症状のない、平均的なリスクの女性に対する卵巣がんのスクリーニング
米国予防医学作業部会(USPSTF)が、卵巣がんを見つけ出そうとする検査について、2012年に出していた推奨の内容を更新しました。
病気の早期発見などを目的に、症状などの疑わしい点がない人も対象として行われる検査をスクリーニングと言います。USPSTFの2012年の推奨は、症状のない女性は卵巣がんのスクリーニングを行わないよう勧めていました(遺伝的に卵巣がんのリスクが高いとわかっている人を除く)。理由として、それまでの研究データでは、卵巣がんのスクリーニングを行っても卵巣がんによる死亡数は減らないことが示されていました。
USPSTFは今回の更新で、より新しい研究データも含めるよう改めて文献の調査を行い、研究から報告されているデータを集めました。
卵巣がんのスクリーニングでは何をするのか?
卵巣がんのスクリーニングとして考えられる検査には、血液検査によるCA-125の測定と、経膣超音波検査があります。どちらの方法でも、単独で卵巣がんがあるかどうかを決定することはできません。スクリーニングで卵巣がんが疑われた時、卵巣がんがあるかどうかを確かめるには卵巣を取り除く手術が必要になる場合があります。
文献調査の結果
調査から以下の結果が得られました。
CA-125の測定を単独で行う効果について、2件の研究による質の高いデータがあり、スクリーニングを行わなかった場合に比べて、卵巣がんによる死亡率には統計的に確かめられる差がありませんでした。うち1件の研究では、スクリーニングを受けた50,270人のうち488人(1%)が、手術を受けたけれども卵巣がんはなく、うち15人には、手術によって引き起こされた感染症などの合併症がありました。
経膣超音波検査を単独で行う効果について、1件の研究による質の高いデータがあり、スクリーニングを行わなかった場合に比べて、卵巣がんによる死亡率には統計的に確かめられる差がありませんでした。スクリーニングを受けた50,299人のうち1,634人(3.2%)が、手術を受けたけれども卵巣がんはなく、うち57人には、手術によって引き起こされた感染症などの合併症がありました。
超音波検査とCA-125測定を組み合わせて行う効果について、1件の研究による質の高いデータがあり、スクリーニングを行わなかった場合に比べて、卵巣がんによる死亡率には統計的に確かめられる差がありませんでした。スクリーニングを受けた34,041人のうち1,080人(3.2%)が、手術を受けたけれども卵巣がんはなく、うち163人には、手術によって引き起こされた感染症などの合併症がありました。
精神的な害については、検査をたびたび繰り返すことになった人で不安状態がわずかに多くなったなどの結果があったものの、全体として害があるかどうかは証拠不十分と判断されました。
以前の推奨と同様の結論
調査結果から、「USPSTFは、症状のない女性には卵巣がんのスクリーニングを行わないことを勧める」と結論されました。
2012年の推奨と同様に、遺伝的に卵巣がんになりやすいとわかっている人は対象から除かれました。たとえば、BRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子の変異によって、乳がんや卵巣がんが発生しやすい人がいます。このような遺伝子変異は、家族の中に卵巣がんを経験する人が多いことなどをきっかけに、遺伝子検査で見つかることがあります。USPSTFは家族の経験から有害な遺伝子変異が疑われる場合には遺伝カウンセリングを、特に必要と思われた場合は遺伝子検査を勧めています。
検査は使いどころを考える
アメリカの機関による、卵巣がんのスクリーニングについての推奨を紹介しました。
病気を早期発見して治療することは大切ですが、検査をすればいつも効果的な治療につながるとは限りません。たとえば、がんと紛らわしいものが見つかり、確実に見分けるには手術をせざるをえないといった場合も生まれます。手術をした結果、「やはりがんだったので早期治療できてよかった」とわかることもある一方、「実はがんではなく、すぐ手術しなくてもよかった」とわかる場合も考えられます。こうしたさまざまな場合を考えに入れて、検査をする前に、利益と害の両面を予想しておく必要があります。
がんのスクリーニングをすることで、全体として利益が害に勝るかどうかは、さまざまな場面で議論されています。中には、大腸がんを探す便潜血検査のように、がんによる死亡を防ぐ効果があると確認されたものもあります。
ここで紹介したように、徹底したデータの調査に基づいた推奨が専門的な機関から出されているので、自分が検査を受けるかどうか考える時にも参考にすることで、より合理的に判断する助けとすることができます。
執筆者
Screening for Ovarian Cancer: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement.
JAMA. 2018 Feb 13.
[PMID: 29450531]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。