尿道炎の検査:診察・尿検査や調べておくべき病気(梅毒、HIVなど)
尿道炎の検査の目的は、尿道炎かどうかを確かめることや、尿道炎が起きている原因について調べることです。このページでは尿道炎の診断に用いる検査について解説し、尿道炎とともに調べておくべき病気についても解説します。
1. 尿道炎の診察や検査の目的
尿道炎の診察や検査を行う目的について説明します。尿道炎に検査は必要なのでしょうか?
たとえば、症状だけで診断はできないのでしょうか。
尿道炎の症状は他の病気でも現れることがあります。そのため症状だけで診断はできません。症状の原因が尿道炎でなければ当然ながら治療の方針は大きく変わります。そこで検査を使って原因を特定する必要があります。
尿道炎と診断した後には、尿道炎の原因を詳しく調べます。尿道炎のほとんどは淋菌やクラミジアを原因とするいわゆる性病です。淋菌とクラミジアは同じ性病とひとくくりにされますが、淋菌とクラミジアでは治療に用いる薬が違うので、どちらが尿道炎の原因になっているか、または2つがともに原因になっているかを特定するのは大切です。
では尿道炎で用いる検査にはどのようなものがあるのでしょうか。尿道炎の検査の一覧は以下のものになります。
【尿道炎で用いられる診察や検査】
- 診察
問診 - 身体診察
- 尿検査
- 尿定性検査
- 尿沈渣
細菌検査 - 塗抹検査
培養検査 - 遺伝子検査(PCR法など)
尿道炎は様々な検査を用いて調べていきます。以下の章では検査の特徴やどんなことがわかるのかなどを中心にして個別に解説をしていきます。
2. 尿道炎の診察
尿道炎の診察には問診や身体診察を用います。尿道炎は診察で診断に重要な情報を得ることができます。
参考文献
・青木 眞, レジデントのための
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014
問診
問診で症状などをチェックすることで、原因となっている病気を推測するのに役立ちます。以下は尿道炎で受診した場合の問診の例です。
【尿道炎で用いられる問診の例】
- どんな症状か
- いつ症状に気づいたか
- 身体のどこに症状が出ているか
- 性行為について
- 最後に性行為をしたのはいつか
- 不特定多数と性行為をしたか
- 風俗店などへの出入りはしたか
- 口腔性交(フェラチオ、クンニリングスなど)はするか
- 肛門性交(アナルセックス)はするか
- コンドームは使用するか
- 治療中の持病はあるか
- 今までに治療した病気はあるか
- 内服している薬はあるか
- 女性への質問
- 膣分泌物の変化はあるか(量・におい・色など)
- 妊娠はしているか/過去に妊娠したことがあるか
- 最後の月経はいつか
- 生理不順はないか
尿道炎が疑われる場合の問診について紹介しました。尿道炎の問診内容は性行為などに関する質問も多くに答えにくい内容になっています。尿道炎は淋菌やクラミジアなどの性感染症が原因のほとんどを占めます。性感染症を調べる上で問診は大きなヒントになります。例えば最後に性交渉をしてから症状が出るまでの期間を調べることは、淋菌かそれ以外の病原体が原因かを判断する材料になります。
問診は原因となる病気を調べる上でとても大切なのですが、性行為などについて詳しく聞かれるとと恥ずかしさから本来とはちがう答えをしてしまうこともあります。性行為などのデリケートな内容には答えにくいので、ついつい本当のことを打ち明けられない気持ちはよく理解できます。しかし病気を治すという視点で考えると、本来とは違う答えは診療に不利益をもたらす可能性もあります。問診ではありのままに正確に答えることが大切です。答えにくい質問も自分の身体のためと思って勇気をだしてみてください。
身体診察
身体診察では体を観察したり触ったりしてどんな症状が出ているか、体に目に見える変化があるかを調べます。必要に応じて男性では肛門から指を入れて直腸越しに
尿道などの陰部を診察されるのを想像すると嫌な気持ちになると思います。そんなときは身体診察は治療につながるとても大切なものと考えてみてください。例えば前立腺炎という病気が尿道炎と同時に起こっていると治療方針が変わってきます。問診と同じですが自分の身体のためと思って一歩踏み出してください。身体診察を受けるにあたって不安なことがあれば医師に尋ねて不安を解消しておくこともよいと思います。
3. 尿検査
尿検査は尿の内容をしることができます。尿の通り道である尿道を調べるのには重要な検査です。尿検査には尿定性(尿定性検査)と尿沈渣(にょうちんさ)の2つの種類があります。2つの検査で調べられるものが異なります。
- 尿定性:
白血球 やタンパク質、血液などの有無や量を調べる検査 - 尿沈渣:尿を機械で遠心分離して沈殿したものを顕微鏡を用いて観察する
尿定性は短時間で結果が判明する点が優れています。尿の状態を大まかに知るためには尿定性が便利です。ただし尿定性検査では調べられる項目が限られているので尿の状態を詳しく調べることはできません。尿の状態を詳しく調べるには尿沈渣の方が向いています。
尿沈渣は尿を機械で遠心分離して沈殿したものを顕微鏡で観察する検査です。尿を人の目で観察するので
尿検査だけで尿道炎は診断できませんが、他の病気の可能性を判断するためには尿検査が参考材料になります。
4. 細菌学的検査
細菌学的検査は尿道炎を起こしている細菌がどんな種類なのかを調べる検査です。細菌学的検査は細菌がいそうなものを対象(
塗抹検査(とまつけんさ)
塗抹検査は細菌がいる可能性がある尿などの体液をスライドガラスに薄く塗って顕微鏡で観察する検査です。尿道炎の場合は尿道をぬぐって取り出した尿道ぬぐい液を使います。塗抹検査は尿道炎の原因菌になりやすい淋菌を探すのに主に用いられます。
塗抹検査は10-30分程度で結果がわかるので治療に取り掛かる前に検査結果を知ることができます。塗抹検査の中でもグラム染色という方法が尿道炎の診断や淋菌を見つけるのに有効です。
ただし、同じ淋菌でも、特定の抗菌薬が効きにくくなっている(
培養検査(ばいようけんさ)
培養検査は体液や尿を細菌が育ちやすい環境下に置いて、検体に含まれている細菌を発育させて調べる検査です。尿道炎では主に淋菌を見つける役に立ちます。尿道をぬぐって取り出した液体を用いて細菌の
培養検査では細菌の数が増えるので細菌の名前や抗菌薬の効果まで調べることができます。ただし、細菌を増殖させるので結果がわかるまでに時間を要します。
遺伝子検査
尿道炎で用いる遺伝子検査は、尿の中にある細菌のDNAという物質を増やすことにより、どんな菌が尿中にいるのかを調べます。DNAを増やすにはPCR法という方法がよく用いられます。
遺伝子検査は淋菌やクラミジアを調べる際に使う検査で、培養検査と比べて診断する力が優れています。遺伝子検査は尿道炎を疑った場合に最も重要な検査の一つです。
5. 尿道炎とともに調べておく病気:梅毒、HIV、B型肝炎
淋菌やクラミジアは主に性行為で感染します。性行為によって複数の病原体に感染することもあります。そのため、尿道炎の原因が淋菌やクラミジアが原因であった場合は、他の性感染症にもかかっている可能性があります。
ここでは尿道炎が見つかった場合に調べておくべき性感染症について解説します。
梅毒
梅毒は梅毒トレポネーマという細菌が感染することで起こる病気です。梅毒は性行為でうつります。梅毒になると初期には
梅毒についての詳細な情報は「梅毒の検査:抗体検査(STS、TP、RPR、TPHAなど)、細菌学的検査、画像検査など」もしくは「梅毒とは?症状、検査、治療について」を参考にしてください。
HIV感染症
HIV感染の初期には、発熱や咽頭炎、筋肉痛などの症状が現れますが、数週間で症状はなくなり症状がない時期が続きます。
HIVは
HIVの検査は血液検査を用います。HIVについての詳細な情報は「HIV感染症とエイズ(AIDS)の初期症状、検査、治療」を参考にしてください。
B型肝炎
B型肝炎は
B型肝炎になっていても、劇症肝炎や肝硬変の状態に至っていない場合には症状は乏しく自覚することができません。そのため検査が重要です。B型肝炎の検査は血液検査でB型肝炎ウイルスがいるかを調べます。B型肝炎についての詳細な情報は「A型/B型/C型肝炎とは?感染経路と症状、検査、治療について」を参考にしてください。
性器ヘルペス
性器ヘルペスは、性器の表面がえぐれた様になる潰瘍や水ぶくれができる病気です。性器ヘルペスは、性行為でうつる病気です。性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルスによって起こります。単純ヘルペスウイルスは尿道炎の原因にもなります。
ヘルペスと聞くと帯状疱疹を思い浮かべる人がいると思いますが、性器ヘルペスと帯状疱疹では原因となるウイルスが違います。性器ヘルペスの原因となるのは単純ヘルペスウイルスですが、帯状疱疹の原因となるのは
性器ヘルペスの診断には診察が大切です。特徴的な皮膚の症状が見つかれば性器ヘルペスの診断ができることが多いです。性器ヘルペスの詳細な情報は「性器ヘルペスとは?女性に多い症状、治療、再発予防について」を参考にしてください。