尿路感染症の原因:尿路結石・前立腺肥大症など
尿路感染症は尿の通り道(尿路)に
1. 尿路感染症が起こるメカニズムや原因となる病原体
尿路感染症は、腎盂腎炎(じんうじんえん)と膀胱炎(ぼうこうえん)、尿道炎、前立腺炎の総称です。尿路感染症と一つにくくられますがそれぞれの病気の特徴が異なります。つまり感染を起こす細菌などは病気ごとに違い、病気が起こるメカニズムも異なります。それぞれの病気について個別に解説します。
参考:レジデントのための
腎盂腎炎・膀胱炎
腎盂腎炎と膀胱炎は、病気が起こるメカニズムや原因となる病原体に共通点が多いので合わせて解説します。
腎盂腎炎や膀胱炎は細菌が
腎盂や
細菌が腎盂や膀胱に到達すると必ず腎盂腎炎や膀胱炎になる訳ではありません。尿路には尿の流れや
しかしながら、何らかの原因で腎盂腎炎や膀胱炎になってしまうことがあり、以下のようなことが原因になると考えられています。
- 腎盂や膀胱に到達する細菌などが多い
- 尿の流れが悪くなっている
- 尿が逆流しやすい形態異常がある
- 免疫力が低下している
これらの要因がいくつか重なって腎盂腎炎や膀胱炎を
腎盂腎炎や膀胱炎を起こしやすい細菌は知られていて、主には腸の中にいる細菌が腎盂腎炎や膀胱炎の原因になります。
大腸菌 (E. coli)- クレブシエラ桿菌(Klebsiella pneumoniae)
- 腸球菌(Enterococcus faecalis)
- プロテウス球菌(Proteus mirabilis)
腎盂腎炎の原因菌で最も多いのは大腸菌です。尿路に異物や解剖学的異常がある場合や患者さんの免疫力が低下している場合には上記以外の細菌が感染を起こしていることもあるので、患者さんの状態や持病などを踏まえた上で治療を行います。
尿道炎
尿道炎は他の尿路感染症とは異なり性病の側面があります。つまり性行為によって感染します。では尿道炎を起こす病原体にはどんなものがあるのでしょうか。
【尿道炎の原因となる病原体】
淋菌 - クラミジア
- マイコプラズマ・ゲニタリウム
ヘルペスウイルス トリコモナス
尿道炎の原因になるのは淋菌とクラミジアが多く、淋菌とクラミジアが同時に感染することも珍しくはありません。また淋病やクラミジアを原因とした尿道炎にかかった人は、
前立腺炎
前立腺炎に感染するパターンは主に二つがあります。
- 尿の出口である尿道口から大腸菌などが侵入して
前立腺 に感染する - 淋菌やクラミジアが性行為によって前立腺に感染する
前立腺は、実は尿路の外にあるのですが、射精管という管で尿道とつながっています。細菌が多くいる尿が尿道を流れると細菌が射精管を介して前立腺に侵入して感染を起こします。
大腸菌が原因となるパターンは、尿の流れが悪くなりやすい高齢者に多くみられます。尿の流れが悪いと細菌を押し流して感染を予防する機構が不十分になるからと考えられています。
性行為によって前立腺に感染が起こるパターンは少ないながらもあります。性的な活動が盛んな年代の人が前立腺炎を起こした場合には淋菌やクラミジアも原因として疑いながら検査や治療を行います。
2. 尿路感染症(腎盂腎炎・膀胱炎)になりやすい人
尿路感染症は、細菌が尿路に入り込み起こります。尿路感染症になりやすい人は細菌が入り込みやすかったり、細菌を排除する力が弱くなっている人などです。ここでは尿路感染症の中でも腎盂腎炎と膀胱炎になりやすい人について解説します。
参考:標準泌尿器科
女性
女性は男性に比べて腎盂腎炎や膀胱炎になりやすいことが知られています。理由は身体のつくりが違うことです。
男性と女性では尿道の形や長さに違いがあります。尿道とは膀胱から体の外まで尿を運ぶ部分のことです。男性の尿道は陰茎の中を通っておりその長さは16-20cmあります。一方、女性の尿道は3-5cmと短いです。尿道が短いために外から細菌が膀胱や腎臓に入り込みやすくなっています。もう一つの要因は、女性の尿道口(尿の出口)は男性に比べて肛門や膣に近い場所にあるので腎盂腎炎や膀胱炎の原因になる細菌が尿道口に付着しやすくなっています。
まとめると女性の尿道は短く、尿道口の周りに細菌が多くいます。この2つの要因により細菌が膀胱や腎臓に入り込みやすく腎盂腎炎や膀胱炎が起こりやすくなっています。
妊娠中の人
妊娠中の人は身体の変化のために腎盂腎炎や膀胱炎を起こしやすくなっています。妊娠するとなぜ尿路感染症が起こりやすくなるのでしょうか。二つの理由が考えられています。
一つは妊娠中に多くなる
もう一つは、大きくなった子宮が膀胱を圧迫するためです。
胎児の成長にともない子宮は大きくなります。大きくなった子宮は膀胱を圧迫します。膀胱は圧迫を受けると排尿がうまくできなくなります。排尿がうまくできないと膀胱の中に細菌が増殖しやすくなります。
まとめると、妊娠中は身体の変化により膀胱の尿が逆流しやすくなったり排尿がうまくできなくなることにより腎盂腎炎や膀胱炎が起こりやすくなります。
腎盂腎炎や膀胱炎は妊娠中には注意が必要な病気です。どちらの病気も早く気づいて治療することが大切です。腎盂腎炎や膀胱炎を疑わせるような症状などについては、「尿路感染症の症状」も参考にしてください。
膀胱や尿管に管(カテーテル)を挿入中の人
膀胱や尿管などの病気のために管(カテーテルや
尿路に挿入したカテーテルは治療のために大切なのですが、体にとっては異物です。異物は細菌が繁殖する温床になってしまうことがあります。
膀胱や尿管にカテーテルを挿入している人で発熱などの症状が現れたときには腎盂腎炎や膀胱炎が起こっている可能性があります。腎盂腎炎や膀胱炎は早く治療を始めることが順調な回復につながります。膀胱や尿管に管を挿入中の人で発熱などの症状がある場合には速やかに医療機関を受診してください。
糖尿病の持病がある人
糖尿病の持病がある人は、感染症に対して抵抗力が低くなっています。他の感染症同様に腎盂腎炎や膀胱炎にもかかりやすくなっています。特に糖尿病の治療が不十分な場合にはより危険性が高くなっておりかつ重症化しやすくもなっているので注意が必要です。
ステロイド薬や免疫抑制薬を内服中の人
ステロイド薬や免疫抑制薬は自らの免疫を抑えるので細菌などに対する防御機構も弱くなります。このために細菌が尿路に入り込んだ場合には腎盂腎炎や膀胱炎が起こりやすくなります。
免疫が抑制状態の人は通常の人より重症化する危険性が高いので発熱や排尿時痛の症状があるときにはすみやかに治療を受けている医療機関を受診して適切な対応を受けてください。
尿路に先天異常がある人
尿路の先天異常は、腎盂腎炎や膀胱炎の原因の一つです。逆に、腎盂腎炎や膀胱炎をきっかけにして尿路の先天異常がみつかることもあります。腎盂腎炎や膀胱炎の原因になる尿路の先天異常は以下のものです。
- 膀胱尿管逆流症
- 腎盂尿管移行部狭窄
- 異所開口尿管
- 重複尿管
尿路の先天的な異常が原因で腎盂腎炎や膀胱炎が起こる場合には、感染を繰り返すこともあり長期的には腎臓の機能が低下するなどの影響がでます。このため尿路の形を正常な形に直す手術や機能を補うような手術を行います。
3. 尿路感染症の原因となる病気
尿路感染症の原因は、尿のうっ滞(流れが悪くたまること)や逆流などです。尿が細菌を押しながすことで感染が起きにくくなりますが、尿が通常通りに流れないと細菌が繁殖しやすくなり感染が起こります。尿路感染症が起きてひとまず
参考:標準泌尿器科
前立腺肥大症
前立腺肥大症は、前立腺という膀胱の出口にある臓器が大きくなり尿の出づらさや排尿の勢いが弱くなるなどの症状が現れる病気です。前立腺は男性特有の臓器なので女性には前立腺肥大症は起こりません。
前立腺肥大症と尿路感染症はどのような関係があるのでしょうか。
尿路感染症の原因となる細菌は尿道から入って、尿の流れに逆らって侵入しようとします。しかし尿道に細菌が入り込んでも容易に膀胱などにたどりつくことはできません。人は排尿によって細菌を押し流すことで細菌の侵入を阻んでいます。ところが、前立腺肥大症では排尿の勢いが落ちているので細菌が侵入しやすくなります。このため、前立腺肥大症は、尿路感染症の原因になることがあります。
尿路結石
尿路結石は尿の成分が固まってできるもので、「いし」と俗に言われることもあります。尿路は腎臓-腎盂-尿管-膀胱-尿道という尿が流れる一連の臓器のことを指します。尿路結石ができると尿の流れが悪くなったり結石に菌が付着して繁殖したりします。尿の流れが悪くなることや尿の中の細菌の増加は尿路感染症の原因になりえます。
膀胱尿管逆流症
膀胱尿管逆流症は、膀胱と尿管のつなぎ目に異常が起こる病気で、膀胱の尿が尿管に逆流します。正常な場合は、尿は腎臓で作られ、尿管を通って膀胱に送られます。膀胱の尿は尿管へは逆流しないようになっています。
尿の逆流があると尿路の途中に尿がたまるので、尿の中の細菌が増えやすくなります。逆に尿路感染症を繰り返すなどのエピソードから膀胱尿管逆流症が見つかることもあります。膀胱尿管逆流症が見つかった場合には、逆流を防止するための手術を行います。
腎盂尿管移行部狭窄(じんうにょうかんいこうぶきょうさく)
腎盂尿管移行部狭窄は、腎盂と尿管のつなぎ目が極端に狭くなっている先天的な病気です。腎盂尿管移行部狭窄があると尿の流れが悪くなり、細菌などが増殖しやすい環境がつくられます。腎盂尿管移行部狭窄が原因で尿路の中で細菌の数が多くなると尿路感染症の中でも腎盂腎炎が起こる危険性が高くなります。
異所開口尿管(いしょかいこうにょうかん)
異所開口尿管は、腎盂から出た尿管が膀胱ではなく他の場所とつながる先天的な病気です。尿管は正常なら腎盂から出て膀胱につながっています。
異所開口尿管は尿管が膀胱以外の場所とつながっているので細菌が入り込みやすく、尿路感染症の中でも腎盂腎炎の原因になります。異所開口尿管は、尿路感染症や尿失禁(尿漏れ)などの症状をきっかけにして発見されます。
重複尿管(ちょうふくにょうかん)
尿管は腎臓で作られた尿を膀胱まで運ぶ管です。尿管は、左右に1本ずつありますが、胎児に尿管がつくられる過程で起きた異常のために片側の尿管が2本になることがあります。これを重複尿管といいます。
本来ないはずの尿管は、膀胱の尿が尿管へ逆流するのを防ぐ機能が不十分になります。つまり、膀胱尿管逆流症がおきます。膀胱の尿が腎盂に逆流することは尿路感染症の中でも腎盂腎炎が起こる危険性を高めます。
4. 日常生活にある尿路感染症の原因
日常生活にも尿路感染症の原因と言うべきものが潜んでいます。原因について知ることは病気の予防につながるので、理解して生活の中で役立ててみてください。
便秘
尿路感染症の中でも、便秘が関係するのは膀胱炎です。膀胱炎は、便に含まれている細菌が尿道口(尿の出口)に付着して膀胱に侵入して感染を起こすことが主な原因です。便秘の場合には便の中の細菌が増えることがあり、細菌が多くなっているとその分だけ膀胱に入り込みやすくなり尿路感染症を起こす危険性が高まりす。便秘を解消することは膀胱炎の予防に有利に働くことが期待できます。便秘の解消のポイントは以下のものになります。
- 水分を多めに摂取する
- 食物繊維の多い食べ物を摂取する
- 適度な運動を行う
便秘を解消することは、尿路感染症の予防としても重要ですし、より気持ちよく生活をおくることにもつながります。
性行為
尿路感染症の中でも性行為が関係するのは主に尿道炎と女性の膀胱炎の2つです。2つは性行為が原因になりますが、違う病気なので分けて解説します。
【尿道炎】
尿道炎は主に淋菌やクラミジアが原因となる病気で、男性に起こることが多いです。クラミジアや淋菌は性行為を介してうつるいわゆる性病です。女性がクラミジアや淋菌に感染すると主に子宮や膣に異常が現れることが多いです。尿道炎にならないためには、性行為のときにはコンドームを用いることを徹底しましょう。オーラルセックスでも感染することがあるので膣への挿入のときだけコンドームを用いればよいというわけではない点には注意が必要です。
【膀胱炎】
女性では性行為が原因で膀胱炎になることがあります。なぜでしょうか。
膀胱などの尿路の臓器には細菌はいないのが正常ですが、膣の周りには細菌がもともと多くいます。膣と尿道口は近くにあるので、性行為によって膣の周りの細菌が尿道口に侵入することがあり膀胱の中に到達すると膀胱炎が起こることがあります。膀胱炎にならないためには以下の事に気をつけてください。
- 性行為の前後でシャワーを浴びるなどして陰部を清潔にする
- 性行為後には排尿をする
これらに気をつけることで膀胱炎になる危険性を下げるための助けになるかもしれません。
性行為が原因で起こるとなると膀胱炎も性病なのか、という疑問が生じるかもしれませんが、そうではありません。
性病は性行為によって人から人に伝わった病原体によって起こります。膀胱炎の一部は性行為が原因のことはありますが、その場合はもともと自分の体にいた病原体が原因であり、性病とは本質的に異なるので性病とはいいません。
温水洗浄便座(ウォシュレット®)
ウォシュレット®のような温水洗浄便座は肛門を清潔にたもつのに有効な道具ですが、女性が使用する時には注意が必要です。どういうことでしょうか。
男性と比べて女性の尿道口は肛門と近い位置にあります。肛門の周囲には尿路感染症を起こす細菌がたくさんおり、温水洗浄便座で過剰な洗浄を行うと肛門の周囲の細菌が尿道口に付着してしまいます。尿道口に細菌が付着することは膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症の原因になりえます。温水洗浄便座を使用する際には弱いパワーで用いることで膀胱に細菌が入る危険性を下げることができるかもしれません。