ごえんせいはいえん
誤嚥性肺炎
食べ物を飲み込む際や、気づかないうちなどに、唾液や胃液、食物とともに細菌が気管に入り込むことで生じる肺炎
11人の医師がチェック 137回の改訂 最終更新: 2024.05.07

むせると危ない?誤嚥性肺炎とはどんな病気か

誤嚥性肺炎とは、主に喉の機能が低下することによって、飲食物や唾液などが菌とともに肺に入ることで起きる肺炎です。高齢者で多く見られます。ここでは誤嚥性肺炎の原因や診断、治療について解説します。

1. 誤嚥(ごえん)とはどういう意味か?

誤嚥とは、本来は食べ物の通り道である食道の方に流れるべき飲食物や唾液などが、空気の通り道である気管支や肺の方に入ってしまうことを指します。食べ物ではないものを誤って食べてしまうという意味の誤飲(ごいん)とは違う意味です。

用例:

  • 高齢者が吐いてしまって、嘔吐物を誤嚥した
  • 慌てて食事をしたら誤嚥した
  • 赤ちゃんがタバコを誤飲した
  • 子どもが乾電池を誤飲した

嚥下(えんげ)はどういう仕組み(メカニズム)で起こるのか

嚥下とは食べ物を飲み込み、食道・胃へと送ることを指します。口へんに燕(ツバメ)という難しい漢字で、ツバメがエサを丸呑みする様子が由来と言われています。

普段は無意識に行っている嚥下という行為ですが、実は舌や喉、食道などの絶妙な連携プレーによって成り立っている運動なのです。

イラスト:喉の断面図

イラスト:喉〜胸にある臓器の断面図

正常では、飲食物が中咽頭から下咽頭を通過するときに気管への入り口を喉頭蓋がフタしてくれたり、いったん食道に飲食物が入った後は食道の上の方の筋肉が収縮して逆流を防止することなどによって、誤嚥しない仕組みになっています。

覚える必要は特にありませんが、食べ物を目で見て認識してから飲み込むまでのメカニズムは、医学的に下記の5つの段階に分類されています。

  • (1)先行期:飲食物の形や量、質などを認識して心の準備をする
  • (2)準備期:飲食物を噛み砕き、飲み込みやすくする
  • (3)口腔期:飲食物を口の中から咽頭へと運ぶ
  • (4)咽頭期:飲食物を咽頭から食道へと送り込む
  • (5)食道期:飲食物を食道から胃へと送り込む

正式には、この(4)(5)の運動を合わせて嚥下と呼びます。

食べた時にむせたり咳が出たりすると危ない?

急いで食事をしたときや、話しながら食事をしたときなどにむせこんでしまった、咳が出た、といったことは誰もが経験している、あるいは見たことがある光景だと思います。空気の通り道である気管に飲食物を誤嚥してしまった際に、正常では咳反射(せきはんしゃ)という防御機能がはたらいて咳が出て、誤嚥したものを押し出そうとします。食事の時にむせたり咳をする、ということはおそらく誤嚥が起きているということになるので、誤嚥性肺炎になってしまう可能性があるという点で危ない症状であると言えるでしょう。

むせや咳がなければ安心なのか?

食事の時にむせたり咳が出ているということは、誤嚥している危険性が高いということは前項で説明した通りです。では、むせこみや咳がなければ必ずしも安全かというとそうではありません。高齢者や脳梗塞を起こしたことのある方など、誤嚥性肺炎を起こしやすい方ではそもそも咳反射の機能が低下しており、誤嚥しても押し出せない状態になっている場合があるからです。このように、ムセや咳こみが見られないのに誤嚥してしまうことを不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)と呼びます。誤嚥してもむせこんだり咳をして押し出せないということは、多くの飲食物がそのまま気管支や肺に入ってしまうこととなり、より危険な状態と言えます。

2. 誤嚥は老人に起こりやすい?赤ちゃんに起こりやすい?

誤嚥性肺炎は基本的には高齢者に起こる病気です。脳卒中認知症、食道の病気など様々な病気の影響で誤嚥しやすい状態になりますし、加齢に伴って喉の機能も低下してくるためです。

2011年以降、肺炎は日本人の死亡原因数として第3位を占め続けています(1位はがん、2位は心臓病です)。肺炎による死亡の96%以上は65歳以上の高齢者であり、高齢者肺炎の多くに誤嚥の関与があると考えられているため、誤嚥性肺炎は日本の高齢者死亡原因として大きな割合を占めていると言ってよいでしょう。

参考文献
・厚生労働省. 人口動態統計2016(平成28年)
・Teramoto S, High incidence of aspiration pneumonia in community- and hospital-acquired pneumonia in hospitalized patients : a multicenter, prospective study in Japan. J Am Geriatr Soc 2008 ; 56 : 577-579.

3. 誤嚥は赤ちゃんにも起こる?

赤ちゃんで誤嚥することもありますが、健康な赤ちゃんであれば激しくむせこむことで異物を気管から押し出すので、肺炎になることは滅多にありません。

ただし誤嚥性肺炎に注意が必要な場合としては、もともと脳や胃腸に病気のある赤ちゃんなどが挙げられます。特にもともと病気のない赤ちゃんが、治療を要するような誤嚥性肺炎を起こすことは滅多にないと考えてよいと思います。子どもの場合、肺炎を起こす原因は、誤嚥よりは一般的な細菌ウイルスによるものが圧倒的に多いです。子どもの肺炎に関して詳しく知りたい方はこちらのページもご覧ください。

4. 誤嚥性肺炎の診断に用いられる検査

熱がある、咳や痰が多い、呼吸が荒い、元気がない、意識がもうろうとしている、むせこんでいる様子がよく見られていた、など誤嚥性肺炎を疑う症状が見られる場合には、まず肺炎の有無を調べることになります。

肺炎が疑われる場合には様々な検査が行われることがありますが、最も基本的な検査は採血検査と画像検査です。採血検査では体内で炎症が起きていることの確認や、肺以外の臓器機能およびダメージの程度が分かります。画像検査は胸部X線レントゲン)検査や、胸部CT検査が行われます。画像検査では肺炎の有無を調べることが出来ます。誤嚥性肺炎の場合には左右両方の肺の下側の方に肺炎が見られることが多いです。

肺炎があることが確認された場合、それが誤嚥性肺炎なのかどうかを判断します。明らかに普段からむせこんでいる、ひどく嘔吐してむせこんでいた直後に肺炎が起きた、などの状況であれば、それらのエピソードと画像検査だけで誤嚥性肺炎と診断できることもあります。誤嚥による肺炎かそうでない肺炎か判断が難しい場合には、言語聴覚士(ST)や耳鼻科の医師が中心となって、飲み込みの機能を評価して、誤嚥がありそうかどうかを判断します。言語聴覚士や耳鼻科医が行う検査としては、水を飲ませてみる試験、食事を実際に摂る様子を観察する方法、喉頭ファイバー検査、嚥下造影検査などがあります。

参考文献
・日本呼吸器学会, 成人院内肺炎診療ガイドライン

写真:飲水試験の様子

5. 誤嚥性肺炎はどうやって診断するのか?

誤嚥性肺炎の診断基準というものが明確に定まっているわけではありませんが、診療ガイドラインでは飲み込みの機能が悪い患者さんや、明らかに誤嚥したことが確認された患者さんにおける肺炎を誤嚥性肺炎としています。

具体的には、胸部X線(レントゲン)検査や胸部CT検査などの画像検査で誤嚥性肺炎として矛盾しないような見た目の肺炎が出来ていてかつ、言語聴覚士や耳鼻科医の検査で飲み込みの機能が悪くなっていることが確認できれば誤嚥性肺炎と確定診断できるでしょう。ただし、飲み込みの機能を調べる検査は、医療機関によってどのようなものが行われるか異なることも多いです。また、誤嚥していることが明らかと考えられる場合には詳しい検査が省略されることもあります。

参考文献
・日本呼吸器学会, 成人院内肺炎診療ガイドライン

6. 誤嚥性肺炎にガイドラインはあるのか?

ガイドラインとは、学会などが病気の診断や治療方針に関して、大まかな指針を示したものです。日本中どこの医療機関にかかっても一定水準以上の医療を受けられるように、学会などが今までの研究成果を分かりやすくまとめたガイドラインを作っているわけです。ガイドラインはその分野の有名な専門医が集まって、検討に検討を重ねて作ったものですから、多くのケースでガイドラインにしたがった治療はベストな選択になるでしょう。ただし、医療は患者さんごとの年齢・体力・価値観、地域や医療機関ごとの医療事情などによってベストな選択が変わってくるものですから、ガイドラインを外れた診療をすることが必ずしも悪いものとは言えません。

誤嚥性肺炎に関しては、誤嚥性肺炎だけについて書かれたガイドラインは存在しません。しかし、「成人肺炎診療ガイドライン2017」、「医療・介護関連肺炎診療ガイドライン」、「成人院内肺炎診療ガイドライン」、などの中で誤嚥性肺炎の診療に関する指針について触れられており、それらを参考にして診療が行われます。

写真:ガイドラインのイメージ

7. 誤嚥性肺炎の薬物治療

誤嚥性肺炎は広い意味では一般的な肺炎に含まれるので、治療の基本的な考え方は一般的な肺炎と同じです。一般的な肺炎治療の考え方に関してはこちらのページもご参照ください。

一般的な肺炎治療との違いとしては、原因となる細菌が違うこと、高齢の方など全身状態が悪い方がかかりやすいこと、誤嚥そのものに対する対応が必要であること、などが挙げられ、このような違いを考慮した治療が必要です。

抗菌薬(抗生物質)

肺炎の治療において中心的な役割を果たすのが抗菌薬です。抗菌薬以外にも大事な治療はたくさんあるのですが、肺炎を起こしている原因が細菌であるからには、細菌を倒す薬である抗菌薬が重要であることは確かです。

誤嚥性肺炎では、口の中の常在菌や、嫌気性菌と呼ばれるタイプの細菌が悪さをしていることも多いので、これらの菌に有効な抗菌薬が選択されます。様々な菌が同時に関与することも多く、結局はどのような菌が原因だったか分からないことも多いのですが、痰や血液にいる菌の培養検査を行って、原因菌を突き止めようとすることも行われます。

誤嚥性肺炎に対してはまず抗菌薬による治療が行われますが、誤嚥性肺炎はそもそも高齢者など全身状態が悪い方が起こしやすい肺炎であり、治療は必ずしも上手くいくとは限りません。また、肺炎治療自体はうまくいっても、誤嚥そのものは繰り返すことが多いので、次第に元気がなくなっていき、誤嚥性肺炎を再発した時には治療が難しいというケースも多いです。

非常に繊細な話にはなりますが、誤嚥性肺炎においては積極的に肺炎治療を行えば必ずしも患者さんがラクになる、あるいは長生きできるようになるとは限りません。誤嚥性肺炎は老衰の一環として起きることや、他の病気の末期の状態に伴って起きることも多い病気です。そのようなケースでは、医療者と患者さんおよびご家族で十分に話し合ったうえで、積極的な治療を行わないで、つらい症状を緩和することに徹したケアのみを行う、ということも考慮されます。

誤嚥性肺炎の治療がうまくいけば元気に退院できるような患者さんでこのような話をされることは多くないでしょうが、ほぼ寝たきりのような状態の患者さんであれば医療者側からどのような最期を望んでいるのか、きかれるケースもあると思います。そのようなケースでは辛いことですが、治療を積極的に行うにしても行わないにしても死期が迫っている場合が多いことでしょう。積極的に出来る治療は何でもおこなっていきたいという考え方もありますし、死を受け入れて安らかな最期を迎えられるよう準備を進めていくという考え方も立派です。

誤嚥性肺炎による最期の迎え方は急に決められるようなものではないでしょうから、誤嚥性肺炎を繰り返すようになってしまった方では、辛いことですが入院して治療が始まる前から、どのような最期を迎えたいのか、考えておくのがよいと思います。どの程度死期が迫っているのか、ということは本人やご家族には分かりにくいことでしょうから、医療者とともにしっかりと話し合うことをお勧めします。

参考文献
・日本呼吸器学会, 成人肺炎診療ガイドライン2017

去痰薬(痰切り)

去痰薬は、痰をやわらかくして気管や気管支の詰まりを改善したり、痰と一緒に細菌を体外に排出しやすくする薬です。薬の成分によっても作用が異なるため場合によっては複数の去痰薬を同時に使う場合もあります。

主に痰をやわらかくする作用を持つ薬としてカルボシステイン(商品名:ムコダイン®など)、アセチルシステイン(ムコフィリン®など)、フドステイン(クリアナール®、スペリア®)などがあり、主に気道の分泌を促進して線毛運動を促す薬としてアンブロキソール(ムコソルバン®など)、ブロムヘキシン(ビソルボン®など)、生薬のセネガやキョウニンなどが使われています。

誤嚥性肺炎では痰が詰まってうまく出せないことも多いので、去痰薬はしばしば使われます。ただし、誤嚥性肺炎になるのは高齢者など全身状態の悪い方が多く、寝返りを自力で打てない場合もしばしばなので、そのようなケースでは去痰薬の使用に合わせて、頻繁に体位を変えてあげることで痰を出しやすくすることも大事です。必要に応じて胸や背中を押したり(スクイージングと呼びます)、吸引チューブで口から痰を吸う処置を追加で行うことで、痰を吐き出す効果が高まります。

写真:排痰のイメージ

誤嚥の予防効果が期待される薬

誤嚥性肺炎を予防できる可能性のある薬が今までの研究でいくつか報告されており、時々用いられることがあります。ただし以下に紹介する薬は、誤嚥性肺炎そのものに対しては保険診療の適用がないものが多いです。また、誤嚥性肺炎の予防効果があるという報告はありますが、現時点でまだ確実に効くと言えるだけの証拠は不十分です。そのため、誤嚥性肺炎を起こしやすい患者さん皆さんで必ずしも使われるような薬ではありません。

血圧を下げる薬の一種であるACE阻害薬(タナトリル®、レニベース®、コバシル®、カプトリル®など)と呼ばれるものや、主にパーキンソン症候群治療で使われるアマンタジン(シンメトレル®など)は体内でサブスタンスPと呼ばれる物質を増やす効果があります。サブスタンスPが増えると、誤嚥しかけた際に咳をしたりむせこむ機能が良くなるため、誤嚥が減ると考えられています。

血液をサラサラにする薬の一種であるシロスタゾール(プレタール®など)は、誤嚥の原因となる小さな脳梗塞を予防することにより誤嚥性肺炎を減らすと考えられています。

その他、漢方薬である半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)を内服すると飲み込みの機能がよくなることによって誤嚥性肺炎が減った、胃瘻の患者さんで胃腸の動きが良くなる薬(ガスモチン®など)を使用すると誤嚥性肺炎が減った、などの報告もあります。

参考文献
Lancet 1998 Sep 26; 352(9133): 1069. Neurology 2005 Feb 8; 64(3) : 573-4.
・J Am Geriatr Soc 2001 Jan; 49(1) : 85-90.
・Cerebrovasc Dis 2006; 22(1) : 57-60.
・J Am Geriatr Soc 2007 Dec; 55(12) : 2035-40.
・J Am Geriatr Soc 2007 Jan; 55(1): 142-4.

写真:薬剤のイメージ

8. 誤嚥性肺炎の予防に役立つもの

誤嚥性肺炎の予防として、薬以外では口腔ケア(歯磨きなど)がまず挙げられます。誤嚥性肺炎は口の中の常在菌が気管支や肺の中に落ち込んでくることで起きることも多いので、口の中を清潔にしておくことは重要です。誤嚥性肺炎になる方は寝たきりのことも多いので、自分で歯磨きなどの口腔ケアができない場合には介護・看護の一環として行うことになります。どのような歯磨き粉や消毒薬を使うべきか、ということに関して十分には分かっていません。

また、誤嚥性肺炎の原因菌として肺炎球菌が関与することもあると考えられ、肺炎球菌ワクチンを打っておくことも重要です。ほかのワクチンでは、誤嚥性肺炎との関連性は別としても、毎年インフルエンザワクチンを接種しておくことは大事です。高齢の方ではインフルエンザで入院を要するほど体調が悪化してしまったり、インフルエンザに引き続いて肺炎にかかってしまうケースも多くあります。

その他、口の中に刺激があると体内でサブスタンスPと呼ばれる物質が増えると言われています。サブスタンスPが増えると、誤嚥しかけた際に咳をしたりむせこむ機能が良くなるため、誤嚥が減ると考えられています。口の中に刺激のある食べ物としては、温かいあるいは冷たい食べ物、カプサイシンなどの刺激物などが挙げられます。口腔ケアは、口の中を清潔にするだけでなく、口の中の刺激になるという点でも有効であると指摘されています。

食べ物の工夫としては、水分を摂るときにとろみのあるものにすることも有効です。サラサラとした水分は誤嚥しやすいことが分かっています。とろみのつけ方は、片栗粉やコーンスターチを入れて加熱したり、ゼラチンを利用しても良いですし、市販のとろみ調整剤を使うこともお勧めです。食べたあとすぐに横になると、食べたものが逆流して誤嚥しやすくなるので、食事後はしばらく上半身を起こしておく方が良いと思います。

写真:とろみ付きの食事のイメージ

参考文献
・日本呼吸器学会, 成人肺炎診療ガイドライン2017
・BMJ 2010 Mar 8 ; 340 : c1104.