薬疹とはどんな病気なのか?

薬疹という言葉を聞いたことがありますか。単純にいうと薬が原因で発疹が出たものをいいますが、ここでは広く、一般には別の病名で呼ばれるものも含めて、飲み薬、点滴静脈投与、貼り薬など、あらゆる薬の投与に伴って起きた皮膚の病気をまとめて紹介します。
薬疹ではどんな症状が現れるのか
発疹はかゆいこともかゆくないこともあります。発疹がひどくて傷(
どんな発疹が現れるのか
まず、皮膚科の専門用語になりますが、発疹とは皮膚にできた変化(
薬疹は皮膚にさまざまな変化を起こすので、薬疹で起こりうるタイプとして知られた発疹が見られたときには、常に薬剤が原因となっていないかを考える必要があります。尋常性乾癬や急性汎発性発疹性
薬疹が起きるメカニズムは?
薬疹はそのメカニズムによっても分類されます。大きく分けると
アレルギー性
昔ながらのアレルギーの分類で、すべてのアレルギー性の病気がはっきりと分類されているわけではありませんが、以下の4つに分けられます。
● 1型アレルギー(即時型アレルギー)
IgE
● 2型アレルギー(細胞傷害型アレルギー)
薬剤が結合した細胞に対する抗体ができて細胞が傷害を受けるものをいいます。
● 3型アレルギー(
抗原と抗体とさらに
● 4型アレルギー(遅延型アレルギー)
特定の抗原に反応する抗体を産生するようになった
アレルギーによって起こる薬疹は、1型と4型に分類されるものが多いようです。
非アレルギー性の薬疹
アレルギーとは関係ない、薬の作用そのものによって薬疹が起こることがあります。期待していない作用なので「副作用」と言えます。
薬疹を起こしやすいものとしてよく知られた薬
薬には多くの種類があります。どんな薬でも薬疹は起こりうると考えた方がよいですが、薬疹を起こす頻度が高い薬もあります。
● 抗生物質(抗生剤)
特にペニシリン系のアレルギーがよく知られています。伝染性単核球症という
● 抗てんかん薬
重症の薬疹が報告されている飲み薬があります。そういった薬については、量を少しずつ増やして問題がないかを確認しながら内服するように決められています。
● 糖尿病の薬
最近新しいタイプの
●
発疹が出るものの方が、がんにもよく効くといわれている薬もあります。薬疹ではなく、「薬剤性皮膚障害」ということが多いかもしれません。また、皮膚のがんである悪性黒色腫という病気の治療薬のせいで、正常な色素を作る細胞まで攻撃されてしまって、白斑という白い斑点が出現することもあります。
薬疹の治療
このように、薬疹といってもさまざまな病気が含まれているのですが、治療で最も大切なことはまずその薬剤の投与を中止することです。中止といっても、内服中止後数か月以上して出てくる薬疹もあるので、「もうやめている」という状況もあるでしょう。
また、抗がん剤の場合は、医師も患者さんも「がんに効いているからやめたくない!」ということがあります。その場合は、
薬疹に対しては、一般に、ステロイドの塗り薬やかゆみ止めの飲み薬が使われることが多いですが、重症の場合にはステロイドの内服や点滴投与を行うこともあります。
薬疹とその他の皮膚の病気を見分けることがなぜ重要か?
皮膚に症状が出たとき、原因が薬のなのか、あるいは薬とは関係のない皮膚の病気なのかを見分けることはとても重要です。その理由を二つ述べます。
診断が異なれば治療が異なるから
例えば、上で述べたように、抗がん剤によってまるでにきびのようなぶつぶつが出ることがあります。にきびにはふつう、抗生物質やピーリング作用のある外用剤を使うことが多いのですが、抗がん剤の副作用として出た場合には炎症を抑えるステロイドが効くことがあります。(普通のにきびの治療を併用することもあります。)
このように、治療法が異なれば、区別する必要があるのは当然です。
薬を継続して使えたり、将来同じ薬が必要になったときに再度使えたりするから
例えば、抗がん剤を使っているときに蕁麻疹が出たとします。蕁麻疹は、何かひとつの物質に対するアレルギー反応として起こるよりも、精神的ストレスや体調不良などのさまざまなことが影響して出てくることが多いものです。したがって、もしかしたら抗がん剤のせいではなくて、がんの身体的、精神的ストレスによって蕁麻疹が出たのかもしれません。抗がん剤ががんに効いていたとしたら、犯人扱いして中止するのは損ということになります。このように、ただの蕁麻疹なのか、薬のアレルギーで出た蕁麻疹なのか 、背景を踏まえてよく検討する必要があります。
薬疹の診断は難しい?
薬疹と同じような皮膚の症状が出る病気はいろいろあるので、時に症状だけをみても診断が難しいことがあります。薬疹はいったいどのように診断されるのでしょうか。
薬疹の診断、原因薬剤の特定はどう行うのか?
症状と経過のみから診断することがほとんどですが、皮膚を切り取ってスライスして顕微鏡で見る皮膚
原因薬剤を特定するために、血液を採取してリンパ球幼若化試験(リンパ球が薬剤に反応するか見る検査、DLST)を行うこともあります。しかし、この検査は採血の時期によって間違って陽性に出たり間違って陰性に出たりすることもあり、あまり役に立つ結果を得られないことも多いです。ほかに行われる検査としては薬剤を注射したり貼り付けたり、あるいは内服したりして反応をみるものがあります。
薬疹と間違えやすい病気とは?
先に述べたように、薬によって現れる発疹にはさまざまな種類があるので、いろいろな皮膚の病気と区別をつけなければなりません。次の病気がその代表例です。
蕁麻疹
蕁麻疹は風邪を引いたりおなかをこわしたりしたときに出ることがよくあります。「風邪を引いて薬をのんだら、発疹が出た。だからこの薬はアレルギーだ。」と思ったときには、本当にそうなのかよく考える必要があります。
蕁麻疹はアレルギーによって起こる病気というイメージが浸透しているかもしれません。しかし、実際には原因が特定できない、あるいはさまざまな要因によって起きていると考えられるケースがほとんどです。
風邪を引いて市販薬や処方薬を飲んで発疹が出た場合には、薬が原因であると考えたくなります。しかし、一般的に蕁麻疹型の薬疹はⅠ型つまり即時型のアレルギーです。そのため、内服して数時間以内に出るのであれば薬疹の可能性も考えなければなりませんが、数時間以上経過してから出た発疹については、薬とは関係なく、蕁麻疹は風邪のウイルス(あるいは細菌)やストレスによって出ていると考えた方が合理的です。
もし薬のアレルギーであるとすると、その薬は今後避ける必要がありますが、そうでなければ、薬に「濡れ衣」を着せて将来必要な時に使えなくなってしまうと損をする、ということになります。
中毒診
はしか(麻疹)、三日ばしか(風疹)、水ぼうそう(水痘)という病名を聞いたことがある人は多いと思います。これはそれぞれ、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、
熱を出したりして医療機関を受診し、内服を開始した後に発疹が出ると、これを薬疹と思ってしまうことがあり発疹も似通っているため、診察する皮膚科医にとっても区別が難しいことが多々あります。
移植片対宿主病(GVHD)
病気の治療のために移植した
薬の副作用あれこれ
日本は、小さな病気でもすぐに医療機関を受診でき、軽い自己負担で薬が手に入るという点で、医療的には大変恵まれた国だと思います。一方で、どんな薬にも副作用はつきものです。最後に、薬の副作用に関してこぼれ話をふたつお話しします。
接触皮膚炎って何?
いわゆる薬疹ではありませんが、湿布かぶれを起こしたことのある人も多いでしょう。痛み止めの湿布のほかに、認知症のテープタイプの薬でかゆくなってしまう人もいます。このような皮膚炎を、接触皮膚炎と呼びます。接触皮膚炎にもアレルギー性と非アレルギー性(一次刺激性)のものがあり、前者では(身体が抗原を忘れてくれない限り)原因薬剤は使えないと思った方がよいですが、後者の、例えば長時間の貼付により汗でかぶれてしまった場合などは、皮膚の状態がよくなればまた使うことができるかもしれません。また、よくあるのが市販の水虫の薬にかぶれてしまうことです。市販の薬には複数の有効成分が含まれています。カビを殺す成分だけでなく、かゆみを止める成分が原因のこともあります。市販薬でかぶれてしまった場合には、使用を中止して皮膚科を受診しましょう。
抗生物質(抗生剤)による下痢はアレルギー?
皮膚の症状ではありませんが、抗生物質を内服した後に下痢をしたために、「わたしはこの薬にアレルギーだ」と思っている人がいます。抗生物質を飲んだ後に起きる下痢のほとんどは、腸内の一部の細菌が殺されて、別の細菌が増え、細菌の顔ぶれが変わったことによるもので、アレルギーとは関係ないものです。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。