にょうろかんせんしょう
尿路感染症(総論)
尿の通り道(腎臓、尿管、膀胱、尿道など)に炎症が生じる感染症の総称。腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎といった病気がこれに含まれる
10人の医師がチェック 107回の改訂 最終更新: 2023.04.15

尿路感染症とはどんな病気?

尿路感染症は尿の通り道である尿路に細菌などが感染して起こる病気です。尿路は、腎臓-尿管-膀胱-尿道から成り、感染が起こる場所によって症状や原因が異なります。尿路感染症のあらましについて解説します。

1. 尿路感染症とはどんな病気なのか?

尿路感染症は、尿の通り道である尿路に起こる感染症です。尿路は、腎臓-尿管-膀胱(ぼうこう)-尿道のことを指します。尿管に感染が起こることは稀なので、尿路感染症とは腎臓に起こる腎盂腎炎(じんうじんえん)と膀胱炎尿道炎の総称です。

図:尿路を構成する臓器の位置関係。

このページではさらに前立腺に起こる前立腺炎も尿路感染症に含めて解説します。前立腺は厳密には尿路では無いのですが、尿の中の細菌が原因となって起こるという特徴があるためです。

図:前立腺の位置。

2. 尿路感染症の分類

尿路感染症の分類について説明します。やや専門的な内容なので、この章を飛ばしてもその後の理解には問題はありません。

尿路感染症は腎臓-尿管-膀胱-尿道という尿の通り道に起こる感染症の総称です。尿路感染症の分類には主に2つの方法があります。

  • 感染が起きた場所による分類
  • 感染が起きやすい要因の有無による分類

尿路感染症は感染が起きた場所によって分類することができます。

尿は腎臓でつくられて尿管を介して膀胱に到達してたまります。膀胱にある程度の量がた

まったところで尿道を流れて身体の外にでます。尿路は上部尿路と下部尿路の2つに分けることができ、上部尿路は腎臓と尿管で、下部尿路は膀胱と尿道です。尿路感染症は上部尿路感染症と下部尿路感染症に分けて考えることがあります。その理由については後述します。

尿路感染症は感染が起きやすい要因の有無によっても分類することができます。原因とは、尿の流れをさまたげたりする尿路の形の異常などのことです。

以下では2つの分類の特徴などについて解説します。

参考文献
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

上部と下部:感染が起きた場所による分類

感染が起きた場所によって分類することの意味はなんでしょうか。それは上部尿路と下部尿路で、感染によって引き起こされる病気の重症度に差があるので、治療も変える必要があるためです。

ではそれぞれの説明に進んでいきます。

上部尿路感染症は、ほとんどが腎盂という腎臓の一部に起こる腎盂腎炎です。尿管に感染症が起こることは稀です。下部尿路は、膀胱と尿道のことを指しますが、下部尿路での感染症は、膀胱炎が多数です。腎盂腎炎膀胱炎と違って尿道炎のほとんどは性行為により感染する性病で、腎盂腎炎膀胱炎尿道炎は性質が異なります。

これ以降は上部尿路感染症の代表として腎盂腎炎、下部尿路感染症の代表として膀胱炎を中心に解説します。

【症状の違い】

腎盂腎炎膀胱炎では症状の特徴が異なります。主な症状の特徴を表にまとめます。

  腎盂腎炎 膀胱炎
発熱
悪寒戦慄
腰背部痛
吐き気・嘔吐
頻尿
排尿時痛

◎=よく現れる、◯=ときどき現れる、△=現れることはほとんどない

悪寒(おかん)は寒気、戦慄(せんりつ)は全身の震えのことです。頻尿(ひんにょう)は排尿の回数が多くなることです。

腎盂腎炎は発熱や悪寒戦慄など全身の症状が現れることが多いです。一方で膀胱炎は排尿時痛や頻尿などの排尿に関連した症状がよく現れます。

症状の違いは腎盂腎炎膀胱炎を見分ける役に立ちます。膀胱炎腎盂腎炎では重症度が異なるので見分けることが適切な治療を行う上で重要です。

【重症度の違い】

腎盂腎炎膀胱炎に比べて深刻な状態になりやすいです。腎盂腎炎は、血管の中に細菌が入り込んで身体中に広がる菌血症という状態に陥ることがあります。菌血症は重症で、入院して強力な治療を行わなければなりません。

膀胱炎から感染が広がって腎盂腎炎が起こることもあるので、膀胱炎の症状に加えて腎盂腎炎で現れる発熱などの症状が現れたときには必ず医療機関を受診して調べてもらってください。

単純性と複雑性:感染が起きる原因の有無による分類

尿路感染症は背景に原因となるものが隠れているかどうかで単純性尿路感染症と複雑性尿路感染症の2つに分けることができます。尿路感染症を起こしやすい背景がある場合を複雑性尿路感染症、ない場合を単純性尿路感染症と言います。

ややこしい話なのですが、ここでの尿路感染症には尿道炎は含まないことにします。ここでの尿路感染症は、膀胱炎腎盂腎炎のことを指します。

尿路感染症を単純性と複雑性に分ける理由は2つで治療の方針が異なるためです。

単純性尿路感染症では感染している菌は予想しやすいです。これに対して複雑性尿路感染症の場合に考えられる細菌は様々です。感染している細菌を見分けることは治療のために重要です。なぜなら細菌感染の治療には抗菌薬抗生物質)が有効ですが、細菌の種類も抗菌薬の種類もたくさんあり、感染している細菌に適した抗菌薬を選ぶ必要があるからです。複雑性尿路感染症ではいろいろな細菌の可能性があるので、抗菌薬の選択に工夫が必要です。つまり複雑性尿路感染症は単純性尿路感染症に比べて治療が難しいことが多いのです。

単純性と複雑性は以下のようにして分類することが多いです。

単純性尿路感染症 複雑性尿路感染症
・閉経前の女性
・妊娠していない
・尿路に解剖学的な異常がない

・単純性尿路感染症以外

女性は、身体のつくりから男性に比べて尿路感染症になりやすいです。女性は尿道が短く、また尿道の出口が膣や肛門といった細菌の多い場所と近いので、細菌が尿道から膀胱へ入りやすいためです。

図:尿道の周りの構造の男女比較。

妊娠していない閉経前の女性に腎盂腎炎が起きることは珍しくはありません。このため特殊な細菌が原因になっていることは少ないと考えて治療にあたることができます。

一方、男性の尿路感染症は多くはありません。男性が尿路感染症になった場合には、尿路に何らかの異常が起きていると考えます。例えば尿路結石前立腺肥大症などです。尿の通り道に異常が起きているときには、まずその異常を解消しなければ感染もなかなか改善しないことがあります。さらに、特殊な細菌が感染している可能性も無視できません。そのため治療では特殊な細菌にも有効な抗菌薬や尿の流れを改善する処置が必要になることがあります。

「複雑性の尿路感染症を考えて治療しています」と医師から説明があった場合には治療が単純性に比べて難しくなることがあるという意味も含まれています。どんな原因があってどんなことを医師は想定しているかを質問するとより問題点がはっきりとするかもしれません。

3. 尿路感染症の症状

尿路感染症は、主に腎臓に起こる上部尿路感染症と主に膀胱に起こる下部尿路感染症の2つに分けることができ、症状も上部と下部で異なります。

  • 上部尿路感染症の症状
    • 発熱
    • 悪寒戦慄(おかんせんりつ)
    • 側腹部痛(叩打痛)
    • 腰背部痛
    • 吐き気・嘔吐

上部尿感染症は、主に腎臓に起こる感染症で、腎盂腎炎がそのほとんどを占めます。腎盂腎炎の症状は、主に発熱や悪寒戦慄、側腹部痛などです。腎盂腎炎の痛みは、叩くと痛みが強くなる叩打痛(こうだつう)という特徴を現すこともあります。腎盂腎炎は症状が出たあと数時間から数日で急速に症状が進行していくことがあります。

  • 下部尿路感染症の症状
    • 排尿時痛(かゆみ・違和感)
    • 頻尿
    • 尿意切迫感
    • 下腹部痛
    • 血尿
    • 尿道からの分泌物

下部尿路感染症は、膀胱炎前立腺炎尿道炎の総称です。下部尿路感染症の症状は排尿時痛や頻尿、尿意切迫感など排尿に関係したものが中心になります。

尿路感染症の症状については「尿路感染症の症状」でも解説しているので参考にしてください。

参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015

・大曲貴夫/監, がん患者の感染症診療マニュアル第2版, 南山堂, 2012
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

4. 尿路感染症の原因

尿路感染症は、腎盂腎炎膀胱炎尿道炎などの尿路に起こる感染症の総称です。場所によって感染が起こる原因は異なります。

例えば尿道炎の場合はほとんどが性行為を原因した感染症で主に男性が発症します。一方で、腎盂腎炎膀胱炎尿道炎に比べ原因が複雑です。ここでは尿路感染症の中でも腎盂腎炎膀胱炎の原因について解説します。

参考文献
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

腎盂腎炎・膀胱炎になりやすい人

腎盂腎炎膀胱炎は、主に細菌が尿路に入り込んで感染することにより起こります。どちらもよくある病気ですが、特に原因があって腎盂腎炎膀胱炎になりやすい人もいます。例えば細菌が尿路に入り込みやすかったり、細菌を排除する力が弱くなっているなどの原因があります。以下が腎盂腎炎膀胱炎になりやすい人の例です。

  • 女性
  • 妊娠中の人
  • 膀胱や尿管に管(カテーテル)を挿入中の人
  • 糖尿病の人
  • ステロイド薬免疫抑制薬を内服中の人
  • 尿路に先天異常がある人

女性は身体の作りの違いのために男性より腎盂腎炎膀胱炎になりやすいです。女性の尿道は、男性に比べて短く、しかも感染を起こす細菌が多くいる肛門や膣と近い場所にあります。このため尿道口(尿の出口)から膀胱や腎臓に細菌が入り込みやすくなっているので、腎盂腎炎膀胱炎が起こりやすいです。

妊娠中の人は腎盂腎炎膀胱炎にかかりやすくなってます。原因は、ホルモンのバランスが変化して膀胱の尿が逆流しやすくなっていることと、大きくなった子宮で膀胱などが圧迫されて膀胱の尿がうまく出ないことの2つです。尿路感染症は、尿の逆流や尿がうまく出ないなどの環境で起こりやすいです。

膀胱や尿管の病気があると、状態に応じて治療のために膀胱や尿管に管を挿入します。例えば尿管に結石があって流れが悪い場合には尿管に管を挿入して流れをよくします。管は治療に必要なものですが、異物です。体の中に異物があると細菌がついたり増えやすくなったりします。このために管が挿入されていると膀胱炎腎盂腎炎などになりやすいです。

糖尿病の持病がある人やステロイド薬などを内服している人は感染症に対して抵抗力が弱くなっているので、尿路感染症にもかかりやすいです。

尿路の形が通常と異なる先天異常は、尿の流れを妨げたり尿を逆流させたりする原因になります。尿の流れが正常ではないと細菌を押し流して感染を予防する効果などが弱まるので細菌感染が起こりやすくなります。

腎盂腎炎・膀胱炎の原因になる病気

腎盂腎炎膀胱炎は、背景に原因となる病気や先天異常が隠れていることがあります。原因となっているものを治療することで再発の恐れを小さくすることができます。以下が腎盂腎炎膀胱炎を起こす病気や先天異常の例です。

それぞれの病気の解説の前に尿路について振り返っておきます。尿路は尿の通り道であり、腎臓-尿管-膀胱-尿道の総称です。尿はこの順に流れていき逆流することはありません。今から説明する病気はこの尿の流れを妨げたり逆流を引き起こす病気です。

前立腺は、膀胱の出口にある臓器です。前立腺が大きくなり膀胱から先の尿の流れが悪くなる病気が前立腺肥大症です。尿が正常に流れていれば、少しの細菌が尿路に入り込んでも尿が細菌を押し流すので、簡単には感染しません。ところが尿の流れが悪くなると細菌を押し流して感染を予防する効果が弱まります。このため膀胱炎腎盂腎炎などが起こりやすくなります。

尿路結石は尿の成分が固まったもので「いし」と呼ばれることもあります。結石ができると尿の流れを止めてしまうので前立腺肥大症と同じ理屈で感染が起こりやすくなります。また結石は異物なので細菌が繁殖しやすくなっていることも膀胱炎腎盂腎炎を起こしやすくしています。

膀胱尿管逆流症は、膀胱と尿管のつなぎ目に異常があり膀胱の尿が尿管に逆流する病気です。尿管は腎臓で作られた尿を膀胱まで運ぶ管で、そのつなぎ目は尿が逆流しないような役割を果たしています。正常な場合は、膀胱の尿は尿管へは逆流することはありません。尿が逆流すると細菌が繁殖しやすくなるので尿路感染症も起こりやすくなります。

腎盂尿管移行部狭窄症は、腎盂と尿管のつなぎ目が狭くなっている病気です。腎盂尿管移行部狭窄症があると尿が腎盂から尿管へ流れていきにくくなっています。尿の流れが悪い環境では細菌が増えやすくなるので尿路感染症の原因になります。

異所開口尿管は、腎盂から出た尿管が膀胱ではなく他の場所とつながっている先天的な病気です。異所開口尿管は尿管が膀胱以外の場所とつながっているので細菌が入り込みやすく、尿路感染症(腎盂腎炎)の原因になります。

重複尿管も尿路の先天異常のひとつです。尿管は、左右に1本ずつあるのが正常ですが、尿管がつくられる過程で起きた異常のために片側の尿管が2本になることがあります。これを重複尿管といいます。

本来ないはずの尿管は、膀胱の尿が尿管へ逆流するのを防ぐ機能が不十分です。つまり膀胱尿管逆流症が起こりやすくなっています。細菌を多く含んだ膀胱の尿が腎盂に逆流すると腎盂腎炎が起こる危険性を高めます。

5. 尿路感染症の検査

尿路感染症を疑った時の診察や検査の目的は、尿路感染症であると診断し、感染が起きている場所を特定することと、尿路感染症以外の病気がないかを調べることです。尿検査などは大切なのですが、感染を起こしている細菌の種類を特定することも治療にとっては大切です。

以下の診察や検査がよく使われます。

  • 診察
    • 問診
    • 身体診察
  • 尿検査
    • 尿定性検査
    • 尿沈渣
  • 血液検査
  • 細菌学的検査
    • 塗抹検査
    • 培養検査
  • 画像検査
    • 超音波検査
    • CT検査

上の検査などの一覧は誰にでも全て用いる訳ではありません。例えば症状から明らかに膀胱炎だと分かる場合にはCT検査や血液検査は必要ではありません。

検査結果にもとづいて治療に用いる抗菌薬を決めたり追加の処置の必要性を判断します。尿路感染症の検査については「尿路感染症の検査」で詳しく解説しているので参考にしてください。

参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
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・大曲貴夫/監, がん患者の感染症診療マニュアル第2版, 南山堂, 2012
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

6. 尿路感染症の治療

尿路感染症は、尿の流れ道である尿路に起きる感染症であり、多くは細菌が原因なので抗菌薬を用いた治療が中心になります。さらに尿路感染症が尿路の閉塞によって起こっている場合には尿路の閉塞に対する治療も併行して行います。尿路感染症の治療の詳細は「尿路感染症の治療」で解説してるので参考にしてください。ここでは治療全体について大まかに説明します。

参考文献
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

抗菌薬治療

尿路感染症の治療は、抗菌薬を用いた治療が中心になります。尿路感染症と一口にいっても腎盂腎炎尿道炎では原因となる細菌は異なることが多いです。このためにどの場所に感染が起きていてどんな細菌が原因となっているかを見極めることが大切です。抗菌薬といってもその種類は無数にあるのでその中から適切なものを選び出さなければなりません。

そのために最初に用いる抗菌薬は塗抹検査など短時間で知ることができる検査を基にして定めます。そして培養検査といって原因となっている細菌が判明したらその細菌にもっとも適した抗菌薬に変更することもできます。

検査については「尿路感染症の検査のページ」を参考にして下さい。

抗菌薬治療については「尿路感染症の治療のページ」も参考にして下さい。

溜まった尿に対する治療:尿のドレナージ

尿路感染症の原因の一つが尿路の閉塞です。尿路が閉塞すると細菌感染が起こりやすくなります。尿路の閉塞がある場合には抗菌薬治療に加えて閉塞してたまって感染を起こしている尿を身体の外に出さなければ治療は不十分です。腎臓や尿管、膀胱に管を挿入して感染した尿を身体の外にだします。この治療をドレナージと言います。ドレナージの方法にはいくつかあり閉塞した場所に応じて適した方法を用います。

7. 尿路感染症の再発予防

尿路感染症の再発を予防するためにできることはあるのでしょうか。治療中と治療後の再発予防における注意点を解説します。

治療中の注意点

尿路感染症は抗菌薬により治療が行われて、薬の効果が出ると症状は良くなっていきます。

しかし、症状が良くなったら尿路感染症が治ったというわけではありません。

症状が良くなるともう治ったと自己判断して薬を飲むのをやめてしまう人がいます。これはよくありません。治療期間に満たない前に薬をやめてしまうと細菌が再び増殖をして症状がぶり返してしまうこともありますし、中途半端な治療のために細菌が抗菌薬に対して耐性を獲得して、薬が効かなくなって治療が難しくなることがあります。

抗菌薬の投与期間は、完治の確率が高くなるように考慮された、治療に必要な期間です。症状がよくなっていても抗菌薬はしっかりと定められた治療期間飲みきることが大切です。

治療後の注意点

尿路感染症には、原因となる病気が隠れていることがあります。尿路感染症は、尿の流れの停滞や膀胱の尿の逆流などがあると起こりやすくなると考えられており、前立腺肥大症尿路結石、尿路の先天異常などがその原因です。尿路に異常がある場合にはその治療をすることが尿路感染症の再発予防につながります。