小板薬と抗凝固薬)を使った治療

脳梗塞を一度起こした人は再び脳梗塞になる可能性が高いため、血液をさらさらにする薬を使って予防します。薬には抗血小板薬と抗凝固薬とがあって、脳梗塞の種類やその人の状態に合わせて使い分けられます。

抗血小板薬について

アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞などの非心原性脳梗塞の再発を予防するために、主に抗血小板薬という種類の薬が使われます。抗血小板薬とは、血液が固まる要因となる血小板の働きを抑えることで、血栓ができるのを抑える薬の総称です。

【脳梗塞に使われる主な抗血小板薬】

  • アスピリン(商品名:バイアスピリン®など)
  • クロピドグレル硫酸塩(商品名:プラビックス®など)
  • シロスタゾール(商品名:プレタール®など)
  • チクロピジン塩酸塩(商品名:パナルジン®など) など

「脳卒中治療ガイドライン2021」ではなかでも、アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールが非心原性脳梗塞の治療において推奨されています。

チクロピジンもクロピドグレルと類似した作用の仕組みをもち、脳梗塞の再発防止に有効であるとされていますが、稀におこる副作用(好中球減少、肝障害など)を考慮して上記の3剤に次いで推奨される薬となっています。

もちろん以前からチクロピジンで相性よくしっかりと治療ができていて、副作用なども問題ない場合ではそのまま薬を継続しますし、クロピドグレルなどを含めて他の抗血小板薬が体質に合わない場合や副作用があらわれる場合においてもチクロピジンの使用が考慮されます。

この他にも、ジピリダモール(商品名:ペルサンチン®など)などの抗血小板薬が使われる場合もあります。

心原性の脳塞栓症においては、後述するワルファリンやNOACと呼ばれる抗凝固薬が再発予防に有効ですが、これらの薬が何らかの理由で使えない場合には、抗血小板薬の使用が考慮されます。抗血小板薬では、従来の同系統の薬に比べ個々の体質による薬の効果の差が少ないとされているプラスグレル(商品名:エフィエント®)という薬が開発され、病気の状態やそれぞれの体質などに合わせた治療薬が選択できるようになってきています。

抗凝固薬について

名前の通り、血液が固まる働きを抑えることで血栓をできにくくし、脳梗塞などの発症を防ぐ薬です。特に心原性塞栓症の再発予防において使われる主な薬になります。

長年、ワルファリンカリウム(商品名:ワーファリンなど)が治療薬の中心を担ってきましたが、近年新しく開発された抗凝固薬(Novel Oral AntiCoagulantsを略してNOACと呼ぶ場合もあります)が登場し、治療の選択肢が広がってきています。 (最近では、NOACを「DOAC(Direct Oral AntiCoagulants):直接経口抗凝固薬)」と呼ぶこともあります。)

ワルファリンカリウム(商品名:ワーファリンなど)

抗凝固薬の一つで、現在でも多くの人に使われている薬です。ワルファリンは血液凝固因子(血液を固める要因となる体内物質)に関わるビタミンKの働きを抑えることで抗凝固作用を示す薬です。

ビタミンKは骨の形成などにも関わるビタミンですが、血液に対してはいくつかの凝固因子の生成を手助けする働きを持ちます。ビタミンKが関わる血液凝固因子はプロトロンビン(第II因子)、第VII因子、第IX因子、第X因子で、これらの生成を抑えることで抗凝固作用や抗血栓作用を持つことになります。

◎ビタミンKを多く含む食品や、薬物の摂取についての注意

ワルファリンを飲むにあたって最初に必ず説明される注意事項の一つに「ビタミンKを多く含む食品の摂取についての注意」があります。食事などからビタミンKを多く含む食品を過剰に摂ってしまうとせっかくのワルファリンの効果が減ってしまいます。通常の食事で食べるくらいの野菜の量であれば問題ないのですが、納豆、クロレラ、青汁などは多くのビタミンKを含むため、ワルファリンを服用している場合は食べないようにしてください。

ちなみに、よく「ビタミンK」と「カリウム(K)」を同じ成分であると間違えがちです。確かに、お互いに「K」という文字を持つため紛らわしいのですが、「ビタミンKはビタミン」「カリウム(K)はミネラル」であって全く異なるものです。カリウム(K)を摂ったとしても直接的にワルファリンの効果を邪魔することはありません(ただし、カリウムは薬の排泄にも関わる腎機能に影響を与える可能性があるため、腎臓の病気で治療を受けている人などは特に注意が必要です)。

ビタミンKは、フィトナジオンやメナテトレノンといったように違う名前で呼ばれることがあるため、むしろこちらのほうが注意が必要です。特にメナテトレノン製剤(商品名:グラケー®など)は骨粗しょう症の治療薬として使われています。知らず知らずのうちに服用している可能性もあるため、事前に処方医や薬剤師とよく相談してください。

◎ワルファリンは治療効果が高く、コスト面でもメリットが高い

このように、ビタミンKの摂取など注意すべきことはありますが、現在でもワルファリンは脳梗塞などに有効な薬として多くの人に使われていて、治療にかかる薬のコストが比較的安価という面からも、メリットがある薬として認識されています。

現在(2022年2月時点)、新しい抗凝固薬(NOAC)の1錠(1カプセル)の薬価は100円をゆうに超え、1日の治療コストとして薬価計算で500円を超える場合もあります。一方で、ワルファリンは1錠の薬価が10円ほどです。仮にワルファリンとして1日7mgや8mgなど比較的高用量使ったとしても薬価として1日あたり100円にも満たない金額です。この差は健康保険の一部負担金の支払い額としても、国の医療費を考慮したとしてもメリットと言えます。もちろん薬剤は治療に対しての有効性が最も重要視されるところではありますが、総合的に考えてみてもワルファリンは「治療効果が高くコスト面でのメリットも高い薬」と言えます。

ダビガトラン(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)(商品名:プラザキサ®

ワルファリンに次ぐ抗凝固薬として、日本ではプラザキサ®の名前で2011年3月から使われている薬です。血液凝固因子の一つ、トロンビン(第IIa因子)を阻害することで抗凝固作用を持ちます。

この薬は通常「1日2回服用」する薬で、腎機能や併用する薬などに問題がなければ1回150mg(75mgのカプセルを2カプセル分)、1日で300mgの薬剤量を服用します。

ダビガトランには1カプセルに110mgの薬剤が入った規格もあります。こちらは腎機能の低下が見られる場合や併用する他の薬がダビガトランの作用を過度に高めてしまう可能性がある場合などに使用が考慮され、1回110mgを1日2回、つまり1日220mgの低用量で服用するための調節用の規格になっています。

一般的に薬剤の規格が複数ある場合は、含有量が高い規格がそのまま高用量を使うための規格になることが多いのですが、ダビガトランは含有量が低い規格を複数(75mgを1回に2カプセル)使うことで高用量の薬の使用を実施するという薬なのです。

◎ダビガトランの特徴や注意点

ダビガトランは、抗凝固薬の服用中で特に注意すべき事項の一つである脳内出血の発症が少なかったという臨床試験の結果もあり、有用性が高い薬とされています。

服薬に関してのマイナス面をあえて挙げると「カプセル剤が大きい」という点かもしれません。プラザキサ®カプセルでは、小さい方の75mgカプセルでも「長さが約18mm・直径が約6mmほど」です。NOACの中でも最も薬剤の大きさが小さいリバーロキサバン製剤のイグザレルト®錠が「直径6mm・厚さ2.8mgほど」で、実際に手に取って見てみると大きさの違いをかなり感じます。もちろん小さければ小さいほど良い、というわけではないですが、錠剤やカプセルの大きさが大きいと、嚥下機能が低下した人にとっては特に飲みにくいことが予想されます。

また、プラザキサ®カプセルは吸湿性が高いため原則として「1包化調剤」に不向きな製剤です。「1包化調剤」とは、「朝」「夕」など服用時点ごとに複数の薬を一緒に1回ごとにパック(分包)する調剤方法です。同じタイミングで複数の薬を飲まなくてはいけない場合には適切な服薬と飲み間違い防止などの観点から非常に有用な手段となります。

もちろんダビガトランは治療に対しての有益性が高い薬ではありますが「カプセルが比較的大きい」「1包化調剤に不向き」という点は、嚥下機能が低下している人や認知症を患っている人などにとってマイナスであり、日本の高齢化を考えるとこれらマイナス面を改善した製剤の開発が待たれるところでもあります。

リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®

日本では2012年4月から使われているNOACです。本剤は血液凝固因子の中の第Xa因子の活性を阻害することによって抗凝固作用を示します。臨床試験の結果からワルファリンに劣らないという有効性が確認され、安全性においては特に頭蓋内出血の危険性が少ないと考えられています。

また、本剤は通常「1日1回の服用」で治療が可能な製剤で、飲み忘れ防止などの観点からも有用と言えます(なお、深部静脈血栓症などの病態において、治療の初期に1日2回の服用が指示される場合もあります)。イグザレルト®︎の錠剤(普通錠)は、ワルファリンや他のNOACに比べても錠剤の大きさが小型で、喉に引っ掛かりにくいのもメリットです。また、イグザレルト®️には普通錠のほか、OD錠(口腔内崩壊錠)、細粒剤、ドライシロップ剤の剤形(剤型)もあり、この点からも嚥下へのメリットが考えられます。

アピキサバン(商品名:エリキュース®

日本では2013年2月から使われているNOACです。本剤は血液凝固因子の第Xa因子を阻害することによって抗凝固作用の働きを担います。

心臓弁膜症を伴わない心房細動(NVAF)を持つ人に対する臨床試験において、ワルファリンよりも有効性が高かったという結果も報告されている薬です。また出血性合併症が少なく、特に頭蓋内出血が少ないとされる点などもメリットと考えられています。

本剤は通常「1日2回」の服用を必要とするため、こと服薬という観点では「1日1回」で治療が可能な抗凝固薬に対してやや劣る側面はありますが、高い有効性や出血性の副作用が少ないとされることなどを考えると有用な薬の一つと言えます。

エドキサバン(エドキサバントシル酸塩水和物)(商品名:リクシアナ®

日本では2011年4月に登場したNOACです。血液凝固因子の第Xa因子を阻害することによって抗凝固作用を示します。

本剤は発売当初は、主に膝関節や股関節の全置換術など下肢の整形外科手術を行った人に対して、静脈血栓塞栓症の発症を抑える目的で使われていた薬でした。その後、臨床試験における結果から非弁膜性の心房細動から引き起こされる脳卒中(虚血性脳卒中)及び全身性塞栓症の発症抑制、静脈血栓梗塞症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制に対して安全性と有効性が確認され、2014年9月にこれらの保険承認が認可されました。

そのため「脳梗塞の治療に対して使われるようになったNOAC」という見方をすれば、ここで説明している薬の中では一番最後に登場した薬とも言えます。

服用中の大出血や頭蓋内出血が少ないとされていることや、リバーロキサバン同様にこの薬も通常「1日1回の服用」で治療が可能な製剤となっていることもメリットと言えます。また、リクシアナ®️にはOD錠(口腔内崩壊錠)の剤形(剤型)もあります。

抗凝固薬はワルファリン以外にNOACが加わり治療の選択肢が広がってきましたが、では「新しい薬が良いか?」と言えば必ずしもそうとも言えません。ワルファリンには長い間、臨床現場で使われてきた実績などの蓄積がありますが、NOACにはまだそこまでの蓄積はないため、今後の臨床経験の積み重ねが必要とされています。

病気の状態、併用する薬の種類、食事などの日常生活における習慣などを考慮して、薬が選択されます。抗凝固薬を服用する場合には、自分の飲む薬にどのような特徴があって、どういったことに注意しなくてはならないのかを医師や薬剤師からよく聞いておくことが大切です。

9. 脳梗塞再発予防④:内頚動脈狭窄症の治療(バイパス術・内頚動脈内膜剥離術、頚動脈ステント留置術)

首から脳に向かう血管が強く狭窄・閉塞していることが原因で脳梗塞が起きている場合は、再発予防として手術が検討されます。主な手術法であるバイパス術と内頚動脈内膜剥離術について説明します。

手術:内頚動脈内膜剥離術

動脈硬化が進み首の頚動脈が狭窄すると、脳への血流が悪くなってしまいます。また、狭窄している部位にできた血栓が剥がれて流れ、脳の血管に詰まることもあり、これらの原因によって脳梗塞が起きることになります。いずれも血管の一番内側の層である内膜という部分に問題が起こっています。内頚動脈内膜剥離術では血管を切り開き内膜を取り除きます。

手術:バイパス手術

首よりも頭側の脳の血管が狭窄・閉塞している場合、バイパス手術という手術が行われることもあります。頭皮の下を通っている血管(動脈)を、脳の表面を栄養している血管(動脈)につなぐこと(迂回路を作るという意味で「バイパス」と呼びます)で、脳の血流が増えて、脳梗塞が起きにくくなります。

カテーテル治療:頚動脈ステント留置術

カテーテル治療では、手首や足の付け根付近の動脈に針を指して、そこからカテーテルという細い管を送り込んで行う治療です。血管内治療とも呼ばれます。この治療では、細くなった血管の内側にステントと呼ばれる筒状の物体を挿入し、血管を内側から広げます。

手術とカテーテル治療の選び方

手術とカテーテル治療のどちらを選べばいいんだろう、と気になる人がいるかと思います。現在のところ、手術(頚動脈内膜剥離術)とカテーテル治療(頚動脈ステント留置術)の治療効果は大きく変わりません。

それぞれメリット、デメリットがあるので、動脈硬化の状態や血管の状態、全身状態などを考え、どちらの治療が良いかという患者さんの希望をもとに選択されることになります。

以下に、治療を選ぶときに参考になるポイントを記載します。

【手術とカテーテル治療を選ぶ場合のポイント】

  • 手術(頚動脈内膜剥離術)が望ましい場合
    • 頚動脈の狭窄している部分が石灰化している(カテーテルのバルーンやステントでは、固くて拡げることができません)
    • 大腿動脈や大動脈が曲がりくねっている、動脈瘤がある(カテーテル治療が難しくなります)
  • カテーテル治療(頚動脈ステント留置術)が望ましい場合
    • 心臓や肺が悪くて、全身麻酔ができない(カテーテル治療は局所麻酔で出来ます)
    • 首に傷を作りたくない

また、カテーテル治療では身体への負担が少ないため、早く回復して退院することができます。個人の状態と希望によって望ましい治療は変わってくるので、主治医とよく相談して決めるようにしてください。