腎がん(腎細胞がん)とはどんな病気なのか?症状や原因、検査、治療など
腎臓は主に血液から不要な物質や水分を取いて尿を作り出す臓器です。腎がん(腎細胞がん)は腎臓の実質から発生する
目次
1. 腎がんとはどんな病気なのか?
腎がんと聞いて、具体的な症状や検査がイメージができる人は多くはないかもしれません。ここでは馴染みがない「腎臓」という臓器の説明から始め、腎臓がんについて紐解いていきます。
腎臓はどこに位置し、どんな働きをしているのか?
腎臓は体の背中側にあり、左右に1個ずつ、合計2個あります。
大きさと重さの平均的な数値は次のようになります。
- 大きさ:上下16cm×左右6cm×前後3cmほど
- 重さ:130-150g
腎臓の大きさは、にぎりこぶしくらいと表現されることがあります。凹凸があり、ソラマメのような形をしています。 腎臓は脂肪(腎周囲脂肪組織)によって覆われており、さらにその外側はゲロタ筋膜(Gerota筋膜)という膜で覆われています。ゲロタ筋膜はしっかりとした膜なので、腎がんが発生してもいったんゲロタ筋膜で食い止められて、簡単には周囲へ広がらないようになっています。
■腎臓の位置・周りの臓器
腎臓の上(頭側)は第11肋骨(ろっこつ)、下(尾側)は第3腰椎(ようつい)に隣り合っています。背中から肋骨の形が見えることがありますが、一番下の肋骨が
腎臓の周りに存在する臓器は左右で異なります。
- 左の腎臓の周りの臓器
- 下行結腸(かこうけっちょう)
- 膵臓(すいぞう)の体部・尾部
- 副腎
- 右の腎の周りの臓器
- 上行結腸(じょうこうけっちょう)
- 肝臓
- 膵臓の膵頭部(すいとうぶ)
- 十二指腸
- 副腎
腎臓がある位置は上腹部と呼ばれます。上腹部にはたくさんの臓器が詰まっているので、腎臓は多くの臓器に囲まれています。上行結腸・下行結腸は大腸の一部です。副腎はいくつかの
■腎臓の働き
腎臓の役割は多岐に渡りますが、主な役割は「尿を作ること」と「ホルモンを分泌すること」の2つです。
【腎臓の主な役割】
- 尿を作る
- 老廃物を体の外に出す
- 体の中の
電解質 を調節する
- ホルモンを分泌する
- 血圧を調整するホルモン
- レニン
- プロスタグランジン
赤血球 を作る指令を出すエリスロポエチン
- 血圧を調整するホルモン
血液を濾過して尿が作られ、老廃物とともに水分を体の外に出す役割があり、体の水分量が一定の範囲内に調整されています。体の水分が減ると尿量が減り、水分が増えると尿が多く作られます。また同時に、電解質と呼ばれるナトリウム、カリウム、カルシウムやリンなどの物質を一定の量に保つ働きを持っています。 腎臓は体の活動を維持する働きホルモンをいくつか分泌しています。具体的には「血圧を調整するホルモン」や「赤血球を作る司令を出すホルモン」などです。腎臓の機能が低下すると、高血圧になったり貧血になったりします。
腎がんができやすい年齢・性別・患者数は?
腎がんが発生しやすい年齢や男女比は次の通りです。
発症 が多い年齢(好発年齢 ):50歳代後半から70歳代- 男女比:2:1から3:1
また、年間約30,000人が新たに腎がんと診断され、約5,000人が腎がんで亡くなっています。
2. 腎がんの種類について
腎がんにはいくつか種類があります。病理検査(体の組織を顕微鏡で観察すること)でいくつかの種類に分けることができます。顕微鏡で見た特徴による分類を病理学的分類と言います。腎がんを病理学的に分類したときの主なものは以下の通りです。
【腎がんの種類(病理学的分類による)と全体に占めるその割合】
- 淡明細胞型(たんめいさいぼうがた)腎細胞がん:約70-80%
- 乳頭状(にゅうとうじょう)腎細胞がん:約5%
- 嫌色素性(けんしきそせい)腎細胞がん:約5%
それぞれでがんの性質が異なり、その特徴は次のようなものです。
■淡明細胞型腎がん
淡明細胞型腎がんは、腎がんの約80%を占めます。腎臓の近位
■乳頭状腎がん
乳頭状腎がんは、顕微鏡で観察した時に乳頭状の(飛び出した形の)組織が見えます。病理学的特徴により、type 1とtype 2に分類されます。それぞれで異なる遺伝子変異を持つとされています。type2のほうが悪性度が高いとされています。
■嫌色素性腎がん
嫌色素性腎がんは腎臓の集合管にある介在細胞から発生するとされます。オンコサイトーマという
参考:『標準泌尿器科 第9版』
3. 腎がんの原因について
腎がんの発症には遺伝子異常や生活習慣が関わっているとされます。ここでは腎がんの原因と
遺伝子異常
腎がんの原因となる遺伝子病が知られています。
■フォン・ヒッペル-リンドウ病(von Hippel Lindau病) VHL遺伝子の異常によって起こる病気で、淡明細胞がんが発生しやすいことが知られています。腎臓以外にも中枢神経(脳と
■バート・ホッグ・デュベ症候群(Birt-Hogg-Dubé症候群) 嫌色素性腎がんと腎オンコサイトーマ(良性腫瘍)が発生しやすいことが知られています。腎臓以外にも皮膚や肺に病気が現れることが特徴です。
危険因子:喫煙・肥満・透析・高血圧
腎がんに関係する危険因子(リスクファクター)が知られています。危険因子とは、必ず病気を引き起こすとは限らないが病気になる確率を高くする要素のことです。たとえば喫煙は肺がんの危険因子です。
【腎がんの主な危険因子】
より詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください。
4. 腎がんの症状について:痛み・血尿・腹部腫瘤感など
腎がんには古典的3徴と呼ばれる症状があります。
【腎がんの主な症状】
疼痛 (とうつう);痛み血尿 - 腹部腫瘤感(ふくぶしゅりゅうかん);お腹に塊ができる
腎がんの人によく見られる症状だと考えられていますが、3つ全てが現れる人は少ないと考えられています。 また、早期の腎がんは無症状のことも少なくありません。
【腎がんの人にしばしば現れる症状】
- ふらつき
- 体重減少
- 発熱
意識障害 (意識朦朧(もうろう))
上記の症状は他の病気によって現れることも多い症状なので、腎がんを原因とすることは比較的まれです。当てはまる症状があるからといって腎がんを第一に心配する必要はありません。しかし、他の病気が隠れている可能性があるので、長引く発熱や著しい体重の減少があった人は早めに医療機関を受診することをお勧めします。
5. 腎がんの検査:超音波検査・CT検査・MRI検査など
腎がんが疑われる人には診察や検査が行われ、診断には画像検査が決め手になります。
超音波検査
CT検査
CT検査は腎がんの診断のためにもっとも重要な検査です。CT検査では放射線を用いて、体の中の状態を画像化します。特にCT検査の中でもダイナミックCTという方法が重要です。 ダイナミックCTでは、
MRI検査
MRI検査は磁気を用いて、体の中を画像化する検査です。CT検査だけでは腎がんかどうかがはっきりしない場合はMRI検査が行われます。一方で、CT検査で明らかに腎がんと診断できる場合は、MRI検査を行わない場合もあります。 また、MRI検査にも造影剤を用いる方法があります。造影剤を使うとがんの部分をはっきりさせたりすることができて多くの情報を得ることができます。しかし、CT検査と同様に腎臓の機能に影響があるので、腎臓の機能が低下している患者さんには造影剤は用いられません。
病理検査
病理検査とは体の組織を取り出して顕微鏡で観察する検査です。基本的には腎がんの疑いがあるときに
- がんが他の場所に広がる恐れがある
- 腎がんは血流が豊富なために出血の可能性がある
出血により輸血を行う頻度は生検のうち1-2%程度とされています。 現在のところ画像検査で明らかに腎がんと判断された場合は生検を行わないのが一般的です。
6. 腎がんのステージ
腎がんの
腎がんと診断された後にステージを調べることをステージングと言います。ステージングには腎がんの状態を3つの方法で評価する必要があります。具体的には、「
この3つを基準にしてTNM分類と呼ばれる方法ででステージが決まります。 次に説明するTNM分類は専門的な内容なので、飛ばしても問題ありません。
【UICC-TNM分類】
- T分類-原発腫瘍
- T1 最大径が7cm以下で腎に限局する腫瘍
- T1a 最大径が4cm以下
- T1b 最大径が4cm以上を超えるが7cm以下
- T2 最大径が7cmを超え腎に限局
- T2a 最大径が7cmを超えるが10cm以下
- T2b 最大径が10cm以上を超える腫瘍
- T3 腫瘍が主要な静脈内への進展、または腎周囲脂肪組織への浸潤をきたすが同側副腎への浸潤はなく、Gerota筋膜を超えない
- T3a 腎静脈または腎周囲脂肪組織へ浸潤するがGerota筋膜を超えない
- T3b 横隔膜以下の下大静脈内進展
- T3c 横隔膜を超える下大静脈内進展または下大静脈壁への浸潤
- T4 Gerota筋膜を超える腫瘍
- T1 最大径が7cm以下で腎に限局する腫瘍
- N分類-所属
リンパ節 (腎門、腹部大動脈 、大動脈リンパ節)- N0 所属リンパ節転移なし
- N1 単発の所蔵リンパ節転移あり
- N2 複数の所属リンパ節転移あり
- M分類-遠隔転移
- M0 遠隔転移なし
- M1 遠隔転移あり
ステージ分類 | T分類 | N分類 | M分類 |
ステージ1 | T1 | N0 | M0 |
ステージ2 | T2 | N0 | M0 |
ステージ3 | T3 | N0 | M0 |
T1~3 | N1 | M0 | |
ステージ4 | T4 | any N | M0 |
any T | N2 | M0 | |
any T | any N | M1 |
*表の中にあるanyというのは、どのような状態でもという意味です。生存率はステージごとに集計され結果が示されることが多く、「腎がんの生存率は?」を参考にしてください。
7. 腎がんの治療:手術・薬物療法・放射線治療
腎がんの治療法は3つに大きく分かれます。
- 手術
- 原発巣の切除
- 腎部分切除術
- 根治的腎摘除術
転移 巣の切除
- 原発巣の切除
- 薬物療法
- サイトカイン療法
- 分子標的治療
放射線治療 - 転移巣への照射(主に骨、脳)
それぞれについて以下で説明します。
手術
手術には原発巣の切除と転移巣の切除の2つがあります。
■原発巣の切除
原発巣とはがんが発生した部分のことで腎がんの場合は腎臓の
■転移巣の切除
転移巣はがんが転移をした部位のことです。 他のがんでは転移した部分を切除することは多くはありませんが、腎がんでは転移巣の切除を行うことが多いです。 転移巣の切除に関しては、以下の条件を満たす場合に考慮されます。
- 全身状態が良好である
- 転移巣を切除することで、全てのがんを取り除くことができる
手術が身体の負担になる場合は行われないので、全身状態が良好であることが条件になります。転移巣がいくつもある場合に、一箇所だけ手術することは基本的にはありません。転移巣を全てを取り除ける可能性が高い人に手術が行われます。
薬物療法
他のがんで有効な
■サイトカイン療法
サイトカインとは、免疫機能を担当する細胞に指令を与えて活動させる物質の総称です。腎がんは免疫機能との関わりが強いことが知られ、長年にわたりサイトカイン療法として
■分子標的薬
がん細胞の表面にあるたんぱく質などをターゲットにしてがん細胞を攻撃する分子標的薬が腎がんに対して有効です。腎がんに対して治療効果がある分子標的薬は7種類あります。2016年に腎がんへの効能・効果を承認されたニボルマブ(オプジーボ®️)もここでは分子標的薬に分類します。 サイトカイン療法、分子標的薬に関しては「腎がんのサイトカイン療法、分子標的薬とは?」で解説しています。
放射線治療
腎がんは放射線による効果(感受性)が低いため、腎がんの根治治療(がんを残らず死滅させる治療)には、放射線治療が用いられることはありません。一方で、骨や脳に転移した腎がんによって生じたしびれや痛みには放射線治療が有効なので、しばしば行われます。 放射線治療は転移したがんの大きさによりますが、数週間は治療が必要なことが多いです。