こうじょうせんきのうていかしょう
甲状腺機能低下症
身体の新陳代謝(エネルギー代謝)を活発にする甲状腺ホルモンが、何らかの理由で不足している状態
12人の医師がチェック 78回の改訂 最終更新: 2025.01.18

甲状腺機能低下症の原因について:橋本病、クレチン症など

甲状腺ホルモンが体内で正常に働くためには、甲状腺だけでなく、脳(下垂体)、甲状腺受容体などさまざまな部位がきちんと機能している必要があります。言い換えると、これらのどこかで問題が生じると甲状腺機能低下症が起こることがあります。

1. 甲状腺ホルモンの量や働きはどのように調整されているか

甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンが不足したり、うまく働かないことで身体にさまざまな不調があらわれる病気です。甲状腺ホルモンが身体の中でどのように機能しているかがわかると、病気の成り立ちについて理解しやすくなります。

甲状腺ホルモンとは何か

甲状腺ホルモンは、エネルギーを上手に使うように全身に働きかけるホルモンです。のど仏の下にある甲状腺で作られて、血流に乗って身体中に届けられます。身体の調子を保つためには、甲状腺ホルモンが多くても少なくてもよくありません。ちょうど良い量が作られるように、脳(下垂体)が調整する機能を担っています。

甲状腺ホルモンの量は脳(下垂体)でどのように調整されているか

脳はものを考えたり、身体を動かしたりするだけでなく、甲状腺ホルモンの量の調整にも重要な役割を担っています。脳には甲状腺ホルモンのセンサーがあって、量が足りているかのチェックが行われています。甲状腺ホルモンの量が足りないと判断した場合には、甲状腺に甲状腺ホルモンを作るように指令を送ります。この指令を伝える役割を担っているのが、次に述べる「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」です。

◼️甲状腺刺激ホルモン(TSH)

TSHは甲状腺に甲状腺ホルモンを作らせるホルモンです。TSHは脳の下垂体で作られると、血液中に放出されて、身体をめぐって甲状腺に行き届きます。TSHを受け取った甲状腺は甲状腺ホルモンを作るようになります。

甲状腺と脳下垂体の関係の図1:TSH(甲状腺刺激ホルモン)は甲状腺ホルモンを増やし、甲状腺ホルモンはTSHを減らす

このように脳はTSHの量を調整することで、甲状腺ホルモンの量が適切に保たれるようにしています。

甲状腺ホルモンを受け取る甲状腺ホルモン受容体とは

甲状腺で作られた甲状腺ホルモンは血液に乗って全身に送り届けられます。甲状腺ホルモンの受け取りは、各臓器の細胞の中にある「甲状腺ホルモン受容体」を介して行われます。甲状腺ホルモンは心臓や脳など全身の臓器が正常に働くために必要なホルモンですが、甲状腺ホルモン受容体に異常があると甲状腺ホルモンの受け取りに問題が起こり、臓器の働きに悪影響を与えてします。

2. 甲状腺機能低下症を起こす3つの原因とは

上記で説明したように、甲状腺ホルモンが正常に機能するためにはさまざまな場所や物質が関わっています。それゆえ、これらの内どこか一箇所でも異常があると甲状腺機能低下症を起こしてしまう可能性があります。

甲状腺機能低下症の原因を、異常のある場所で分類すると以下の3つのように分けることができます。

  • 甲状腺ホルモンが作れない(甲状腺の異常)
  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH)が作れない(下垂体の異常)
  • 甲状腺ホルモンの受け取りに問題がある(甲状腺ホルモン受容体の異常)

甲状腺機能低下症を起こしている原因を理解することは、治療を考えるうえでも重要です。以下で詳しく説明していきます。

3. 甲状腺ホルモンが作れない

甲状腺に問題があり、甲状腺ホルモンがうまく作れなくなることがあります。このような場合には、甲状腺ホルモンを薬で補ってあげたり、甲状腺に生じた問題を解決することに努めます。

甲状腺で甲状腺ホルモンがうまく作れなくなってしまうものとしては以下があげられます。

それぞれの以下で詳しく説明していきます。

免疫が間違えて甲状腺を破壊してしまう(橋本病:慢性甲状腺炎)

免疫はウイルス細菌などの外敵が身体の中に入ってきた時に駆除するために備わっている仕組みです。しかし、時に免疫が自分の身体を外敵と間違えて攻撃してしまうことがあります。甲状腺は免疫に間違えて攻撃されやすい臓器の一つです。甲状腺が免疫に攻撃され破壊されてしまうと、甲状腺ホルモンを作れなくなります。このような免疫が原因で起こる甲状腺機能低下症を橋本病と呼びます。(慢性甲状腺炎と呼ぶこともあります。)

橋本病は甲状腺機能低下症の代表的な原因の一つで、成人女性の10人に1人、成人男性の40人に1人程度いると言われています(※)。特に30-40代の女性に多い病気です。橋本病の人には甲状腺ホルモンの補充療法が行われます。

(※)参照ホームページ:日本内分泌学会 : 橋本病

生まれつき甲状腺に問題がある(クレチン症:先天性甲状腺機能低下症)

生まれつき甲状腺に問題があり、甲状腺ホルモンがうまく作れない状況も甲状腺機能低下症の原因となります。この状況はクレチン症先天性甲状腺機能低下症と呼ばれます。

生まれて間もなく、赤ちゃんの活気不良、哺乳不良、舌が大きくなる(巨舌)、体重増加不良などの症状が現れます。甲状腺ホルモンが不足した状態が続くと知能や身長の発達の遅れの原因になるので、速やかに治療を開始しなくてはなりません。そのため、日本では生まれてすぐの赤ちゃん全員に先天性甲状腺機能低下症がないかのチェック(新生児マス・スクリーニング)が行われており、先天性甲状腺機能低下症が見つかった場合には、甲状腺ホルモンの補充療法が行われます。

他の病気に対する治療の影響(手術、アイソトープ治療、薬など)

他の病気に対する治療が原因で甲状腺機能低下症になることもあります。具体的には以下のものがあります。

甲状腺機能低下症を起こすことがある治療 関連する主な病気
手術 甲状腺がん
アイソトープ治療 甲状腺機能亢進症
抗甲状腺薬
(メルカゾール®、チウラジール®、プロパジール®)
甲状腺機能亢進症
不整脈
(アンカロン®)
心室頻拍
心室細動
躁状態治療薬
(リーマス®)
双極性障害躁うつ病
肝炎治療薬
(ペガシス®、ペグイントロン®)
ウイルス性肝炎

甲状腺がんなどの手術で甲状腺をとってしまうと、甲状腺ホルモンを作れなくなるため甲状腺機能低下症の原因になります。

また、甲状腺機能亢進症に対する治療も原因になります。甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモンが働きすぎて不調が起こる病気で、甲状腺機能低下症の治療とは反対に甲状腺ホルモンを抑えるアイソトープ治療や抗甲状腺薬などによる治療が行われます。これらの治療は、効きすぎてしまうことで逆に甲状腺機能低下症の原因になってしまうことがあります。アイソトープ治療や抗甲状腺薬については「バセドウ病の薬の効果と副作用は?抗甲状腺薬、アイソトープ治療など」で詳しく説明しています。

また、甲状腺機能低下症は不整脈や肝炎など他の病気の治療薬が原因で起こることもあります。このような場合には、治療薬を止めることが甲状腺機能低下症を改善させる根本的な解決になります。一方で、もともとの病気との兼ね合いで中止が難しい場合もあり、中止の可否は専門的な判断が必要です。上記の治療を受けていて、気分の落ち込みや疲れやすさなどを感じる人は、担当のお医者さんと相談してみてください。

4. 甲状腺刺激ホルモンが作れない

甲状腺ホルモンは甲状腺刺激ホルモン(TSH)の作用で分泌されます。下垂体の腫瘍下垂体腺腫頭蓋咽頭腫)が原因で下垂体が障害されるとTSHが作れなくなり、甲状腺機能低下症の原因になります。腫瘍を手術で取り除く根治療法と甲状腺ホルモンの補充療法と組み合わせて治療を行っていきます。

5. 甲状腺ホルモンの受け取りに問題がある

甲状腺ホルモンの受け取りの場所(甲状腺ホルモン受容体)に問題があって甲状腺機能低下症が起こることがあります。これは甲状腺ホルモン不応症と呼ばれます。甲状腺ホルモン不応症は、日本では100人ほどの患者さんが報告されています。ただし、甲状腺ホルモン不応症の多くは軽い病状で済むことが多く、治療が必要とならない人も多いです。