にょうろかんせんしょう
尿路感染症(総論)
尿の通り道(腎臓、尿管、膀胱、尿道など)に炎症が生じる感染症の総称。腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎といった病気がこれに含まれる
10人の医師がチェック 107回の改訂 最終更新: 2023.04.15

尿路感染症の再発予防・日常生活での工夫

尿路感染症は再発することがあり、できることならば避けたいものです。再発予防において大切な考えや日常生活での工夫などについて解説します。

1. 尿路感染症の再発を防ぐために気をつけたいこと

尿路感染症の再発を防ぐためにはどうすればいいのでしょうか。抗菌薬治療における注意点と、尿路感染症を治療した後にやるべきことについて解説します。

抗菌薬は治療期間を守る

尿路感染症は抗菌薬(抗生物質)により治療が行われて、効果が出るとともに症状は良くなっていきます。注意してほしいこととして、症状が良くなったら「尿路感染症が治った」と思う人が居るようですがそうではありません。

症状が良くなると「もう病気は治った」と自己判断して薬を飲むのをやめてしまう人がいます。これはよくありません。治療期間に満たない前に薬をやめてしまうと細菌が再び増殖をして症状がぶり返してしまうこともありますし、中途半端な治療のために細菌が抗菌薬に対して耐性を獲得して薬が効かなくなることもあります。

抗菌薬の投与期間は、完治の確率が高くなるように考慮された治療に必要な期間です。症状がよくなっていても抗菌薬はしっかりと定められた治療期間飲みきることが大切です。

尿路感染症を起こす病気の治療をする

尿路感染症には、原因となる病気が隠れていることがあります。尿の流れの停滞や膀胱(ぼうこう)の尿の逆流などは尿路感染症を起こす原因の一つです。尿の流れを停滞させる病気は前立腺肥大症尿路結石などで、膀胱の尿が逆流する病気は尿路の先天異常などがあります。

尿路感染症が起こった後には尿の通り道に病気がないかを調べます。もし病気があれば治療することは、尿路感染症の再発予防につながります。尿路感染が治った後にさらにもう一つ病気の治療をすることは精神的にも大変だと感じるかもしれませんが、再発をしないために必要なことなので医師の話をしっかりと聞いて治療にのぞんでみてください。

2. 日常生活での工夫や注意点

尿路感染症の再発を防ぐためには日常生活にどんな工夫や注意点があるのでしょうか。食事と水分摂取、トイレでの注意点について解説します。

食事:クランベリージュースの効果など

尿路感染症に対して予防の効果が期待できる食品はあるのでしょうか。一つの例として、古くから研究されているクランベリーという食品について紹介します。

クランベリーは、ツツジ科のツルコケモモ亜属に属する植物で、尿路感染症の中でも膀胱炎に対する予防効果が期待されている食品です。

北アメリカ原産のクランベリーは、古くは先住民が食品や染料としてだけでなく薬としても活用していた歴史があります。クランベリーの実と葉は創傷や胃腸障害などの疾患の他にも、尿路系疾患にも使われていたこともあり、現在でも食品(クランベリージュースなど)やサプリメントなどに活用されています。

また、クランベリーの成分には、大腸菌等の細菌による感染症を予防する可能性などがあるのではないかと考えられていて研究も行われています。(クランベリーには尿を酸性に保つ働きなどがあると考えられ細菌に対しての効果などが期待できるとされていましたが、その効果は小さいといった報告もあります。)一方で、クランベリーが、発症している尿路感染症に対して有効であることは証明されていなく、予防に関しても決定的な証拠は出されていません。

現在のところクランベリーをはじめ食品の中で確実に尿路感染症を予防できるものは明らかではありません。食品に多くの期待を寄せても予防効果は得られないかもしれません。

再発予防には食事よりも原因となる病気や生活習慣について見直すことの方が重要かもしれません。

適度に水分をとり尿量を保つ

尿路感染症にならないための身体の防御機能の一つとして尿の流れがあります。尿路感染症は、尿道口(尿の出口)から細菌が入り込み尿の流れる方向とは逆向きに移動して感染を起こします。尿の流れがある場合には細菌は尿によって押し流されて膀胱や尿管、腎臓に容易に到達することはできません。このため、尿の流れを保つことは尿路感染症の予防の役割を果たしていると考えらます。では尿の流れを保つにはどうすればいいのでしょうか。

尿の流れを保つには適度に水分をとることです。どれくらいが適度な量かを決めるのは個人差もあるので難しいのですが、排尿回数がある程度保たれているのであれば適度と考えることができるかもしれません。例えば、1日に1回しか排尿しないのであれば誰がみても少なすぎますし、1時間おきには排尿しなければならないのであるならば水分量が多すぎるのかもしれません。

心臓や腎臓の病気などを抱えている場合などは、水分の摂取量を制限しなければならないことがあるので、医師にどれくらいの水分の量が適切かを聞いておくとよいでしょう。

トイレの注意点

ウォシュレット®のような温水洗浄便座は肛門を清潔にたもつのに有効な道具ですが、女性が使用する時には注意が必要です。どういうことでしょうか。

図:尿道の周りの構造の男女比較。

男性に比べて女性の尿道口は肛門と近い位置にあります。肛門の周囲には尿路感染症を起こす細菌がたくさんおり、温水洗浄便座で過剰な洗浄を行うと肛門の周囲の細菌が尿道口にまで達してしまいます。尿道口に付着した細菌は膀胱炎腎盂腎炎などの尿路感染症の原因になりえます。温水洗浄便座による過剰な洗浄は尿路感染症の予防という観点から注意が必要です。温水洗浄便座を使用する際には弱いパワーに設定するなどの工夫によって尿路感染症が起こる危険性を下げることができると考えられます。

3. 男性が尿路感染症になったときの注意点

男性は女性に比べると尿路感染症になることは少ないです。このため、男性が尿路感染症にかかった場合には特殊な状況が起こっていることを想定します。若い男性と年配の男性で注意点が違うのでそれぞれについて解説します。

若い男性の尿路感染症は性病が多い

若い男性の尿路感染症は、尿道炎のことが多く膀胱炎腎盂腎炎は少ないです。尿道炎は主に性病(性感染症)によって起こります。尿道炎を起こすのは主に淋菌クラミジアなどです。若い男性に排尿時痛や頻尿(ひんにょう;尿の回数が多くなること)、残尿感などの症状が現れた場合にはまず尿道炎を原因として考えることが多いです。尿道炎は医療機関を受診しないと治すことは難しいのですが、尿道炎ではないと思いたい気持ちからなのか、膀胱炎用の市販薬などを内服したりして受診が遅くなるケースもあります。

若い男性が排尿時痛や頻尿、残尿感などの症状を感じたときには、膀胱炎ではなく尿道炎の可能性が高いです。尿道炎は医療機関での治療が必要なので、受診をして診断・治療を受けるようにしてください。

高齢男性の尿路感染症には尿路の問題が隠れていることがある

高齢男性の尿路感染症は、前立腺肥大症などが背景にあることが多いです。前立腺肥大症は、高齢男性に多い病気で膀胱の出口にある前立腺が肥大します。

図:前立腺と尿道の位置関係。

前立腺が大きくなると尿道が狭くなり尿が出にくくなります。尿が出にくい状況は細菌が入り込みやすい状況でもあり、尿路感染症が起こりやすくなっています。高齢男性に尿路感染症が起こるとその結果から前立腺肥大症などの尿路の病気が隠れている可能性を考えます。

前立腺肥大症などがあるのならば、その治療をしなければ尿路感染症が再発することはありえます。したがって高齢者の尿路感染症は原因となる病気を調べて、原因を治療することが再発を防ぐ上でも大切です。