ごえんせいはいえん
誤嚥性肺炎
食べ物を飲み込む際や、気づかないうちなどに、唾液や胃液、食物とともに細菌が気管に入り込むことで生じる肺炎
11人の医師がチェック 136回の改訂 最終更新: 2023.09.19

誤嚥性肺炎の治療(抗菌薬、人工呼吸器、胃ろうなど)

誤嚥性肺炎の治療は抗菌薬抗生物質)が中心となります。しかし、それ以外にも人工呼吸器や胃ろうをどうするか、など難しい判断を迫られる場合もあります。以下では誤嚥性肺炎の治療戦略について、丁寧に解説します。

1. 薬物療法

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)は広い意味では一般的な肺炎に含まれるので、治療の基本的な考え方は一般的な肺炎と同じです。一般的な肺炎治療の考え方に関してはこちらのページもご参照ください。

一般的な肺炎治療との違いとしては、原因となる細菌が違うこと、高齢の方など全身状態が悪い方に多い肺炎であること、誤嚥そのものに対する対応が必要であること、などが挙げられます。そこで誤嚥性肺炎に対してはこれらの違いを考慮した治療が必要になります。

抗菌薬(抗生物質)

肺炎の治療において中心的な役割を果たすのが抗菌薬です。抗菌薬以外にも大事な治療はたくさんあるのですが、肺炎を起こしている原因が細菌であるからには、細菌を倒す薬である抗菌薬が重要であることは確かです。誤嚥性肺炎では一般的な肺炎と違って、口の中の常在菌や、嫌気性菌と呼ばれるタイプの細菌が悪さをしていることも多いので、これらの菌に有効な抗菌薬が選択されます。様々な菌が同時に関与することも多く、結局はどのような菌が原因だったか分からないことも多いのですが、痰や血液にいる菌の培養検査を行って、原因菌を突き止めようとすることも行われます。

去痰薬(痰切り)

去痰薬は、痰をやわらかくして気管や気管支の詰まりを改善したり、痰と一緒に細菌を体外に排出しやすくする薬です。薬の成分によっても作用が異なるため場合によっては複数の去痰薬を同時に使う場合もあります。

主に痰をやわらかくする作用を持つ薬としてカルボシステイン(商品名:ムコダイン®など)、アセチルシステイン(ムコフィリン®など)、フドステイン(クリアナール®、スペリア®)などがあり、主に気道の分泌を促進して線毛運動を促す薬としてアンブロキソール(ムコソルバン®など)、ブロムヘキシン(ビソルボン®など)、生薬のセネガやキョウニンなどが使われています。

誤嚥性肺炎では痰が詰まってうまく出せないことも多いので、去痰薬はしばしば使われます。ただし、誤嚥性肺炎になるのは高齢者など全身状態の悪い方が多く、寝返りを自力で打てない場合もしばしばなので、そのようなケースでは去痰薬の使用に合わせて、頻繁に体位を変えてあげることで痰を出しやすくすることも大事です。必要に応じて胸や背中を押したり(スクイージングと呼びます)、吸引チューブで口から痰を吸う処置を追加で行うことで、痰を吐き出す効果が高まります。

写真:排痰のイメージ

ステロイド薬

ステロイドとはもともと人間の副腎皮質という場所で作られているホルモンであり、炎症を抑えたり、ミネラルのバランスを整えたり、様々な作用があります。これを体外から補充するのがステロイド薬です。誤嚥性肺炎の場合には数日から1週間ほどの期間で、抗菌薬での治療と並行して点滴または内服で使用することがあります。

ステロイドを使用すると肺炎の重症度が低めになった、炎症の値や発熱が早く良くなった、などの報告があります。また、ステロイド薬と聞くと副作用の強い薬だと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんし、実際に月単位・年単位で使用していけば副作用に十分注意が必要な薬であることには間違いありません。しかし、誤嚥性肺炎に対して用いられる程度の用量・期間であれば目立った大きな副作用が見られることはまれです。

誤嚥性肺炎に対するステロイド薬の使用に関してはさほどデータが多いわけではないので、使用することを強く推奨されるようなものではありません。患者さんの状況や医療機関の方針によって使われることも使われないこともあります。

参考文献
畠山 忍ほか, 誤嚥性肺炎に対する抗生物質と少量ステロイドホルモン併用療法の短期効果の検討. 日本胸部疾患学会雑誌33巻(1995) 1号 p. 51-56.

誤嚥予防が期待される薬

誤嚥性肺炎を予防できる可能性のある薬が今までの研究でいくつか報告されており、時々用いられることがあります。ただし以下に紹介する薬は、誤嚥性肺炎そのものに対しては保険診療の適用がないものが多いです。また、誤嚥性肺炎の予防効果があるという報告はありますが、現時点でまだ確実に効くと言えるだけの証拠は不十分です。そのため、誤嚥性肺炎を起こしやすい患者さん皆さんで必ずしも使われるような薬ではありません。

血圧を下げる薬の一種であるACE阻害薬(タナトリル®、レニベース®、コバシル®、カプトリル®など)と呼ばれるものや、主にパーキンソン症候群治療で使われるアマンタジン(シンメトレル®など)は体内でサブスタンスPと呼ばれる物質を増やす効果があります。サブスタンスPが増えると、誤嚥しかけた際に咳をしたりむせこむ機能が良くなるため、誤嚥が減ると考えられています。

血液をサラサラにする薬の一種であるシロスタゾール(プレタール®など)は、誤嚥の原因となる小さな脳梗塞を予防することにより誤嚥性肺炎を減らすと考えられています。

その他、漢方薬である半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)を内服すると飲み込みの機能がよくなることによって誤嚥性肺炎が減った、胃瘻の患者さんで胃腸の動きが良くなる薬(ガスモチン®など)を使用すると誤嚥性肺炎が減った、などの報告もあります。

なお、胃薬としてよく使われるPPI(プロトンポンプ阻害薬: proton pump inhibitor)というタイプの薬では、誤嚥性肺炎を含めた肺炎を起こす頻度が増える可能性があると指摘されています。PPIは胃酸を抑える薬なので、胃酸が減ることによって胃の中での殺菌効果が弱まることなどが原因として考えられていますが、あまりハッキリとしたデータはありません。いずれにしても、誤嚥性肺炎を起こされた方でPPIを内服している場合には、普段PPIを処方しているかかりつけ医に今後も内服を続けた方がよいのか相談してみるとよいでしょう。PPIとしてはボノプラザン(タケキャブ®)、オメプラゾール(オメプラール®など)、エソメプラゾール(ネキシウム®)、ラベプラゾール(パリエット®など)、ランソプラゾール(タケプロン®など)があります。

参考文献
・Lancet 1998 Sep 26; 352(9133): 1069. Neurology 2005 Feb 8; 64(3) : 573-4.
・J Am Geriatr Soc 2001 Jan; 49(1) : 85-90.
・Cerebrovasc Dis 2006; 22(1) : 57-60.
・J Am Geriatr Soc 2007 Dec; 55(12) : 2035-40.
・J Am Geriatr Soc 2007 Jan; 55(1): 142-4.
・Front Gastroenterol 2009; 14: 263-70. 
JAMA 2004 Oct 27; 292(16): 1955-60.

写真:薬剤のイメージ

2. 酸素療法

誤嚥性肺炎になって肺がダメージを受けると、肺で十分に酸素を取り込めなくなるので体が酸欠状態になる場合があります。誤嚥性肺炎が重症の場合には酸欠になりやすいですし、もともと何らかの肺の病気があるところに誤嚥性肺炎を併発してしまった場合にも酸欠になりやすいです。酸欠の程度を判断するためには、厳密には動脈血液ガス分析を行いますが、簡単にはパルスオキシメータという装置を指などにつけて血液中の酸素濃度をチェックします。例外もありますが、パルスオキシメータで測った酸素の値が94%未満程度の場合には、体外から酸素を投与する必要があります。酸素療法が必要なほどの誤嚥性肺炎であれば、基本的には入院が必要となるでしょう。

入院して酸素療法を行う場合には、病室の配管から酸素をチューブで引っ張ってきて吸い込みます。基本的には肺炎が改善するなどして酸素の値が良くなってくるまで終日酸素を吸い続ける必要がありますが、もともと歩行時など運動時だけ酸欠になる場合には、移動時だけ酸素ボンベから酸素を吸入することになります。

酸素は1分間に1リットルから15リットルくらいの量を追加で吸い込むことが多いです。15リットル/分より多く大量に酸素を配管から流しても、肺が十分に有効に吸い込めないことが多いため、15リットル/分ほどが酸素療法の限界です。15リットル/分ほどの酸素を吸っても酸欠状態の場合には人工呼吸器を使うかどうかを考えることになります。

酸素の吸い方としては、4リットル/分以下くらいの酸素流量の場合には鼻から酸素吸入を行うのが一般的です。鼻カヌラ、あるいは鼻カニューレと呼ばれるチューブを使います。鼻から酸素吸入をすると口に器具を装着しなくてよいため、飲食や歯磨き、会話などがしやすいというメリットがあります。

4リットル/分以上くらいの酸素流量になってくると、鼻からの酸素吸入も可能ではありますが鼻が乾いて辛いのが問題になってきます。そのため、4リットル/分以上くらいの酸素流量では酸素マスクをつけることが多いです。あまり少なすぎる流量で酸素マスクを使うと、自身が吐き出した息をもう一度吸ってしまうことになるため望ましくありません。7-8リットル/分以上くらいの高流量で酸素マスクを使用する場合には、より効率的に酸素を吸えるように、酸素を貯める袋のくっついたリザーバーマスクと呼ばれるマスクを使用します。

また、近年は15リットル/分を超える大量の酸素を鼻から吸入ができるネーザルハイフローという機械もあります。ネーザルハイフローは鼻の中に圧力をかけることで、肺が吸い込む力を助けます。さらに酸素を限界まで加湿することで、鼻の負担も少なくします。この機械を使う場合には鼻からでも大量の酸素を吸うことが出来ますが、どの施設にでもあるような機械ではありません。

写真:酸素マスク

3. 人工呼吸器

重症の誤嚥性肺炎では肺が十分に酸素を取り込めなくなります。そうなったときには鼻から、あるいはマスクで酸素を吸入する治療を行いますが、それでも体が酸素不足に陥っている場合には人工呼吸器を使用するかどうか、という状況になってきます。人工呼吸器を使うかどうか、使うならばどの種類にするかはきわめて重大な判断です。誤嚥性肺炎は喉の機能が落ちてくることによって、しばしば繰り返し起きる病気です。初めて起きた誤嚥性肺炎でそこまで深く考えておくのは難しいことではありますが、いざという時に人工呼吸器を使うかどうかという点は、あらかじめ家族やかかりつけ医と相談しておくべき点です。

人工呼吸器の種類としては大きく分けて2種類あります。マスク型の人工呼吸器(NPPV: Non-invasive Positive Pressure Ventilation)と、空気の通り道である気管に口から管を入れて、つまり気管挿管して行うタイプの人工呼吸器(IPPV: Invasive Positive Pressure Ventilation)があります。

NPPVのメリットとしては、装着がIPPVに比べて簡単で、なんとか会話や飲水ができ、状況に応じて中止しやすいなどの点があります。また、NPPVは施設にもよりますが、集中治療室(ICU)でなく一般病棟で使えることもあります。しかしデメリットとして、患者さんが苦しくて自分でマスクを外そうとしてしまう場合などは使えません。またIPPVよりも看護師や医師が痰を吸引するのが難しいので、痰詰まりになりやすい点もあります。マスク脇からの空気漏れの問題などもあります。

IPPVのメリットとしては、確実に空気の通り道が確保できて痰詰まりの危険がNPPVよりも減ります。また、自分でマスクを外してしまうといった心配もありません。しばしば鎮静薬も併用して、NPPVよりも安定した状態で装着し、呼吸を補助します。しかしデメリットとして、鎮静薬を使うことになるので意思疎通がやや困難になりますし、気管挿管中は水を飲んだり食事は出来なくなります。集中治療室への入室も必要になります。気管挿管が長期に及ぶ場合(目安としては2週間程度)には、首の正面を数cmほど切開して、その穴から直接人工呼吸器を接続する小手術(気管切開)が必要になります。気管切開をすることで、口の中を清潔にできますし、患者さんの苦痛が減るからです。患者さんの状態がそれなりに良ければ、気管切開後には口から食事を摂ることもできます。

このようにメリットやデメリットをそれぞれの患者さんの状況に合わせて考慮し、人工呼吸器を選びます。

気を付けてほしいのは、人工呼吸器をどう使うかで、生命の終わりの迎えかたが決まってしまう可能性があるという点です。人工呼吸器をつけるかつけないかはきわめて重大な判断です。

前提として、人工呼吸器が必要なほど重症の誤嚥性肺炎は生死の瀬戸際であり、非常に危険な状態です。具体的なデータは多くありませんが、人工呼吸器を要するほどの誤嚥性肺炎ではそのまま亡くなってしまうケースも多いです。また、仮に生存して退院できても元の生活に戻れるとは限りません。誤嚥性肺炎での入院をきっかけに、人工呼吸器を使い続けないと呼吸が維持できない状態になってしまうこともあります。「もう生きていても辛い。人工呼吸器を外してほしい」、とご家族や患者さん自身が医師に頼むような状況は、とても辛いことですが実際にあります。そうした場合、日本の医療の現状では、一度装着した人工呼吸器は患者さんの病状が回復して人工呼吸器が不要にならない限り外すことは難しいです。

もちろん、人工呼吸器を一時的に使うことで回復し、人工呼吸器から離脱して退院できる望みはあります。しかし希望と隣り合わせに、患者さんが苦しむだけの結果に終わってしまう可能性もしばしばあることは重要です。どちらになるかはやってみなければわからない要素が大きいのです。

では人工呼吸器をつける以外にどんな選択がありえるのでしょうか。それは人工呼吸器をつけないということです。もちろん人工呼吸器を検討されている状況ですので、人工呼吸器を使わないと決めることは、もし状態が改善しなければそれ以上の苦痛を与える治療はせず看取るという判断を意味します。こちらも楽に選べることではありませんが、「人工呼吸器を使って最後まで治療を続ける」と決めない限りは、いつかこの決断を迫られることになります。

誤嚥性肺炎で入院するという緊迫した状況で、人工呼吸器をつけるかつけないかという重大な判断をすぐにするのは難しいと思います。誤嚥性肺炎を起こしたことのある患者さん、ご家族は、いざ人工呼吸器が必要となったらどうするか、普段から家族内やかかりつけ医で相談しておくべきでしょう。日本呼吸器学会が2017年に発表したガイドラインでも、患者さん個人の価値観に照らして、人工呼吸器や強力な抗菌薬による治療を行わないという判断も含めて治療内容を検討するよう推奨しています。NPPVは行うがIPPVは行わない、などの選択をされる方もいらっしゃいます。

重症の経過の中では予想しなかったこともしばしば起こります。あるとき「人工呼吸器はつけない」と決めて治療を続けていたとしても、状況が変われば気持ちが変わるかもしれません。もちろん逆もありえます。医師に一度伝えた希望を後で変えることはできます。決断の根拠になるのは、最後には患者さん本人や家族の価値観です。気持ちが変わったときにはもう一度話し合うこともできるでしょう。できるだけ現在の状況で納得できる選択を考えてください。

参考文献
・日本呼吸器学会, 成人肺炎診療ガイドライン2017

4. 経管栄養、胃ろう

誤嚥性肺炎で入院した場合にはいったん飲食は禁止にして、必要な水分や最低限の栄養分は点滴から補われることが多いです。誤嚥性肺炎で弱っている状況で飲食をすることによって、さらに誤嚥を繰り返してしまい重症化する可能性があるからです。

治療が順調にいって、少しずつ喉のリハビリをおこなって飲食を再開できるようになれば最も望ましい経過なのですが、残念ながら食事を再開すると必ず誤嚥してしまう患者さんもいらっしゃいます。点滴で補える栄養分には限りがありますし、胃腸を長期間使わないでおくと胃腸がどんどん弱ってしまうことが分かっています。

そこで、経管(けいかん)栄養や胃瘻(いろう)という方法によって、胃腸から栄養を取れるようにすることがあります。

経管栄養

長期間食事を摂れないような患者さんには、鼻や口から管をいれて栄養分や水分を胃腸に流し込む経管栄養という治療がしばしば行われます。鼻から管を入れることが多く、経鼻胃管(けいびいかん)あるいはNGチューブなどと呼ばれます。

イメージ:経管栄養の図

経管栄養を行えば十分な栄養分が補給できるようになりますし、胃腸をつかった栄養補給になるので胃腸が弱っていく心配はありません。しかし、異物である管が喉を通っているため、喉の機能には悪影響であると考えられ、唾液や、胃から逆流してきた栄養分などを誤嚥する危険性はそれなりに高いと考えられています。管による違和感があるので、ご自身で管を引き抜いてしまうなどのトラブルもよく起こります。

そこで、喉に異物を通すことなく胃に栄養や水分を注入する方法として胃瘻が考えられます。

胃瘻

胃瘻とはお腹の表面から胃に通じる穴のことです。穴を開ける手術をおこなって、胃に直接栄養や水分を注入できるようにします。手術は内視鏡を使った15分から30分程度のものになることが多いです。しかし、胃瘻を作ってもやはり唾液や、胃から逆流してきた栄養分などを誤嚥する危険性はそれなりに高いと考えられています。経鼻胃管と胃ろうでは誤嚥性肺炎が起きる頻度はあまり変わらないとする報告もあり、肺炎を予防するために胃瘻をつくることは推奨できません。胃ろうはあくまで、口から食べられない人の栄養補給手段と考えるべきでしょう。

では、口から食べられなくなってしまった患者さん皆さんで胃ろうをつくるべきなのでしょうか?それは病状と、患者さん本人・ご家族の考え方次第と言うべきでしょう。

例えば、喉の病気で口から食事は摂れなくなってしまったけれども、その他の面ではご自身で歩けるくらい元気というような方ではぜひ胃ろうをつくることをお勧めしたいと思います。

一方で、寝たきりでほとんどコミュニケーションもとれないご高齢の患者さんでは、ご本人のもともとの意思や、ご家族の希望に応じて胃ろうの是非を考えていくのがよいと思います。胃ろうをつくってしっかりと栄養補給をして少しでも長生きをするのが残された人生において重要だという考え方もあってよいでしょうし、口から食事を摂れなくなること、すなわち喉の寿命を人生の寿命として、自然な最期を大事にするという考え方も立派な考え方でしょう。

胃ろうをつくるかつくらないか、という選択は人生の最期の迎え方に関する大事な決断になりえます。誤嚥性肺炎を起こしたことのある患者さんでは、今後口から食べるのがいよいよ難しくなった際に胃ろうをつくるかどうか、考えておくと良いと思います。ご自身やご家族だけでの判断が難しい場合には、かかりつけ医・担当医にも相談してみましょう。

参考文献
・日本呼吸器学会, 医療・介護関連肺炎診療ガイドライン2011

5. リハビリテーション

誤嚥性肺炎は主に喉の機能が低下することによって、飲食物や唾液などが菌とともに肺に入ることで起きる肺炎です。なので、入院して肺炎の治療をおこなっても、喉の機能が衰えたままではしばしば誤嚥性肺炎を繰り返してしまいます。そこで、少しでも誤嚥性肺炎の再発を防ぐために重要なのが喉のリハビリです。

医療機関によって異なりますが、誤嚥性肺炎で入院した際には喉のリハビリの専門家である言語聴覚士(ST)がリハビリを手助けしてくれる場合があります。ご自身にあったリハビリをしっかりと習得し、退院後も継続できるような方法を入院中にマスターできると良いですね。

飲み込みのリハビリには非常に多くの方法があり、全てを挙げることはできませんが、いくつか具体的なリハビリ方法を以下に紹介します。

  • ゆっくりと舌を左右に振ったり、舌の出し入れをする
  • 上あごや舌の付け根に、冷たい水や氷をつけて刺激する
  • 顎二腹筋(あご下の筋肉)をマッサージする
  • 喉(のどぼとけ)を上下に大きく上げ下げする運動を繰り返す
  • 喉(のどぼとけ)を上げた状態で10秒間維持することを繰り返す など

入院中以外でも通院で飲み込みのリハビリができる医療機関もありますし、近年は耳鼻科医が主体となって嚥下トレーニング外来などを開設している医療機関もあります。普段からそういったリハビリや外来に通って誤嚥性肺炎を予防するというのも有効なリハビリ手段になるでしょう。大手動画検索サイトでも、「嚥下 トレーニング」などで検索すると、専門家がリハビリを紹介している動画も出てくるので、そちらも参考になるかもしれません。

写真:嚥下リハビリのイメージ

6. 手術:喉頭気管分離術など

誤嚥性肺炎を起こす場合、まずは喉の機能を改善するようなリハビリテーション、食事形態の工夫、食器の工夫、飲み込みやすい体勢で食事を摂ること、誤嚥を予防するような薬を試してみること、などが基本的な治療になります。

しかし、それでも誤嚥を繰り返す場合には手術による誤嚥防止法も考慮されます。誤嚥性肺炎を繰り返すほど全身の状態が悪い方に対して手術まで行うことは決して多くありませんが、口から食事を摂ることに対して強いご希望のある場合などでは考慮されます。手術は耳鼻科医が行うことが一般的です。

誤嚥性肺炎に対する手術にはどんな方法がある?

誤嚥性肺炎に対する喉の手術にはまず大きく分けて、声を出す機能を温存する手術と、温存しない手術があります。しかし、発声機能を温存した手術の場合には手術しても誤嚥の危険が残るため、基本的には発声機能を温存しない手術が行われます。発声機能を温存しない手術としては、喉頭気管分離術(こうとうきかんぶんりじゅつ)、気管食道吻合術、喉頭全摘術、声門縫着術などがあります。これらのうち、手術時間が短くて済み、誤嚥を防止する効果も確実であることなどから、喉頭気管分離術が最も多く行われています。

喉頭気管分離術

喉頭気管分離術では喉頭蓋の少し下の部位で気管を閉じてしまい、代わりに閉じた部位の少し下側の気管に向けて、首から開けた永久気管孔という穴から呼吸ができるようにします。閉じた気管の上側が咽頭からぶら下がった袋状の形になるので、飲食物が溜まって悪臭がする場合や、咳が出る場合などはありえますが、この手術を行えば唾液や飲食物が気管の方に流れることは物理的に起こりえなくなります。もともと会話はできないくらいの元気さではあるが、食事はなんとかでき、しばしば誤嚥をしている、というような場合であればこの手術を検討してみるのも良いかもしれません。

永久気管孔は喉頭がん術後の患者さんで作られることが多く、永久気管孔に関してはこちらのページで詳細に説明しています。

参考文献
耳鼻臨床 92:2 ; 173-178, 1999.

イメージ:喉の断面図

イラスト:喉から胸の臓器の断面図