2016.03.17 | コラム

認知症の周辺症状(BPSD)に対する治療薬の効果や副作用について解説(セロクエル、リスパダールなど)

認知症の周辺症状
認知症の周辺症状(BPSD)に対する治療薬の効果や副作用について解説(セロクエル、リスパダールなど)の写真
(C) highwaystarz - Fotolia.com

この記事のポイント

1.認知症の症状に関して[中核症状と周辺症状とは?]
2.周辺症状に効果が期待できる治療薬① 抗精神病薬(リスパダール、セロクエル など)
3.周辺症状に効果が期待できる治療薬② 抗うつ薬[SSRI(パキシル、ジェイゾロフト など)、SNRI(トレドミン、サインバルタ など)、NaSSA(リフレックス、レメロン)]
4.周辺症状に効果が期待できる治療薬③ 抗不安薬(ワイパックス、デパス、セルシン など)
5.周辺症状に効果が期待できる治療薬④ 睡眠導入薬(マイスリー、アモバン、ルネスタ など)

超高齢社会へ進む日本において認知症は今後ますます患者数の増加が予想される病気です。認知症の症状の中でも夜間せん妄、幻覚、妄想、意欲低下などは患者本人だけでなく、家族や介護従事者などを悩ます要因の一つとなっています。

夜間せん妄、幻覚、妄想、意欲低下などの症状は認知症の周辺症状(BPSD)と呼ばれ、患者本人の性格・体質の他、生活環境など色々な要素が作用することで多様化します。今回は、主にこの周辺症状の治療で使用される精神神経系に作用する薬について解説します。

 

認知症における症状は大きく以下の2つに分けられます。

  • 中核症状:認知機能障害(記憶障害、見当識障害、計算力障害、記銘力障害など)
     
  • 周辺症状:過活動症状(夜間せん妄、幻覚、妄想、不安、焦燥、攻撃的行動、徘徊など)や低活動性症状(意欲低下、自発性低下、抑うつなど)
     

 

中核症状はもの忘れ、判断力の低下、時間や場所の見当がつかない‥などの認知症患者にほぼ共通しておこる症状です。薬剤による治療(特にアルツハイマー型認知症の中核症状の治療)では主にコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト®、レミニール®、リバスタッチ®、イクセロン®など)という薬やNMDA受容体拮抗薬(メマリー®)といった薬剤が使用されます。これらの薬剤により中核症状の改善が期待できるのですが、症状の悪化を遅らせるに留まり、根本治療には至ってないのが現状です。(アリセプト®アルツハイマー型認知症の他、レビー小体型認知症への効果が確認されています)

一方、周辺症状(行動・心理症状)は中核症状に伴っておこる反応性の症状であり、幻覚、妄想、睡眠障害、介護への抵抗、抑うつ状態など、人によって症状は様々です。認知症の周辺症状はBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)という言葉であらわされることもあります。

周辺症状の発現には身体的要因や環境要因が関与することもあり、ストレスの少ない環境を作り心理療法(音楽療法など)的アプローチを行うなど、非薬物的対応がまずは検討されます。

それでも改善がみられない場合に薬物治療が検討され、精神症状に対して効果が期待できるとされていますが、一般的に徘徊、性的脱抑制などの異常行動への効果は乏しい場合もあります。周辺症状に対する主な薬剤としては、過活動性症状に対しての抗精神病薬、低活動性症状に対しての抗うつ薬というように精神神経系へ作用する薬が使用されています。

認知症患者の多くは高齢者ということもあり、これら精神神経系の薬の服用量は比較的少ない量で使用される(又は低用量から開始される)ことが一般的です。しかし、これらの薬の多くは眠気、筋弛緩(筋肉に力が入らず転びやすくなる)作用などの副作用を併せ持つ薬剤であり、日常生活における転倒、骨折などの危険が伴います。

 

脳内の神経伝達物質であるドパミンやセロトニンなどへの作用により、主に統合失調症による幻覚、妄想、思考の混乱などの症状を改善する目的で使われる薬剤です。

認知症の周辺症状では過活動性症状である夜間せん妄、幻覚、妄想、不安、焦燥などに効果が期待できるとされています。副作用に錐体外路障害、転倒、血糖変動、眠気、過鎮静、高プロラクチン血症などがあり、合併症パーキンソン病糖尿病などがある場合は使用に対して特に注意が必要となります。これらのことを考慮して薬剤の服用量を比較的少ない量で使用(又は比較的少ない量で使用を開始)することが多いのですが、服用開始後の体の動作に異常はないか?ふらつきはないか?など、経過観察は必要です。

 

焦燥性興奮、攻撃性、刺激性、幻覚などの過活動性症状の改善作用の他、睡眠障害や不安症状などの改善にも有効とされています。レビー小体型認知症への使用はパーキンソン症状の悪化を示しやすいとされ注意が必要です。OD錠、細粒剤、液剤などがあり嚥下機能が低下した患者などへの対応も可能です。頓服薬としても使用され、特に水などの飲料が無くても服用できるOD錠(口腔内崩壊錠)や液剤(製剤例:リスパダール®内用液1mg/ml)は臨床上有用とされています。

 

錐体外路障害を軽減した抗精神病薬として開発された経緯をもつ薬で、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)への影響なども少ないとされています。糖尿病合併する患者への使用は慎重に行います。

 

レビー小体型認知症やパーキンソン症状を合併する患者へは他の抗精神病薬より優先して使用されることが多い薬剤です。糖尿病を合併する患者への使用は原則控える必要があります。剤形として錠剤の他、細粒剤があり用途などに合わせた選択が可能となっています。

 

精神系への効果が高いとされる一方で、血糖などへの影響により糖尿病を合併する患者への使用は原則控える必要があります。ジプレキサ®は剤形に錠剤の他、細粒剤、注射剤(筋注用)、ザイディス錠(口腔内崩壊錠)があり、特にザイディス錠は一般的なOD錠に比べ、口の中でより素早く溶ける工夫が施されている製剤となっています。

   

神経伝達物質のドパミンやセロトニンなどに対する作用に、より効果をあらわす新しいタイプの抗精神病薬の一つです。錐体外路障害やプロラクチンへの影響などが比較的少ないとされています。糖尿病を合併する患者への使用を慎重に行います。エビリファイ®は剤形として錠剤の他、OD錠、液剤(内用液)、注射剤(持続性水懸筋注用)があり、用途や嚥下能力などに合わせた選択が可能となっています。

 

脳内の神経伝達物質セロトニンやノルアドレナリンなどへの作用により、憂な気分を和らげ意欲などを改善する薬です。認知症の周辺症状では主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの薬剤が使用されています。

 

脳内の神経伝達物質セロトニンの量を増やすことなどによって効果をあらわす薬で、認知症における、抑うつ、意欲低下、自発性低下などに効果が期待できるとされています。また食行動異常や前頭側頭型認知症の脱抑制(内的な欲求を制御することができずに本能のまま行動したりする、マナーなどの欠如や違法行動など)にも効果が期待できるとされています。

主な薬剤にフルボキサミンマレイン酸塩(主な商品名:デプロメール®、ルボックス®)、パロキセチン塩酸塩(主な商品名:パキシル®)、塩酸セルトラリン(主な商品名:ジェイゾロフト®)、エスシタロプラムシュウ酸塩(商品名:レクサプロ®)があります。SSRIはうつ病の他、薬剤によってはパニック障害PTSDなどの精神疾患にも有効とされ、様々な精神症状があらわれる認知症の症状に効果が期待できる薬剤の一つとなっています。

 

脳内の神経伝達物質セロトニンやノルアドレナリンの量を増やすことなどによって効果をあらわす薬で、認知症における意欲低下、自発性低下、抑うつなどに効果が期待できます。

主な薬にミルナシプラン塩酸塩(主な商品名:トレドミン®)やデュロキセチン塩酸塩(商品名:サインバルタ®)があり、抑うつなどの症状のほか神経性疼痛などに効果が期待できる薬剤です。中でもデュロキセチン塩酸塩は「糖尿病性神経障害」や「線維筋痛症に伴う疼痛」にも保険適応をもち、舌などの痛みを訴える心気症への改善効果なども期待できるとされています。

 

脳内のノルアドレナリン及びセロトニンの神経伝達を増強することによって効果をあらわします。主な薬剤としてミルタザピン(商品名:リフレックス®、レメロン®)があり、抑うつ、不安、睡眠障害の改善、食欲改善などの効果が期待できるとされています。睡眠脳波に対する作用などから睡眠時間などの改善が期待される一方、他の抗うつ薬に比べて眠気が出やすいとされ通常は「寝る前」に服用します。

 

その他、SSRIなどの抗うつ薬で効果が十分に得られない場合などでは三環系抗うつ薬のアモキサピン(商品名:アモキサン® )、不眠などの改善効果が期待できる四環系抗うつ薬のミアンセリン塩酸塩(商品名:テトラミド®)、トラゾドン塩酸塩(主な商品名:デジレル®、レスリン®)などの薬剤が認知症の周辺症状に対して使われる場合があります。

 

一般的に「抗不安薬」として臨床上広く使われているのは、ジアゼパム(主な商品名:セルシン®、ホリゾン® など)やエチゾラム(主な商品名:デパス®)などのベンゾジアゼピン系抗不安薬という種類の薬剤です。主に脳内で興奮などを抑える抑制性の伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)の作用を増強することで、不安や緊張などを和らげる作用をあらわします。またその他の抗不安薬に関しても神経伝達物質のセロトニンなどに作用することで不安や緊張などを和らげる薬剤となっています。

認知症の周辺症状でも不安や焦燥などの症状があらわれる場合があり「抗不安薬」はこれらの症状の改善効果が期待できるとされています。

しかし「抗不安薬」と呼ばれる薬の多くは過鎮静、運動失調、転倒、認知機能の低下などのリスクを伴うため、高齢者に使用するには特に注意が必要な薬剤の一つです。その中でもロラゼパム(主な商品名:ワイパックス®)は肝機能による影響が少なく、短時間作用型(比較的、薬の効果が長時間残りにくい薬剤)のため高齢者にも比較的安全性が高い薬の一つとされています。

エチゾラムはロラゼパムと同じく短時間作用型であり臨床現場で広く使用されている薬です。但しこちらは連用後の中断によって反跳性不安(服用を止めた場合に以前よりも不安状態になる)などが比較的あらわれやすいとされ注意が必要となります。

その他の薬としてタンドスピロンクエン酸塩(主な商品名:セディール®)などの抗不安薬も周辺症状の改善目的で使用する場合があります。

 

認知症患者では昼・夜の逆転が生じやすいとされ、治療方法の一つとして睡眠導入薬が使われる場合があります。

主に筋弛緩作用や依存性が少ないベンゾジアゼピン系という種類の睡眠導入薬の中でも、翌日まで眠気やふらつきが残る「持ち越し効果」が少ない超短時間作用型であるゾルピデム酒石酸塩(主な商品名:マイスリー®)やゾピクロン(主な商品名:アモバン®)などが推奨されています。

高齢者の睡眠障害には夜中に繰り返し目が覚める中途覚醒や、朝早く目が覚めてしまい再び眠れない早朝覚醒が多く、これらの症状には催眠作用が比較的持続する中間型などの睡眠導入薬が適するとされます。

しかし、作用時間が長い薬は一般的に「持ち越し効果」があらわれやすいため注意が必要です。超短時間型の睡眠導入薬の中でもエスゾピクロン(商品名:ルネスタ®)は、他の超短時間型の薬剤に比べて催眠作用が持続し中途覚醒に対しても効果が期待できる薬剤の一つとされています。

また、睡眠に関わるホルモンへの効果により睡眠周期を整えるラメルテオン(商品名:ロゼレム®)、従来の睡眠導入薬とは異なる作用により催眠効果をあらわすスボレキサント(商品名:ベルソムラ®)、抗うつ薬の項目でも紹介したせん妄に伴う睡眠障害などに効果が期待できるミアンセリン塩酸塩(商品名:テトラミド®)やトラゾドン塩酸塩(主な商品名:デジレル®、レスリン®)などといった薬剤も認知症患者の睡眠障害に使用します。

 

その他、認知症の周辺症状へはスルピリド(主な商品名:ドグマチール®、アビリット® など)などの薬剤も使われる場合もあります。スルピリドは低活動性症状の他、幻覚、妄想といった過活動性症状や食欲不振や吐き気などの消化器系の症状改善への効果も期待できるとされています。但し、抗精神病薬と同様に錐体外路障害などに注意が必要となります。

 

ここで紹介してきたように、認知症の周辺症状に対する薬物治療は患者の身体的原因や環境要因などを考慮し、非薬物的対応の結果などを踏まえた上で行われます。また、症状だけでなく患者の体質や合併症なども考慮して慎重に選択されます。近年では抑肝散(ヨクカンサン)などの漢方薬による治療も選択肢の一つとなっていていますが、それでも家族や介護従事者などによるケアが重要であることは変わりません。日々の生活の中での体調の変化や行動の変化などを確認しつつ、各々の症状に合わせた適切な治療を行うことが大切です。

執筆者

中澤 巧

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。