尋常性疣贅(イボ)とは
尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)とは、いわゆる「イボ」と呼ばれるものです。
目次
1. 「イボ」と呼ばれる病気には何があるか:イボの種類
皮膚の表面にできる小さな盛り上がりを「イボ」と呼びますが、広くイボと呼ばれるものの中には、以下のようなさまざまな皮膚の病気が含まれます。
【イボと呼ばれる主な皮膚の病気】
このように多くの種類が含まれますが、狭い意味としてはイボは「尋常性疣贅」を指すことが多いです。このページでは、狭義のイボとして尋常性疣贅について説明していきます。
なお、尋常性疣贅以外の病気については、下記の「尋常性疣贅と似ている病気」で簡単に説明しましたので、気になる人は読んでみてください。
2. 尋常性疣贅ができやすい人とは
尋常性疣贅はどんな年齢でも起こりますが、特に学童期に多く、尋常性疣贅の患者全体の1/3を占めます。日本皮膚科学会の統計では皮膚科外来を受診した人の中でウイルス性疣贅と診断された人の割合は、全年齢では4.49%でしたが、6-10歳では23.0%、11-15歳では17.2%で、若年で割合が高い傾向がみられました。
参考文献:Furue M, Yamazaki S, Jimbow K, et al : Prevalence of dermatological disorders in Japan: A nationwide, cross- sectional, seasonal, multicenter, hospital-based study. J Dermatol, 2011; 38: 310-320.
また、次のような人も尋常性疣贅になりやすく、また一度かかると治りにくいことが知られています。
- アトピー性皮膚炎の人
免疫 が低下する病気にかかっている人- 免疫を抑える治療を受けている人
尋常性疣贅はヒトパピローマウイルスが皮膚に感染することで起こります。健康な皮膚にはバリア機能が備わっていて簡単にはウイルスは侵入できません。また、ウイルスが入ったとしても免疫機能によって排除し感染を防ぐことができます。上記に当てはまる人では、皮膚のバリア機能や免疫機能が低下しているために、尋常性疣贅にかかりやすく治りにくい傾向にあると考えられます。
3. 尋常性疣贅の症状
尋常性疣贅は身体のどの部分にもできますが、特に手足の皮膚にできることが多いです。イボの表面は厚くなった角質層で覆われ、触るとザラザラしているのが特徴です。大きさは数mmから1cm大のことが多く、1つだけできることもあれば複数できることもあります。
通常はかゆみや痛みを伴うことはありません。また、イボの隆起部分は血管が発達していることが多く、この血管がイボ表面に黒い点として透けて見えることがあります。
足の裏にイボが多発した場合にはあまり表面が盛り上がることはなく、硬い皮膚で覆われるような症状になります。通常、痛みは伴いませんが、足裏にできたこのような尋常性疣贅では痛みを伴うことがあります。
詳しくはこちらのページに書いてありますので、読んでみてください。
尋常性疣贅はどこにできやすいか
尋常性疣贅の多くが手足にできます。尋常性疣贅はヒトパピローマウイルスの感染で起こるため、傷がつきやすい手足の皮膚にできることが多いと考えられます。
4. 尋常性疣贅の原因ウイルス
尋常性疣贅はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって起こります。皮膚には本来ウイルスや
尋常性疣贅ができる仕組み
皮膚は「表皮」、「真皮」、「皮下組織」が重なってできています。表皮はさらに「角質層」、「顆粒層」、「有棘層」、「基底層」という4つの層に分けられます。皮膚の傷から入り込んだHPVは、表皮のもっとも深いところにある基底層の基底細胞に感染します。HPVに感染した基底細胞は増殖して大きな塊を作るようになり、この塊がイボとして見えるようになります。
イボの表面からはHPVが含まれた表皮が剥がれ落ちるため、周りの皮膚に傷があると、そこからもHPVが入り込んでイボの数が増えていきます。
原因となるウイルスについて:ヒトパピローマウイルスとは
ヒトパピローマウイルス(HPV)は現在200以上の遺伝子型が確認されています。尋常性疣贅(イボ)の原因となるのはこのうちの一部、HPV2型や27型などです。
HPVは遺伝子型によって感染しやすい部位が異なり、また、種類によっては発
◎感染部位による分類
HPVは感染しやすい部位によって「皮膚型(上皮型)」と「粘膜型」に分類されます。尋常性疣贅を引き起こすHPVは皮膚型です。粘膜型のHPVには、生殖器の粘膜に感染して尖圭コンジローマを起こす種類や、子宮頸がん、陰茎がんなどを引き起こす種類があります。また、口やのどの粘膜に感染して、喉頭乳頭腫や中咽頭がんなどを引き起こすものもあります。
◎発がんリスクによる分類
HPVはその発がん性によって「高リスク群」と「低リスク群」に分けられます。高リスク群には子宮頸がんの原因として知られるHPV16型や18型などが含まれます。他にもHPVが引き起こすがんとして陰茎がん、中咽頭がんなどがあります。
尋常性疣贅の原因となるHPV2型や27型などは基本的には感染してもがん化の心配はなく、低リスク群に分類されています。
5. 尋常性疣贅の検査
尋常性疣贅は主に見た目から診断されます。他の病気との区別のために検査が追加で行われることがあります。尋常性疣贅が疑われれる人が受ける検査には次のようなものがあります。
問診 - 身体診察
- ダーモスコピー検査
- 組織検査:病理検査、免疫学的検査
- ウイルス検査
問診では症状や持病、生活習慣などについて聞かれ、身体診察ではイボの診察が行われます。ほとんどの尋常性疣贅は視診で診断がつきますが、他の病気との区別が難しい場合にはダーモスコピー検査が行われます。ダーモスコピーとはライトが付いた特殊な拡大鏡で、肉眼では見えない細かい部分まで観察することができます。尋常性疣贅では特徴的な発達した血管を確認することができます。
また、必要に応じて、組織の一部を切り取って顕微鏡で調べる組織検査や、ヒトパピローマウイルスの感染の有無を調べる検査などが追加されます。
それぞれの検査の詳細についてはこちらのページで説明しています。
6. 尋常性疣贅の治療
尋常性疣贅の治療でよく行われるのは冷凍凝固療法です。液体窒素でイボを凍結し、
尋常性疣贅の治療として行われている方法には以下のものがあります。
- 冷凍凝固療法
- サリチル酸外用療法
- ヨクイニン内服療法
- 局所免疫療法
- 外科的治療:電気凝固療法・レーザー治療
通常、数ヶ月間同じ治療を続けても改善が乏しい人に他の治療方法が検討されますが、
7. 尋常性疣贅の人が知っておくとよいこと
尋常性疣贅はヒトパピローマウイルスの感染が原因であることから、周囲に感染が広がって数が増えたり別の部位にもできてしまうことがあります。数が増えると治療の効果が現れにくくなることがあるので、できるだけ広げないような生活を心がけてください。
具体的には不用意にイボを触らないようにし、もし触った場合には手を洗うようにしてください。また、皮膚に傷があるとウイルスが感染しやすいので、保湿をして肌荒れを予防したり、爪で掻かないようにすることも大切です。
その他、予防や治療にまつわる疑問についてこちらのページで説明しているので、合わせて参考にしてください。
8. 尋常性疣贅と似ている病気
ここまで尋常性疣贅について説明してきましたが、一般的に「イボ」と呼ばれるものには尋常性疣贅以外の病気もあります。ここでは尋常性疣贅に似ている病気について説明します。
伝染性軟属腫:水いぼ
伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)は通称「水いぼ」と呼ばれます。水いぼは子どもにできやすく、うつるという点で尋常性疣贅と似ています。水いぼの原因は伝染性軟属腫ウイルスの感染で、皮膚同士の接触やタオルの共用などでうつります。
ガザガザとしている尋常性疣贅とは異なり、水いぼの表面はツルツルとして光沢があります。大きさは直径数mmから5mmくらいで、てっぺんは少し凹んでいるように見えます。
専用のピンセットで水いぼを潰す治療などがありますが、自然
脂漏性角化症:老人性疣贅
皮膚の老化によってできるイボで、中年以降の人にみられます。表面は凸凹としていて、色は茶から黒です。紫外線を受けやすい顏などによくできますが、体幹にできることもあります。
見た目から悪性黒色腫を心配して皮膚科を受診する人が多い病気です。悪性黒色腫と区別するためにダーモスコピー検査などが行われます。
脂漏性角化症は放置しても悪性化することはないため治療をしなくても良い病気ですが、整容面で気になる人は除去する治療を受けることもできます。短期間で多くの脂漏性角化症ができた場合には、「レーザートレラ徴候」といって、内臓の
軟性線維腫:首イボ、中年イボ
軟性線維腫は首イボや中年イボとも呼ばれ、30代以降の人によくできます。大きさは2-5mmほどです。「アクロコルドン」や「スキンタグ」とも呼ばれます。
摩擦や日光、皮膚の老化が要因と考えられています。首、わきの下、太ももの付け根や裏側など、皮膚の柔らかい部分によくできます。色は皮膚と同じか、茶色から黒です。イボの付け根が細くくびれた形になることもあります。
悪性化することはないので放置しても構いませんが、大きくなったり数が増えたりして整容面で気になる人は治療で取り除くこともできます。
鶏眼:ウオノメ
鶏眼(けいがん)は通称ウオノメと呼ばれ、物理的な刺激によって皮膚の角質層が分厚く硬くなったものです。大人の足裏や足指にできることが多く、大きさは5mm程度です。分厚くなった角質層の中心に芯があることが特徴で、芯は皮膚深くの神経が近い部分まで伸びるため、歩行時に体重がかかると痛みが生じます。
痛みを改善するためには、皮膚の深くまで食い込んだ芯まで除去する治療が必要です。サリチル酸軟膏を含んだ絆創膏(商品名:スピール膏)が用いられるほか、冷凍凝固療法や電気焼灼法が行われたりもします。
足の裏にできた尋常性疣贅(足底疣贅と呼ばれます)は、小さいうちは見た目がウオノメと似ていて区別がつきにくいことがあります。特に子どもの足の裏にできる足底疣贅(ミルメシア)では痛みも伴うためウオノメと区別がつきにくいです。しかし、一般的にウオノメは子どもにできにくいことから、子どもの足の裏にウオノメのようなものがあれば、ミルメシアである可能性が高いとあたりがつけられます。
胼胝:タコ
胼胝(べんち)は通称タコと呼ばれ、物理的な刺激によって皮膚の角質層が分厚く、硬くなったものです。ウオノメと違って中心に芯はできていないものを指し、痛みを感じることはほとんどありません。手の指にできる「ペンダコ」があるように、癖や生活習慣によって足以外のさまざまなところにできます。
タコが悪性化することはないので放置しても構いませんが、治療する場合にはサリチル酸絆創膏(商品名:スピール膏)が用いられます。
参考文献
日本皮膚科学会尋常性疣贅