2018.05.07 | コラム

薬疹とはどんな病気なのか?

薬が原因で現れる皮膚の病気。その症状や治療について

薬疹とはどんな病気なのか?の写真

薬疹という言葉を聞いたことがありますか。単純にいうと薬が原因で発疹が出たものをいいますが、ここでは広く、一般には別の病名で呼ばれるものも含めて、飲み薬、点滴静脈投与、貼り薬など、あらゆる薬の投与に伴って起きた皮膚の病気をまとめて紹介します。

薬疹ではどんな症状が現れるのか

発疹のほかにも、発熱や、肝臓や腎臓などの内臓障害が起こることもあります。また、重症なタイプでは生死に関わることもあります。

発疹はかゆいこともかゆくないこともあります。発疹がひどくて傷(びらん)になっているときは痛みを感じます。

 

どんな発疹が現れるのか

まず、皮膚科の専門用語になりますが、発疹とは皮膚にできた変化(皮疹)と粘膜(目、口、鼻、陰部など)にできた変化(粘膜疹)とを合わせていいます。薬疹は発疹の種類によって型を分けることがあります。具体的には、紅斑丘疹型(赤い斑点やぶつぶつが出る)や蕁麻疹型(虫刺されのような膨れた赤みが出る)、固定薬疹(同じ薬をのむと毎回同じところが赤くなる)などです。重症なタイプには、中毒性表皮壊死症、スティーブンス・ジョンソン症候群、薬剤性過敏症症候群が挙げられます。

薬疹は皮膚にさまざまな変化を起こすので、薬疹で起こりうるタイプとして知られた発疹が見られたときには、常に薬剤が原因となっていないかを考える必要があります。尋常性乾癬や急性汎発性発疹性膿疱症などがその例です。

 

薬疹が起きるメカニズムは?

薬疹はそのメカニズムによっても分類されます。大きく分けるとアレルギー性のものと非アレルギー性のものです。

 

アレルギー性

昔ながらのアレルギーの分類で、すべてのアレルギー性の病気がはっきりと分類されているわけではありませんが、以下の4つに分けられます。

 

● 1型アレルギー(即時型アレルギー)

IgE抗体を介する反応です。薬剤がからだの中に入って短時間で起こり、蕁麻疹型の薬疹がこれに当たります。

 

● 2型アレルギー(細胞傷害型アレルギー)

薬剤が結合した細胞に対する抗体ができて細胞が傷害を受けるものをいいます。

 

● 3型アレルギー(免疫複合体型アレルギー)

抗原と抗体とさらに補体が結合した免疫複合体が組織に沈着するもので、代表的なのは血管が侵されるものです。

 

● 4型アレルギー(遅延型アレルギー)

特定の抗原に反応する抗体を産生するようになったリンパ球の一種(T細胞)が炎症を起こすものです。アレルギー性の接触皮膚炎やStevens-Johnson症候群など多くのものがこれに当たります。

 

アレルギーによって起こる薬疹は、1型と4型に分類されるものが多いようです。

 

非アレルギー性の薬疹

アレルギーとは関係ない、薬の作用そのものによって薬疹が起こることがあります。期待していない作用なので「副作用」と言えます。

 

薬疹を起こしやすいものとしてよく知られた薬

薬には多くの種類があります。どんな薬でも薬疹は起こりうると考えた方がよいですが、薬疹を起こす頻度が高い薬もあります。抗生物質による薬疹はよく知られていますが、近年医学の発達に伴って登場した新しい薬にも、薬疹を起こしやすいものがあります。例を挙げて説明します。

 

● 抗生物質(抗生剤)

特にペニシリン系のアレルギーがよく知られています。伝染性単核球症というウイルスの病気がありますが、この病気にかかったときにペニシリンを投与されると薬疹が出やすくなるといわれています。

 

● 抗てんかん薬

重症の薬疹が報告されている飲み薬があります。そういった薬については、量を少しずつ増やして問題がないかを確認しながら内服するように決められています。

 

● 糖尿病の薬

最近新しいタイプの血糖を下げる薬がどんどん登場しています。DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)阻害薬という種類の薬で、水疱性類天疱瘡という水ぶくれを主な症状とする皮膚の病気を引き起こすことが相次いで報告されています。

 

● 抗がん剤(分子標的薬など)

がん細胞の表面にある分子を攻撃するようにデザインされた薬剤(分子標的薬)が、身体の正常な細胞も攻撃してしまって副作用が出ることがあります。皮膚でいうと、毛を作る細胞が攻撃されることで起きる脱毛が特に知られています。ほかに毛嚢炎といって、細菌が感染していないのにまるでにきびのように毛穴が炎症を起こすことがあります。

発疹が出るものの方が、がんにもよく効くといわれている薬もあります。薬疹ではなく、「薬剤性皮膚障害」ということが多いかもしれません。また、皮膚のがんである悪性黒色腫という病気の治療薬のせいで、正常な色素を作る細胞まで攻撃されてしまって、白斑という白い斑点が出現することもあります。

 

薬疹の治療

このように、薬疹といってもさまざまな病気が含まれているのですが、治療で最も大切なことはまずその薬剤の投与を中止することです。中止といっても、内服中止後数か月以上して出てくる薬疹もあるので、「もうやめている」という状況もあるでしょう。

また、抗がん剤の場合は、医師も患者さんも「がんに効いているからやめたくない!」ということがあります。その場合は、ステロイドの塗り薬やミノサイクリンという飲み薬を使いつつ、抗がん剤の量を減らしたり投与間隔を空けたりしながら「ごまかして」薬を使用していくことになります。

薬疹に対しては、一般に、ステロイドの塗り薬やかゆみ止めの飲み薬が使われることが多いですが、重症の場合にはステロイドの内服や点滴投与を行うこともあります。

 

薬疹とその他の皮膚の病気を見分けることがなぜ重要か?

皮膚に症状が出たとき、原因が薬のなのか、あるいは薬とは関係のない皮膚の病気なのかを見分けることはとても重要です。その理由を二つ述べます。

 

診断が異なれば治療が異なるから

例えば、上で述べたように、抗がん剤によってまるでにきびのようなぶつぶつが出ることがあります。にきびにはふつう、抗生物質やピーリング作用のある外用剤を使うことが多いのですが、抗がん剤の副作用として出た場合には炎症を抑えるステロイドが効くことがあります。(普通のにきびの治療を併用することもあります。)

このように、治療法が異なれば、区別する必要があるのは当然です。

 

薬を継続して使えたり、将来同じ薬が必要になったときに再度使えたりするから

例えば、抗がん剤を使っているときに蕁麻疹が出たとします。蕁麻疹は、何かひとつの物質に対するアレルギー反応として起こるよりも、精神的ストレスや体調不良などのさまざまなことが影響して出てくることが多いものです。したがって、もしかしたら抗がん剤のせいではなくて、がんの身体的、精神的ストレスによって蕁麻疹が出たのかもしれません。抗がん剤ががんに効いていたとしたら、犯人扱いして中止するのは損ということになります。このように、ただの蕁麻疹なのか、薬のアレルギーで出た蕁麻疹なのか 、背景を踏まえてよく検討する必要があります。

 

薬疹の診断は難しい?

薬疹と同じような皮膚の症状が出る病気はいろいろあるので、時に症状だけをみても診断が難しいことがあります。薬疹はいったいどのように診断されるのでしょうか。

 

薬疹の診断、原因薬剤の特定はどう行うのか?

症状と経過のみから診断することがほとんどですが、皮膚を切り取ってスライスして顕微鏡で見る皮膚生検を行うことがあります。また、血液検査で白血球のうちアレルギーに関与する好酸球という細胞が増えているかを調べると診断の助けになりますし、肝臓の機能が悪くなっていないかを調べることも重症度の判断材料になります。

原因薬剤を特定するために、血液を採取してリンパ球幼若化試験(リンパ球が薬剤に反応するか見る検査、DLST)を行うこともあります。しかし、この検査は採血の時期によって間違って陽性に出たり間違って陰性に出たりすることもあり、あまり役に立つ結果を得られないことも多いです。ほかに行われる検査としては薬剤を注射したり貼り付けたり、あるいは内服したりして反応をみるものがあります。

 

薬疹と間違えやすい病気とは?

先に述べたように、薬によって現れる発疹にはさまざまな種類があるので、いろいろな皮膚の病気と区別をつけなければなりません。次の病気がその代表例です。

 

蕁麻疹

蕁麻疹は風邪を引いたりおなかをこわしたりしたときに出ることがよくあります。「風邪を引いて薬をのんだら、発疹が出た。だからこの薬はアレルギーだ。」と思ったときには、本当にそうなのかよく考える必要があります。

蕁麻疹はアレルギーによって起こる病気というイメージが浸透しているかもしれません。しかし、実際には原因が特定できない、あるいはさまざまな要因によって起きていると考えられるケースがほとんどです。

風邪を引いて市販薬や処方薬を飲んで発疹が出た場合には、薬が原因であると考えたくなります。しかし、一般的に蕁麻疹型の薬疹はⅠ型つまり即時型のアレルギーです。そのため、内服して数時間以内に出るのであれば薬疹の可能性も考えなければなりませんが、数時間以上経過してから出た発疹については、薬とは関係なく、蕁麻疹は風邪のウイルス(あるいは細菌)やストレスによって出ていると考えた方が合理的です。

もし薬のアレルギーであるとすると、その薬は今後避ける必要がありますが、そうでなければ、薬に「濡れ衣」を着せて将来必要な時に使えなくなってしまうと損をする、ということになります。

 

中毒診

はしか(麻疹)、三日ばしか(風疹)、水ぼうそう(水痘)という病名を聞いたことがある人は多いと思います。これはそれぞれ、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルスという名前のウイルスが原因で、熱などの症状とともに発疹が起きる感染症です。これらをまとめてウイルス性発疹症というカテゴリーで呼んでいます。こういった発疹を起こすウイルス感染症のどれも否定的で、もしかしたら、検出できなかったウイルスや、人間が知りもしないウイルスがあって、それで発疹が出たのかもしれないと考えたときに、これを「ウイルス性中毒診」と呼んでいます。なお、原因がウイルスなのかさえわからないときには、ちょっとごまかして「中毒診」と呼ばれています。大変便利な言い方なので日本では多用されていますが、欧米ではこの言葉は使われていないようです。

熱を出したりして医療機関を受診し、内服を開始した後に発疹が出ると、これを薬疹と思ってしまうことがあり発疹も似通っているため、診察する皮膚科医にとっても区別が難しいことが多々あります。

 

移植片対宿主病(GVHD)

病気の治療のために移植した骨髄の中に含まれるリンパ球の一種が、移植を受けた患者さんのタンパク質を攻撃する抗体を作ることで、皮膚を含む臓器が侵されるものを移植片対宿主病といいます。皮膚が赤くなり皮がむけたり、口の中の粘膜もただれたりするなど、急性のものでは重症型の薬疹によく似ることがあります。移植から数か月以上たって起こる慢性のものもあり、薬の副作用なのかこの病気なのか判断が難しいことがあります。

 

薬の副作用あれこれ

日本は、小さな病気でもすぐに医療機関を受診でき、軽い自己負担で薬が手に入るという点で、医療的には大変恵まれた国だと思います。一方で、どんな薬にも副作用はつきものです。最後に、薬の副作用に関してこぼれ話をふたつお話しします。

 

接触皮膚炎って何?

いわゆる薬疹ではありませんが、湿布かぶれを起こしたことのある人も多いでしょう。痛み止めの湿布のほかに、認知症のテープタイプの薬でかゆくなってしまう人もいます。このような皮膚炎を、接触皮膚炎と呼びます。接触皮膚炎にもアレルギー性と非アレルギー性(一次刺激性)のものがあり、前者では(身体が抗原を忘れてくれない限り)原因薬剤は使えないと思った方がよいですが、後者の、例えば長時間の貼付により汗でかぶれてしまった場合などは、皮膚の状態がよくなればまた使うことができるかもしれません。また、よくあるのが市販の水虫の薬にかぶれてしまうことです。市販の薬には複数の有効成分が含まれています。カビを殺す成分だけでなく、かゆみを止める成分が原因のこともあります。市販薬でかぶれてしまった場合には、使用を中止して皮膚科を受診しましょう。

 

抗生物質(抗生剤)による下痢はアレルギー?

皮膚の症状ではありませんが、抗生物質を内服した後に下痢をしたために、「わたしはこの薬にアレルギーだ」と思っている人がいます。抗生物質を飲んだ後に起きる下痢のほとんどは、腸内の一部の細菌が殺されて、別の細菌が増え、細菌の顔ぶれが変わったことによるもので、アレルギーとは関係ないものです。

執筆者

MEDLEY編集部

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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