かんぞうがん
肝臓がん
肝臓にできた悪性腫瘍のこと
1人の医師がチェック 75回の改訂 最終更新: 2024.11.07

肝臓がんの検査:超音波検査やCT検査などの解説

肝臓がんの検査は、血液検査、超音波検査CT検査などの画像検査などがあります。治療には肝臓の機能が重要です。肝臓がんを診断する検査と肝臓の機能を調べる検査を解説します。 

肝臓がんは早期にはほとんど症状がないので症状をきっかけにして肝臓がんを見つけることは困難です。

肝臓にできるがんの中で最も多いのは肝細胞がんです。このページでは「肝臓がん」と言えば肝細胞がんを指すことにします。

肝細胞がんはウイルス感染を原因とする肝硬変を背景として発生することが大多数です。肝炎ウイルス(B型とC型)を原因とする人が7−8割といわれています。このために肝炎ウイルスに感染している人で肝硬変の状態にある人に対しては定期的な腫瘍マーカーの測定や超音波検査が勧められています。

肝臓がんが発生する危険性が高い人は、肝炎ウイルスに慢性的に感染していて肝炎や肝硬変の状態になっている人です。

図:ウイルス性肝炎の一般的な経過。

「肝癌診療ガイドライン」では、肝臓がんが発生する危険性が高い人を高危険群、超高危険群の2グループに分けています。

「肝癌診療ガイドライン」は高危険群と超高危険群のそれぞれに対してスクリーニング検査を勧めています。スクリーニングとは、症状などがなくても病気を発見するために検査をすることです。スクリーニング検査の目的は病気を早期に発見して治療することです。

高危険群か超高危険群の区別に加え、年齢、性別、糖尿病の有無、BMI、血液検査などを踏まえて検査の間隔を決めるべきとしています。

「肝癌診療ガイドライン」では肝臓がんのスクリーニング検査は以下の間隔で行うことが推奨されています。

  • 高危険群

    • 6ヵ月ごとの腫瘍マーカーの測定、超音波検査

  • 超高危険群

    • 3-4ヵ月ごとの腫瘍マーカーの測定、超音波検査

    • 6-12ヵ月ごとのCT/MRI検査

スクリーニング検査の間隔や内容は患者さんの状態などにより異なることもあります。超音波検査などで肝臓がんが疑われた場合にはさらにCT検査やMRI検査を使って肝臓がんがどうかの判断をすることになります。

病気の早期発見を目的にした検査をスクリーニング検査といいます。肝臓がんは肝炎や肝硬変から発生することが分かっています。肝臓がんは小さい状態や少ない個数のうちに発見して治療をした方が治療法の選択肢が多く、効果も高いと考えられます。

ウイルス性肝炎肝硬変の状態の人に対して定期的に検査をすることでがんが小さい状態や少ない個数で発見できる可能性が高くなります。スクリーニング検査をしても肝臓がんによる死亡などを完全に防げるわけではありませんが、より良好な結果に結びつきやすいと考えられます。

肝臓がんに対する血液検査は肝臓の機能などを評価するものと肝臓がんの腫瘍マーカーがあります。

  • 肝臓の機能などを評価するもの

    • AST(GOT)

    • ALT(GPT)

    • ALP 

    • γ-GTP

    • コリンエステラーゼ

    • アンモニア

    • 血小板

    • ビリルビン

    • アルブミン

    • プロトロンビン

  • 肝臓がんの主な腫瘍マーカー

    • AFP

    • AFPレクチン分画(AFP-L3分画)

    • PIVKA-II

治療に際して肝臓の機能を推定するにはビリルビン、プロトロンビン、アルブミンの3つが参照されます。肝障害度、Child-Pugh分類という治療方法を決めるのに重要な評価をするときに使う数値です。

肝臓がんの腫瘍マーカーは3つの項目を使うことができます。AFP、PIVKA-II、AFP-L3の3つです。

肝臓の機能は血液検査にも反映されます。肝臓はいろいろな役割を果たす臓器なのでその分検査項目も多くなります。それぞれについて解説します。

基準値は各施設で異なる場合があります。基準値は絶対ではありません。基準値を超えても病気とは限りません。基準値に収まっていれば病気がないとも言い切れません。検査を受けた後の医師の説明を十分に聞くことが大事です。

基準値:10-35 IU/L以下

ASTは肝細胞に多く含まれる物質です。他には心臓や腎臓などの臓器に多く存在しています。肝細胞が破壊されることによってASTの血液中の濃度が上昇します。肝臓に特有の検査ではないので他の検査結果と合わせて評価します。肝臓の障害を推定するために用いられます。

基準値:5-40IU/L以下

ALTは肝細胞の中に存在している物質です。肝細胞が障害されると血液の中でのALTの濃度が上昇します。肝臓の障害を推定するために用いられます。

基準値:100-320 IU/L

ALPは肝臓や腎臓などのさまざまな細胞でつくられます。胆汁の中にも存在します。胆汁のうっ滞(流れが悪いこと)が生じるとALPが増加します。肝障害が胆汁のうっ滞によるものかを判断する材料になります。

ALPが増加している場合は肝臓の病気以外にもいろいろな原因が考えられます。たとえば骨の形成が強くなっている時にはALPが増えます。このため子供では成人よりもALPの検査値が高いのが普通です。

基準値:10-90 IU/L

γ-GTPはALPと同様に胆汁のうっ滞を反映する値です。胆汁のうっ滞や胆管細胞の破壊が起きるとγ-GTPが上昇することが知られています。アルコールの多飲などで上昇します。

基準値:200-460 IU/L

コリンエステラーゼは肝細胞のみで作られる物質です。肝臓で作られて血液中に放出されます。肝炎や肝硬変などで肝臓の機能が低下しているとコリンエステラーゼをつくる力が減少します。

基準値:12−66 μg/dl以下

アンモニアの血液中での濃度が上昇すると肝性脳症の原因となります。

食べ物の中にはタンパク質が含まれています。タンパク質や腸の分泌液に含まれる尿素が腸内細菌によって分解されてアンモニアが発生します。アンモニアは毒性があるので肝臓に運ばれ無毒化されて尿の中に排泄されます。

肝臓の機能が低下している場合はアンモニアを無毒化する力も落ちています。このためにアンモニアの血液中での濃度が高まって肝性脳症が起きることがあります。

基準値:15-35万/μl

血小板は血液を固める役割を果たしています。

肝臓がんの人では血小板が減少することが知られています。

肝臓がんの多くは肝炎や肝硬変という慢性的な肝臓の病気を背景にして発生します。特に肝硬変では肝臓が固くなり肝臓に流れ込む門脈という血管の圧がかなり高い状態になってしまいます。この状態を門脈圧亢進症といいます。門脈圧亢進症の状態では肝臓に流れ込む血液が脾臓に流れるようになります。脾臓では血小板の破壊などが行われます。脾臓への血流増加のために血小板の値が低下します。脾臓では白血球赤血球の破壊も同時に行われています。血小板のみならず白血球や赤血球も減少することがあります。

赤血球、白血球、血小板が全て減少することを汎血球減少(はんけっきゅうげんしょう)といいます。汎血球減少は肝臓の病気のほかにも血液の病気や全身性エリテマトーデスSLE)などで現れる場合があります。

血小板の数で肝硬変の程度を推測することができます。 肝硬変の程度を5段階に分けた場合(F0-4)、それぞれの段階と血小板の値が対応します。

基準値:0.3-1.5 mg/dl

ビリルビンは赤血球が壊れてでる物質です。血液中のビリルビン濃度が高まると皮膚や眼球結膜(白眼)などが黄色くなる黄疸(おうだん)の原因になります。ビリルビンは肝臓の機能を推定するのに使う肝障害度、Child-Pugh分類で使う項目の一つです。

基準値:4.0-5.0g/dl

アルブミンは肝臓で作られるタンパク質の一つです。アルブミンは血管の中に水分を保ったり、他の物質と結合して物質の運搬をするなどの働きがあります。アルブミンが減少すると水分が血管から出ていきます。水分はお腹の中や胸のスペースに溜まります。お腹に溜まった水分を腹水、胸に溜まった水分を胸水といいます。アルブミンは肝障害度、Child-Pugh分類という肝臓の機能を評価する方法の項目の一つです。

基準値:70-140(%)

プロトロンビンは肝臓で作られる止血に関わるタンパク質です。肝臓で作られるので肝臓の機能が低下するとプロトロンビンが低下します。プロトロンビンは肝障害度、Child-Pugh分類という肝臓の機能を評価する方法の項目の一つです。

基準値:10.0ng/mL

AFPは胎児が作るタンパク質です。出生後はAFPの血液中での濃度は低下します。肝臓がんはAFPを産生することがあります。AFPは慢性肝炎や肝硬変でも血液中の濃度が上昇することが知られています。つまりAFPが上昇したからといって肝臓がんとは限らないことには注意が必要です。

基準値:15%以下

AFPは肝臓がんがあると数値が高くなります。しかしながら肝炎や肝硬変でも数値が高くなることがあります。AFPはさらに細かく分けることができます。AFP-L1、AFP-L2、AFP-L3の3つです。この中でもAFP-L3が肝臓がんと関係が強いことが知られています。

基準値:40mAU/mL未満

PIVKA-IIは肝臓で作られる血液を固める物質の一つです。肝臓がんでPIVKA-IIが上昇する理由についてはまだ不明な点がありますが、肝臓がんの腫瘍マーカーとして使われています。肝臓がん以外でもビタミンKが体の中に不足していたりワーファリンという薬を飲んでいたりすると上昇することがあります。

肝臓に腫瘍があるうえに腫瘍マーカーが高いと医師から言われるとそれだけで「自分はがんなのか?」と強い疑いを持ってしまうと思います。その後の検査でがんではなかったと言われても不安は残ると思います。

しかし必ずしも腫瘍マーカーが高いからといってがんとは限りません。がんがないのに腫瘍マーカーが上昇することもあります。これを偽陽性(ぎようせい)といいます。逆に腫瘍マーカーが上昇していなくて「がん」が潜んでいることもあります。これを偽陰性(ぎいんせい)といいます。

肝臓がんの腫瘍マーカーは肝炎や肝硬変の状態でも上昇します。腫瘍マーカーの数値は「がん」の状態を必ずしも反映しないことを憶えておくのは大事なことです。その後の検査や腫瘍マーカーについての医師からの説明をよく聞いてください。

超音波検査(エコー検査)は肝臓がんの診断、治療、治療効果の確認など多くの場面に登場します。超音波検査は放射線を使う検査ではないので放射線の影響の心配はいりません。

超音波を体に当てると、超音波の跳ね返りから体の中の様子を画像で観察できます。肝臓の形や肝臓がんの有無、血管の走り方などがわかります。

肝臓の中にがんと疑わしいものが見つかった場合、超音波検査の画像の特徴から、がんかそれ以外のもの(肝血管腫など)かをある程度見分けられます。ただし画像検査だけでは確実ではないのでほかの検査と合わせて判断します。

超音波検査は手術中や手術後にも使います。肝臓の血流が問題ないかなどを知ることができます。

超音波検査からは多くの情報を得ることができます。さらにその診断能力を高めるために造影剤という薬品を注射で投与して超音波検査をする場合があります。

造影超音波検査の原理について詳しめの解説をします。

造影超音波検査は通常の超音波検査では良性(がんではないもの)と悪性(がん)の区別がつかない場合に検討されます。がんは、栄養や酸素を得るために自分で血管をつくりだす特徴があります。超音波検査ではがんの部分は血流が増えている様子が観察できます。造影剤を使って超音波検査をすると血流が増えた様子がよく観察できるようになります。

肝臓がんには正常な肝臓にいるクッパー細胞という細胞がいません。クッパー細胞は異物を処理する細胞です。造影剤を注射すると肝臓でマイクロバブルが発生します。マイクロバブルは異物なのでクッパー細胞に食べられます。しかしがん細胞にはクッパー細胞がないのでその部分がはっきりとした絵として描出されます。

造影超音波検査では血流の増加した様子とクッパー細胞が観察できない2つの特徴から良性か悪性かの判断が難しいものを区別する参考とすることができます。

生検病変の一部を取り出してそれを詳しくみる検査のことです。生検は「がん」の確定診断に用いられます。例えば胃がんと疑われる部分を内視鏡で観察して一部を取り出して顕微鏡で確認することでそれが本当にがんかどうかの診断をします。

肝臓がんでは生検は必ずしも行わなければならない検査ではありません。MRI検査やCT検査などの画像検査で肝臓がんらしい特徴が確認できれば肝臓がんの診断となります。生検は肝臓に針を刺す必要があり負担にもなります。肝臓がんがかなり疑わしい場合には体に負担をかけないで治療に進むことは理にかなっているとも言えます。生検が必要になるのは、画像検査で肝臓がんの診断が難しいときなどです。

図:肝臓の正常解剖のイラスト。

CT検査では以下のことに医師は注目しています。

  • 肝臓にある腫瘍は肝臓がんなのか 

  • 肝臓がんであった場合

    • 肝臓がんの個数 

    • 肝臓がんの大きさ

    • 血管との関係

  • 肝臓以外の転移の有無

  • 肝臓の大きさ

肝臓がんはCT検査の一つであるダイナミックCT検査をすることで特徴的な画像を見ることができます。ダイナミックCT検査をすることで肝臓の腫瘍が肝臓がんかどうかの判断ができます。

肝臓がんの治療法を考えるときには、肝臓の外にがんが転移していると治療方針が変わってきます。CT検査は転移があるかどうかの判断をするのに適した検査です。CT検査はステージを決めるのに重要な検査の一つです。

CT検査では肝臓の大きさも測定することができます。肝臓の機能を推定するのに肝臓の大きさが目安になります。肝臓の大きさの測定は手術の前の検査としても重要です。

ダイナミックCT検査は造影CT検査の一つです。造影CT検査は造影剤という放射線を通しにくい薬剤を注射してCTを撮影する方法です。造影CT検査は血管の形や走行をより明瞭に確認することができたりするメリットがあります。

その中でもダイナミックCT検査は造影剤を注入後にタイミングを変えて数回CT撮影をすることで造影のされかたなどの差がよりはっきりと分かる方法です。

造影剤は血管の中に注射で投与されて、CT検査で白くはっきりと写ります。血管とリンパ節などは時として見分けにくいことがありますが、造影CTでははっきりと区別することができます。また肝臓がんにはダイナミックCTで観察できる特徴があります。

ダイナミックCT検査では造影剤を使用します。造影剤は腎臓の機能を低下させたり、アレルギーを起こすことがあります。このために腎臓の機能が低下している場合にはダイナミックCTを撮影できないこともあります。

肝臓がんはとても血液の流れが多いがんです。このために造影剤を注射すると他の部分に造影剤が行き届くより早くに肝細胞がんに造影剤が届きます。そして造影剤は正常な部分に比べて早くに出ていきます。

このような現象を、早期に濃染され平衡相でウォッシュアウトされるといいます。解説すると造影剤を注射後すぐにCTを撮影すると肝臓がんだけが他の部分に比べてはっきりと白く染まり、肝臓の他の部分が染まってくるタイミングで再び撮影すると肝臓がんは染まりがなくなっているということです。このような肝臓がんの特徴を読みとるにはダイナミックCT検査が有効です。

MRI検査は、磁気を利用する画像検査です。放射線を使うことはありません。CT検査でわかりづらい肝臓がんの診断にはMRI検査が有効なことがあります。

肝臓がんの多くは血流が多いがんです。CT検査のなかでもダイナミックCT検査は血流の豊富さを利用した検査です。血流の豊富な肝臓がんはダイナミックCTで特徴的な写り方を確認することができます。一方で肝臓がんの中には血流の乏しいタイプのものも存在します。血流の乏しいタイプの肝臓がんにはMRI検査が診断の役に立つことがあります。

肝臓がんのMRI検査では造影剤を使用して検査をすることが多いです。肝臓がんの造影MRIで使う造影剤はガドキセト酸ナトリウムというものです。ガドキセト酸ナトリウムは正常な肝臓の細胞には取り込まれますが、肝臓がんの部分には取り込まれにくいという特徴を持っています。この特性を利用して肝臓がんを診断します。

ICGは肝臓をどれほど切除できるかを推測する検査に使う薬品です。ICG(アイシージー)はIndocyanine green(インドシアニングリーン)の略です。ICGが注射で体の中に入ると肝臓で代謝されます。正常な肝臓の場合は15分程度でICGは10%以下になります。肝臓の機能が低下している場合はICGを代謝するために時間がかかります。ICGが代謝される時間で肝臓の機能を推測することができます。ICG15と呼ばれることもあります。ICG15は「ICG15分停滞率」の略です。ICGを投与してから15分後に検査をすることを由来としています。ICG15の検査では体重の1kg当たり0.5mgのICGを静脈注射します。15分後に採血をしてICGがどれほど減ったかを検査します。正常な場合はICG15は10%以下になります。ICG15の数値は肝臓をどれくらい切除できるかの目安になります。

【参考文献】

肝癌診療ガイドライン 2021年版

慢性肝炎・肝硬変の診療ガイド2019

日本臨床検査医学会

国立がん研究センター