ごえんせいはいえん
誤嚥性肺炎
食べ物を飲み込む際や、気づかないうちなどに、唾液や胃液、食物とともに細菌が気管に入り込むことで生じる肺炎
11人の医師がチェック 137回の改訂 最終更新: 2024.05.07

誤嚥性肺炎の予防(再発予防を含む)のためにできること

誤嚥性肺炎を中心とした肺炎は日本人死亡原因の第3位を占めます。誤嚥性肺炎は繰り返すことが多い病気ですが、患者さんやご家族の注意である程度予防することができます。以下では予防策に関して詳しく説明します。

1. 誤嚥しやすい人がとるべき食事とは?

誤嚥性肺炎とは、主に喉の機能が低下することによって、飲食物や唾液などが菌とともに肺に入ることで起きる肺炎です。2011年以降、肺炎は日本人の死亡原因数として第3位を占め続けています(1位はがん、2位は心臓病です)。肺炎による死亡の96%以上は65歳以上の高齢者であり、高齢者肺炎の多くに誤嚥(ごえん)の関与があると考えられているため、誤嚥性肺炎は日本の高齢者死亡原因として大きな割合を占めていると言ってよいでしょう。

誤嚥性肺炎は予防が重要な病気であり、以下ではお勧めできる食事内容について解説します。

参考文献
・厚生労働省. 人口動態統計2016(平成28年)

写真:食事のイメージ

とろみ

誤嚥を防ぐ食事の工夫として最も代表的な対策は、水分を摂るときにとろみのあるものにすることです。サラサラとした水分は誤嚥しやすいことが分かっています。とろみのつけ方は、片栗粉やコーンスターチを入れて加熱したり、ゼラチンを利用しても良いですし、市販のとろみ調整剤を使うこともお勧めです。市販のとろみ調整剤にはいろいろな商品がありますが、代表的なものでは以下のような商品が挙げられます。

  • トロメイク®
  • トロミーナ®
  • トロミアップ®
  • つるりんこ®
  • ハイトロミール®
  • とろみファイン®

これらはドラッグストアや病院の売店、通販などで売られています。

カプサイシン

口の中に刺激があると体内でサブスタンスPと呼ばれる物質が増えると言われています。サブスタンスPが増えると、誤嚥しかけた際に咳をしたりむせこむ機能が良くなるため、誤嚥が減ると考えられています。

口の中に刺激のある食べ物としては、カプサイシンなどの刺激物が挙げられます。カプサイシンは主に唐辛子に含まれ、唐辛子を使って作られるキムチ、豆板醤、ラー油、タバスコ、コチュジャンなどにも含まれる独特の辛味物質です。大量に摂取すると胃腸に負担がかかる恐れがあるので、スパイスとして少しずつ使うことをお勧めします。

その他、温かい食べ物、冷たい食べ物も口の中の刺激となってサブスタンスPを増やし、誤嚥予防に役立つと考えられます。

2. 食事の際の姿勢、食器の工夫など

仰向けで寝たまま飲食をしようとして、むせこみそうになった経験はある方もいらっしゃると思います。正しい姿勢で座らないで飲食することにより、誤嚥の危険性は高まります。

イスに腰掛けて食事を摂ることができる場合には、両かかとがちゃんと床についている状態で少し前かがみで食事をしてください。車イスの場合には足をフットレストから床におろしてください。足をおろして床で踏ん張れる体勢にすると、前かがみの姿勢がとりやすいので誤嚥が減ると考えられます。やむなくベッド上で食事を摂る場合にも、なるべくベッドを起こして、足を踏ん張れるような体勢を作ることが大事です。膝の裏にクッションを置き、足の裏に台を設置するなどの対応ができればベストです。ベッド上でも座っている時と似ている体勢をつくることで、腹筋に力が入りやすくなり誤嚥が減ると考えられます。

食後の姿勢に関しては、食べたあとすぐに横になると、食べたものが逆流して誤嚥しやすくなるので、食事後はしばらく上半身を起こしておくようにしてください。

姿勢以外の食事に関する注意点としては、まずは可能なかぎり自分で食べるということも大事です。介助して食べさせてもらうと、自分のタイミングで食べられないので誤嚥のリスクが高まります。

また、誤嚥性肺炎を起こしやすい患者さんは、脳梗塞などで手足に麻痺があるケースも多いです。そのような場合でもご自身で食事がとれるように、片手で扱っても滑りにくい食器、握りやすいスプーンやカップなどが準備できるとよいですね。通販や病院の売店で取り扱いが豊富であり、100円均一ショップなどで扱っているケースもあります。

3. 誤嚥予防に期待できる薬剤

誤嚥性肺炎を予防できる可能性のある薬が今までの研究でいくつか報告されており、時々用いられることがあります。ただし以下に紹介する薬は、誤嚥性肺炎そのものに対しては保険診療の適用がないものが多いです。また、誤嚥性肺炎の予防効果があるという報告はありますが、現時点でまだ確実に効くと言えるだけの証拠は不十分です。そのため、誤嚥性肺炎を起こしやすい患者さん皆さんで必ずしも使われるような薬ではありません。

写真:薬剤のイメージ

ACE阻害薬(タナトリル®、レニベース®、コバシル®など)

血圧を下げる薬の一種であるACE阻害薬(エースそがいやく)は、体内でサブスタンスPと呼ばれる物質を増やす効果があります。サブスタンスPが増えると、誤嚥しかけた際に咳をしたりむせこむ機能が良くなるため、誤嚥が減ると考えられています。咳が出て困る、というのはACE阻害薬の有名な副作用のひとつなのですが、その副作用を逆に利用した使い方ということになります。ACE阻害薬でよく使われるものとしては、以下のような薬剤があります。

  • イミダプリル(タナトリル®など)
  • エナラプリル(レニベース®など)
  • ペリンドプリル(コバシル®など)
  • カプトプリル(カプトリル®など)
  • テモカプリル(エースコール®など)
  • デラプリル(アデカット®)

もともと血圧を下げる薬なので、血圧の高くない方がACE阻害薬をしっかりと使ってしまうと低血圧になる危険があります。しかし、血圧を下げる目的で使う用量の1/4以下の用量で使っても誤嚥を防ぐ効果は十分あったと報告されているため、血圧があまり高くない方の誤嚥予防としてはACE阻害薬を少ない用量で使うのが良いと考えられます。

参考文献
・Lancet 1998 Sep 26; 352(9133): 1069. Neurology 2005 Feb 8; 64(3) : 573-4.

アマンタジン(シンメトレル®など)

アマンタジン(シンメトレル®)はパーキンソン症候群脳梗塞後遺症に伴う意欲や自発性の低下、A型インフルエンザウイルス感染症などで本来使われる薬剤です。この薬は脳内でドパミンと呼ばれる物質の放出を促す作用があります。脳梗塞を起こしたことのある方などでは、ドパミンの分泌が減少していることが多いです。ドパミンは誤嚥しかけた際に咳をしたりむせこむ機能に関与するサブスタンスPという物質の放出に関わっているため、アマンタジンでドパミンの放出を促すとサブスタンスPが増えて、ACE阻害薬と同様に誤嚥を防ぐ効果があると考えられています。

参考文献
J Am Geriatr Soc 2001 Jan; 49(1) : 85-90.

シロスタゾール(プレタール®など)

血液をサラサラにする薬の一種であるシロスタゾール(プレタール®など)は、誤嚥の原因となる小さな脳梗塞を予防することにより誤嚥性肺炎を減らすと考えられています。しかし、小さな脳梗塞予防として皆さんが飲んでおくことにメリットがあるのかどうかはハッキリしていません。

参考文献
Cerebrovasc Dis 2006; 22(1) : 57-60.

モサプリドクエン酸塩(ガスモチン®など)

モサプリドクエン酸塩(ガスモチン®など)は胃腸の動きを活発にすることによって、胸焼けや胃もたれ、吐き気、便秘などを緩和する効果のある薬です。誤嚥性肺炎の予防効果が誰にでもあるのかは分かっていませんが、胃ろうから栄養をとっている患者さんでこの薬を使うと肺炎の頻度が減ったというデータがあり、使われることがあります。

参考文献
J Am Geriatr Soc 2007 Jan; 55(1): 142-4.

半夏厚朴湯

半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)は不安感やイライラ、うつ状態、不眠などの症状をかかえる冷え性で繊細な方に使われることの多い漢方薬です。のどの違和感などを解消する効果もあるとされています。第2類医薬品であり、ドラッグストアなどで購入することができます。この薬を使うと飲み込みの機能がよくなって肺炎の頻度が減ったという報告があり、好んで使われる患者さんもいらっしゃいます。

参考文献
J Am Geriatr Soc 2007 Dec; 55(12) : 2035-40.

写真:漢方薬のイメージ

4. 嚥下機能を改善させるための訓練はあるのか?

誤嚥性肺炎は主に喉の機能が低下することによって、飲食物や唾液などが菌とともに肺に入ることで起きる肺炎です。なので、入院して肺炎の治療をおこなっても、喉の機能が衰えたままではしばしば誤嚥性肺炎を繰り返してしまいます。そこで、少しでも誤嚥性肺炎の再発を防ぐために重要なのが喉のリハビリです。

医療機関によって異なりますが、誤嚥性肺炎で入院した際には喉のリハビリの専門家である言語聴覚士(ST)がリハビリを手助けしてくれる場合があります。ご自身にあったリハビリをしっかりと習得し、退院後も継続できるような方法を入院中にマスターできると良いですね。

飲み込みのリハビリには非常に多くの方法があり、全てを挙げることはできませんが、いくつか具体的なリハビリ方法を以下に紹介します。

  • ゆっくりと舌を左右に振ったり、舌の出し入れをする
  • 上あごや舌の付け根に、冷たい水や氷をつけて刺激する
  • 顎二腹筋(あご下の筋肉)をマッサージする
  • 喉(のどぼとけ)を上下に大きく上げ下げする運動を繰り返す
  • 喉(のどぼとけ)を上げた状態で10秒間維持することを繰り返す など

入院中以外でも通院で飲み込みのリハビリができる医療機関もありますし、近年は耳鼻科医が主体となって嚥下トレーニング外来などを開設している医療機関もあります。普段からそういったリハビリや外来に通って誤嚥性肺炎を予防するというのも有効なリハビリ手段になるでしょう。大手動画検索サイトでも、「嚥下 トレーニング」などで検索すると、専門家がリハビリを紹介している動画も出てくるので、そちらも参考になるかもしれません。

写真:嚥下リハビリのイメージ

5. 禁煙はした方がよい?

タバコが誤嚥性肺炎を起こす直接の原因になるかどうかというデータは乏しいのが現状です。しかし、肺の健康のことを考えれば、禁煙が望ましいのは間違いありません。タバコはCOPD(肺気腫)など多くの肺の病気の原因になることが分かっています。もし誤嚥性肺炎になってしまった際にもともとの肺がダメージを受けている状態だと、誤嚥性肺炎の治療はさらに難しいものになってしまうでしょう。

喫煙の害をご説明しましたが、悪いと分かっていてもなかなか止められないのがタバコというものです。タバコを止められないのは、喫煙習慣の本質がニコチン依存という薬物依存症だからです。ご自身の強い意志で禁煙できる方は素晴らしいですが、タバコを吸ってしまうということは薬物依存症という病気のひとつと考えて医療機関を受診し、医療者と一緒に禁煙していきましょう。

自分の肺機能が悪いこと、胸部CTで肺がどれほどダメージを受けているか見ること、などにショックを受けて禁煙を決意する方もいます。吐いた息に含まれる一酸化炭素濃度を測定することで、禁煙の効果が速やかに目に見えることによりモチベーションを維持できる方もいます。ニコチンガムやニコチンパッチ、バレニクリン(チャンピックス®)などの薬物療法のおかげであまり苦労せずに禁煙できる方もいます。どんな治療が効果的かは個人差がありますが、禁煙外来は禁煙の大きな手助けになってくれるでしょう。

写真:喫煙のイメージ

6. 口腔ケア:歯磨きやうがい、入れ歯の手入れについて

誤嚥性肺炎の予防として口腔ケア(歯磨きなど)は重要であり、しっかりと口腔ケアが出来ていると肺炎になりにくいことが多くのデータで示されています。誤嚥性肺炎は口の中の常在菌が気管支や肺の中に落ち込んでくることで起きることも多いので、口の中を清潔にしておくことは重要です。誤嚥性肺炎になる方は寝たきりのことも多いので、自分で歯磨きなどの口腔ケアができない場合には介護・看護の一環として行うことになります。どのような歯磨き粉や消毒薬を使うべきか、ということに関して十分には分かっていません。

参考文献
日本呼吸器学会, 成人肺炎診療ガイドライン2017

7. 予防接種について

高齢者の肺炎予防として肺炎球菌ワクチン、インフルエンザウイルスワクチンを接種すると肺炎による入院や死亡が少ない傾向にあることが多くの研究で示されています。したがって、誤嚥性肺炎にかかったことのある患者さんや、かかる危険性の高そうな患者さんではこれらのワクチンを接種しておくことを強くお勧めします。

65歳以上で定期接種の対象となっている23価肺炎球菌ワクチンは5年ごと、インフルエンザウイルスワクチンは毎年接種するのが原則となります。

参考文献
日本呼吸器学会, 成人肺炎診療ガイドライン2017

写真:予防接種のイメージ

8. こんな人は誤嚥性肺炎に注意

誤嚥性肺炎は基本的に高齢者に起こる病気です。2011年以降、肺炎は日本人の死亡原因数として第3位を占め続けています(1位はガン、2位は心臓病です)。肺炎による死亡の96%以上は65歳以上の高齢者であり、高齢者肺炎の多くに誤嚥の関与があるので、誤嚥性肺炎は日本の高齢者死亡原因として大きな割合を占めていると言ってよいでしょう。

高齢者で起きやすい誤嚥性肺炎ですが、特に誤嚥性肺炎を起こしやすい方は以下のような特徴があります。

  • 脳の病気がある(脳卒中になったことがある、認知症パーキンソン症候群など)
  • 寝たきり状態
  • 口に異常がある(入歯が合わないなどの噛み合わせ障害、口の中のがあるなど)
  • 胃や食道に問題がある(胃切除後、胃癌食道癌逆流性食道炎食道憩室など)
  • 薬剤の副作用(睡眠薬や鎮静薬を使用している、口が乾燥する薬を使用中など)
  • 鼻や口からチューブで栄養を摂っている

写真:寝たきりのイメージ図

参考文献
・厚生労働省. 人口動態統計2016(平成28年)
・J Am Geriatr Soc 2008 ; 56 : 577-579.