にょうろかんせんしょう
尿路感染症(総論)
尿の通り道(腎臓、尿管、膀胱、尿道など)に炎症が生じる感染症の総称。腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎といった病気がこれに含まれる
10人の医師がチェック 107回の改訂 最終更新: 2023.04.15

尿路感染症の症状:発熱・背中の痛み・排尿時の痛みなど

尿路感染症は上部と下部に分けられます。上部尿路感染症は主に腎盂腎炎を指し、下部尿路感染症は主に膀胱炎を指します。上部尿路感染症は、発熱などの全身的な症状が目立ち、下部尿路感染症では排尿時の痛みなどが現れます。

1. 上部尿路感染症の症状:主に腎盂腎炎の症状

尿路は尿の通り道のことを指し、腎臓-尿管-膀胱-尿道の総称です。上部尿路は腎臓と尿管のことです。

図:尿路を構成する臓器。

上部尿路感染症は、腎臓の一部である腎盂(じんう)または尿管に起こる感染症のことです。尿管に感染症が起こることはかなりまれなので上部尿路感染症は腎盂腎炎(腎盂炎)のことを指していると考えてください。腎盂腎炎は、腎臓の一部である腎盂に感染が起こる病気です。腎盂腎炎の症状には以下のようなものがあります。

参考文献
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

発熱

腎盂腎炎が起こると発熱します。それも38℃を超えるような熱がでます。腎盂腎炎による発熱は治療を開始していても2-3日続くことが多いですが、治療が効いていれば少しずつ熱が下がっていきます。

適切な治療を開始して2-3日経過しても熱が下る気配を見せないときには腎盂腎炎が進行して腎臓やその周りにのたまりを作る腎膿瘍(じんのうよう)や腎周囲膿瘍(じんしゅういのうよう)に発展している恐れがあるので検査をして調べます。

腎膿瘍や腎周囲膿瘍に進行していると抗菌薬治療に加えてたまった膿を抜く処置が必要になることが多いです。処置は身体に針を刺して膿を外に出すための管を挿入します。

悪寒・戦慄(おかん・せんりつ)

悪寒はぞくぞくとする寒気のことで、戦慄は震えることです。つまり悪寒・戦慄は急に寒気がして身体がガタガタ震える、温まろうとして毛布にくるまっても震えがとまらないといった症状です。悪寒や戦慄は高熱の存在を示唆する症状と考えられています。腎盂腎炎は高熱が出ることが多いので発熱の前後で悪寒や戦慄も現れることが多いです。

悪寒・戦慄は腎盂腎炎に限った症状ではありませんが、側腹部痛などの症状がある場合には、腎盂腎炎を考えて医療機関を受診することをお勧めします。

側腹部痛(叩打痛)

腎盂腎炎の症状の一つに腎臓の位置にあたる背中の部位を叩くと痛みが増すというものがあります。これは、側腹部の叩打痛(こうだつう)として医師の間ではよく知られた症状です。側腹部の叩打痛は腎盂腎炎の診察にも用いられる方法です。叩打痛があると腎盂腎炎の可能性が高くなる証拠にはなりますが、叩打痛がないからといって腎盂腎炎を否定できる訳ではありません。

つまり、側腹部痛の有無だけで腎盂腎炎かどうかの判断はできませんが、重要な兆候の1つです。発熱などの他の症状や検査などを用いて診断します。

吐き気・嘔吐

腎盂腎炎では吐き気や嘔吐が現れることがあり、以下のような身体の中での変化が関係していると考えられています。

  • 腎盂腎炎の強い炎症の影響で作られるサイトカインという物質が嘔吐中枢を刺激する
  • 腎盂腎炎の炎症が腎臓の前側にある腸への影響を及ぼす

吐き気や嘔吐は腎盂腎炎以外の病気でも現れることがある症状です。急性胃腸炎など胃や腸の病気でもよく見られる症状です。他の症状や検査結果などを用いて吐き気や嘔吐の原因を調べます。

2. 下部尿路感染症の症状:膀胱炎・尿道炎・前立腺炎の症状

下部尿路感染症は、主に膀胱炎のことですが、他には尿道炎前立腺炎があります。感染が起きている場所は違っていても共通した症状が現われることもあります。上部尿路感染症と違って下部尿路感染症は排尿に関連した症状が多いです。

参考文献
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

排尿時痛(かゆみ・違和感)

膀胱炎尿道炎などが起きていると排尿時に痛みを感じることがあります。痛みを感じるのはなぜでしょうか。

わかりやすくいうと、膀胱や尿道に炎症が起きると傷がついたような状態になっています。手などに傷があると普段より刺激に対して過敏になる経験はあると思います。同じことが膀胱や尿道に起きています。排尿時には膀胱が引き伸ばされたり尿道に尿が流れたりといった刺激が加わります。普段では痛みとして感じないことも刺激に対する過敏さのために痛みと感じるのです。痛みの感じ方は人それぞれなのでかゆみや違和感として表現される人もいます。

排尿時の痛みが続く場合には膀胱炎尿道炎前立腺炎発症している可能性があるので医療機関を受診して調べてもらってください。

残尿感・頻尿

残尿感は排尿後にも尿が膀胱の中に残った感じがすることで、頻尿(ひんにょう)は排尿回数が増加することです。残尿感や頻尿はどのようにして起こるのでしょうか。

膀胱炎尿道炎などで起こる炎症は膀胱や尿道に刺激をもたらします。膀胱や尿道の刺激は尿がたまっている感覚を引き起こします。そのため排尿後に実際に尿がたまっていなくても排尿したくなったり、排尿後にも膀胱に尿が残っていると感じる原因になります。

急に残尿感や頻尿が起きたときには下部尿路感染症が起きているかもしれません。症状がよくならない場合には医療機関を受診して原因を調べてもらうことをお勧めします。

下腹部痛

下腹部痛は膀胱炎でみられる症状の一つです。腹痛というと虫垂炎や腸炎を想像されるかもしれませんが、膀胱炎でも現れることがあります。膀胱炎ではなぜ腹痛が起こるのでしょうか。

膀胱は下腹部にある臓器で恥骨の下にあります。膀胱炎が起きていると膀胱の壁は炎症で刺激され、痛みを感じます。腹痛がはっきりしないときには下腹部を押すと痛みがはっきりとすることがあります。

確かに下腹部痛は、膀胱炎でも現れる症状なのですが、腸など他の臓器の病気でも現れます。その中には緊急で対処が必要な病気もあります。下腹部痛がひどくなったり長い時間続くときには医療機関を受診して調べることが大切です。

血尿

血尿は主に膀胱炎などで現れる症状です。膀胱炎が起こると膀胱壁が充血・出血することによって血尿が現れます。血尿は膀胱炎を疑う重要な症状なのですが、他の病気でも起こります。例を挙げると尿管結石や糸球体腎炎腎がん腎細胞がん)、腎盂がん膀胱がんなどです。血尿が現れたときには原因を調べておく必要があります。

また一方で血尿がない膀胱炎もあります。血尿がなくても排尿時の痛みや違和感などの症状があれば膀胱炎が起きていることはありえるので血尿の有無だけで膀胱炎かどうかを判断することには注意が必要です。

尿道分泌物

尿道分泌物は、尿道口からでる膿や透明の液体のことです。尿道分泌物が現れるのは主に尿道炎です。尿道炎の多くは淋菌クラミジアなど性行為で感染する病原体が原因で起こるいわゆる性病です。典型的な場合では淋菌性尿道炎では膿のような分泌物が、クラミジア性尿道炎では透明な液体がでます。

尿道から分泌物が出ることは通常はあまりないことです。分泌物が出たら淋菌もしくはクラミジアによる尿道炎を想定しなければならないです。医療機関をはやめに受診して原因を調べてもらってください。