えしせいなんぶそしきかんせんしょう
壊死性軟部組織感染症
皮膚や脂肪、筋膜の組織で感染が起こり、全身へと感染が波及しうる皮膚の重症感染症。死亡率は数十パーセントに及ぶので可及的速やかな治療が必要
9人の医師がチェック 239回の改訂 最終更新: 2022.03.03

壊死性軟部組織感染症の治療について:デブリードマン、手術、抗菌薬など

壊死性軟部組織感染症は進行が早い病気で、適切に治療しても亡くなってしまう人が少なくありません。壊死性軟部組織感染症はいろいろな治療(デブリードマン、手術、抗菌薬治療など)を早急に行う必要があります。

1. デブリードマン(切開排膿)について

壊死性軟部組織感染症の基本は感染で汚染された部位を切除することです。これをデブリードマン(debridement)と言います。

壊死性軟部組織感染症は皮下組織や筋肉で重度の感染が起こり、組織が壊死したり、汚染された分泌液(dish water)が出現したりします。皮膚を切開してこの壊死組織や分泌液を排除することが治療として重要です。多くの場合で広範囲の皮膚を切開しなければならないため少しためらわれますが、を出さないと感染が周囲にどんどん広がってしまうため、デブリードマンは壊死性軟部組織感染症に対して積極的に行われます。

2. 手術について

壊死性軟部組織感染症の影響によって身体の組織が激しく破壊されてしまうと、デブリードマンだけで治療することが難しくなります。その場合には組織を手術で切除する必要が出てきます。具体的に言うと、感染してしまった手足などを手術で切断します。

手術は非常に荒っぽい治療ですが、とても重要な治療です。破壊された組織をそのままにしていますと全身に悪影響が出てしまいますし、手術をすることで感染部位を確実に排除できます。

もしお医者さんに「脚を切断します」と言われたらとてもショックと思います。医者もできるだけそうした荒っぽいことはしたくないのですが、必要に迫られて患者に伝えています。まずはどうして足を切る必要があるのかを確認して下さい。救命のためと言われた場合は、それほどにまで感染が進行しているので、やむを得ない状況であることを意味します。それでも脚を切断しないで治療して欲しいと伝えることは可能ですが、おそらく手術を行ったほうが命の危険性が低いです。自分の生活スタイルや望ましい未来と照らし合わせながら判断する必要があります。

3. 抗菌薬(抗生物質、抗生剤)治療について

抗菌薬は細菌が増えるのを抑える薬です。点滴薬も内服薬(飲み薬)もあります。抗菌薬の種類によってどうやって細菌を増殖させにくくするかは異なりますが、抗菌薬を使用すると身体で起こっている細菌感染が治まります。

細菌によっては抗菌薬を効きにくくさせて自分の身を守るような仕組みを持っているものがいるので、細菌感染を治療する場合には次のことが大切です。

  1. 感染の原因になっている細菌(起炎菌)はどんな種類か
  2. 感染の原因となっている細菌(起炎菌)はどういった抗菌薬が有効か

この2つを意識しながら治療を行うことが大切ですが、検査の結果が出ないうちの治療開始時は起炎菌も有効な抗菌薬も分かっていません。そのため過去のデータから、感染の起こっている身体の部位によって有効性が高いと思われる抗菌薬を初期治療で使用します。壊死性軟部組織感染症は、蜂窩織炎などの一般的な皮膚軟部組織感染症を起こす溶血性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌だけでなく、腸内細菌(大腸菌やクレブシエラ桿菌など)や嫌気性菌(バクテロイデスなど)といった多くの細菌が起炎菌となります。そのため状況に応じてこれらに有効と思われる抗菌薬が初期治療に用いられます。

皮膚の下の組織(皮下脂肪、蜂窩織)の感染症である壊死性軟部組織感染症に対しては次の抗菌薬が初期治療で用いられることが多いです。

  • ペニシリン系抗菌薬
  • リンコマイシン系抗菌薬
  • グリコペプチド系抗菌薬
  • カルバペネム系抗菌薬

これらは異なる種類の抗菌薬です。各々の特徴について説明します。

ペニシリン系抗菌薬(ビクシリン®、ユナシン®など)

ペニシリン系抗菌薬は1928年にアレクサンダー・フレミングによって発見された抗生物質です。この発見によってフレミングはノーベル賞を受賞しました。ペニシリン系抗菌薬は細胞壁合成阻害薬に分類され、細菌の持つ細胞壁のペプチドグリカンに関する反応を阻害することで細胞が増殖できなくさせます。

壊死性軟部組織感染症に対してよく使われるペニシリン系抗菌薬は以下の種類があります。

  • ベンジルペニシリン(ペニシリンG)
  • ベンジルペニシリンベンザチン(バイシリン®G)
  • アンピシリン(ビクシリン®など)
  • アモキシシリン(サワシリン®など)
  • ピペラシリン(ペントシリン®など)

壊死性軟部組織感染症を起こす溶血性連鎖球菌に対してペニシリン系抗菌薬はよく効きます。また、抗菌薬は治療の標的とする起炎菌以外にも効いてしまうと、体内の常在菌を殺してしまうデメリットがありますが、ペニシリン系抗菌薬が有効な細菌はあまり多くないため有用です。

一方で、壊死性軟部組織感染症を起こす細菌の中でも溶血性連鎖球菌以外にはペニシリン系抗菌薬は有効でないことが多いため、塗抹検査で溶連菌が疑わしい(顕微鏡で見るとグラム陽性球菌が連なっている)時にのみ用いられます。

溶血性連鎖球菌以外の起炎菌が考えられる場合にはより多くの細菌に有効であるβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系抗菌薬が用いられます。

具体的には次のものが用いられます。

  • アンピシリン・スルバクタム(ユナシン®など)
  • アモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチン®など)
  • ピペラシリン・タゾバクタム(ゾシン®など)

また、どんな抗菌薬も副作用に注意が必要です。ペニシリン系抗菌薬は副作用が比較的少ないですが、使用してから以下のことが出現しないか確認が必要です。

使用後にこのような症状が出現した際には処方した医師などに相談してください。

リンコマイシン系抗菌薬(ダラシン®など)

リンコマイシン系抗菌薬は細菌のタンパク質合成を阻害することで細菌の増殖を抑えます。タンパク質合成はリボソームという器官で行われ、リンコマイシン系抗菌薬はリボソーム(30Sと50Sというサブユニットがあります)の50Sサブユニットに作用します。

リンコマイシン系抗菌薬は溶血性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌に対して有効な抗菌薬です。他にもフソバクテリウムやバクテロイデスなどの嫌気性菌にも効果があります。また、ペニシリン系抗菌薬やセフェム系抗菌薬に対してアレルギーが有る場合にも使用できることが強みです。

リンコマイシン系抗菌薬には次のようなものがあります。

  • クリンダマイシン(ダラシン®など)

溶血性連鎖球菌のように毒素を出す細菌による壊死性軟部組織感染症の場合に、ペニシリン系抗菌薬に加えてクリンダマイシンが用いられることがあります。これはクリンダマイシンがタンパク合成阻害作用を持つため、溶血性連鎖球菌が放出する毒素の影響を抑えること(アンチトキシン作用)があるからと考えられています。

リンコマイシン系抗菌薬の副作用はあまり多くはないですが、以下のものが出現することがあります。

  • 皮膚症状
    • 痒み(かゆみ)、紅斑(こうはん)など
  • 消化器症状
    • 下痢、悪心(吐き気)、食欲低下、腹痛など
  • 肝機能障害
    • 肝機能障害による黄疸など

使用してからリストに有るような症状が出現した場合は処方した医師などに相談してください。

グリコペプチド系抗菌薬(バンコマイシン塩酸塩など)

細菌の細胞には細胞壁という人間にはない構造物があります。細胞壁を構成するタンパク質にはペプチドグリカンという物質があり、これはペプチドグリカン前駆体というものから作られます。グリコペプチド系抗菌薬はペプチドグリカン前駆体に結合することで細菌が細胞壁を合成するのを阻害することで、細菌の増殖を防ぎます。

グリコペプチド系抗菌薬はグラム陽性菌(黄色ブドウ球菌やレンサ球菌、腸球菌など)に有効な抗菌薬です。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と呼ばれる抗菌薬の効きにくい黄色ブドウ球菌による感染症にも有効であるため、とても貴重な抗菌薬です。壊死性軟部組織感染症ではMRSAの関与が疑われる場合にのみグリコペプチド系抗菌薬が使用されます。

グリコペプチド系抗菌薬には以下のものがあります。

  • バンコマイシン(バンコマイシン塩酸塩など)
  • テイコプラニン(タゴシッド®など)

また、グリコペプチド系抗菌薬を使用すると次のような副作用が起こることがあります。

  • 過敏症(急速に投与すると過敏症が出やすいので注意)
    • 発疹
    • 発熱
  • 脳神経障害(頻度はまれ)
    • めまい
    • 耳鳴り
    • 聴力低下
  • 腎機能障害(頻度はまれ)
    • 尿量が少なくなるあるいはほとんど尿が出ない
    • むくみ
    • 身体がだるい

薬を使用してからこれらの症状を自覚した場合には、必ず医師などに相談して下さい。

カルバペネム系抗菌薬(メロペン®、チエナム®など)

カルバペネム系抗菌薬はセフェム系抗菌薬やペニシリン系抗菌薬と同様に細胞壁合成阻害薬に分類される薬です。カルバペネム系抗菌薬はPBP(ペニシリンン結合タンパク質)という細胞壁の合成に深く関わるタンパク質に結合して細胞壁の合成を阻害します。

カルバペネム系抗菌薬には以下の種類があります。

  • メロペネム(メロペン®、メロペネム)
  • イミペネム/シラスタチン(チエナム®など)
  • ドリペネム(フィニバックス®)

カルバペネム系抗菌薬は非常に多くの細菌に対して有効です。ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生菌という耐性菌が感染の原因になっていると考えられる場合にも有効性のある貴重な抗菌薬です。そのため安易に使用するとカルバペネム系抗菌薬が効かない細菌が増えてくるため、安易に使用してはならない抗菌薬です。(抗菌薬と耐性菌の関係については「抗生物質(抗菌薬)を使えば使うほど薬が効かなくなる?」を参考にして下さい。)

壊死性軟部組織感染症の治療の場面では、耐性傾向が強い細菌が関与していることが疑われる場合や複数の細菌が関与していることが疑われる場合に、初期治療薬として用いられます。また、糖尿病などの易感染性(感染が起こりやすい状態)を起こす持病がある人に対しても用いられます。免疫力の低下している人はさまざまな細菌が壊死性軟部組織感染症を起こしうるため、多くの細菌に対して有効な抗菌薬が必要となる場合があります。

カルバペネム系抗菌薬の副作用は下痢、嘔吐などの消化器症状のほか意識障害や腎障害などがあります。またバルプロ酸という抗てんかん薬と同時に使うとバルプロ酸の効果が弱まりてんかん発作が起こることがあります。

カルバペネム系抗菌薬についての詳細な情報は「カルバペネム系抗菌薬の解説」もあわせて参考にしてください。

4. 症状を和らげる薬について

壊死性軟部組織感染症への薬物治療は原因である細菌に対しての抗菌薬(抗生物質、抗生剤)の投与が中心となり、感染している細菌の種類によって適切な抗菌薬が選択され、それぞれの病態などに合わせて必要な期間投与されます。壊死性軟部組織感染症の抗菌薬投与期間について詳しく知りたい人はこちらを参考にして下さい。

薬による治療の中心はあくまでも抗菌薬になりますが、壊死性軟部組織感染症に付随して起こる症状を緩和する目的で抗菌薬以外の薬が使用される場合もあります。

発熱や痛みに対する薬(ロキソニン®、ボルタレン®など)

壊死性軟部組織感染症の症状を和らげる目的の薬として、発熱や痛みに対して解熱鎮痛薬の使用が考慮される場合があります。

発熱は細菌などに対する生体防御反応のひとつですが、発熱によって疲労感が増している場合には解熱鎮痛薬を使うことで一時的に症状をやわらげ、体力の消耗などを抑えることができます。

一般的な解熱鎮痛薬と呼ばれる薬の多くはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる種類に分類されます。具体的にはロキソプロフェンナトリウム(主な商品名:ロキソニン®)やジクロフェナクナトリウム(主な商品名:ボルタレン®)などのNSAIDsが痛みや炎症などをやわらげる目的で使われることも考えられます。NSAIDsは解熱・鎮痛・抗炎症作用がある一方で、胃腸障害や腎障害などの副作用に注意が必要です。(NSAIDsの副作用に関してはコラム「副作用は胃痛、胸やけだけじゃない!?ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン®など)について」でも説明しています)

NSAIDsによる副作用のリスクは薬剤の種類によって異なります。また、壊死性軟部組織感染症の治療ではあくまで一時的な使用になることが多く、副作用が出現することは多くないですが、持病に消化性潰瘍や腎疾患などを持っている場合にはより注意が必要です。

アセトアミノフェン(主な商品名:カロナール®)は解熱鎮痛薬として小児(子供)から高齢者に至るまで幅広く使われている薬です。内服薬(飲み薬)の他にも、坐剤(坐薬)や注射剤の剤形(剤型)もあり用途などに合わせた選択が可能です。安全性も比較的高く、同じく解熱鎮痛薬として知られるNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)に比べて一般的に胃腸障害などの懸念が少ないというメリットもあります。(アセトアミノフェンとNSAIDsの違いに関してはコラム「ロキソニンとカロナールは何が違うの?解熱鎮痛薬の特徴について解説」でも説明しています)

発熱と痛みに対しては有用性が高いアセトアミノフェンですが、腫れ(炎症)に対してはほとんど効果が期待できないとされ、こと「炎症を抑える」という観点においてはNSAIDsの方が適しています。状況に応じた薬剤の選択が重要になります。

皮膚症状を伴う病態などに対して使われる漢方薬

病気の状態によっては漢方薬が使用されることがあります。例えば、リンパの流れが悪くなることで起こるリンパ浮腫によって壊死性軟部組織感染症が起こった場合には、浮腫の改善に漢方薬が有用となることもあります。

壊死性軟部組織感染症などの皮膚症状に対して効果が期待できる漢方薬をいくつか挙げていきます。

◎排膿散及湯(ハイノウサンキュウトウ)

一般的には患部が赤く腫れあがり、痛みを伴うような化膿性の皮膚疾患、蓄膿症、歯槽膿漏などに使われる漢方薬です。

発赤や膿などの改善が期待できる桔梗(キキョウ)や枳実(キジツ)を含む計6種類の生薬から構成され、方剤名にある「排膿」からも細菌感染などによる化膿状態の改善に対してイメージしやすい漢方薬ともいえます。

急性だけでなく慢性の炎症にも用いられ、がん治療後のリンパ浮腫や壊死性軟部組織感染症を反復発症するようなリンパ浮腫などに対しての有用性も考えられています。

壊死性軟部組織感染症以外にも憩室炎帯状疱疹後の皮膚びらんなどに対しても使われてきた経緯もあり、抗菌薬(抗生物質、抗生剤)や抗ウイルス薬などと併用される場合も考えられる漢方薬です。

◎五苓散(ゴレイサン)

水滞(水毒)など体内の「水」の改善に効果が期待できる漢方薬で、一般的には浮腫、下痢や吐き気などの消化器症状、頭痛、めまいなどの症状を改善する効果が期待できる漢方薬です。

猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、桂皮(ケイヒ)の5種類の生薬から構成され、名前(方剤名)の由来は種類の生薬と主薬となる猪からとったものです。(味猪苓散が詰まってできた名前とされています)

猪苓、沢瀉、蒼朮、茯苓といった生薬は水分代謝や水分貯留に関わる症状の改善が期待できるとされています。香辛料のシナモン(ニッキ)としても使われる桂皮は末梢血管拡張作用、鎮静作用、発汗解熱作用などにより頭痛や発熱などに対する改善作用の他、水分代謝調節作用なども期待できる生薬とされています。

浮腫の改善を目的として使われる薬としては利尿薬(ループ利尿薬など)が一般的ですが、利尿薬には尿として体内の水を排泄することで脱水を引き起こしたりカリウムなどの電解質のバランスを崩したりしてしまう懸念もあります。一般的に五苓散では副作用の懸念が少ないことや患者個々の体力や体質などによらずに使えること、速効性が期待できることなどもメリットとして考えられます。五苓散には利尿薬を使っても改善が不十分であるようなリンパ浮腫などに対しての有用性も考えられるとされています。

◎柴苓湯(サイレイトウ)

先ほどの五苓散(ゴレイサン)に小柴胡湯(ショウサイコトウ)という漢方薬(漢方方剤)を合わせたもので一般的には吐き気や喉の渇きなどがあるような下痢や胃腸炎、浮腫などの改善に適するとされています。

含有する五苓散の利水作用による浮腫などの改善の他、抗炎症作用も期待できネフローゼ症候群などの腎疾患の治療にも使われることがある漢方薬です。

一般的に柴苓湯は五苓散より高い利水作用をあらわすとされ抗炎症作用などを併せ持つことから壊死性軟部組織感染症や熱傷の急性期などのリンパ浮腫を伴う皮膚症状に対しても有用とされています。

◎その他の漢方薬

その他、熱を冷ます作用などをあらわす生薬の石膏(セッコウ)を含む白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)や、壊死性軟部組織感染症との関連性も考えられる肛門周囲膿瘍などに対して、感染時の免疫低下やリンパ浮腫などの改善が期待できるとされる十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)などの漢方薬が使われるケースも考えられます。

通常、漢方薬による治療は局所の症状だけでなく全身の状態を診て判断されます。健康な状態と現状との隔たりを判断し、適切だと考えられる薬が使用されます。一見すると皮膚症状とは関係ないように思える漢方薬でも身体のバランスなどを改善する効果が期待できることがあります。どのような目的で漢方薬が使われているのかなどをしっかりと医師や薬剤師から聞いておくことも大切です。

◎漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬でおこる可能性がある間質性肺炎や肝障害などがあります。ただし、これらの副作用がおこる可能性は比較的まれとされ、万が一あらわれても多くの場合、漢方薬を中止することで解消されます。

漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわしますが、漢方薬自体がこの証に合っていない場合にも副作用があらわれることは考えられます。

一方で何らかの気になる症状が現れた場合でも自己判断で薬を中止することはかえって治療の妨げになる場合もあります。もちろん非常に重篤な症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を服用することによってもしも気になる症状があらわれた場合は自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。

5. 壊死性軟部組織感染症の治療期間は?

壊死性軟部組織感染症の治療はデブリードマンあるいは手術が基本になります。壊死性軟部組織感染症では強烈な感染が起こるため、皮下組織や筋肉に溜まった膿や壊死した組織を取り除く必要があります。また、外科的な処置に加えて抗菌薬治療も行われます。

抗菌薬治療は一般的に10日間行います。ただし、抗菌薬治療を終了する際には、①外科的処置が不要であること②症状が改善していること③解熱して数日経っていることを満たしている状況が望ましいです。また、菌血症(血液中に細菌が侵入する状態)になっている場合には治療期間が14日間となります。ただし、起炎菌が黄色ブドウ球菌の場合は28日-42日まで延長する必要が出てくることが有るので、専門家に相談するようにして下さい。

また、治りが悪い場合には状況の再評価が必要です。場合によっては外科的処置を再度行うこともあります。詳しくは「なかなか治らない場合にはどうしたら良いか?」で説明しています。

6. どういった抗菌薬を使用すると良いのか?

細菌による感染症の治療は次の流れで行います。

  1. 感染部位の細菌学的検査(塗抹検査、培養検査)を行う
  2. 感染部位、持病の有無、重症度から初期治療に用いる抗菌薬を選択する
  3. 細菌学的検査の結果から起炎菌と薬剤感受性が判明したら、抗菌薬を適正化する

この流れの中で最終的には最も治療に適した抗菌薬が選ばれます。

感染部位の細菌学的検査(塗抹検査、培養検査)を行う

感染が起こっている部位の分泌液や組織を採取して細菌学的検査を行います。

塗抹検査は感染が疑われる検体をスライドガラスに薄く塗って顕微鏡で調べる検査です。グラム染色という色付けを行うことで、10-20分程度で細菌の形や特色を調べることができます。塗抹検査では起炎菌の推測ができますが、確定はできません。

また、同時に細菌培養検査も行います。培養検査は感染している検体に含まれる細菌を発育しやすい環境に置いて増殖させる検査です。培養すると細菌の数が大幅に増えますので、細菌の名前を確定することや抗菌薬(抗生物質)の効きやすさを調べることもできます。細菌培養検査は結果が出るまで通常は数日かかります。

感染部位、持病の有無、重症度から初期治療に用いる抗菌薬を選択する

感染部位ごとに初期治療としての使用が推奨される抗菌薬があります。過去のデータから、起炎菌になりやすい細菌とそれに対して治療成績の良い抗菌薬が導き出されているので、それに従って治療に適している抗菌薬が選ばれます。また、治療期間に関しても過去のデータから適切なものが設定されています。ここで、感染に関連する持病があるかや重症かどうかによっても抗菌薬の選択肢が変わることがあります。

過去のデータに従って始めた治療は、細菌学的検査での結果(起炎菌と薬剤感受性検査の結果)が出るまで継続されます。

細菌学的検査の結果から起炎菌と薬剤感受性が判明したら、抗菌薬を最適化する

細菌学的検査での結果(起炎菌と薬剤感受性検査の結果)が出ると、最も有効な抗菌薬が分かるので、それに従い治療が最適化されます。最適化するときには次のことがポイントになります。

  • 起炎菌に対して有効である
  • あまり多くの細菌に対して有効でない
  • 副作用が起こりにくい

最適化された抗菌薬は「起炎菌に対しては有効であるが多くの細菌に対しては効かない」ものが優れています。つまり、体内には多くの常在菌(身体に対して特に悪さをしない細菌)が存在しており、常在菌を殺すことなく起炎菌のみを殺すような抗菌薬が最も有効になります。

7. なかなか治らない場合にはどうしたら良いか?

抗菌薬を用いても壊死性軟部組織感染症がなかなか治らないことがあります。その場合にはどういったことを考えたら良いのでしょうか。まずは次のことを考える必要があります。

  • デブリードマンが不十分で、膿が感染部位に溜まっている
  • デブリードマンが不十分で、壊死組織が残っている
  • 適切な抗菌薬を使用していない
  • 抗菌薬の使用量が適切でない
  • 耐性菌(抗菌薬が効きにくくなっている細菌)が起炎菌である
  • 良くなっていないように見えるが、実は良くなっている
  • 実は壊死性軟部組織感染症ではない(ウイルス感染による皮疹膠原病による皮疹などに注意)

治りの悪い壊死性軟部組織感染症ではこれらいずれかが起こっている可能性が高いです。しかし、実際にどれが起こっているのかを判断するのは経験のある医療者でないと難しいです。

壊死性軟部組織感染症の治療において大きな分岐点は、手術を行う必要があるのかどうかです。手術で身体の一部を切除すると、その後の生活スタイルに影響が出てきます。感染の重症度や範囲、進行スピードによって手術の要否が決まりますので、自分には手術が必要なのかどうかを医療者とよく話すようにして下さい。

8. 壊死性軟部組織感染症に治療ガイドラインはあるのか?

診療ガイドラインを多く収集・評価しているMindsという組織では、診療ガイドラインのことを「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量し、最善の患者アウトカムを目指した推奨を提示することで、患者と医療者の意思決定を支援する文書」としています。少し難しい表現になっていますが、過去の多くの論文から最も優れた結果になることが期待できる診療上の指針ガイドラインということになります。

実は国内には皮膚感染症に関する成書はありますが、壊死性軟部組織感染症に対する公式の診療ガイドラインはありません。海外には壊死性軟部組織感染症に関するガイドラインがIDSA(Infectious Diseases Society of America)という世界的に信頼度の高い組織から出されています。

海外のガイドラインは診療を行う上で非常に参考になります。一方で、人種や生活環境、細菌の耐性化傾向などが異なるため、そのまま結果を鵜呑みにしてしまうことは避けなければなりません。患者の状況や細菌学的検査の結果を正しく把握することが最も大切なことになります。

手術を受けるとなると非常に大きな決断になります。自分はどういった状況でどんな治療を受けるのかについて、医療者によく聞くことが大切です。

参考文献
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition, Saunders, 2014
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・IDSA:Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Skin and Soft-Tissue Infections