2017.03.28 | ニュース

女性の病気を探す性器・骨盤部の診察は「証拠不十分」、米機関の推奨

米国予防医学作業部会が文献の調査

from JAMA

女性の病気を探す性器・骨盤部の診察は「証拠不十分」、米機関の推奨の写真

女性特有の病気を調べるために性器などを診察する方法があります。しかし、米国予防医学作業部会の調査では、特定の場合を除いて骨盤部の診察を勧めるには証拠が不十分と判断されました。

この記事は婦人科の病気のスクリーニングについて触れています。

症状がない人も含めて広い範囲から病気がある人を見つけ出そうとする検査や診察をスクリーニングと言います。

スクリーニングの効果が知られている例として、便潜血検査により大腸がんを探すことは40歳以上の人なら症状がなくても勧められます。

一方、前立腺がんを発見できる血中PSAの検査がスクリーニングとして有益かどうかは意見が分かれています。早期の前立腺がんは経過観察で十分な場合も多いのに対して、検査や治療によりまれに勃起障害などを起こすリスクもあるためです。

 

米国予防医学作業部会(USPSTF)が、婦人科の病気のスクリーニングとして、骨盤部の診察が推奨できるかどうかを検討し、調査に基づいて推奨をまとめました。

子宮頸癌、クラミジア感染症、淋菌感染症(淋病)についてはすでに別の推奨があるため、これらに当てはまる場合は対象外としました。

以下の診察方法が検討の対象となりました。

  • 外性器の検査
  • 尿道口の検査
  • 膣入口の検査
  • 肛門周囲の検査
  • 膣と子宮頸部の鏡検(膣鏡を使って観察すること)
  • 子宮体部、子宮頸部、付属器(卵巣など)の双合診(両手で膣の中とお腹の上から挟んで触診すること)
  • 膣後壁の直腸膣診(肛門と膣から指を入れて触診すること)

 

スクリーニングの利益として以下が検討され、いずれも証拠は不十分と判断されました。

  • 死亡率を減らす
  • 特定の病気による死亡を減らす
  • 特定の病気にかかっている状態を減らす
  • 生活の質をよくする

スクリーニングの害として以下が検討され、いずれも証拠は不十分と判断されました。

  • 偽陽性(本当は病気がないのに異常とする検査結果が出る)
  • 偽陰性(本当は病気があるのに正常とする検査結果が出る)
  • 必要ない検査や治療を受けることになる
  • 検査による不安、痛み、不快感と、それによって医療を利用しなくなること

 

証拠不十分とされた根拠の一部として、過去に行われた研究では、以下のように診察の感度(実際に病気があった場合に正しく発見できる割合)が報告されていました。

  • 卵巣がん
    • 双合診の感度は2.8%
  • 細菌性腟症
    • 診察の感度は2.3%-78.8%
  • 性器ヘルペス
    • 診察の感度は14.2%-19.6%
  • 膣トリコモナス症
    • 診察の感度は1.7%-59.2%

「感度が1.7%」というのは、実際に病気がある人が(担当医に病名を知らせずに)診察を受けると、98.1%は見逃され、1.7%だけが正しく発見されるという意味です。

調査で参照された研究報告では以下の病気も診察の対象とされていましたが、いずれも全体の結論に影響する結果は出ていませんでした。

  • 子宮体がん
  • 膣がん
  • 外陰がん
  • 膣カンジダ症
  • 尖圭コンジローマ
  • 骨盤内炎症性疾患
  • 萎縮性腟炎
  • 子宮頸部ポリープ
  • 子宮内膜症
  • 卵巣嚢胞
  • 骨盤臓器脱
  • 子宮筋腫
  • 外陰部硬化性苔癬

 

以上をまとめた結果、「USPSTFは、症状がなく、妊娠していない女性に対してスクリーニング骨盤部診察を行うことの利益と害のバランスを評価するには現在ある証拠では不十分と結論する」と判断されました。

つまり、現時点の証拠に基づくと、症状がなく妊娠もしていない女性に骨盤部の診察はいずれも積極的に勧めることができないと判断されました。

ただし、上の推奨は、すでに推奨がなされている特定の検査を対象外としています。

子宮頸がんを探すパパニコロウ塗抹検査(細胞診)については2012年の推奨で「USPSTFは、子宮頸がんのスクリーニングを、21歳から65歳の女性では3年ごとの細胞診によって、または30歳から65歳でスクリーニング間隔を伸ばしたい女性では5年ごとの細胞診とHPV試験の組み合わせによって、行うことを勧める」とされています。

淋菌とクラミジアの感染を探す検査については、2014年の推奨で「USPSTFは、性的活動のある24歳以下の女性および、より年齢が上の女性のうち感染のリスクが高まっている人に、スクリーニングを勧める」とされています。

 

診察は「病気を探すため」と思うと、念入りに調べたほうがいいように思えるかもしれません。しかし、どんなときでも調べたほうが良いとは限りません。

女性に特有の病気は種類が多く、非常に多くの女性が一生に一度は経験するものもあります。

病気が妊娠に影響する可能性や、怖い病気が隠れている可能性を知れば知るほど、「念のため」調べたくなるかもしれません。

しかし、症状もないのに診察を受けて、たまたま異常が見つかり、しかも見つかったものが将来有害になるものであり、なおかつ早期治療によって将来の害を防げるのは、「とても運が良かった場合」だけです。

同時に、診察によって本当は病気ではないものが病気と誤診されたり、治療の必要がないものに対して無駄な治療を受けることになったり、治療によって副作用や合併症が発生する「とても運が悪い場合」も予想されることをあわせて考えるべきです。

診察を受ける前に、悪い結果と比べて良い結果の見込みが十分に大きいと予想できているときにだけ、診察を受けることが合理的と言えます。

もちろん難しく考えずに「念のため」診察を受けて利益を得る人も中にはいます。しかし同時に「念のため」の診察を後悔する人もいます。どちらになるかはやってみなければわかりません。

すでにわかっている証拠があれば、合理的な判断の助けとすることができます。証拠が不十分なものを安易に勧めることは科学的な態度とは言えません。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Screening for Gynecologic Conditions With Pelvic Examination: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement.

JAMA. 2017 Mar 7.

http://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2608228

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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