えしせいなんぶそしきかんせんしょう
壊死性軟部組織感染症
皮膚や脂肪、筋膜の組織で感染が起こり、全身へと感染が波及しうる皮膚の重症感染症。死亡率は数十パーセントに及ぶので可及的速やかな治療が必要
9人の医師がチェック 239回の改訂 最終更新: 2022.03.03

壊死性軟部組織感染症はどんな病気?原因、症状、検査、治療など

皮膚の感染症には蜂窩織炎丹毒、壊死性軟部組織感染症などがあります。中でも壊死性軟部組織感染症は最も激烈な感染症で、死亡する人も少なくありません。このページでは症状や治療を中心に詳しく説明します。

1. 壊死性軟部組織感染症とはどんな病気なのか?

壊死性軟部組織感染症(読み方:えしせいなんぶそしきかんせんしょう)は皮下組織や筋肉に感染が起こった状態です。壊死性筋膜炎壊死性筋炎などがこれに当たります。

皮膚に関連する感染症は、壊死性軟部組織感染症以外にも丹毒蜂窩織炎などがあります。これらは感染が起こっている場所が違います。皮膚の構造と感染の起こった部位による病名の違いを簡単に示します。

【皮膚の中における感染部位と病名】

図:壊死性軟部組織感染症は皮下組織や筋肉の感染症である。

皮膚の一番外側には表皮という部分があり、これが皮膚の内側を守っています。壊死性軟部組織感染症は表皮の内側にある皮下組織や筋肉の感染症ですので、表皮に傷があると壊死性軟部組織感染症は起こりやすくなります。

2. 壊死性軟部組織感染症でよく見られる症状はどんなものなのか?

壊死性軟部組織感染症は皮膚を中心にさまざまな症状が出現します。主な症状は次のものです。

  • 皮膚の症状
    • 皮膚の赤み(発赤
    • 皮膚の腫れ
    • 皮膚の痛み
    • 皮膚のかゆみ
    • 皮膚の水ぶくれ(水疱
  • 全身の症状
    • 発熱
    • だるさ
    • 関節痛
    • 意識障害

これらの症状についてもう少し詳しく知りたい人は「壊死性軟部組織感染症の特徴的な症状について」を参考にして下さい。

上記の症状がある場合、特に、症状が強くなったり範囲が広がったりする場合には、壊死性軟部組織感染症(壊死性筋膜炎壊死性筋炎ど)になっている可能性があるので、医療機関を受診して下さい。

3. 壊死性軟部組織感染症は何が原因なのか?原因菌について

壊死性軟部組織感染症では細菌が皮膚やその下の組織に侵入して感染が起こっています。特に次のような病気がある人は注意が必要です。

壊死性軟部組織感染症は細菌による感染症で、蜂窩織炎と同じように溶血性連鎖球菌黄色ブドウ球菌が起炎菌になりやすいですが、他の細菌も感染の原因となります。また、同時に複数の細菌が感染を起こすことも多いため注意が必要です。

【壊死性軟部組織感染症の原因となりやすい細菌】

  • 一般的に壊死性軟部組織感染症の原因となりやすい細菌
    • 溶血性連鎖球菌(特にStreptococcus pyogenes)
    • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
    • 大腸菌(Escherichia coli)
    • クレブシエラ桿菌(Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxytoca)
    • ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)
    • 緑膿菌Pseudomonas aeruginosa
    • バクテロイデス属(Bacteroides spp.)
    • フソバクテリウム属(Fusobacterium spp.)
  • 水回り(淡水)で壊死性軟部組織感染症が起こる原因となりやすい細菌
    • エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)
  • 水回り(海水)で壊死性軟部組織感染症が起こる原因となりやすい細菌
    • ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)

これらは専門家レベルの情報なので、一般の人が細菌の名前を知っておくことはほとんど意味がありません。しかし、水回りで怪我をした場合など、状況によっては壊死性軟部組織感染症の起炎菌が変わってくるということを知っておいて損はないです。そして、もし皮膚が腫れたり痛くなったりして医療機関を受診した場合には、こうしたポイントを医療者に忘れずに伝えてください。

また、壊死性軟部組織感染症は複数の起炎菌が感染に関与することがあります。そのため起炎菌がわからないうちは多くの細菌に対して有効である抗菌薬を用いて、「細菌培養検査」で起炎菌が判明したら抗菌薬をより有効なものに変更します。

動物咬傷:動物に噛まれた場合も壊死性軟部組織感染症の原因になる?

動物に噛まれた場合には、皮膚や皮膚の下の組織に動物の口の中にいる細菌が侵入します。そのため、動物の口の中の常在菌が壊死性軟部組織感染症を起こします。

特に注意するべき細菌は以下になります。

  • 動物(犬・猫)に噛まれたことで壊死性軟部組織感染症が起こる原因となりやすい細菌
    • パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)
    • カプノサイトファーガ・カニモルサス(Capnocytophaga canimorsus)

動物に噛まれてから、皮膚が赤くなったり痛くなったりした場合には医療機関を受診して下さい。

4. 壊死性軟部組織感染症が疑われたときに行われる検査とは?

壊死性軟部組織感染症が疑われた場合には次のような検査が行われます。

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査
  • 細菌学的検査
  • 画像検査

これらは壊死性軟部組織感染症なのかどうかだけでなく、重症度や原因となっている細菌の種類まで調べることができます。壊死性軟部組織感染症に対しては外科的治療(デブリードマン、手術)や抗菌薬治療などを組み合わせて集学的に行います。この検査の結果を踏まえて最適な治療法を選択することができます。

壊死性軟部組織感染症の検査について詳しく知りたい人は「壊死性軟部組織感染症が疑われたらどんな検査をすることになる?」を参考にして下さい。

5. 壊死性軟部組織感染症の治療はどんなことをする?

壊死性軟部組織感染症は外科的治療(デブリードマン、手術)や抗菌薬治療などを組み合わせて集学的に行います。

外科的治療では、感染を起こしている細菌の量を減らし、壊死した組織を切除します。病気による影響が強い場合には感染した手足を切断して救命することもあります。

抗菌薬治療は原因となっている細菌の増殖を抑えるのが目的です。壊死性軟部組織感染症の起炎菌は状況によっては少し異なるため、細菌学的検査による起炎菌の種類の特定や薬剤感受性(どんな抗菌薬が有効か)のチェックが重要になります。検査の結果を参考にすることで、治療に適した抗菌薬を選択できます。他には、解熱鎮痛薬や漢方薬が用いられることもあります。

壊死性軟部組織感染症の治療について詳しく知りたい人は「壊死性軟部組織感染症の治療について」を参考にして下さい。

6. 壊死性軟部組織感染症に似たような病気

壊死性軟部組織感染症は皮疹や皮膚の痛みが特徴的な病気ですが、よく似た症状が出る病気が他にもあるため注意が必要です。以下に注意するべきポイントに関して、病気ごとに説明していきます。

猩紅熱

猩紅熱(しょうこうねつ)は溶血性連鎖球菌(溶連菌)の感染が原因となって全身に赤い皮疹が現れる病気です。溶連菌の出す毒素が関与していると考えられています。皮疹が皮膚一面に広がることに加えて喉の痛みが出ることが特徴です。

診断のために、血液検査で溶連菌に対する抗体がないかを調べたり、のどの粘膜に溶連菌がいないかを細菌学的検査や簡易迅速検査を行って調べます。治療には溶連菌に対して有効な抗菌薬(ペニシリン系抗菌薬)を用います。

猩紅熱に関してもっと詳しく知りたい人は猩紅熱の基礎情報のページを参考にして下さい。

丹毒

丹毒は顔や足の皮膚に赤い変化が起こる病気です。ほとんどが溶血性連鎖球菌(溶連菌)の感染が原因です。赤く腫れたような皮膚の変化に加えて、皮膚の痛みが起こります。

このページの先頭にあった図を見て下さい。丹毒蜂窩織炎と非常によく似た病気ですが、蜂窩織炎よりも皮膚の浅い層で感染が起こっています。

丹毒は症状の特徴や血液検査や細菌学的検査の結果を踏まえて総合的に診断されます。治療は抗菌薬を用いて行われます。

丹毒に関してもっと詳しく知りたい人は丹毒の基礎情報のページを参考にして下さい。

蜂窩織炎

蜂窩織炎は皮膚の中でも真皮や皮下組織に感染が起こる病気です。皮膚の構造については上の図を参考にして下さい。壊死性軟部組織感染症より皮膚の浅い層で感染が起こるため、蜂窩織炎は壊死性軟部組織感染症より軽症です。一方で、感染が悪化すると壊死性軟部組織感染症になることがあるので、適切に治療する必要があります。

蜂窩織炎の治療は抗菌薬を用いて行います。細菌学的検査の結果を参考に治療に適した抗菌薬が用いられます。

蜂窩織炎についてもっと詳しく知りたい人は蜂窩織炎の詳細情報のページを参考にして下さい。

ウイルス感染症

ウイルスによる感染が起こった場合にも、赤い皮疹や皮膚の痛みといった蜂窩織炎に似た症状が出ます。麻疹はしか)や風疹などがその代表例ですが、通常はカタル症状といった風邪に似たような症状(鼻汁や目やに、喉の痛みなど)が出現します。

問診(流行状況、ワクチンの接種状況など)や身体診察、血液検査を踏まえて治療されます。ウイルス感染のほとんどで特効薬はありませんが、多くの場合で自分の免疫力によって自然に治癒します。

薬疹

薬疹とは薬の副作用で皮疹が出現する病気です。発熱と皮疹の出るこの病気は、蜂窩織炎と簡単に区別がつかないことがあります。薬疹の診断では問診で薬の使用状況を把握することが非常に重要です。場合によっては薬を中止してからの状況によって診断されます。

薬疹に関して詳しく知りたい人は薬疹の基礎情報ページを参考にして下さい。

川崎病

川崎病は小さな子どもに赤い皮疹が出現する病気です。蜂窩識炎と区別するのが難しい場合があります。

川崎病には皮疹以外にも出現しやすい症状があります。

  1. 5日以上続く発熱
    1. 治療によって5日以内に熱が下がった場合も含む
  2. 皮疹
    1. 皮疹の形は様々である
    2. 全身に広がるが、下着やズボンのゴムで圧迫されている部分に出現しやすい
  3. 眼の充血
    1. 白眼が真っ赤になる
  4. 唇や舌が赤く腫れる
    1. 舌の表面にぶつぶつがみられ「いちご舌」と表現される
    2. 唇は乾燥して亀裂・出血・かさぶたを伴うこともある
  5. 首のリンパ節が腫れる
    1. 痛みを伴うこともある
    2. 左右両方のことも片方だけのこともある
  6. 手足の先の特有の症状
    1. 手足がテカテカ・パンパンに腫れる
    2. 手のひら・足の裏が赤くなる
    3. 回復期に手足の指先の皮がむける(膜様落屑)

これらの症状のいくつかが同時に見られた場合には川崎病を考えなければなりません。また、4つ以上が見られた場合には川崎病の診断となります。川崎病は症状が出現してから7日以内に治療を開始するほうが良いので、川崎病が疑わしいかもしれないと思った場合には、できるだけ早く治療するためにも医療機関を受診して下さい。詳しくは川崎病の基本情報のページもあわせてご覧ください。

7. 壊死性軟部組織感染症の死亡率はどのくらいか?

壊死性軟部組織感染症に罹患すると亡くなることは少なくありません。強い感染が起こり全身のバランスが崩れるため、適切な治療(デブリードマン、手術、抗菌薬治療)を行っても亡くなる人がいます。A群βレンサ球菌が起炎菌であった場合の死亡率は30-70%程度という報告があり、その他の微生物が原因であってもおよそ30-40%くらいの死亡率と考えられています。

これらの数字は海外のデータによるものです。国内の医療事情とは異なるため参考程度に考える必要があります。とはいえ、致死率の高い病気であることには変わりないので、疑わしい症状が出た場合には、できるだけ早く医療機関を受診してください。

8. 壊死性軟部組織感染症に関わる特殊な状況

壊死性軟部組織感染症に関連する気をつけなければならない病気があります。特に有名なのが次の2つです。

  • Fournier's gangrene(フルニエ症候群)
  • Lemierre症候群(レミエール症候群)

次の段落ではこれらの病気について詳しく説明します。

Fournier's gangrene(フルニエ症候群)

肛門の周囲で壊死性軟部組織感染症が起こった状態をフルニエ症候群と言います。肛門周囲の傷や肛門周囲膿瘍痔瘻などが原因となることが多いです。

肛門周囲の痛みや皮疹、発熱などが見られ、病状が進行すると意識障害を起こすこともあります。まれにお腹の中の後腹膜と呼ばれる部位に炎症が進展することがあり、この場合には特徴的な症状が出にくくなります。

治療には通常の壊死性軟部組織感染症と同じく外科的治療(デブリードマン、手術)や抗菌薬治療を用います。致死率の高い病気ですので、疑わしい症状が出た場合や症状が急速に進行する場合には医療機関にかかるようにして下さい。

Lemierre症候群(レミエール症候群)

正確に言うとレミエール症候群は壊死性軟部組織感染症に分類されないかもしれませんが、皮膚の下の軟部組織と呼ばれる部位の感染で、炎症が激烈であることにより致死率が高いため知っておく必要があります。

レミエール症候群は喉(のど)の感染から始まります。ほとんどの場合で扁桃炎咽頭炎から首まで感染が波及します。首の血管に細菌が侵入して菌血症になったり、血栓を作ったりします。血管に侵入した細菌が肺や脳に飛んで膿瘍を作ったり、血栓が肺に飛んで肺梗塞を起こしたりします。

治療は抗菌薬を用いて行いますが、状況によっては手術を行うこともあります。喉の痛みの後に首に違和感を覚えたら、一度医療機関にかかるようにして下さい。

参考文献
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition, Saunders, 2014
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015