しぇーぐれんしょうこうぐん
シェーグレン症候群
涙や唾液の分泌量が減って、ドライアイやドライマウスなどの症状が出る病気。自己免疫性疾患の一種
12人の医師がチェック 128回の改訂 最終更新: 2022.04.20

シェーグレン症候群の治療は?難病の医療費助成はある?

シェーグレン症候群の治療はドライアイドライマウスの症状改善を目指した対症療法が中心となっています。ドライアイドライマウスの対症療法には点眼液、飲み薬、漢方薬などがあります。また完治を目指した研究も進められています。

1. シェーグレン症候群の治療法は?

現在のところ、シェーグレン症候群を治すことは簡単ではないと考えれているので、症状を和らげることを目的に治療(対症療法)が行われます。対症療法とは、病気を治すこと目指したものではなく、症状の改善を目的とした治療を言います。また、腺外症状の改善にはステロイドが用いられることがあります。

眼の乾燥(ドライアイ)に対する治療

ドライアイは眼の不快感や結膜を傷つける原因となるため適切な管理が必要です。シェーグレン症候群のドライアイには以下の点眼薬が用いられます。

  • レバミピド点眼液(ムコスタ点眼液®)
  • ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアス点眼液®)
  • ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレイン点眼液®)

これらの薬剤は角結膜上皮障害やドライアイを改善する効果があります。また重大な副作用の報告も認められていません。

また最近ではドライアイ用のメガネも開発されています。ぐたいtメガネの縁にビニールのカバーがついていて涙の蒸発を防ぐものやメガネに水を入れるタンクのついた保湿メガネなどがあります。

口腔の乾燥(ドライマウス)に対する治療

ドライマウスは口の中が荒れたり、虫歯、味覚障害の原因になるため適切な管理が必要です。シェーグレン症候群の口腔の乾燥に対する治療には、内服薬や口腔保湿剤によるものがあります。内服薬にはセベメリン(サリグレンカプセル®、エボザックカプセル®)、ピロカルピン(商品名:サラジェン®)があります。これらは唾液腺を刺激し、唾液分泌を促すことで効果を発揮します。ただし、吐き気、動悸、多汗の副作用が出ることがあるので、これらの副作用に気を付けながら使用します。

腺外症状(ドライアイ・ドライマウス以外の症状)に対する治療

シェーグレン症候群のドライアイドライマウス以外の症状を腺外症状と呼びます。具体的には関節の痛み、息苦しさ、赤い発疹などがあります。これらの症状を和らげるためにステロイドを用いることがあります。ステロイドは炎症を抑える作用のある薬です。さまざまな病気に対して効果があり、目的に応じて外用薬(塗り薬など)としても使われますが、シェーグレン症候群の治療には飲み薬を使います。ステロイド薬の代表的な製剤としてはプレドニゾロンがあります。ほかにもメチルプレドニゾロン(商品名:メドロール®)、ベタメタゾン(商品名:リンデロン®)などのステロイド薬も使われます。

ステロイドの副作用としては感染症にかかりやすくなること、血糖上昇、血圧上昇、肥満コレステロール上昇、眠れない、気分の落ち込み・高ぶり、骨がもろくなる、などが挙げられます。ステロイドを使うことは上記の副作用のリスクもあることから、腺外症状があっても全員がステロイドの治療を受けるわけでなく、病気の重症度に応じて治療をするかどうかが検討されます。

2. シェーグレン症候群の症状に効く漢方薬はある?

シェーグレン症候群などによって引き起こされる口の渇き(ドライマウス)には漢方薬が有用であるケースもあります。

漢方医学では「気・血・水(き・けつ・すい)」という言葉を使って生命活動や体内の状態を表現することがありますが、何らかの理由によって血(血液や血流など)や水(血液以外の体液)が不足している状態では口渇や口内乾燥などがあらわれやすくなるとも考えられます。漢方薬及び漢方薬を構成する生薬(しょうやく)には渇きを潤す効果が期待できるものもあり、治療の選択肢となることもあります。

麦門冬湯(バクモンドウトウ)

一般的には風邪(感冒)などによって生じる痰の切れにくい咳や気管支炎気管支喘息などの呼吸器症状に使われる漢方薬です。

構成生薬の中でも主薬である麦門冬(バクモンドウ)は鎮咳(咳を鎮める)作用や抗炎症作用、抗アレルギー作用などをあらわし、喉や口の症状に対して有用な成分で、渇きを潤す効果も期待できるとされています。麦門冬湯にはこの麦門冬の他、半夏(ハンゲ)、粳米(コウベイ)、大棗(タイソウ)、人参(ニンジン)、甘草(カンゾウ)といった生薬から構成されています。

麦門冬湯には気道粘膜を潤す作用などもあるとされ、シェーグレン症候群に対して使った場合にも唾液分泌促進作用などが期待でき、特に喉や口の乾燥感やイガイガ感を伴うような症状に対して有用とされています。

白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)

名称にある白虎とは中国の神話における四神のひとつで西方の守り神です。西方の色が白であらわされることから主薬である石膏(セッコウ)の白色にかけたのが方剤名の由来のひとつと考えられています。

白虎加人参湯は元々、口渇やほてり、のぼせ、熱感などがあるような症状に対して使われる漢方薬です。

口渇の原因の一例として、薬剤の副作用があります。抗うつ薬や抗不安薬などの薬剤によっては抗コリン作用を持つものがあります。抗コリン作用とは、体内物質アセチルコリンを抑える作用のことです。抗コリン作用によって唾液分泌が減少することなどにより口渇を感じる場合があります。

白虎加人参湯は抗コリン作用による唾液分泌減少に対して使われてきた実績もあり、シェーグレン症候群などによる口渇にピッタリとはいかないまでも、唾液分泌促進作用なども期待できることから有用と考えられています。

六味丸(ロクミガン)

一般的には排尿困難や頻尿むくみ、かゆみ、しびれなどの症状に使われる漢方薬ですが、水分不足から生じる口渇、ほてりなどの熱感症状に対しても効果が期待できるとされています。主な構成生薬である地黄(ジオウ)は利尿作用や血流改善作用などをあらわす他、体内の水分不足を改善することにより口腔内の乾燥などを改善することが期待できるとされています。地黄の他にも沢瀉(タクシャ)や茯苓(ブクリョウ)といった水に関わる生薬など、計6種類の生薬から構成されている漢方薬です。

八味地黄丸(ハチミジオウガン)

六味丸(ロクミガン)に桂枝(ケイシ)と附子(ブシ)を加えて計8種類の生薬から構成される漢方薬でその用途は広く排尿障害、下半身の脱力感、冷え、しびれや痛み(腰痛、神経痛など)、白内障など多彩です。加齢などによる腎機能の低下に伴う症状に対して適するとされることから高齢者に使われることも多い薬です。口渇は腎機能の低下(衰え)によっても生じることがあるため、シェーグレン症候群などによる口渇に対しても治療の選択肢となることが考えられます。

温経湯(ウンケイトウ)

月経不順や更年期障害、またこれらに伴う不眠、神経症、冷えなど一般的には女性に対してよく使われる漢方薬のひとつですが、唇が渇くような症状などを改善する効果も期待できるとされています。シェーグレン症候群にも効果が期待できる麦門冬湯(バクモントウトウ)の主薬でもある麦門冬(バクモンドウ)を含み、その他にも粘膜を潤す作用が期待できる人参(ニンジン)や阿膠(アキョウ)などの生薬を含むことから、特に手足の冷えなどを伴い唾液分泌が減少しているような症状に対して有用とされています。

炙甘草湯(シャカンゾウトウ)

比較的体力の衰えがあり疲れやすく動悸や息切れなどがあるような症状に使われる漢方薬です。バセドウ病などによる心悸亢進や頻脈、皮膚の乾燥や手足のほてりなどに加え、口渇に対しても効果が期待できるとされています。

主薬の炙甘草(シャカンゾウ)は文字通り甘草を炙った生薬で粘膜を潤す作用などをあらわすとされています。また麦門冬(バクモンドウ)、人参(ニンジン)、地黄(ジオウ)、阿膠(アキョウ)など潤す作用が期待できる生薬を多く含んでいる漢方薬です。

その他、口渇に効果が期待できる漢方薬とは

その他、体内の水分不足による口渇などに期待ができる柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)、体液を保持するなどの効果が期待できる人参(ニンジン)を含む人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)や十全大補湯などの使用が検討される場合もあります。また口渇やむくみ、尿量減少などの体内の水分代謝異常の改善が期待できる五苓散(ゴレイサン)が選択肢となる場合も考えられます。

漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」のひとつですので、副作用がおこる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬でおこる可能性がある間質性肺炎や肝障害などがあります。しかしこれらの副作用がおこる可能性は非常に稀であり、万が一あらわれても多くの場合、漢方薬を中止することで解消されます。

また漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわしますが、漢方薬自体がこの証に合っていない場合にも副作用が現れることが考えられます。

例えば、口渇やほてりなどに有用な白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)には主な構成生薬として石膏(セッコウ)が含まれていますが、胃腸が虚弱気味な人が服用した場合には食欲不振や下痢などの消化器症状が現れやすくなることが考えられます。

漢方薬を服用することによってもしも気になる症状が現れた場合は自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。

3. シェーグレン症候群は完治(根治)できるのか?

シェーグレン症候群は現在の医療で完治することが難しい病気です。そのため、症状改善を目的とした対症療法が中心となっています。現在、シェーグレン症候群の完治を目指し研究が進められており、関節リウマチの治療薬であるアバタセプト(オレンシア®)や悪性リンパ腫の治療薬であるリツキシマブ(リツキサン®)などがシェーグレン症候群にも効果がある可能性が報告されています。現時点では長期的な有効性や安全性がわかっておらず、一般的な治療とはなっていませんが、今後これらの薬剤や新しい薬の登場によりシェーグレン症候群の治療が変わる日がくるかもしれません。

出典: Ann Rheum Dis 2014;73:1393–1396. Arthritis Research & Therapy 2013;15:R172

4. シェーグレン症候群のガイドラインはある?

どこの病院でも一定水準以上の医療を受けられるようにするため、さまざまな病気に対してガイドライン(治療指針)が作成される時代となっています。日常診療ではガイドラインを参考に治療が行われます。シェーグレン症候群も例外ではなく、厚労省の調査研究班から2017年に「シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年版」が発表されています。

5. 指定難病、医療費助成について

厚生労働省は原因が十分にわかっておらず治療法が確立されていない疾患を指定難病(難病)と分類しています。難病は患者負担を軽減するため、一定の重症度を超える場合に医療費の助成を受けることができます。現在300を超える病気が難病に指定されており、シェーグレン症候群も難病のひとつになります。

難病の医療費助成

難病は病気との付き合いも長くなるため、患者負担が大きくなります。そのため、国は患者負担を軽減するため、一定の重症度を超える場合に医療費の助成の対象としています。医療費の助成は自己負担額(※)の引き下げによって行われます。自己負担額の引き下げの度合いは病気の重症度、患者の所得に応じて決定されます。

※通常70歳未満の場合、自己負担額は3割です。

申請方法

難病の医療費助成の申請のおおまかな流れは以下の通りです。

(自治体ごとに準備する書類が異なりますので、詳しくは住んでいる都道府県の保険所にお問い合わせください)

  1. 医療費助成に必要な以下の書類を準備します。(カッコ内は入手可能な場所)
    • 臨床調査個人票(厚生労働省のホームページ、福祉保健局のホームページ、市区町村の窓口)
    • 特定医療費支給認定申請書(福祉保健局のホームページ、市区町村の窓口)
    • 個人番号に関わる調書(市区町村の窓口)
    • 住民票(市区町村の住民票窓口)
    • 市区町村税課税証明書(市区町村の住民税窓口)
    • 健康保険証の写し
    • その他(必要な場合)
  2. 臨床調査個人票を医師(※)に作成を依頼します。臨床調査票は難病であることの証明(診断書)でもあるので、医師による作成が必要になります。
  3. 上記の書類を揃えて、住んでいる市区町村窓口で申請します。指定難病として認定されると、医療券が発行されます。要件が満たさないと判断された場合には非認定通知表が発行されます。上記の決定は、指定難病審査会で行われ、結果が出るまでには3ヶ月程度の時間がかかります。

※厳密には臨床個人調査票は難病の臨床調査票の作成することを都道府県知事から認定された医師しか作成できません。この都道府県知事から認定された医師を指定医と呼びます。主治医が指定医であるかは主治医に直接問い合わせてください。各自治体の福祉保健局のホームページなどにある一覧などでも確認できます。