じんじょうせいゆうぜい
尋常性疣贅(イボ)
いわゆる「イボ」のこと。皮膚のあらゆる部位にできる小さな増殖物
9人の医師がチェック 120回の改訂 最終更新: 2024.03.04

尋常性疣贅(イボ)の治療について:冷凍凝固療法、サリチル酸外用療法、ヨクイニンなど

尋常性疣贅(イボ)で最もよく行われる治療は液体窒素を用いた冷凍凝固療法です。治療は複数回に及ぶことが多く、冷凍凝固療法で改善が乏しい場合には、内服薬外用薬を追加したり、治療効果をみながら数ヶ月ごとに治療方法を変更していくこともあります。ここでは尋常性疣贅の治療について詳しく説明します。

1. 尋常性疣贅の主な治療法

尋常性疣贅(イボ)はヒトパピローマウイルスHPV)が皮膚に感染して起こります。しかし、現時点でHPVに対する抗ウイルス薬はなく(2020年1月)、イボを取り去る治療が主流です。

【尋常性疣贅の主な治療】

  • 冷凍凝固療法
  • サリチル酸外用療法
  • ヨクイニン内服療法
  • 局所免疫療法
  • 外科的治療:電気凝固療法・レーザー治療

尋常性疣贅の治療の中心は冷凍凝固療法です。しかし、イボができている部位や人によって効果に差があり、病状に応じて上記のようなさまざまな治療が行われることがあります。治療期間は長期に渡ることも少なくありません。通常は、一つの治療法を数ヶ月程度続けても効果が乏しい場合に、他の治療に変更されます。

尋常性疣贅が治ったかどうかは、肉眼だけでなくダーモスコピーという拡大鏡で観察して判断されます。尋常性疣贅の原因であるHPVは表皮の深い部分に感染していることから、表面的には消失したように見えてもウイルスが残っていて再びイボができてしまうことがあります。そのため、治療後数ヶ月間は注意深く様子をみて、再発がなければ治癒と判断されます。

2. 冷凍凝固療法:液体窒素でイボを焼く治療

冷凍凝固療法は尋常性疣贅(イボ)の治療でよく行われている方法です。低温の液体窒素をイボに押し当てて凍結させることで、ウイルスに感染している組織を壊死させます。組織が壊死することで、原因ウイルスを駆除する免疫を活発化させる効果もあるのではないかと考えられています。

実際の治療方法とは?:治療回数、治療間隔など

皮膚の深い部分まで凍結できるよう、はじめにイボの表面を削って角質を除去します。そこに液体窒素を染み込ませた綿棒を当てて凍結させます。スプレーを用いて液体窒素を吹きかける方法もあります。凍結部分は1週間程度でかさぶたに変化し、1-2週間後に自然に取れます。

治療回数は状態によってまちまちです。例えば、イボが1つであれば1回の治療で取れることもありますが、足の裏にできている人やイボが多発している人は1回の治療で取りきれることは少なく、複数回の治療が必要です。

冷凍凝固療法を受ける頻度は医療機関によって差があるものの、多くの場合は1週間に1回程度です。治療間隔が3週間以上空いてしまうと効果が弱くなると言われているので、指示された間隔で通うようにしてください。

なお、治療効果はできた部分によって異なります。足の裏や爪周囲のイボは治りにくいことが多く、他の治療が組み合わされることがあります。

液体窒素とは?:ドライアイスとは違うのか

液体窒素は−196度以下の低温の液体です。テレビなどで、液体の中に花などを入れて瞬時に凍る様子をみたことがある人もいると思います。この時に使われているのが液体窒素です。

液体窒素が入っている容器からはもくもくと白い気体が出ているためドライアイスのようにも見えますが、ドライアイスは二酸化炭素が固体になったもので、液体窒素とは別物です。ドライアイスの温度は−79度ほどであり、液体窒素のほうが低温です。

焼いた後にどんな症状が起こる?:痛み、水ぶくれ、血豆、かさぶたなど

個人差はあるものの、冷凍凝固療法は痛みを伴う治療です。特に足の裏の尋常性疣贅を焼いた後は痛みが強くなりがちで、歩きにくくなることもあります。痛みは治療後数時間でおさまる人もいれば、1週間以上続く人もいて、これも人それぞれです。

【冷凍凝固療法に伴う症状】

  • 痛み
  • 水ぶくれ
  • 血豆
  • 色素沈着
  • 色素脱失

冷凍凝固療法の後に水ぶくれや血豆ができることがあります。これらは徐々にかさぶたに変化してイボと一緒に自然に剥がれるので心配はいりません。ただし、水ぶくれや血豆をむしったりして潰してしまうと、新しいイボがドーナツ状にできてしまうこと(ドーナツ疣贅)があるので、触らないようにしてください。なお、自然に潰れてしまった時はガーゼなどで保護してください。しばらくすると自然にかさぶたになって剥がれ落ちます。

また、イボが取れた後の皮膚が黒ずんだり(色素沈着)、白っぽくなる(色素脱失)ことがあります。

冷凍凝固療法後に注意することは?

治療を受けた日も入浴はできますが、身体が温まると痛みが悪化することがあるので、短時間にするかシャワーにしておくと、強い痛みに至らずにすむことが多いです。同様に血行がよくなるような飲酒や激しい運動は避けたほうが痛みにくいです。また、足の裏を処置した人で痛みが強い時は、足に負担のかかる運動や長時間歩くことは避けたほうが良いです。

冷凍凝固療法の通院は基本的に一度では完了しません。ほとんどの場合、経過をみるために1週間後くらいに受診するよう言われます。しかし、次のような場合には早めの対処が必要かもしれないので受診を検討してください。

  • 痛みが強い場合
  • 水ぶくれや血豆が大きい場合
  • 水ぶくれや血豆が潰れて赤く腫れている場合

痛みには個人差がありますが、治療後に痛みがどんどん強くなるような人や、2日以上経過しても強い痛みが続く人は受診が望ましいです。水ぶくれや血豆はできても通常1週間程度で吸収されますが、大きいものができた場合や、潰れて赤く腫れたりした場合にも受診をしてください。

3. サリチル酸外用療法:スピール膏Mなど

サリチル酸の軟膏や絆創膏は尋常性疣贅(イボ)の治療でよく使われます。サリチル酸の角質を溶かす作用を利用してイボを剥がします。また、その刺激で免疫が働き、原因ウイルスが排除される作用があるのではないかとも考えられています。

冷凍凝固療法と異なり痛みもないため、子どもでも行いやすいという利点があります。ただし、足の裏にできたイボでは効果が出にくい、サリチル酸単独での治癒率は高くないといわれており、他の治療と合わせて使われることが多いです。

治療では簡便に使えるサリチル酸の絆創膏が広く使われています。イボの大きさに合わせて切って貼り、2-5日ごとに貼り替えます。適宜、白くなった角質を除去する処置が必要ですので、その方法をお医者さんに指導してもらってください。

副作用として周囲の皮膚に炎症を起こすことがあります。治療中に皮膚に違和感が生じた人は皮膚科のお医者さんに相談してください。

4. 漢方薬:ヨクイニン

尋常性疣贅の治療によく使われる内服薬として漢方薬のヨクイニンがあります。ヨクイニンはハトムギの種を乾燥させたものです。特に乳幼児期から青年期の若い人で効果が出やすいと報告されています。副作用は少ないものの、胃の不快感、下痢、皮膚のかゆみなどが報告されています。

5. 局所免疫療法(接触免疫療法)

局所免疫療法は人工的にかぶれを起こして尋常性疣贅(イボ)を治療する方法です。かぶれに反応して集まった免疫細胞がヒトパピローマウイルスを排除するのではないかと考えられています。

冷凍凝固療法やサリチル酸外用療法で効果がない場合に検討される治療の一つですが、尋常性疣贅には保険適用がないことに注意が必要です。

局所免疫療法では、下準備として化学物質を含ませたものをイボのない部分に貼り付けます。これによって体内に化学物質を攻撃する免疫の仕組みを作らせます。その2-4週間後にイボの部分に同じ化学物質を薄めたものを塗って、かぶれを起こさせます。副作用は塗った箇所の赤みやかゆみが主ですが、全身にじんましん皮膚炎が出ることがあります。

6. 外科的治療:電気凝固療法、レーザー治療

冷凍凝固療法や他の治療で効果が乏しい場合には、尋常性疣贅を外科的に切り取る治療が検討されます。外科的治療では治療後に切除部分が硬くなったりひきつれる可能性があること、また、治療によって皮膚の深い部分まで傷つけてしまう可能性があることから、できるだけ他の治療方法を模索することが望ましいとされています。

電気凝固療法:電気で焼いて取る方法

尋常性疣贅の部分に局所麻酔を注射した後に、電気メスなどを用いて焼く方法です。イボがなくなる効果はある程度ありますが、治療後に焼いた部分が硬くなったり、ひきつれたりすることがあります。

レーザー治療

尋常性疣贅をレーザーで焼く治療です。合併症として痛みや血豆、感染、皮膚のひきつれなどがあります。保険適用外であるため、治療の効果と副作用について十分に理解したうえで、治療を受けるようにしてください。

7. その他の治療について

上記の治療法で効果がみられなかった場合の選択肢として、その他にもいくつかの方法が試みられています。

外科的切除、イボ剥ぎ法

尋常性疣贅をメスやハサミを用いて切り取る治療法で、保険が適用されます。他の治療でなかなか治らない人や、何回も通院せずにすぐに治したい人に検討されます。

◎外科的切除

局所麻酔をした後に、イボをメスで切り取って縫い閉じる方法です。イボの数が1-2個の場合に行われます。1回で治るというメリットはありますが、切り取るために傷痕がひきつれたり、硬くなったりするデメリットがあります。機能が損なわれるリスクを避けるため、指などのイボに対しては、できるだけ他の治療方法が選択されます。

◎イボ剥ぎ法

上記よりやや範囲の狭い外科的切除として「イボ剥ぎ法」があります。

局所麻酔をした後に、イボのみを小さいハサミで剥がして取り除く方法です。ひきつれなどが少ないメリットがありますが、イボの組織が残ると再発するため高度な技術が必要で、行っている施設は限定されます。希望する人は、あらかじめこの方法を行っているかどうか問い合わせてから受診してください。

薬物療法:外用薬・内服薬

尋常性疣贅に対して保険適用のある薬剤はサリチル酸(外用薬)とヨクイニン(内服薬)ですが、保険適用外の薬が治療に用いられることがあります。治療に際しては副作用についても確認し、お医者さんとよく相談したうえで、受けるかどうか検討してください。

◎活性型ビタミンD3軟膏(外用薬)

活性型ビタミンD3製剤の軟膏は尋常性乾癬掌蹠膿疱症などの皮膚の病気に主に用いられる薬です。皮膚の過剰な細胞増殖や、炎症を抑える効果があります。尋常性疣贅には保険適用はありませんが、冷凍凝固療法で効果が乏しかった人に使用されることがあります。

イボに軟膏を1日1回塗り、密閉フィルムやサリチル酸絆創膏で覆います。

◎シメチジン(商品名:タガメット®、内服薬)

シメチジンには胃酸を抑える作用がありますが、その他にも免疫賦活化作用があると考えられています。16歳以下の人に効果がみられたと報告されていますが、その効果は冷凍凝固療法よりは低いため、冷凍凝固療法では痛みが強くて受けられない子どもなどに使われることがあります。

◎レチノイド製剤(外用薬・内服薬)

レチノイド製剤は尋常性疣贅では内服でも外用でも用いられます。ビタミンAが含まれた製剤で、皮膚の新陳代謝を高めることで尋常性疣贅への効果があると考えられています。

副作用としてビタミンA過剰症があります。具体的な症状としては、吐き気、嘔吐、腹痛、めまいや、食欲不振、便秘、頭痛、全身倦怠感、脱毛などです。また、妊娠を希望する人や妊婦は使えません。

◎その他

他にも次のような外用薬による治療が試みられています。

  • モノクロル酢酸外用
  • トリクロロ酢酸外用
  • グルタールアルデヒド外用
  • フェノール外用
  • ブレオマイシン局所注入療法
  • 5-FU外用

しかし、いずれも有効性がはっきりしておらず、保険適用ではありません。病状に応じて副作用よりも治療に期待できる可能性が高いと判断された場合のみ行われます。

8. 市販の外用薬:イボコロリスピール膏

市販薬のイボ治療外用薬の主な成分はいずれもサリチル酸で、これは医療機関での治療で用いられる成分と同じです。尋常性疣贅に対して一定の効果が期待でき、また、絆創膏を貼るだけで痛みもなく簡便なため、広く普及しています。

ただし、見た目が尋常性疣贅に見えても他の病気の可能性もあるので、自己判断で市販薬を使いはじめずに、まずは医療機関で診断を受けてください。尋常性疣贅と診断され、市販薬の使用を希望する場合には、適切に薬を使うことが重要です。例えば、薬の成分が周りの皮膚について炎症を起こすことがあります。適切な使用法について説明を聞いてから、行うようにしてください。

9. 治療にかかる費用はどのくらいか

尋常性疣贅の治療は長期間にわたることが多く、通院回数も多いため、費用が気になる人もいると思います。

目安ではありますが、イボの治療で最もよく行われている冷凍凝固療法は、3割負担で1回につき1,500円から2,000円程度です。局所麻酔下で電気凝固療法や外科的切除術を受けた場合には、3,000円から5,000円程度です。

なお、尋常性疣贅の治療で保険適用となっているものは次の治療のみです。

  • 冷凍凝固療法
  • ヨクイニン(コタローのみ)
  • サリチル酸絆創膏
  • 電気凝固療法
  • 外科的切除・イボ剥ぎ法

上記以外は保険適用外となり、費用の設定は医療機関ごとに異なります。費用が気になる人は、受診前にあらかじめ問い合わせておくと安心です。

参考文献

日本皮膚科学会尋常性疣贅診療ガイドライン策定委員会, 尋常性疣贅ガイドライン2019. 日皮会誌:129(6), 1265-1292, 2019